欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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本日二話目の投稿です。
※一話飛ばして投稿してしまってたので、前話に一話挿入しております。

すいません。


第五話 いっそステータスを開示しろ

――放課後。

 

私は一人、渋谷駅の地下へと向かっていた。

 

(カモシダパレスには入れる。けど、私が今あそこに入って、中ボスとかシャドウを先んじて倒して回っちゃったら……。雨宮くん達のペルソナ能力の成長や、仲間との絆を深めるイベントが消えちゃうかもしれない。原作みたいに復活するかもわからないし……。チュートリアルが第三者によって消化されて成長阻害が起きるとか笑えないしね)

 

それは、原作知識を持つ者として最大の懸念だった。 自身の介入で雨宮くんがワイルドとしてのポテンシャルを存分に発揮できなかったら。成長が阻害されたせいでパレス攻略に失敗してしまったら。この世界の未来はほぼ間違いなく詰む。

 

(なら、私は私で、別の場所で爪を研ぐ。……メメントスで)

 

イセカイナビを起動する。歪んだ意識が渦巻く、大衆のパレス。 渋谷にいる大衆の誰もが気付かず、地下深くに枝を伸ばす広大な迷宮。

早速現れる、現実世界から隔絶された、血のような赤い歪んだ洞窟のよう――な場所。いつの間にか私の姿はディーラー服にフード付きのマントという格好。

前回の時からうっすら思ってはいたけど何故にディーラー服……?

未成年だし、一度もギャンブルなんて手を出したことないんですけど!?

 

『ウフフフフっ!!さあ、始めるわよ、海咲』

 

背後に現れたマダム・マスターシュが、巨大な二丁の魔銃を弄ぶ。

……どうでもいいけど、めっちゃテンション高めに話しかけてくるじゃん私の分身。自我出しすぎじゃない?

それはそうと、私の所持スキルが怪盗服のこの姿になると理解できる。

情報が頭に入ってくるというかなんというか……。

いっそのこと、わかりやすくステータス画面を見せて欲しいんだけど……と思いながら構成を確認する。

 

「うぇっ!?……これマジ?」

 

欲張りセットのようなラインナップ。

至高の魔弾、勝利の息吹、マハムド、メギドラ、呪怨吸収、祝福吸収

 

耐性:銃撃 弱点:呪怨 祝福

 

マスターシュのペルソナ特性は、スキルの消費HPSPを半減するというもの。

 

「はは……ここまでお膳立てされたような私の存在、ホントなんなんだろうね……」

 

とはいえ、この先一人で戦っていくには都合のいいスキル構成だ。

そもそも弱点の補強どころか良い方向に反転までされている。

先日の一件でレベルもやたらと上がった感じがあったからこその6つものスキル所持なんだろうけど、スキルカード無しでこの構成。ソシャゲならナーフ待ったナシの炎上構成だ。

 

「まあ、あって困るものじゃないからね。せいぜい私の役に立ってもらうから!」

 

どろりとした無数の悪意の塊がこちらに寄ってくるのを感じて、目の前を睨みつける。

無意識に格好つけて、シャドウの群れに向けて指を弾く。

すると指を鳴らした瞬間、マスターシュの持つ二丁の拳銃から漆黒の弾丸が空間を裂き、押し寄せるシャドウを一掃した。 数の差など無視した圧倒的な蹂躙。

勝利の息吹が、リフレッシュ効果のあるシャワーを浴びたかのような、全身から精神が活性するような感覚をもたらす。

まとめてエンカウントしたからなのか、明らかに規定の回復量よりも回復している気がする。

複数戦闘分に適用されてる……?だとすると、判定ガバガバじゃん。チートだよこれ。

っていうか二丁あることによって、至高の魔弾二発撃ってるよね?効果だけ二倍ってこと?やばぁ。

 

Q:それの何が悪いというのか?

A:いいえ、問題ありません。

 

「こういうのってさ、ご都合主義とかヌルゲーとかそういうんじゃなくて。こんな力を持ってしまった自分が怖い!こんな力怖くて使えないよ!と悩みを抱えるのがお約束展開ってやつなのかもしれないけど……知ったこっちゃないよね」

 

そう、知ったこっちゃない。

文句を言うならお前がやってみろという話でね。

これは私に宿った私の力。使えるものを使わずして、自分の命がBETされている勝負でギブアップなんて、ただの自殺願望じゃない。

極力怪盗団と絡まないでサポート無双しようと、モブルートを選んだんだから強くなるに越したことはない。

あと仮面剥がすのめっちゃ痛かったし……!!

 

「私はモジモジしながら救われるのを待つだけの存在にはなりたくないから」

 

私の運命は私自身の手で切り開く。

お前に与えられた力は貰い物だろう?うっさいハゲ!私が使うんだから、私の力だ!

 

(待っててね、志帆ちゃん。もし原作の展開通り最悪の方向に転がりそうになったら……。その時は、私が絶対にぶち壊してあげるから!)

 

自身の思い描く未来のハッピーエンド、その中に救われなかったはずの人が救われる更なる終幕を。

そのためにも、更なる力を求める。

海咲は冷徹な瞳で深淵を見据え、学校での「愛嬌のある転校生」とはまるで別人の、単番に賭け続ける苛烈なギャンブラーの目をしていた。

 

 

……おかしいね。

うん、明らかにおかしい。

まだカモシダパレスにしか主人公たちが行ってない状況なのに、出てくるシャドウのレベルが高すぎる。

これアレよね、おそらく私のレベルに応じて出てくるシャドウ変わってるね? 

はっきりと確信が持てないのは、シャドウが全て不定形の姿をしているからだ。

つまり、シャドウの姿がわからないので弱点も何も全然わからないということ。

 

これは、銃撃反射とか来たらめちゃくちゃヤバいのでは……?と思ったのがフラグだったのか、至高の魔弾を跳ね返すシャドウにかち合ってしまった。

放たれた光が収束する銃弾が、見えない壁のようなものに反射してこちらに跳ね返されるのが見えてしまったのである。ステータスの影響による動体視力の強化が憎いっ!

まずい、不味い不味い不味い……!!ペルソナ伝統の跳ね返死(はねかえし)

ここは現実だ。仲間もおらず、生身でここへ乗り込んでいる私が、ここで一人倒れたら、私に待っているのは本当の意味での死。

まだ何も成してないのに……!!こんな序盤でゲームオーバーなんて……っ!!

 

「……??あれ?」

 

いや、痛いよ。痛いけど。

別に気にするほどの痛みじゃない。

これはもしかして……?

 

『銃撃に耐性を持つ貴女が何を恐れているのかしら?無様を晒すのは極力控えるべきね』

 

なんということでしょう。

自身のペルソナ(よく喋る)にさっき見たはずの耐性について諭されるこの私。

滑稽な姿に笑いが込み上げてくる。つくづく、この世界に私は愛されているみたいだ。

そもそもがハンデを背負わされている登場人物が多い上に、あまり報われない世界で歪な愛され方をされたところで、上げて落とす結末が待っているのでは?と不安にもなる。

だが、考えたって始まらない。

その全てを飲み込んで、私は前に進み続けると決めた。

どうせ、怪盗団が失敗したらこの世界の正しい未来が滅びる定めなら、逆張りして勝ち続ければいいだけだ。

幸い、知識だけは全て持っている。

戦う力も恵まれすぎなぐらいに手に入れた。

 

「だったら私は、戦うしかないよねぇ!!」

 

ニッと口角を上げて笑う。

そう、負けないためには強くなればいい。強くなるためには戦えばいい。世界が彼らの敵に回るなら、私が彼らの味方であればいい。

単純な話だよね。思考はシンプルな方がいい。

迷いが少なくなるからね!

銃弾が効かない敵が出てきたらメギドラを撃てばいい。メギドラが効きづらい敵が出てきたら?呪殺すればいい。呪殺が効かない敵だったら?聖体パンを食らわせてやればいい。説明してないだけでアイテムはキッチリ拾ってるからね。

さあ、かかってきなさいよ、シャドウども!

私を止められると思わないでよ!?

 

チャリ…………。

 

私は脱兎の勢いで逃げ出した。




海咲のイラストに色つけました。
Xのほうからご確認ください。

@chikuwabu_1125
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