えっちなお兄様「ねえ、イケないことしよっか♡」 作:HE至上主義者
「かかかか、可愛い!?な、な、な、な、何を言って……!?」
「うん、可愛い。俺の押しに弱いところとか、俺を傷付けたって想って泣いちゃうところとか……そして、なにより……」
「お、お兄様……?」
そう言ってお兄様はジッと私を見つめる。こ、この状況……な、なんかみっ、見覚えがある!確か、前にお兄様と一緒に観たとあるアクション映画の一場面に出てきたヒロインと主人公のキスシーンに似て……
も、もしかしてこのままだと私お兄様キスされーー……!!
「アンタ達何してんの?」
「!」
「!?」
だが、唐突に甲高い声が響き、お兄様の視線が私から横に逸れる。そしてつられるように私も横を見て……目を見開いた。なんとそこにいたのは……派手な金髪に目を惹く赤いタイトスカート、さらに高級ブランドの装飾品の数々で指先からつま先まで惜しみなく全身を華やかに着飾った私の新しいお母様……否、今日は『地元の友達と会う予定がある』と言って遠くに出掛けた筈の義母のアカネさんが、駅前の弁当屋のレジ袋を片手に立っていた。
「お、お母様!?」
「母さん……?どうしてここに……確か今日は夜通し飲み会のはずじゃ……」
「どうしてって……フン、どうしたもこうしたもないわよ。友達の子供が急に熱を出して飲み会が中止になったから帰ってきたのよ。……そんなことよりアンタ達の方こそこんな道のど真ん中で抱き合って何してんのよ?まさかと思うけどアンタ達……」
「違うよ、母さん」
怪訝そうな目を私に向けるお母様に、私から体を離したお兄様はフウと小さくため息を吐き、
「……俺が転びそうになって、うっかりユリちゃんに抱きついちゃっただけだから。ね、ユリちゃん」
「え……?え、ええ!そ、そうです!そうです!お兄様水たまりを避けようとして!うっかり!」
「ふうん?水たまりを避けようとして、ね。……まあ、いいわ。それよりアンタこれ重たいから持ってくんない?アタシ、この先のスーパーで酒買いたいからさ」
「うん。分かったよ、母さん。」
そう言ってお母様は半ば押し付けるようにお兄様へレジ袋を渡すと、言葉通りカツカツとヒールを鳴らしながら、私達の先を行く。
……正直、お母様にジッと見つめられた時は心臓が縮みそうだったが、どうにかお母様を誤魔化せたようで良かった。
(でも、本当にドキッとしたわ……本当にお兄様にキスされるんじゃないか、って。でもよくよく考えたらお兄様がそんなことをするはずがないし、きっと私の顔にゴミでも付いていたからじっと見ていたに違いない。『水たまりを避けようとして抱き着いた』なんて嘘もきっとキスをしようとしたことをごまかすための嘘じゃなくて私がお母様に変な目で見られないための嘘だろうし……うんうんきっとそうに違いないわ)
そう自分の中で納得した私は、未だ同じ傘の中にいるお兄様に向かい、声を掛ける。
「お兄様!私も荷物半分持ちますわ!重たいでしょう?」
「ううん。大丈夫だよ。そんなに重くないし」
「そ、そうですか……」
「うん。そんなことより……」
「?」
何やら含みのある物言いに違和感を覚えた、その瞬間――
チュッ
「……え?」
頬に触れた柔らかな感触、小さく響いたリップ音。そして、
「……この続きは……いや、家に帰ったらイケナイ事をしようね。ユリちゃん♡」
というお兄様の甘さを含んだ声。一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。だが、お兄様が落ちた自分の傘を拾い上げてお母様の後を追うように歩き出した後ろ姿を見て、私は理解してしまった。ま、まさか、お兄様にき、き、きき……!!
「おっ、お兄様ああああああああ!!?」
雨音に負けない私の叫び声が、夕暮れの街に高く響き渡ったのであった。
【END】