欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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本日二話目の投稿です。


第八話 雨降って地固まれ

「志帆! ……ごめん、私、志帆がそんなに追い詰められてるなんて……」

「……違うの、杏。私が、杏に迷惑かけたくなくて……っ」

 

二人は涙を流しながら、これまで言えなかった本音をぶつけ合った。

志帆ちゃんがふらふら歩いていくのが見えて、心配して追っていったら体育教官室でなんか危なそうな雰囲気を感じたから介入した、と皆には伝えてある。

私が2人のやりとりを見守っていると、杏ちゃんが私の手をぎゅっと握った。

 

「海咲、本当にありがとう。貴女が志帆のこと助けてくれなかったら、私……私……」

「ううん、私は大したことしてないよ。……でも本当に介入できて良かった。友達が酷い目に遭うなんて許せないから」

「私達、お互いの事を考えるあまり、お互いを追い詰めちゃってたんだね……。志帆がセクハラや体罰に遭ってるのに、志帆のレギュラーの為なんて言われて鴨志田の言うこと聞いて、挙句に頑張ってなんて無責任な言葉をかけて……ごめん、ごめん志帆……」

「……違うよ杏。私だって身の丈に合わないレギュラーに固執して、先生の暴力に怯えて黙って従うことしか出来なかった……。杏が私の為に先生に振り回されてただなんて何も知らなくて……私こそ本当にごめんね……」

「……2人とも、その辺にしとこう?このまま謝り合ってたらどんどんお互いを追い詰めちゃう」

「海咲……でも……」

「……2人の気持ちはわかるよ。自分を責めたくなるのもわかる。……でも一番悪いのは誰?杏ちゃん?それとも志帆ちゃん?違うでしょう?誰のせいで志帆ちゃんはこんなにも傷付いたの?誰のせいで杏ちゃんはこんなにも思い詰めていたの?鴨志田でしょう?お願い……これ以上自分を責めて傷付かないで」

 

せっかく助けることが出来たのに、2人がこの調子では心の傷はいつまで経っても癒えない。

 

「お互いのことを想うなら、これからの事を考えよう?鴨志田は、しつこく志帆ちゃんのことを呼び出そうとするかもしれない。志帆ちゃんの身を守ることも考えないと……」 

「そうだね……私、許せない……!!いいように転がされてた私も、志帆を酷い目に遭わせてきたアイツも!!」

「私も許せないよあのクズを。……ねえ、志帆ちゃん。しばらく部活休めない……?部活に出ちゃったら、また腹いせに酷い目に遭うと思う」

「……休んでも、また呼び出されると思うの……。それでまた……。それに私を連れ出したことで東雲さんが、ターゲットにされるんじゃないかって心配で……」

「あ、それは大丈夫。私全然何とかするから」

 

あっけらかんと言うと、皆が微妙な顔でこちらを見てくる。いや、多分生身でも負けないしなあ……私。

 

「東雲さん、無理はしないでほしい……」

 

ここで、雨宮くんが参戦だ。

そうだよね、女の子三人で慰め合ってたら入るに入れなかったよね、ごめんね!

か弱き一般女子高生が言っても、信じられないだろうし……確かあの辺に……あった。

取り出しましたるは、胡桃が一粒。

 

「雨宮くん、見てて」

 

胡桃を握り込んで……ほいっ!と粉砕する。

そう、この程度なら生身で出来てしまうようになった。現実にまで影響するステータス補正、おハーブ生え散らかしますわ……。

 

「「「……!!!!????」」」

 

得意げな表情を浮かべる私と、口をあんぐり開けて驚いてる雨宮くんと杏ちゃん、目を見開いて固まってる志帆ちゃん。まあそうだよねぇ。 

 

「これぐらいは出来ちゃうから、力付くで来られても……ね?」

「やばい。海咲あんたやばすぎ」

「胡桃って握りつぶすの握力80kgは必要だったような……」

「…………すごいな」

 

雨宮くんが私の手をにぎにぎしながら感嘆している。……照れるぜ。

そんなわけで、私の心配はいらないよと示してみせた。

 

「ね?私のことは心配いらないから、今は志帆ちゃんのこと考えよう?」

「……そうだね。ねえ志帆……志帆がずっと頑張ってきたのは知ってるし、頑張ってたのもわかってる。でも、そんなにバレーって大事……?バレーしか出来ないなんてそんなことないよ。別のやれること探そうよ……。このままじゃ志帆が壊れちゃう。私そんなの嫌だよ……」

「杏……でも私…………」

「志帆ちゃん、私も杏ちゃんと同じ。そんなに怪我して、殴られて……乱暴されそうになって、そこまでしてやる価値あるのかな……?大会がそんなに大事……?」

「…………」

「何も志帆ちゃんのバレーに対する想いも知らない立場なのに、ごめんね。でも……このまま無理に続けて、全国大会まで行けたとして。志帆ちゃんは怪我しなくなるの?むしろもっと酷くなるんじゃないかな……?」

「そう……かもしれない……」

「そうだね……レギュラーに入るためにって更に要求がエスカレートするかも……」

「それに、鈴井さんがこのまま我慢してバレーを続けようとするなら、高巻さんも更に鴨志田から言い寄られるんじゃないか?」

「……あ……っ」

 

そうだ。その可能性も捨てきれない、というより確実にそうなるのは目に見えてる。

断り続けても、学校側があのクズに忖度して騙されて。学校側からの呼び出しという風に装って、行った先には鴨志田が待ち構えてる――なんて展開が容易に想像できる。

アイツがいる限り、二人に平穏は訪れない。決して。

 

「私もそう思う。あのクズが居る限り、同じことが繰り返されるだけじゃないかな……」

「……私だって、逃げられるなら逃げたい……でも……」

「ねえ志帆。私も一緒に行く。だから志帆のお母さんに相談しよう?事情を話して、少し身体を休める時間を作ろう……?」

「杏……」

「私も賛成。守ってくれる大人が居るなら、それが一番安心できるし」

「ああ、無理に学校で抵抗して、危害を加えられたなんて濡れ衣を着せられる可能性もある。それが一番いいと思う」

 

雨宮くんがぶっ込んできた。ごめん、さすがにその自虐は笑えないよ……!

でも、そうだよね。あの心の底まで淀んだ汚泥みたいな性格のあいつなら、それぐらいやってもおかしくない。

 

「杏ちゃん、志帆ちゃんのことお願いね。お母さんのこと説得して欲しい」

「……うん、任せて。絶対説得してみせるから!」

「みんな、ありがとう……。私も……嫌なことは嫌って、頑張って伝えてみる」

 

ああ……志帆ちゃんの目に光が宿ってきた。きっとこれ以上私が出来ることはないけど、きっかけは作れたと信じたい。

後は、二人の頑張りに期待しよう。

 

「頑張って……っていうのは無責任かもだけど、万が一駄目だったら。ここに逃げておいで。部屋も余ってるしいくらでも居ていいからね」

「……ありがとう、東雲さん」

「……うーん、志帆ちゃん、そろそろその他人行儀な感じやめない?海咲でいいよ」

「それ、海咲にも思ってた。呼び捨てでいいから!」

「うん、私も呼び捨てでいいよ。海咲、ありがとう……」

「わかった!それじゃ、改めてよろしくね。杏、志帆」

「…………」

 

雨宮くんが、ちょっとそわそわしてたけど何も言ってこなかった。

空気を読んだらしい。別に乗っかってきても良かったんだけどね?

まあ今回は無しということで。

 

「雨宮くんも、付き合ってくれてありがとう」

「いや、大して役に立てなくて悪い」

「そんな事ないよ。ちゃんと話聞いてくれたし、意見も出してくれて助かったよ」

「そうだよ、ありがと。それにゴメン。私、キミのこと噂だけ聞いて、色眼鏡で見てた。事情も何も知らないのに決めつけてさ。鴨志田のこと見て見ぬふりする奴らと同じだね……」

「うん……ありがとう雨宮くん。噂なんて気にしないほうが良いよ。何も知らないで言ってるだけの人たちだから……」

「……そう言ってくれる人達が居るってだけで十分だ。こっちこそありがとう」

 

眼鏡の奥の彼の瞳は笑っていた。いつもの、どこか自重地味な笑顔じゃなくて。心からの笑顔……だった気がする。

彼だって、抱えてるものは大概重たいからね……。

その後、三人を見送って部屋で独りごちる。

 

「……これで、ひとまず安心……かな。少なくとも、志帆ちゃん……志帆の飛び降りは食い止められた。雨宮くんも坂本くんに話を共有してくれるはず」

 

現状、私が出来ることはほぼ無い。

鴨志田から私に八つ当たりがくるかもしれないけど、皆に言った通り、どうとでも出来ると思う。出鱈目を吹聴されないように二人で合わないようにすること。

呼び出されても無視して、必ず誰かが居るところで会話すること。つまり、偽装工作を出来ないように監視要員として証人を置くということだ。

認知の世界での戦いと違って、現実は色々と考えなきゃいけない。まあ、そういう手段に出るなら、こちらにも考えがあるけど……ね?

 

 

その夜。四軒茶屋の自室で、私は窓の外を見つめていた。

志帆はあの後、杏に付き添われて無事に帰宅したみたい。

杏が志帆の親との話し合いがうまくいったと連絡をしてくれて、結果的にしばらく志帆を休ませることにしたようだ。

鴨志田の暴挙は、まだ止まったわけではない。けれど、絶望の鎖は、間違いなく今日一本断ち切られた。

 




あまり好きじゃない人もいるかもしれない本日の更新でした。
不快に思われたらすみません。
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