――あれから10日ほど経った。
志帆は病欠ということにして、まだ休んでる。
杏も何度も電話が来たらしいけど、着拒してすべて無視。
学校で話しかけられても、知らぬ存ぜぬで通していた。
当然、私も乱入した時のこととか色々言われたり聞かれたりしたけど、あまりしつこいと然るべき所に通報しますよと言うと、脅すつもりか?と凄んできた。
「脅す?犯罪者になるところだった先生を私がですか?むしろ、今先生が私にしてることが脅しでは?むしろ傷害って意味ではすでに犯罪者ですよね。私も殴るんですか?こわーい!警察に相談しなきゃ」
そう言って、睨みつける。ここ数日メメントスに潜って更に凄みを増した、私の本気の眼光だ。生徒相手に脅しをかけるような相手に耐えれるわけがない。
怯んだ鴨志田は、「転校生は問題児ばかりだな!」と吐き捨てて、舌打ちをしながら去っていく。こうなると、退学を仄めかすしか手札が無くなってくるはずだ。
おそらく、教師を脅した不届き者の転校生を退学させるべきっていうストーリーが組み立てられるんだろう。
まあ、いざというときのために鴨志田とのやり取りは、あの日の一件から全て録音してあるんだけど。今のもバッチリ録れてるよ。
ただ、この世界の警察結構腐ってるからなあ……。どれだけ効力あるかわからないけど。
当然学校も信じられないぐらい腐ってるからなあ……。おかしいんだよねこの世界。
とはいえ、予告状が張り出されるのもそろそろのはず。
彼らを信じて待つとしよう。
――そして翌日、4月26日。
秀尽学園は、未曾有の騒動に包まれていた。
至る所に貼り出された、真っ赤な『予告状』
体育教師、鴨志田卓の罪を暴き、その歪んだ欲望を盗み出すという、怪盗団からの宣戦布告。
「……始まった」
登校した海咲は、廊下で騒ぐ生徒たちの間を抜け、教室に向かう。
今頃は、雨宮くん達が興奮した鴨志田に詰め寄られているはず。
今日の放課後、作戦は実行される。
鴨志田の歪んだ欲望を消し去るために。
そしてついに、運命の放課後――。
「よし、行こうぜ。あのクソ野郎の鼻を明かしてやるんだ!」
『今日オタカラを盗み出さないと、チャンスはもうねーからな!』
「……うん。志帆が安心して学校に来れるように改心させないと」
「行こう、失敗は許されない。俺達で必ず成し遂げよう」
三人がスマホを操作し、現実から溶けるようにして
私は屋上へ続く扉に背を預け、声が消えて彼らが居た場所へと視線を向けた。
(頑張って。ここからは、君たちが解決すべき物語。私は、友人として、ここで君たちの帰りを待ってるから……)
「……なんてね。私らしくないよね」
一人、自嘲気味に笑う。
今回に関しては彼らを見送るだけで満足するつもりはない。もし、彼らがオタカラ奪取に失敗し、追い詰められるようなことがあれば――。
(保険は、かけておかなきゃね)
『フフ……。ようやく
マスターシュの挑発的な囁きを感じながら、誰もいない
怪盗団が正面から城を攻めるなら、自分は裏から彼らをサポートしよう。
それが、この世界に招かれたイレギュラーである自分の役割だと信じて。
――初めて訪れるカモシダパレス内部。
彼らがちゃんと攻略してるのであれば、おそらく正面の肖像画の仕掛けが解かれて……いる。
これでショートカットが出来る。
メメントスと違って、シャドウの姿は不定形ではなく形を持っている。
つまり、その強さは知れているということ。
数日前に、ミリタリーショップで入手した二丁のピースメーカー。
レジでピースメーカーのモデルガンを二丁欲しいと言ったとき、「へぇ……」と意味ありげに笑みを向けられたことを思い出す。
まあ女子高生が、迷いもせずにピースメーカー二丁くれとか、随分マニアックな客が来やがったとか思われたんだろうなあ……。
とはいえ、効果は絶大だ。
マスターシュに合わせてピースメーカーをチョイスした。
西部開拓時代から続く歴史のある銃。現実では鈍く黒く光るそれは、認知の世界においては黄金に輝く武器となっている。
自身のペルソナと武器を合わせることで、不思議と威力が増している気がする。
決して止まらず、シャドウをなぎ倒しながら、彼らを追う。
やがて、オタカラの部屋の前、鴨志田が待ち受ける部屋に差し掛かろうかというとき、激しい戦闘音が聞こえてきた。
「くそっ!なんだこいつ!!今までの奴らと全然ちげぇぞ!?」
「ここまで来て、負けてられない!まだオタカラも盗んでないのに……!!」
坂本くんと杏の焦燥した声が響く。そこには見たこともないシャドウと戦っている怪盗団が居た。
シャドウが振り下ろした巨大な斧が、床を粉砕した。衝撃波だけで雨宮くんたちが吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。
どうやら苦戦しているようだ。
……アレは何?あんなのカモシダパレスには居なかったはず。
これはメメントスと同じ現象かもしれない。私が入り込んだことによって起きたパレスの過剰な防衛反応……?
……なら、私が責任を取るべきだ。
彼らには万全の状態で、鴨志田に挑んでもらわないといけないから。フードを被って……よし!
「伏せなさい」
宣言後、間髪入れずに物陰から飛び出した。斧が雨宮くんの頭上に振り下ろされようとした、その刹那。
ズガァンッ!!とシャドウの斧を弾き飛ばす2つの銃弾。轟音と共に立ち込める煙の中、マントを翻して彼らの前に立つ。
――ちゃんと銃撃が効くようでなにより。
「……っ!?」
『誰だ!?』
「いや、マジで誰だ!!?」
モルガナと坂本くんが揃って叫ぶが、ひとまず無視だ。
「こちらのことを気にしている暇はないはずよ。あなた達には、果たすべき目的があるのでしょう?」
雨宮くんの視線を背後に感じる。鋭い瞳で私の背中を見つめている感覚。感じる視線に、正体がバレるのではないかと心臓が跳ねたが、あえて冷静に言い捨てた。
「ここは私に任せて、先に行って。……オタカラは、あなたたち自身の手で盗んでみせなさいな」
「……助かる。行くぞ、みんな!」
雨宮くんの決断は早かった。彼は一瞬だけ海咲に深く頷くと、戸惑う二人と一匹を促して奥へと駆け抜けていった。
静まり返った通路。目の前には、体勢を立て直した漆黒の処刑人。 フードを脱ぎ顔を顕にした私は、不敵に微笑む。
「さて……。私の『推し』をいじめた罰、たっぷりと味わってもらうから」
『フフフ……。いいわ、海咲。その気高い怒り、ギャンブラーとしての矜持。……全てを乗せて、撃ち抜きなさい!』
相も変わらず自我出しすぎなマスターシュが顕現し、優雅に二丁の拳銃を構える。
ギャンブラーの矜持なんか持ってないし知ったこっちゃないけど、やることは決まっている。
パレスの最上部で、もう一つの……けれど誰も知らない死闘が幕を開けた。
次話は21時頃の投稿となりますので良かったら御覧ください。