第六形態カンスト一般モブ<マスター>はありし日の夢を見るか 作:【風車之愚者】
そんなお話を数話、短編形式でお届け予定です。
□■【獣戦鬼】ノーム・アル
二〇四五年三月下旬。カルディナ某所。
耳に詰まった砂をかき出して、通知を二度見する。
【【獣王】への転職クエストの挑戦条件を満たしました】
【対象超級職【獣王】は在位中です】
【空位になった際に転職クエストを再度告知いたします】
機械的なアナウンス。
超級職の就職条件を達成した祝福であり。
それは同時に、周回遅れで鈍間な自分を嘲笑う無慈悲な宣告でもあった。
「……今更かよ」
現実世界の時間で一年以上?
とっくの昔に一人の<マスター>が手にした栄冠は、今や“物理最強”の代名詞に置き換わっている。
ドライフ皇国の<超級>のうち【獣王】は有名な方、知らない<マスター>はいない。
対する俺はようやく転職クエストの入り口に立った段階で比べることすら烏滸がましい。
どの道【獣王】がジョブをリセットしない限り――万が一、小数点の確率よりあり得ないだろうが――先のアナウンスは負け犬を意味するレッテルのままだ。
何より。
欲しい時に手に入らなかった力なんて、存在しないのと変わらないじゃないか。
「帰ろうぜ。スヴァジルファリ」
『Brrr』
俺は相棒に呼びかけて、街に帰還した。
◇◆◇
カルディナの首都は常に移動し続けている。
砂漠を横断する<UBM>【漂竜王】の背中に建てられた街ドラグノマドは、その特性から、周辺環境と付近に生息するモンスターのレベルが変化し続ける。
そのため、<マスター>はある程度の実力がないと拠点にする事が難しい。最低でも亜竜級モンスターを単独で“安定して”討伐できる実力を要求される。
幸い、俺は条件を満たしている。
合計レベル500。俗に言うカンスト勢。
<エンブリオ>は第六形態に進化済みだ。
ドラグノマドを拠点に、最低限このゲームを遊ぶ程度の実力を備えている<マスター>だ。
裏を返すと、それ以上の強さを望むべくもない、いわゆる打ち止めというやつなのだが。
フィールドから戻った先は道端の露店だ。
三ヶ月分の稼ぎと引き換えに購入した営業許可証が認める、猫の額ほどの土地。ドラグノマドで唯一、俺が使用権を借りている場所である。
時間を見計らったのか。客は俺を待っていた。
「おいデブ話が違うぞ」
俺は【放蕩王】マニゴルドに悪態を吐く。
「通常モンスターの間引きって聞いたのに、実際のところは亜竜級のボスだったが」
「悪かったな。要求は金か? 俺の裁量で追加報酬を出す事は可能だが、いくらほしい?」
「そういう事じゃねえんだよ」
金を払えば文句を言わないと思われている。
その通りだよクソ。相場の二倍は貰うぞ。
環境調査と討伐のクエスト報酬を受け取り、俺は露店の開店準備を始めた。こんなでも一国一城の主なのだ。住人は閑古鳥ばかりだとしても。
まあ看板出して、椅子に座るだけなんだけど。
「いらっしゃい。なんか買って」
「間に合っている。依頼があれば連絡しよう」
「もっと金を落としてくれよ。<超級>御用達って宣伝文句で売り出してやろうか」
「よりによって、お前がそれをするとは思えないが」
「……さっさと帰れ」
律儀に商品を購入したマニゴルドを見送る。
あんなでも意外と良いお得意様である。
個人としては好感を持てる性格だ。所属しているグループと彼の属性が気に入らないだけで。
彼とのやり取りが目を引いたのだろう。
通行人の一人が看板の前で立ち止まった。
「お兄さん、あんた何屋だ?」
「見ての通りよろず屋だよ。モンスターの素材、ドロップアイテム、【ジェム】、装備品……まあ色々と。あるものはあるし、ないものはない」
「<
男は【ジェム】を手にした。
「地属性魔法が込めてある。それは確か……ええと、砂を石にする魔法だったかな。あれ? いや、石を砂にする魔法だったかも……」
「《クリムゾン・スフィア》の【ジェム】は?」
「あるわけねえだろそんな高級品」
売り物の【ジェム】は俺が自分で生産している。
サブの【灰石術師】が得意な地属性魔法がメインで、他の属性は下級職レベルの魔法だけだ。
なんなら【魔石術師】は下級職止まりなので、上級職奥義の魔法は込められない。
スキルレベルとジョブには限界が存在する。
「……こっちの防具は?」
「石の鎧だな。俺が作った」
同じくサブジョブの【鎧職人】で生産した装備で、店にはそれなりに上手く作れた防具を並べている。
スキルで鑑定した時の性能はこんな感じ。
【灰石の胸鎧】
・装備補正
防御力+50
・装備スキル
《HP増加》Lv1
※装備制限:なし
「ゴミだな」
「なんだとテメェ!? 装備スキルが付与してあるだけマシだろうが!」
「ゴミをゴミっつって何が悪い産廃が! 《HP増加》Lv1だぁ? 200しか増えないじゃねえか! 下級職だってもう少しまともな防具を作るぞ!」
「これが下級職の限界だよ!」
男は呆れて立ち去った。クソが舐めやがって。
あまり騒ぐと営業許可が取り消しになるので、理不尽なクレームを甘んじて受けるしかない。
苛立つ俺を相棒――勤勉で有能な我が愛馬スヴァジルファリがなだめる。言葉は交わせないが、このゲームで最も長い付き合いの彼とは以心伝心だ。
『Brrr』
「ああ、分かってる。分かってるさ……」
ひそひそと囁かれる風聞。
無遠慮で否定的な視線。
金に五月蝿い砂漠の国で、素人未満が商売を営む事への風当たりはそれなりに強い。
俺のビルドは、良く言えば戦闘職と生産職のハイブリッドだ。悪様に言うと中途半端だ。
色々な遊び方をしたい気持ちと、どれか一つに決め切れない優柔不断さが、悪い方に結実した。
そのくせ人並み以上に稼ぎたいってんだから。
そりゃ真面目な商人からは嫌われる。
『見ろよ。またエレなんとかの……』
『戦闘職やればいいのに』
『いや、半端だから弱いらしい』
おかげさまで悪い意味の有名人だ。
悪評はこのストリート限定で、一本通りを外れたら、顔も名前も知られていない無名の一般モブカンスト勢である事が唯一の救いだった。
『何がしたいんだろうな?』
『よく知らんが、……の土地を買いたいらしいぞ』
『はあ? あの辺は砂漠しかないだろう。それを除いたって土地の権利書なんて桁が違うだろうに。<マスター>は変わってるね』
今日は早々に店仕舞いだ。
どうせ客なんて、マニゴルドしか来やしない。
ノーム
(U・ω・U)<ガードナー獣戦士理論の採用者
(U・ω・U)<純竜級のソロ討伐は厳しい
(U・ω・U)<とある理由で<超級>が嫌い
(U・ω・U)<正確には“とある<超級>が”嫌い
スヴァジルファリ
(U・ω・U)<一般的なガードナー
(U・ω・U)<見た目は機械の馬
(U・ω・U)<たまに煌玉馬と間違えられるが別物