欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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本日二話目の投稿です。


第六話 さらなる遭遇

「おはよ、雨宮くん」

 

翌朝、雨の降る四軒茶屋の駅のホーム。もはや少し見慣れた感のある少年の後ろ姿が見えた。

雨宮くんは少し眠そうに、「おはよう、東雲さん」と短く返してくれた。

 

(いい感じ。こんな風に気軽に挨拶できる程度の付き合い、これ大事。……本当は彼の体調とか、パレスの進捗とか根掘り葉掘り聞きたいけど、我慢、我慢!)

 

電車の中では、昨日の続きのような、他愛のない世間話に終始した。

聞こえてくる周囲の声に気をやると、地下鉄の暴走事件の話題で持ち切りだ。

 

「暴走事件かあ……雨宮くんはニュース見た?」

「一応。詳しいことまでは知らないけど」 

「私も、あんましテレビ見ないし、夜は四軒茶屋の探検してたから、ちらっとしか見てないんだよね」

 

彼の隣に立っているだけで、原作の世界に自分が溶け込んでいる実感が湧き、私の心は少しだけ浮き立つ。

電車をひとつ乗り換えて、待機列に並ぶ。

周囲の声が、ある人物のことを指す会話が聞こえてくる。ということは――居た。芳澤かすみ(すみれ)ちゃんだ。

これで、確定したね。この世界は無印じゃなくてRの世界だ。

ってことは、ラスボスは()()()()()()()()かぁ……。

雨宮くんと談笑しながら電車に乗る。

すると座席に座っているかすみちゃんが、おばあさんに席を譲ろうとしていた。

ああ、もちろん覚えてるよこのシーン。割り込んでくるんだよね、勘違い太郎(仮名)が。

 

「どうぞ。すぐ降りますから」

「そう?じゃあ……」

 

カッ――!

ここだ――!!

 

スッと位置を変えて、サラリーマン風の男をブロック。

ドンっとぶつかってくるが、私の身体はびくともしない。

 

「おい」

「なんですか?」

 

ぶつかってきたのはお前だろという目線を向けて、振り返る。

私の眼力に恐れを為したのか、二の句を継げずに黙り込む。メメントスで死線を潜って鍛えられた私の眼力を舐めるなよ、一般人め。

ふと気付くと、雨宮くんが私と勘違い太郎の前に腕を差し込んで庇ってくれている。推せるぅー!これだよ主人公ムーブ!はぁー、カッコ良……。

勘違い太郎は、周りの視線も痛くなったのか、満員電車の中無理やり移動して舌打ちされながら車両移動して行った。

どうやら、かすみちゃんも無事お婆さんに席を譲れたようだ。

こういう細かい積み重ねが、私の自己満足感を満たしてくれる。すまんな勘違い太郎。君は犠牲になったのだ。……でも常識的に考えてお前が悪いよね?ならよし。

 

「ありがとね」

「……いや、ちょっと驚いた。でも痛快だったな」

 

えへへと小声で笑いながら、雨宮くんと話していると、あれ東雲さんじゃない?とか、クラスメイトっぽい声が聞こえてくるがシャットアウトだ。都合のいい耳をしているのだ私の身体は。

 

蒼山一町目駅に着いて、改札に向かっていると後ろから声をかけられた。

 

「あの!」

「ん?」

「さっきは有難うございました」

「ああ、席譲ってあげてた……」

「はい!席、割り込みされそうになってたの、防いでくれたんですよね?」

 

気付いてたんだ、さすがだね!

 

「うん?なんの話?ちょっと体勢変えたらあの勘違い太郎がぶつかってきただけよ」

「……!勘違い太郎……っ」

 

なにやら、顔を背けて笑うのを我慢している。ツボに入ってしまったようだ。

 

「秀尽の先輩……ですよね?私、1年なんです。お礼を言わないとと思って。なんだか巻き込んでしまってすみませんでした。それと助かりました」

「全然良いよ、気にしないで。やりそうだなって思ってちょっと横にずれただけだから」

「やっぱり、わざとだったんですね」

「じゃあ、そういうことにしといてあげるね」

「ふふ、わかりました。それでは、失礼します」

 

素知らぬ振りでドヤる私に、ぺこりとお辞儀をして去っていく。

律儀だなあ。っていうか可愛いなあ!!顔ちっさ!線ほっそ!まるで妖精みたい。会えて良かったぁ……。

 

「良い子だねぇ……」

「ああ、そうだな」

 

この他愛ない日常に、幸せを感じる。本来であれば勘違い太郎が割り込んで、なんとも微妙な空気の中、雨宮くんが下車後に挨拶されてたはず。

原作のこのシーンってすごいモヤッとしてたんだよね。勘違い太郎の反応も含めて。

朝から満足感のあるイベントをこなせて、良かったー。なんてニコニコしていた。

けれど学校に着けば、その浮ついた気持ちを冷たい現実に塗り替えられる。

 

秀尽学園一階の階段前。私の目の前では、志帆ちゃんがどこか虚ろな表情で歩いている。

雨宮くんに手を振って別れると、寄っていって挨拶する。

 

「志帆ちゃん、おはよ! これ、昨日四軒茶屋で見つけた美味しそうなクッキーなんだけど、よかったら一緒にどお?」

「……あ、東雲さん。おはよう。……ごめんね、今はあんまり食欲なくて。気持ちだけ、もらっておくね」

 

彼女は無理に作ったような、痛々しい微笑みを浮かべた。 彼女の視線の先には、廊下を獣畜生のようにのっしのっしと歩くバレー部顧問、鴨志田の姿があった。どうやら、朝練終わりのようだ。

 

(……クソ。やっぱり、あの人格破綻者が志帆ちゃんから余裕を奪ってる。話しかけてもどこか上の空なのは、彼女を取り巻く闇が深すぎるからだ。……でも、諦めないからね)

 

「(絶対に許さないから)」

「……何か言った……?」

「ううん、お腹空いたら言ってね。朝練おつかれさま」

 

私は無理に踏み込まず、ただ明るく、けれど押し付けがましくない距離感を保った。

少しずつ、志帆ちゃんが自分に挨拶を返してくれる声のトーンが昨日より柔らかくなっている気がする。仲良くはなれてると信じたい。

 

 

――昼休み。

今日も購買での争奪戦を無事に終え、志帆ちゃんや杏ちゃんと昼食を済まそうと思ったけど、教室に戻ってきたら二人とも居なかったので仕方なく一人で済ませていると、昨日のめげない子とその他数人が寄ってきたので、一緒に食事を取った。

今朝の電車の中での出来事を聞かれたが、適当に返す。え?雨宮くんと付き合ってるのかって?

はぁー(クソデカため息)、頭の中おピンクだねぇ。一緒に登校してるだけで付き合ってる判定とか、ドラマの見すぎじゃない?と突き放す。

 

「それにガバガバ判定すぎるでしょ。それに嫌いな人が電車乗ってる時隣に立ってて、一方的に話しかけられて無視してたとするじゃない?それを内容は聞こえないけど遠目には話してるように見えた。それでも付き合ってるのかって聞く?」

「それは流石に雰囲気読むかなあ……」

「でしょう?違うけど、もし万が一付き合ってたとして、そんな風にいきなり付き合ってるの?とか聞かれていい気すると思う?私は嫌だな。それに黙秘したら勝手な憶測で、あることないこと勝手に吹聴するでしょう?そうやって無責任に話を広げられた私はどうしたらいいんだろうね?俯いて耳塞いで日々を過ごせばいいのかな?うん?」

「ごめんなさい許してください」

「一般女子高生が転校2日目で根拠のない噂話で追い詰められたとき、どうすればいいのかな?味方が全然いない状況で一方的に周囲から好奇の目で見られて、誰か私を助けてくれるのかな?わからないよね?でも噂を流した元凶は知らぬ存ぜぬで無視できちゃうよね?自分には関係ないって顔できるよね?それって許せる?主犯はそいつなのに」

「……ごめんなさいぃ」

「東雲さん、アタシからもごめん。許したげて」

「うん、ノリノリだった私達も軽率だった。ごめんなさい」

 

クラスメイトA、B、Cが矢継ぎ早に謝ってきたので、私も落ち着く。

まあ別に怒ってないしね。

 

「っていう感じで、悪意のないところからでも間接的に虐めって発生しちゃうからね。気を付けてね?」

「はっ!相手のことを考えて発言致します!!」

「よろしい」

 

鷹揚に頷くと、空気は弛緩して雰囲気が軽くなる。

これ、私が陰キャで人見知りだったら、確実に追い込まれて悲劇のヒロインムーブが始まる可能性あるからね。

そこは理解してもらわないと、今後のこの子達の人生において影が差す可能性あるし。

周りで聞き耳立ててる君達も気を付けてねーっと。視線を巡らすと何人かが顔を逸らした。後ろめたいところがあったのかもしれない。

まあ、雨宮くんの悪い噂について言ってきてたなら、もう少しキツめに責め立てたかもしれないけど、この子達はその話題は出さなかったから。

好奇心旺盛なだけで、ちゃんと空気は読める子達なんだろうなって思った。

 

「……で、実際付き合ってるの?」

 

無言で頭に軽~~~くチョップを叩き込んでおいた。この状況で天丼してくるとはわかってるなこのモブ子A。

その後は、くだらない話をして過ごし、帰ってきた志帆ちゃんにおかえりー!と言って休み時間を終えた。

ちなみにクッキーはモブ子達と食べた。普通に美味しかった。

 

ホームルームでは、明日球技大会があると伝えられる。

そして……その後だ。

確か球技大会の翌日に、志帆ちゃんは鴨志田に……。

私はひとり覚悟を決めると、教室の外へと歩き出した。




話数を題名に入れるようにしました。
これでストック投稿ミスは減る……はず。
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