第六形態カンスト一般モブ<マスター>はありし日の夢を見るか 作:【風車之愚者】
□■二〇四三年七月十五日
新たなダイブ型VRMMORPGが発売された。
タイトルは<Infinite Dendrogram>。
すぐに人気を博す作品の初期ロットを入手した幸運なプレイヤーが、ここに一人。新世界へと旅立つ。
◇◆◇
「はじめましてー」
……ネコがいる。
「僕は管理AI13号のチェシャだよー。君のチュートリアルを担当するから、よろしくねー」
「よろしく。早速で悪いけど、実はある程度チュートリアルの内容を知ってるんだ」
ひと足先にログインした友人が、聞いてもないのに話してきたから。
「中で人を待たせてて。省略できる?」
「うーん……じゃあ、手短にするね」
「悪いね」
受け答えがスムーズで違和感がない。
流石は最新ゲーム。良いAIを積んでいる。
視界の描画選択。アバターの設定。
こだわりがない部分は適当に、外見のテンプレを提示してもらい、気に入ったものを少し弄った。
プレイヤーネームは、ノーム・アルで。
平々凡々な俺には、『
最後に初期装備と<エンブリオ>を受け取る。
「<エンブリオ>の説明はどうする?」
「いいよ、後で調べる」
「はーい。チュートリアルの内容は、メニューから見返せるよー。迷ったら参考にしてみてー」
最後に所属国家の選択……のはず。
「初期国家はレジェンダリアで」
「友達がいるから、かな? オッケー」
ぞんざいな態度に機嫌を害した様子もなく、チェシャは淡々と手続きを進める。
最初にあれこれ教わっても頭に入らないから、とりあえずプレイさせてくれるのは非常に助かる。
「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」
直後、俺は上空に放り出された。
話を聞かないペナルティだったりする?
◇◆
七月十五日 晴れ
プレイ一日目。
自由落下は全員共通らしい。馬鹿じゃねえの?
友人の案内で街を見て回った。聞いた通り、ダイブ型ゲームとしてはあり得ないくらい出来がいい。
何をするにもジョブに就職すべき、という友人のすすめで適当なジョブを選んだ。
彼女も俺と同じ【剣士】だ。
後で<エンブリオ>の孵化を待った方がいいと聞き、やつの適当さに文句を言ってやった。
狩場に出てレベル上げをしていたら、友人の<エンブリオ>が孵化した。火を操る能力らしい。
俺のはどんな能力になるんだろうか。
◇◆
七月十六日 曇り
プレイ二日目。
どうやら俺は戦闘が苦手らしい。
リアルなモンスターや血を見て動けなくなるほどではなかったが、距離の測り方と立ち回りが下手。
剣の刃筋を意識しろと言われても。咄嗟に手首をひねるのって難しくないだろうか。
とりあえず剣は駄目だ。槍もよくない。
その点
友人にあんまり下手くそ下手くそと言われるので、途中で【魔術師】に転職した。
味方に魔法を撃つな、と言われた。うるせえ。そっちが射線に飛び込んでくるのが悪い。
そして<エンブリオ>が孵化した。
見た目は機械の鎧をつけた馬だ。
TYPEはガードナー、名前は【装鋼騎馬 スヴァジルファリ】。あまり有名なモチーフじゃない。名前負けしない分むしろほっとした。
意外と感情豊かで愛嬌がある。よろしく相棒。
◇◆
七月二十日 雨
それなりにデンドロを満喫している。
気になったジョブを取って、合わずに消して。
向いていない【剣士】はリセットした。【騎兵】と【槍士】も駄目だ。【槌士】と回避より防御で【盾士】に就職すると少し安定した。
友人はすでに上級職の【剛剣士】になった。
第四形態で、炎の魔法剣士として完成している。
機動力は我が相棒が上だけど。
耐久と速度、地属性魔法と多彩な子だ。
ピンチの時は騎乗して魔法を引き撃ちすれば、だいたいなんとかなる。やっぱり魔法を極めるべきか?
◇◆
◯月●日 晴れのち曇り
生贄MP特化理論が強いらしい。
MPが大幅に上昇する【生贄】に就職した途端、魔法の効率が抜群に上がった。代わりに戦えなくなったが。レベル上げは……友人と愛馬にお願いした。いいだろ、後衛の層が厚くなるんだから。
友人は【剣聖】のレベル上限に達した。早くね?
今は上級職の先、超級職を目指している。
贔屓目に見ても才能はある。可能性はあるだろ。
俺の方は……トップクラスのプレイヤーになれないと薄々実感していた。
そんなことより生産職って楽しそうだよな。
◇◆
■月△日 曇り
【ジェム】生成貯蔵連打理論が強いらしい。
生贄MP特化理論? 手数がないと駄目だね。
とりあえず【魔石術師】で【ジェム】を量産した。
流行る理由が分かる。目に見えて火力が増した。
俺の魔法、【ジェム】、スヴァジルファリも地属性魔法を扱えるので、実質ダメージは三倍だ。
友人は文句を言うが、なに、要は僻みだ。
俺が強くなって悔しいんだろ、と挑発したら決闘でボコボコに叩きのめされた。【ジェム】投げるより速く動かれたら勝てんわ。
あと、コンビに限界を感じてパーティを組んだ。
新メンバーは二人とも美少女だ。がさつで暴力的な友人とは違う。これ以上は炎の剣で焼かれるので口に出さないが。ハーレム気分が味わえて楽しい。
◇◆
△月◆日 雨
パーティの女子二人がくっついた。
……別に構わないが。心強い仲間だし。
友人は初心だから照れていたが。百合より、この国のHENTAIの方がやばいだろ。
固定パーティを続けるならいっそ、と四人でクランを結成した。<
四人の能力を由来して、満場一致で決めた。
どんどん強くなって、有名になろう。
超級職に就いて。ランキングに載って。
馬鹿騒ぎに付き合える、気のいい連中だ。
◇◆◇
□■【獣戦鬼】ノーム・アル
「時代はガードナー獣戦士理論だ」
「【ジェム】生成貯蔵連打理論は?」
「ありゃ駄目だ。速い相手に何もできない」
パーティメンバーの視線は冷たい。
流行に踊らされる馬鹿を見ているようだ。
仕方ないだろ。流行りのビルドは実際強いし、俺の戦い方に合ってる事が多いんだ。
野伏初撃必殺理論?
天地でしか就職できねえじゃん。
【ブローチ】あるのに一撃必殺とかアホだろ。
「いいか? スヴァジルファリのステータスは耐久寄りだが純竜級レベルはある。これを《獣心憑依》で上乗せする分、ジョブを魔法系で埋めて【ジェム】を大量生産する。するとどうなる?」
「私に斬られる」
「なんでお前と戦う前提なんだ」
我らが【剣聖】サロメ様は頭が残念だ。
第六形態+前衛ジョブで固めた相手に接近戦で勝てると思うほど、驕ってはいないけれども。
「まず、うちのクランは壁役が欠けている」
「オーナーが前衛で攻撃。ボクが風でサポート、ディーネが水魔法と回復で支援。完璧じゃん?」
俺が抜けてるんだよシルフィてめえ。
「【獣戦鬼】でステータスを足せば、俺が盾になれる。ついでにスヴァジルファリの魔法と【ジェム】で攻撃と支援もできる。よって最強の布陣になるわけだ」
これまでのビルド論のいいとこ取りだ。
《獣心憑依》で物理ステータスを確保して、【生贄】と魔法職のMPで強い魔法の【ジェム】を量産。
これが俺の結論、魔法戦士ビルド論だ。
「「「ふーん」」」
興味うっす。俺のこと嫌いなの?
他三人と比べて、とっ散らかったビルドのため、お荷物の自覚はうっすらとある。だから雑な扱いは仕方ないと言えば仕方ない。
「とりあえず【獣王】取ってから言ってよ。加算6割じゃ、純竜級未満にしかならないもん」
「それができたら苦労しねえよ」
皆が笑う奥。サロメの表情が曇った事に、この時の馬鹿な俺は気付かなかった。
◇◆◇
●月◇日 晴れ
カルディナに移籍することにした。
全員のレベルがカンストして、更に上を目指すには、より高性能の装備品が欲しかった。
反対意見はなかった。
クランの拠点が欲しいという話も出ていた。
多分オーナーは焦っているんだろう。
超級職【剣王】に就職するやつが現れないか、誰より先に先着一名の頂点にゴールするために。
少し前に新しい【獣王】が誕生した事で、俺はガードナー獣戦士理論の最強の夢を絶たれた。
だから気持ちは分かる。少しだけ。
まあ、目先の問題はホームを買う金だ。
なんと最近【鎧職人】に就職したので生産職の真似事ができる。俺が率先して金を稼ごう。
何も知らない初心者相手なら商売になるだろ。
◇◆◇
×月×日 雨
クランが解散した。