欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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投稿するの一話飛ばしてました。前後の繋がりないのはそのせいです申し訳ない。


第四話 はい注目……されすぎだな?

──秀尽学園の校門をくぐりながら、海咲は何度も心の中で深呼吸を繰り返していた。

 

(落ち着け、私。変に知識をひけらかさないように。私はただの何でも知ってる、ちょっと何処から来たのかわからないただの転校生……よし!)

 

職員室で待機していると、担任のなんとか先生が声をかけてきた。

 

「おはよう東雲さん。昨日も説明したけどクラスはC組。隣のクラスの転校生も今日から来るはずなんだが……まだ来ていないらしい。問題児らしいし、僕の担当が君のほうで良かったよ」

 

私は「へぇ、そうなんですか」と、あくまで無垢な転校生を装って相槌を打つ。だが、心の中では教師の言い分に腹が立っていた。

 

(知ってる。今頃は坂本くんと一緒に捕まって、カモシダパレスで覚醒中じゃないかな?それはそれとして、何も知らないくせに勝手に彼を評価しないでよ)

 

「さ、教室へ行こうか」

 

促され、廊下を歩く。D組の前を通り過ぎる際、一瞬だけ目をやると気だるげに頬杖を付く高巻杏の姿が目に入った。

やっぱ目立つなあ。主役の一人だもんね。などと考えているとすぐに自分の教室へと辿り着く。

 

「今日からこのクラスの仲間になる東雲だ。さ、自己紹介を」

「――今日から転入することになった、東雲海咲です。よろしくお願いします」

 

──2-Cの教室。海咲が教壇で挨拶をすると、男子生徒たちからお決まりの感嘆の声が上がった。

 

「うおぉやっべ、高校生のプロポーションじゃねえだろアレ……」

「レベルたっけぇ、彼氏いんのかな?」

「居るだろ、大学生の彼氏とかさあ」

「男子っていっつもそう。騙されて極寒の海に強制労働に連れてかれればいいのに」

「こわっ、誰今の?」

 

それらの雑音が耳に入らないよう無視する私の視線は、真っ先に「ある少女」の姿を捉えていた。

鈴井志帆。 ポニーテールが似合う、どこか儚げで芯の強そうな、けれど今は少し濁った瞳をした少女。

 

(志帆ちゃんだ……! 本物だ、可愛い。……でも、今の彼女はあのモジャ髪セクハラ教師に追い詰められてる。絶対に、絶対に守ってみせるからね)

 

この世界に来てから続く「都合の良すぎる展開」の恩恵か。私の席は、彼女のすぐ前だった。

休み時間になると有象無象が質問攻めに来るのが見えたが、東京のことが何もわからない転校生というキャラを被り、光の速さ(比喩)で後ろを振り向いた。

 

「ねえ、いきなりごめんね。私、こっちに来たばかりで右も左もわからなくて……。よかったら、お名前教えてもらえる?」

 

志帆ちゃんは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに儚げに微笑んだ。

 

「……私、鈴井志帆。よろしくね、東雲さん」

 

(おぉっ! 原作ではついぞ拝めなかった志帆ちゃんの笑顔、尊い……っ!けど、まだどこかぎこちないね……)

 

内心で悶絶しつつも、「志帆ちゃんって呼んでもいい?」と距離を詰めていく。

周りで俺は私はとうるさいが、男子は無視して女子は適当にいなしつつ志帆ちゃんと話す。未来で大衆心理の犬に成り下がる奴らは黙ってテ!

原作で学校での彼女の境遇を知っているからこそ、まずは普通の友達としての居場所を作りたかった。

彼女の問題に介入しても、違和感のない立場を。

 

「この雑に扱われる感じ、たまんないわ……」

 

なにこのクラス、上級者紛れ込んでて怖いんだけど……。

 

 

――昼休み。

 

あの後も志帆との会話で心を温めた私は、一人で購買へ向かっていた。雨宮くん達は、今頃パレスだろうか。

なんて思ってたら、悪態を付きながら歩いてくるガラの悪い金髪と雨宮くんがこちらに歩いてきた。

目が合ったので、手を振って挨拶をする。

 

「おはよう雨宮くん、初日から遅刻?」

 

なんてニヤニヤしながら聞いてみると、疲れた様子で「不可抗力だ……」と言ってきた。

これから職員室にも行かなきゃだろうし、引き止めてしまわないようにすぐに別れて購買に向かう。

 

後ろの方から「は?お前誰だよあの子!なんであんな親しげ!?」とか聞こえてくるが、私の耳には届かない。

なぜなら、私の目の前ではすでに購買での争奪戦が始まっているからだ。

どきなさいモブ!何故かステータスで底上げされた私の身体能力が、正解ルートを導き出す。

千円札を一枚取り出し、目ぼしいパンを手に取り、焼きそばパンをゲットしたと油断する女子生徒の目の前から、気付かれずに掠め取る。

おばちゃんに支払いを済ませ、お釣りを受け取る。この間、わずか八秒。……わずか?……わずか!!

 

教室に戻ると、志帆ちゃんが高巻さんとご飯を食べてたので、図々しく混ぜてもらうことにした。

 

「購買混んでたー!スタートダッシュって大事だねホント」

 

などと言いながら、自分の席に後ろ向きに座って志帆ちゃんと向き合う。断られるとは微塵も思ってない行動。私じゃなきゃ臆しちゃうね。

横には高巻さんが、誰?という目線を志帆ちゃんに向けている。

……警戒されてるかなあ。まあ、この時期の杏ちゃん、アレのせいで色々感情荒んでるから仕方ないか……。

 

「東雲さん。今日転校してきたの」

「へー、同じ日に二人も転校生が居たんだ。私、高巻杏。志帆の親友だよ、よろしくね」

「東雲海咲よ。志帆ちゃんの親友候補だから、よろしくね杏ちゃん」

 

なんて、笑顔で返すと彼女の方も一瞬キョトンとしたあと、ニッっと笑って返してくれた。

ああ、やっぱり性根のいい子だよねぇ……。

東雲さん私も……と、突撃してくる子も居たけど「ごめんな、この空間3人用なんだ」とニヒルにお引き取り願った。

えぇー!?と言いつつ、じゃあまた次回ねと返されたので、おっけーごめんね!と私も返す。

良いよ良いよ、めげない子は好きだゾ。

 

「なんか面白いね、東雲さん。海咲って呼んで良い?」

「いいよぉ、好きに呼んでね」

 

志帆ちゃんは、私たちのやり取りを見ながら何処かほっとした表情を見せている。

どうやら、杏ちゃんにも受け入れてもらえたようだし、一安心だね。

購買で買ったものを取り出していると、杏ちゃんが指差して固まっている。

 

「み、海咲それ!焼きそばパンじゃん!よく買えたね?」

「ほんとだ、それ買ってこれた人滅多に見ないのに……」

「ふふ……争奪戦に打ち勝ったの。これでも地元じゃ秒殺の東雲って有名だったんだから」

 

そんな事実は一切ないし記憶にもないが、そういうことにしておこう。

なお、名も知らぬ被害者女生徒の隙を突いて、ゲット手前で奪取した事実も伏せておこう。私の名が汚れてしまう。

 

「……お二人さん、分けてあげましょうか?」

「「……っっ」」

「その感じだと食べたことがないご様子……。どう?未知の味を味わってみたくない?」

「やった!一回は食べてみたかったんだよね、即売り切れ必至の焼きそばパン!」

「良いよー、他にも色々買ってきたし」

「ありがとう、東雲さん」

 

いえいえ、と笑って焼きそばパンを三等分する。周りからも興味津々な視線を感じたが黙殺だ。散るがよい。

なんか、味は普通に焼きそばパンだね──なんて言いながら、食事を終えて三人で色々と話す。

そんな感じで楽しく昼休みを終えると、残りの授業が待っている。

どうやら、頭の方も悪くないらしいこの身体は、特に勉学にも困らない。なんというか、理解が早いのだ。

ああ、こう解くのかと至るまでが早いというか。原作のテストの問題は知ってるとはいえ、現実の授業でもしっかりと困らないっていうのはひじょーに助かる。

 

本当に私は何者なのか――などと考えるのもそろそろ面倒になってきた。今は、鈴井志帆という少女の身に起こる、悍ましい出来事を阻止するのが一番大事なことだ。

そのために、様々なことが障害にならないのであれば、それに越したことはない。

うじうじ悩むモブなんて、ただのお荷物だ。パレスの事は雨宮くん達に任せて、私が目指すべきは、そう。

――天下無双の有能モブだ!

  

放課後、部活に行く志帆ちゃんと別れて、カラオケでも行かない?と誘ってくる子達や、盛りのついた猿どもをバイトがあるんだー、ごめんねー!とスルーして帰宅する。

当然そんな予定は存在しないけれど。

(今日はこのまま大人しく、メメントスでマスターシュの力の確認でも……)

 

そう思って駅の改札を抜けた時、私の目に「彼」の姿が飛び込んできた。 なんだか疲れ果てた様子で立っている雨宮くん。

私はわざとらしく、少し驚いた表情を作って彼に歩み寄った。

 

「あれ?雨宮くんだ。今帰り? 」

 

彼が顔を上げる。その瞳には、一瞬だけ警戒の色が浮かんだようだが、私であることを確認すると、少しだけ肩の力を抜いたようだった。

 

「なんだかお疲れだね……?大丈夫?話聞こうか?」

「いや、大丈夫。ちょっと身体を酷使しすぎたというか……」

「そう?無理しないでね」

「ああ。ありがとう」

 

他愛もない話をしながら、帰り道を2人で過ごす。

そんな中、雨宮くんから話を振られる。

 

「そういえば、今朝食べたよ。佐倉さんのカレー」

「佐倉さん?……ああ、マスターね!カレー食べたんだ。どうだった?」

 

名前はまだ聞いてなかったというフリをしながら、感想を聞く。

 

「あれは……いいものだな」

「でしょう!いいものなんだよ」

 

うんうんと、しみじみ頷く。

改めて考えると凄いよね、今の状況。

原作主人公と一緒に下校しながら談笑しているという、ファンの夢を叶えてしまっている今現在。テンションが上がらないわけがない。

すまない、私以外のみんな。

 

とはいえ、彼からしてみたら自分の現状や周囲からの印象の悪さを知っても、引かずに絡んでくる近所に住んでるらしい同級生でしかない。

踏み込んだ話ができないのが少しもどかしい。

 

渋谷に着くと、用があるからと彼と別れてメメントスへ向かう。

昨日の今日ではあるが、自分の力は正しく理解しておきたい。

そう、天下無双のモブとなるために。

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