欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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すいません、遅くなりました。


第三十九話 焦燥は燃え盛り、咎めを受け入れる

本日は晴天なり。

電車内の広告テレビでは、怪盗団の事を放送している。現総理の声明が出たりとやや盛り上がっている感じ。

電車内で聞こえてくる会話も、怪盗団のことが多く耳に入ってくる。やれ、次の投票先は誰かだの、うちの上司なんかはどうだ、だの。随分と自分勝手で自分本意なものだけが、声が大きい。

 

学校に着くと、ホームルームでは、来週の修学旅行についてのお知らせを受ける。

ホームルームが終わって、志帆と話しているとABCトリオこと、荒川さん達も寄ってくる。

 

「やー、みさきち久々ー!釣り楽しかったね!」

「おはー!楽しかったっていうか、皆のガチっぷりに驚いたよ私は」

「いやいやいや、あたしらも最初は気分が落ち込んでてさあ。なんかカラオケって気分でもないし、釣りでも行くかあ……ぐらいの感じで行ったんだけどね」

「そうそう、それでやってみたらなんかあの獲物が餌に食いつくまでの時間……っていうのが、なんかいいなこれ……ってなったんだよね」

「初めて行ったの5月ぐらいだったんだけど、なんか隔週ぐらいで通っちゃってねー」

 

などと、話していると、周りから怪盗お願いチャンネルとかいう例のやつに関して、色々と聞こえてくる。

はあ……来るときも学校でもこの感じ。浸透してきちゃってるなあ……黒幕達の思い通りに。

原作だと、このぐらいの時期からどんどん坂本くんを筆頭に目立つことを念頭に考え始めて、ドツボに嵌っていくわけだけど……どうなのかな。やっぱり根は変わらないか、それとも色々と自制してくれるのか……。

 

本心を言うと、止められないんじゃないかなって思っている。

この世界……特にこの渋谷を中心とした地域では、聖杯による大衆の無意識化における認知の影響の大きさというものは、とんでもないものだ。

それが少なからず、彼らにも影響していると考えるほうが、自然なのではないだろうか。

むしろ、そういうところから切り離された私という存在が、異物そのものであるわけで。P5Rという世界において、怪盗団の快進撃からの転落……そして復活。それに熱狂する怪盗団の面々や大衆心理。それは避けて通れないものだから。

 

でも、今の雨宮くんや真なら……それに踊らされることなく自制してくれると信じてる。

例え他の仲間たちが浮かれていても、現状を把握したうえで、私の言葉を噛み砕いて自分の中で答えを出してくれると信じよう。

 

「やっぱり、いいよね。マイロッドって。私もバイト始めようかな」

「おーっ!いいね、鈴井ちゃん。ハマってるね!」

「もう少し、釣り堀の利用料安かったらいいのにね。そしたらもっと行けるのになー」

「確かに学生には辛いよねー、あの料金設定きっついわ」

 

なんて姦しく話し始めたかと思うと話題は釣りの話に。どんだけ気に入ってるのと思わずにはいられないが、あまりの熱量に若干引き気味になってしまう。

とはいえ、皆本当に釣りが好きなんだなあ……。

 

放課後も遊びに誘われたりはしたものの、行かなければならない場所があるので、全て断り裁判所へ再度赴く。

これから、毎日用事があるからと断ったり、理由を説明したりっていうのも面倒ではあるので、ちょっとバイト入ってるんだ、ごめんねーと伝えて誤魔化しておいた。

 

パレスへ入る直前くらいに通知があったようだが、気付いたときにはもうすでに認知世界に移動してしまっていたので後で確認することにする。

 

 

──先日はダイスルームで稼がせてもらった。じゃあ、今日はスロットで大勝ちするのかと言うと、昨日と同じ事をするつもり。

とは言っても、別のフロアに移動して、二枚目、三枚目のカードを使って同じように稼がせてもらう。

どうせ、最終フロア前ではインチキされるのはわかってるんだから、こっちだって対策ぐらいするよ。

 

というわけで、有限実行して三枚のカードにそれぞれ18,000枚近くのコインがチャージされているので、合計としては5万枚をすでに超えている。

一度やってる作業でもあるので、とてもスムーズに終わった。

根こそぎ頂くとは言っても、全フロアから回収しようと思ったらいくら時間があっても足りないし、なんのために来てるのかわからなくなってしまうので、必要分が溜まったら終わりにしよう。

 

スロットのほうは、端末操作なども必須になってくるはずなので、さすがになんか出来ちゃいましたで出来ないのは理解している。そのため、私はスロットルームには行かずにダイスルームでさらに搾り取ることに。

さらに搾り取ること、2時間ほど。全てのカードに約5万枚づつチャージした私は、今更ながら大事なことに気が付いた。

 

これ、ハイレートフロアに入るのって、裁判所内部に私が居るのがおかしくないという、冴さんからの認知が必要になるということに。

…………。これやったわ、私。後はハイレートフロアで私に全ベットして、賭けの払い戻しで稼いで終わりと思いこんでいた。

 

焦ってるなあ……。散々彼らに色々言っといて、自分自身が詰めが甘いっていうのは流石に笑えない。

 

「こうなってくると、冴さんの協力を取り付ける必要が出てくる……。裁判所に行ったとして、冴さんが都合よく出席する裁判なんて見つかるわけがない……」

 

真にこっそり確認しても、彼女はそういったことを知らされていない。それに、それを真に話すことで、私が何をしてるのかの探りを必ず入れられて、彼女は私が何かしらをしようとしていることに気付いてしまう。そうすれば、今こうして単独で行動してる全てが無意味になる。

 

……こうなったら、冴さんをこちら側に取り込むのを前倒さなければならない。

でも、私が単独で出来ることなんて……。考えろ……よく考えて……。

……ダメだ。現実が絡むことで、力押しが出来ないっていうのは、私とは相性が悪すぎる。

 

── 出来そうなことはある。

それは、先程自分自身が否定したこと。……真に頼ること。

……なんだけどさあ……無理だよねぇ。とにかく説明が難しい。私の行動理由をうまいこと理解してもらったとして、なぜそんな先のことを見据えているのか、知っているのか。そういう説明も必要になる。

そして、おそらく信じてはもらえない。なにせ荒唐無稽すぎる。

 

そういう理由で、真にはやはり頼れないのでこの案は無しだ。

じゃあ、残りはもう……双葉に頼るしかない。彼女を利用するようで気が引けるけど、もうそれ以外に手はない。

それに、今日は確か真が双葉からデバイスを渡されて、冴さんのパソコンからデータを抜いてこいと言われる日だったはずだ。

 

そうすれば、冴さんのアドレスも割れる。

双葉には伏せる部分は伏せて事情を話して、冴さん宛てに連絡を取ってもらって呼び出してもらう。そして、取引と称して情報を明かす。怪盗団と黒幕の存在。認知訶学を証明する認知の世界について。

 

説得が上手くいけば、裁判所に入らずとも、貴女が裁判を担当する日に見学に行く予定だと明かす。

その認知を彼女に植え付けることが出来れば、少なくともハイレートフロアへの立ち入りは出来るようになるはずだ。

 

……私のやることは決まった。

帰るのを邪魔しようとするシャドウを蹴散らし、現実へと戻る。

昨日と同じように、すぐにその場を離れ帰りの電車で双葉へと連絡をして、二人きりで話したいことがあるからと、この後に双葉の部屋行くことを約束する。

ちょっと、雨宮くんには聞かせられないからね……。

 

パレスへ入る前に入っていた通知は、真からのものだった。内容としては『なんだか皆が世間からの評価に浮かれていて心配』というもの。

……フラグ立てちゃったかぁ……。

自分の迂闊な思考多少は彼らの思考に影響したのかも……と思うと、若干の後悔が胸に染み渡ってくる。

 

『もう、これ以上私が何か言っても無駄だと思う。ただ、真みたいなスタンスでいてくれる人が居るなら、きっと大丈夫。彼らが迂闊な行動をしないようにだけ気を付けてね』

 

そうとだけ、返しておいた。

 

 

── 佐倉家。

 

「ごめんね突然」

「いや、だいじょぶだ。もしかして、あいつらには話せないことか?」

「察しが良くて助かるよ」

 

少し、苦笑して同意する。

どこか気付いているような気すらしてくるんだよね。なんとなく見透かされてそうというか。

 

「真のお姉さん、冴さんのことなんだけど……」

「おぉ、タイムリー。今日、真にPCからデータ抜いてこいってデバイスを渡したばっかだぞ」

「そう……。それは本当にタイムリーだね」

「……海咲、何か隠してる?真の姉に関係すること……違う?」

「……っ。大正解。双葉、これは貴女だけに話しておくね。今、私は冴さんのパレスを単独で攻略してる」

 

双葉が息を呑んだ。

一瞬、私が何を言ったかわからないといった顔をした後、真面目な顔をして聞いてくる。

 

「いくら海咲でも、無茶だろう。それは……」

「でも、やるしかないの。双葉、これは雨宮くんとモナだけが知っている事なんだけど……。私には、説明できない知識を与えられてるの。とある存在から、ね」

「……」

「このまま突き進むと、怪盗団はいいように嵌められて、これまでの全ての怪事件を擦り付けられて追い込まれる」

「ちなみにそれは、わたし以外には……?」

「言ってない、そして言えない。……わかるでしょう?今の彼らにそれを説明して、どうなるか」

「……正直、海咲が敵と疑われかねないな。蓮はともかく、それが原因で怪盗団が割れることすら考えられる。……さすがに荒唐無稽だ」

 

本当に話が早くて助かる。

まるで利用するつもりだったみたいに聞こえちゃって、結果論で言いたくないけれど、双葉の懐に入り込めたのは本当にファインプレーだった。

 

「それで……海咲はわたしに何をしてほしい……?」

「真がデータを抜き出してくれたら、冴さんへの連絡をお願いしたいの。今、彼女の認知の壁によって先に進めなくなっている。そのために冴さんを呼び出して、私が直接彼女を説得する」

「無茶だ……!まだ確定したわけでもない出来事のために、海咲がそこまでする必要がどこにあるんだ!」

「あるんだよ、双葉。私の望みは、貴女を含めた怪盗団の皆が無事に全てを終えること。そのために私はペルソナ使いとして活動してるんだから」

「じゃあ、みんなに協力してもらおう!今はターゲットも決めてない。ちゃんと説明したら皆だって……!」

「双葉……。わかって。それが出来たら苦労しないって事。だからこそ、事が起こる前に彼らのために。冴さんをこちら側に引き入れないといけないの」

「だからって……」

「信用してないわけじゃないんだよ?でも、今……冴さんを怪盗団が改心させてしまったら、全てがご破算になってしまうの。だから、彼女の()()という迂遠な手が必要になる。勢いに乗って、私の忠告も薄くなってしまった状態で、改心させては駄目なんて言ったら……少なくとも坂本くんは納得しない。だから……わかって双葉。お願い」

 

それを最後に口を閉じ、双葉の目をじっと見つめる。

私が伝えたいことは伝えた。私がどれだけ言っても、原作の流れは変えきれなかった。なら、出来る範囲で私が動くしかない。……お願い……双葉。

 

「……わかった。正直、納得できないけど……海咲が一切引く気がないっていうのはよくわかった……」

「ごめんね、双葉。でも……私を信じて欲しい。決して私は貴女や、怪盗団を裏切らない」

「信じるも何も、わたしは最初から海咲を信じてる。どれだけわたしが救われたか、まだわかってないみたいだから、言っとくぞ。わたしだって海咲を裏切らない。ずっと、お前の味方だ」

「ありがとう……双葉」

 

私は彼女を抱きしめた。

正直、感極まったというか……正面から見つめ合ってたら泣いてしまいそうだったから、逃げたというか……。

でも、ここまでの信頼を受けたんだ……必ず成功させないといけない。

 

「わかった。真の成功待ちになるけど……すぐに対応する」

「うん……お願いね、双葉。文面はこれでお願い」

 

私が当初、冴さんを呼び出すために考えておいた文章。それを双葉に託す。

中身を知られてしまうけど、それはもう避けられない。

 

「これ……ホントに大丈夫かこれ……。相手は警察なんだぞ……?」

「だから、あくまで私の素性はバレないようにお願いね?後は、私がなんとかするから」

「正直、海咲が一人でそんな重い役目背負うのが許せない……。だから、全部終わったらちゃんと説明してくれ……」

「うん、約束する。だから、成功を祈っていて。希望日は9月5日の夜……それが無理なら6日で」

「……うぅ、これをあいつらに黙っておかないといけないのか……。口を滑らさないようにがんばらないと……」

「ありがとね。……それじゃ私はそろそろ帰るね。吉報を待っていて」

「…………わかった。成功を祈る……!」

 

その声を背に、私は家へと帰宅した。

双葉の協力を取り付けることには成功した。後は、待つことしかできない。

 

それでも、確実に前進した。全てが上手くいくとは限らないけれど、私はそれを手繰り寄せてみせる。

私が、私としての存在意義を、為すために──。




難産。ストックって重要だなあ……と今更に。
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