欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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隙あらばどうなのを差し込みたかった回。


第四十話 どうなの!?

── 双葉に渡されたUSBデバイスを渡された真が、姉のノートPCからデータを吸い出した、その翌日。

差出人不明のメールが、新島冴の元へと届いた。

内容は以下のもの。

 

『貴女の望み、叶えましょう。怪盗団の事、廃人化の事、認知訶学の事。その全てを私を知っている。私にはそれを貴女に教えることができる。ただし条件は5日の20時に裁判所裏の路地で一人で居ること。伏兵を忍ばせたら生涯、貴女は何も知ることはできないし、これまでの廃人化についての調査結果も全て奪われる。どうか、懸命な判断を』

 

そのメッセージを受け取った新島冴は、疑わしげにそれを見つめた。

差出人すらわからない、一方的なそれ。

内容すら疑わしく、普段であれば一笑に付してゴミ箱へと移していただろう。

だが、どうしても……無視することができなかった。

 

「(廃人化の犯人……?それとも怪盗団……?いえ……おそらく違うわね。ご丁寧に、場所と時間の指定まで……関係者が私を亡き者にしようとしている……?)」

 

彼女の思考は、深みに嵌っていく。だが、一向に手に入らない手がかり、その全てを覆せるかもしれないという期待。

それは彼女から冷静さを失わせ、メッセージの主から、なんとしても情報を抜き出してやるという思考へと向かっていく。

 

ここに、東雲海咲の思惑通りの展開が、ひとつ進むこととなった。

 

 

── 秀尽学園。

 

授業を受けていたところに、スマホの通知が届く。

差出人は……アリババ。双葉ではなくアリババ──つまり、そういうことだ。

 

『すべて望み通りに。成功を祈る』

 

とても短いメッセージ。それでも、その少ない文字から伝わってくる私に灯った希望の火は、計り知れない。

双葉は私の依頼を完璧にこなしてくれた。あとは──私の出番だ。

彼女が繋いでくれたバトンを、決して無駄にはしない。

 

 

── 迫る修学旅行に沸き立つクラスを尻目に、私は誰にも気付かれないうちに学校を出る。

ミリタリーショップに行って、適当にモデルガンを一丁買う。

冴さんは、警察官ではないので銃を携帯してないはず。認知世界を歩くにあたって、万が一を考えてそれを渡しておくことにする。

まあ、私に銃を突きつけて脅してきても、銃耐性のおかげもあって、撃たれたら撃たれたで痛いで済むし。実際撃ったらこっちのものでしょう?一般人に向けて銃を撃ったっていう証拠音声が、銃声付きで手に入るんだから。

──まあ、そんな状況にならないようにはしたいところだけど。

録音に関しては、双葉謹製のアプリを先日スマホに仕込んでもらっている。

 

 

そして、予告した待ち合わせ時間が来た。

陰から様子を伺うと……来ている。間違いない、あの後ろ姿、横を向いたときの顔は新島冴だ。

少しイライラした感じの彼女は、一定間隔で辺りを見回して警戒している。

周囲に人が居ないのも確認できた。さあ、行こうか。

 

私は彼女に向かって歩き出し、近付いていく。その際に、イセカイナビを起動して()()()()()()()()()()異世界へと入り込む。

 

「はじめまして、新島冴さん。移動します」

「女……?貴女は一体……っ!?」

 

彼女のセリフが聞こえてきたときには、すでにイセカイナビはナビゲーションを終えている。

 

……成功だ。認知世界へと入り込み、怪盗服へと変化した私を見て、身体を離して警戒態勢に入る冴さん。

スタンガンらしき物をこっちに向けて構えているのが見える。

……ちょっと危ないかもしれないので、一応取り上げておこう。

 

一気に彼女の懐へと移動し、手首を捻ってスタンガンを取り上げる。

 

「これは、後でお返ししますね」

「……この動き……。そう、貴女が廃人化の犯人ってことね」

「全然違います。見当違いな推測を事実みたいに言わないでください」

「何を……っ!ここは何処なの!?私を消しに来たってこと……?どうなの!?」

「はぁ……まずは落ち着いて話を聞いて下さい。自分の手柄のために、なんの罪もない被害者を一方的に追い詰めようとしてた新島冴さん」

「なんですって……?」

「佐倉双葉、佐倉惣治郎。そして一色若葉。わかるでしょう?認知訶学の研究を欲しがった汚物どものせいで、廃人化現象を利用して葬られた若葉さん。その若葉さんが事故に遭う瞬間を目の前で見る羽目になり、精神的にも塞ぎ込んでしまった双葉。それを利用した汚物どもの偽の遺書に騙されて、いいように双葉を責め立てて、追い詰めた親戚達。自らの死を望むまでに、まだ義務教育も終えてない双葉を追い込んだだけじゃなく。実の叔父夫婦がお金の無心をしてくる中、彼女をひたすら庇い、守っていたマスター。そんな二人をさらにでっち上げの罪で追い込もうとしてたのが貴女。もしかしてその自覚もないの?正義が聞いて呆れるわよ」

 

口を挟ませずに、言いたい放題言わせてもらう。

言っているうちに、本当に怒りが湧いてきた。

真の姉でなければ、原作の影のメインキャラとも言うべき彼女でなければ。この場で葬ってしまってもおかしくないぐらいの怒り。……ダメだ。冷静にならないと。一番冷静でなければいけないのは私だ。

 

「何を……言っているの?廃人化現象を利用して葬られ……た?」

「そうよ。現状わかってる認知世界……ここのことね。わかるでしょう?ここは、貴女の心象世界。貴女自身の欲望と歪んだ認知が生み出した、貴女だけの世界。これが認知訶学という研究の行き着いた先。存在する異世界よ」

「待って……!位置関係から言って、ここは裁判所……でも目の前にあるのはカジノだわ!?こんなのが私の認知だとでも言うの!?どうなの……!?」

「その通り。これが貴女が心の底で認知している、裁判所の姿。貴女は裁判所という場所、そして裁判そのものを勝つか負けるかの賭け事と認知してるってこと」

 

どこか、ショックを受けたような表情を浮かべる冴さん。

肩が震え、息が少し荒くなっている。ようやく事態が飲み込めてきたのだろう。そして、自分自身が責め立てられているのだということを。

 

「つまり貴女は……怪盗団ということ……?関係者へ手を出された恨みで私を『改心』しようとしているって事ね……。違う……?どうなの!?」

「違う。まだ自分の立場を理解してないみたいだから、貴女と会話している私がどんな相手なのか、わからせてあげる。『マスターシュ』」

 

私はマスターシュを呼び出し、顔と身体は冴さんに向けたまま、銃を建物の方へと向ける。

至高の魔弾とメギドラオンを立て続けに放ち、建物の破壊を行うが、警備が飛んできたりはしない。……シャドウが飛んできたところを真っ向から倒して証明しようとしたんだけどな……。上手くいかなかった。

 

「これが私の持つ力。認知世界を利用して、戦う者達が持つ力」

「……一体、なんなの?これは……。夢……じゃないのよね」

「少しは落ち着いて話を聞いてくれる気になった?」

「……貴女がどういう存在なのかは、概ね理解したわ。……でも何が目的なの?私を殺すつもりなら、すでに殺せているでしょう?」

「しないわ、そんな事。廃人化の犯人じゃあるまいし」

「本当に何が目的なの?……先程言っていた佐倉さんの事かしら?要求は謝罪……?でも、貴女の言うことが本当だという証拠がないわ。真実だという証明もないのに頭は下げられないわ。……どうなの?その辺は」

「謝ったら負けって考え方、とにかく謝ったら相手に付け込まれるっていう考え方、実に自称正義の警察関係者らしいね。人として軽蔑するよ」

「……っ。一体なんなの!?私を侮辱するためにここへ連れてきたというの?ここが認知の世界だと言うなら、れっきとした誘拐よ!貴女こそ犯罪者じゃない!」

「それをどう証明するの?」

「…………っ」

「加害者側が開き直って、証拠がないから知りませんで終わるんでしょう?現実世界に帰って、警察の上の方に相談するの?認知世界に連れて行かれて脅されたので逮捕しましょうって?多分、貴女が消されて終わりよ。それにもしも貴女の言を受け入れられたとして、その人物に対してはこちらで対処するって言われたらどう?その荒唐無稽な話を理解してるって想像できない?つまり、警察が認知世界のことを()っていて、対処しようって言ってることにならない?」

「…………」

 

段々と落ち着いてきたようだ。

私はわざと、冴さんを挑発している。一度怒りというエネルギーを吐き出すだけ吐き出してもらって、疲れきった所からがようやく会話の開始になる。

叫んでも抵抗しても、無駄だと理解してもらってから、冷静になった所でようやく会話が成立すると思ったから。

 

いや、半分くらいは恨みつらみを吐き出しました。正直に白状します。

だってさ、マスターと双葉に対してのあの物言い許せないでしょ!絶対!私、直接は聞いてないけどさ!!

 

「冴さん、貴女が知りたがってる情報、その全てを私は説明できる。貴女と冷静に会話をして、そして事の全てが終わったら、心から双葉とマスターに謝罪をすること。これが条件。別にお金もいらないし、命もいらない。痛めつけることもなければ、この世界に置き去りにすることもしない。私の目的は、貴女と話をすること。それだけなの」

「……その割には随分と感情がこもっていたようだけど……?どうなの?」

「そりゃそうでしょ。たかが研究について調べたいから、それを引き出すために無実の人間を訴えて、親権を剥奪しようと脅しをかけるような検事さんに対して何も思わないわけないじゃない?」

「……まずは、そこから話さなければお互い冷静に話は出来なそうね。わかったわ、聞かせてくれないかしら。貴女の口からその真実を」

「ええ、ようやく話を進められそうで助かるわ。私はクルーピエ。そう呼んで頂戴」

「カジノという場所でディーラー服を着て、クルーピエ……?やっぱり貴女が黒幕じゃないの……?」

「……それは本当に違う。後でちゃんと中も見せてあげるから」

 

それに関しては、私が決めたデザインでもないし、コードネームはノリで決めたからなんとも言えなくてぇ……。

でも、ようやく交渉の席に着いてくれたことに安堵する。

私は、ある程度かいつまんで彼女に説明することにした。

 

認知訶学という研究をしていた若葉さんのこと。双葉が直面した現実のこと。それを庇い、助けたマスターのこと。

若葉さんの葬式で読み上げられた偽の遺書、親戚達の反応や行動。叔父夫婦に引き取られた後の双葉の境遇。それを見かねて引き取ったマスターに対して金の無心をする叔父夫婦のこと。

証拠が欲しいなら自分で調べたらいい。遺書を探して筆跡鑑定すればいい。そしてマスターに聞いて金の無心をしている双葉の叔父夫婦のことを調べたらいい。いくらでも証拠は出てくるはずだ。

……ということを、淡々と説明した。

 

冷静になって全てを聞いた冴さんは、目を見開くようにして、そして下を向いて拳を握りしめていた。

 

「その双葉を、認知の世界を利用して救い出したのが怪盗団と私。騙され、自分のせいで育児ノイローゼで死んだと思い込まされていた母親の死を乗り越えて、前を向けるようになったのがほんの一ヶ月ぐらい前の話」

「佐倉さんの時は……ここではない異世界ってことよね……?」

「そう。パレスというのは誰しも持っているわけじゃないけど、まったく別の世界がそこに存在しているの。双葉の時は、砂漠に立つピラミッドだったよ。なぜなら、彼女は自分の部屋を()()()()()と認識していたから」

「そういう……こと。本人の意識が形作る世界が認知世界……」

「少し違うよ。パレスというものを持っている人間はごく限られた一握り。その全てが、なんらかの強い欲望と、そして歪んだ感情を持っている。それがどういうものかは別にして」

「私も……歪んでいる、というわけね……。どうなの……?」

「その通りだよ。貴女の心はきっと、上手くいかない現実と警察なんかよりも、ずっと正義の味方然とした怪盗団が人気になってきたことで、歪んでしまった。貴女が目指した警察としてのあるべき姿が、そのせいで歪んでしまった。その結果が()()なんだと思う」

 

腕を組んだまま、人指し指でカジノを差す。

 

「理解したくはないけど……理解出来てきてしまったわね……。わかったわ。必ず裏を取って、その上で事実確認後、必ず佐倉さん親子へ謝りに行く。約束するわ」

「それでいい。貴女の立場上、そうしないと納得出来ないでしょうし。そこは私も理解する」

「……ええ、ありがとう。それで……改めて鴨志田のことから聞かせてもらってもいいかしら?」

「わかったわ。順を追って話しましょう」

 

私は、怪盗団の皆の素性は明かさずに、彼らがしてきたことや、どういう理由でターゲットを選定してきたのかを説明した。

鴨志田の事は、被害に遭っていた生徒のこと。とある女生徒が性的暴行される寸前だったところを私が助けだしたこと。その女生徒を利用して、別の女生徒を脅して言うことを聞かせようと付き纏っていたこと。

無実の罪で逮捕され、前科持ちになった転校生のこと。その彼が状況と権力者らしき加害者の言い訳と、被害女性の嘘の証言で嵌められて逮捕されたということ。彼の言い分なんて一切聞かなかった警察という組織のこと。

 

そして、斑目のことも話して、金城の話題に移ったとき。彼女のとっての痛い真実が露呈する。

 

「な……じゃあ、真が……妹が金城の被害に遭っていたというの!?」

「そう。結果的には、怪盗団のおかげで貴女が知る前に事件が終わった。だから何も知らなかったでしょう?これ、本人に問い詰めたりしないでよ?」

「……それは飲み込むしかないわね……。でもなぜ私に相談もなく……」

「それは、金城が貴女のことを邪魔に思っていたから。ちょうど貴女の妹っていう都合のいい駒が転がり込んできたから利用しようとしたのよ。自分が巻き込む形になった怪盗団や、身内の貴女に迷惑をかけたくなくて。その一心で、彼女はそれに抗おうとした。それを怪盗団が助けたってことね」

「だからって……私は家族なのよ!?相談のひとつぐらい……」

「落ち着いて。でも、貴女がどう妹に接していたか思い出してみたらわかるんじゃない?随分と突き放していたんじゃない?仕事なんだから、私が養っているんだから、勉強していい大学に入って、いい企業に就職してって、そんなことばっかり言ってたんじゃないの?」

「…………そうね。否定はしないわ」

「それに比べたら、姉に迷惑をかけないように、貴女を守ろうとしたっていう姿勢は、よっぽど尊いものじゃない?それに、おそらく相談されてたら貴女、妹を責め立てて突き放してたんじゃ……って私は思ってしまうけど」

「…………っ」

 

彼らが、改心をした人間達がどういう事をしてきたのか、どんな被害者が居たのか。

そして、どうやって改心してきたかを割と丁寧に説明した。理解はしたが納得はできていない、そんな葛藤が見える。真のことに関しても、どこか悔しそうな表情に、違うとは言い切れない……そんな思いが透けて見えた。

 

「ここまでの話を聞いて、俄には信じがたい話だけど……貴女が嘘を言っていないというのはわかるわ」

「それは良かった。全部正直に話した甲斐はあったかしら」

「こんな光景を見せられてはね……」

「でも残念。これはまだ表面上の姿にすぎない。ここからは少々危険を伴う体験になるけど、私を信じて付いてきてくれる?」

「……いいわ。でも、まだひとつ聞いてないことがある。貴女の立ち位置は何処?話を聞いていると、どうにも第三者的な目線で語っていたわね?貴女は怪盗団ではない?……どうなの!?」

「そうよ。私は怪盗団の協力者、彼らを陰から支えてサポートする存在。そして、廃人化の犯人と敵対する存在。冴さん、貴女はどう?どちらの存在が正しいと思うの?」

「…………それをこの目で見極めさせてもらうわ」

 

私は、その返答を聞いて笑顔を浮かべる。

彼女の瞳から、ただの胡散臭い相手を見るものから、答えを与えてくれる相手へと変化したようなそんな視線を感じる。

ならば、その期待に答えてみせよう。ちょ~っとだけ危険な目に遭ってもらうことになるかもだけど……。

大事な交渉相手なんだから、そこは傷ひとつ付けずにお返ししないといけないからね。

 

というわけで、今回は侵入ではなく正面からカジノへ入ることにした。

ほらほら、オーナー様のお出ましだぞー!




正直どうしても差し込みたくて悪ノリした感はあります。
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