第六形態カンスト一般モブ<マスター>はありし日の夢を見るか   作:【風車之愚者】

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居場所の守り方

 □■【獣戦鬼】ノーム・アル

 

 念願のクランホームを購入した。

 辺境の都市の、小さいが快適な家だ。

 たまたま売りに出されているところをディーネが見つけてくれた。不動産は運が全てだ。

 

 <四大精霊>名義で契約を交わして、鍵を受け取った俺達は、緊張が解けてへたり込んだ。

 それくらい大きな買い物で、一大イベントだった。

 

 各々が内装を持ち寄って、部屋割りを決めて、クランのロゴを入れた団旗を飾った。

 

「これが……ボク達の拠点」

 

「ええ、そうです。私達のホームですわ」

 

 俺も不思議と感慨深いものを感じていた。

 これから、ここから、積み上げていくんだ。言葉に出さないが、皆の気持ちは同じだったはずだ。

 

 だが。運命はそんな期待に水を差す。

 

「え」

 

「サロメ? どうしたよオーナー様」

 

「……とられた」

 

 馴染みの情報屋からのメッセージを読み、我が友人は普段から想像できないほど顔面蒼白になって、倒れそうになりながら俺の肩を掴んだ。

 

「おい落ち着け! 何が……」

 

「新しい【剣王】が、王国で……私……」

 

 それは【()()()()()()()()誕生の知らせ。

 王国で栄冠を手にした剣士への祝福。

 サロメの目標だった超級職は二度と就職できないことを告げる、最悪の一報でもあった。

 

 とても新居祝いなんて雰囲気ではなく、その日は早々に解散した。

 

 

 ◇◆

 

 

「――おい、今なんつった」

 

 日を改めて集まった場で。

 俺は友人の胸ぐらを掴んでいた。

 

「聞き間違いか? もう一度言ってみろ」

 

「合ってるよ。私、デンドロ辞める」

 

 燃えるような瞳から輝きは消えていて。

 彼女はオーナー権の移譲を提案していた。

 

「っ、んで、そうなんだよ!?」

 

「だって、これ以上続けても先がない。私は強くなりたかった。でも【剣王】はもうなれない」

 

「他の超級職を探せばいいだろ! 剣士系統なら知られてないジョブがあるはずだ! あとは……特典武具だ、クラン全員で探して狙おう。それが駄目なら金を積んで妖刀でもなんでも」

 

「ノーム。もう私は決めたから」

 

「……クソがッ!」

 

 その日。クランハウスから()が消えた。

 

 

 ◇◆

 

 

「申し訳ありません。就職活動を始めなくてはならず、これまでのようにログインする事が難しくなってしまいますので……私もクランを脱退いたします。名残惜しいですが今まで大変お世話になりました」

 

 (ディーネ)が流れて。

 

「ボクも受験勉強しないとなー。クランを解散しないのなら、オーナー権は君に渡すよ。……ごめんねノーム。またいつか一緒に遊べたらいいね」

 

 (シルフィ)が立ち去り。

 

 <四大精霊>は事実上、消滅した。

 

 誰が悪いという話じゃない。

 デンドロはゲームだ。現実と折り合いをつけて遊ぶ趣味だ。生活が変化したら、離れる者もいる。

 つまらないと感じたらゲームを辞める自由が俺達にはある。モチベーションはそれぞれで、何のためにゲームをするかなんて本人にしか決められない。

 

 見切りをつけて引退した友人も。

 現実のためゲームを離れた仲間も。

 悪じゃない、はずなのに。

 裏切られたような気分になるのは何故だろう。

 

『Brrr』

 

「大丈夫、俺は続けるよ」

 

 もし、また彼女達がデンドロを遊ぶ時。

 戻れる場所を残しておきたいと感じた。

 別に戻ってこなくてもいいが、その選択肢を、俺が潰してしまうのは違うだろう。

 

 俺は空っぽのホームを守り続ける。

 

 そう決めたのに。

 

『街に<UBM>が接近! 避難してください!』

 

 このゲームは、いつも運命を嘲笑う。

 

 

 ◇◆

 

 

 先遣隊が持ち帰った情報を、寄せ集めの<マスター>で共有する。形だけの討伐隊だ。

 

「確認できた名前は【砂漠呑 アズモール】。等級は伝説級と推測される」

 

 この場にいる連中は一枚岩じゃない。

 <UBM>を倒して特典武具が欲しいやつ。

 被害が増えた後の懸賞金狙いのやつ。

 情報を集めて売り捌くか、独占するやつ。

 

 ……街を守りたいやつは、一人もいない。

 

 証拠に、率先して打って出る人がいない。

 能力が判明するまで様子見に徹している。初見殺しの貧乏くじを引かされるのが嫌なんだろう。

 

「俺が出る」

 

 引き止められはしたが、代わりはいない。

 そう思って相棒に跨った。

 無論、自分で討伐できるとは思わない。少しでも足止めして、攻略の糸口を掴んでくれれば。後の連中の確率が上がる。街が襲われる前に倒してくれる。

 

「その必要はないよ」

 

 駆け出す前に、優男に止められた。

 王族か商人のような風貌だ。ただ使っている素材は最高級品であると素人目にも分かった。

 

「誰だよてめえは」

 

「【地神(ジ・アース)】ファトゥム」

 

「“魔法最強”……!?」

 

 カルディナの<超級>が何故ここに、と疑問に思うが棚上げした。大事なのはこいつがここにいること、そしてこいつが”最強”の実力者であることだ。

 

「助けてくれるのか」

 

「助ける? いや、どうだろう。私は<UBM>を討伐するけれど、君が助かるかどうかは別問題だと思うよ。私も詳しい事は聞かされていないんだけど」

 

「……? とにかく討伐なら手を貸す。俺はMVPを取れないだろうから特典武具がそっちに行っても文句はつけない」

 

「大丈夫。『他人の手を借りないように』と言われているからね。どうも単独で討伐しないと被害が拡大するらしい……ああ、何を言っているか分からないと思う。だから独り言と思って放置していいよ」

 

 なんだこいつ気味の悪い。

 <超級>ってのは頭がおかしいのか?

 

「でも、そうだね。少し話をしよう」

 

「知らん。俺は行くぞ」

 

「やめておいた方がいい。今から、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……は?

 

「どうも面倒な能力みたいでね。逃げられないようにまとめていくよ。議会の許可は得ている」

 

「なに、いって……」

 

「幸い避難は終わっているようだ。町と建物の被害は、見舞金が出るそうだから」

 

 ファトゥムの言葉が理解できない。

 耳に入った端から抜けてしまう。

 申し訳なさそうな顔してんじゃねえよ。お前は金と罪悪感でしか話ができないのか。

 町に住んでいた人達は? 彼らの居場所は? そんな事を少しでも考えたのか。

 

 理解できないなりに、分かる事がある。

 この男は口にした通りに魔法を使う。

 

「……やらせるかよ」

 

 俺の、俺達の居場所はあそこだ。

 <四大精霊>のホームはあの町にしかない。

 彼女達の帰る場所を守れるのは、俺だけ。

 

 戦槌(フレイル)を向けられた【地神】は、困り顔で笑う。

 

「魔法の準備中なのだけど」

 

 苦笑して、指先ひとつで無詠唱の魔法を行使した。

 

 地属性魔法《ボトムレスピット》。

 俺の足元に深い落とし穴ができる。

 奈落に嵌ったが最後、土葬確定だ。

 

「悪いね」

 

「――いんや? 謝る必要ないぜ」

 

 落下して窒息死したと思ったか。

 残念だが生きてるよ。

 

 必殺スキルで相棒と合体し、《獣心憑依》にさらにステータスを上乗せした俺は戦槌を振るう。

 

 魔法使いは身体能力低めがお約束だが。

 例に漏れずAGIが上がりづらい【地神】は、それでも上級職とは積み重ねたレベルが桁違いに高い。

 自然ステータスの数値は伸びるし、強者なら本体狙いに慣れているだろう。結果として【地神】はこちらの攻撃を岩の壁で受け止めてみせた。

 

「驚いたな。同じ地属性魔法かい? 落とし穴を、地形操作で登ってきたんだね」

 

「そもそも落ちてねーんだよ。自由落下する前に足場作るわアホ」

 

「ガードナー獣戦士理論で、岩石を操作できるスキル。そして石を鎧のように纏っている……うん。それならこうしよう」

 

「ッ! スヴァジルファ」

 

「遅いよ」

 

 顎に衝撃。脳が揺れる。また無詠唱?

 飛来する石の弾丸。手加減された。

 軽い脳震盪でこちらの足元がおぼつかない間に、次の一手、【地神】にとっては手遊びに過ぎない、致命の一撃が放たれていた。

 

 魔法《マッドクラップ》による拘束。

 鎧代わりの石を【地神】は操作した。

 魔改造したスキルは鉄より硬く、鎧が拘束具になった俺は身動きを取る事ができない。

 

 そのまま石の鎧ごと俺を圧縮する。

 膨大な魔力を費やした強引な力技は、ENDを多少盛った程度では太刀打ち不可能だった。

 

「やめてくれ」

 

 ファトゥムは俺の懇願を無視した。

 

「頼むよ……」

 

 ファトゥムの善性に縋った。

 運命の神様に祈った。

 <エンブリオ>の覚醒を願った。

 

 おい、相棒。俺の半身。

 お前が俺の可能性だと言うのなら。

 <エンブリオ>がプレイヤーに……無限の可能性を渡すと言うなら。

 

 可能性を寄越せよ。

 ご都合主義でいい。急に第七形態に進化して、この場面を打開する力に目覚めてもいいから。

 

 俺に、ハッピーエンドの可能性を。

 全部を救える可能性を寄越せ……!

 

 スヴァジルファリは、既に全損していた。

 

「お願いだ……町は……やめっ」

 

 俺は小石大に圧縮された。

 

【致死ダメージ】

【蘇生可能時間経過】

【パーティ全滅】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 

 ◇◆◇

 

 

 デスペナルティが明けて。

 ログイン地点のセーブポイントがドラグノマドだった事で嫌な想像をしてしまい。

 ホームタウン()()()()()に戻った俺は、一面何もない砂漠を目の当たりにした。

 

 <UBM>は討伐された。

 人命は誰一人損なわれなかった。

 迅速な討伐と対応のおかげだった。

 

 住民は各都市が難民として受け入れた。

 議会が見舞金を払い、保護したらしい。

 【地神】と議長とやらの計らいだった。

 

 俺は何もできなかった。

 空っぽのホームすら失われた。

 町を守れなかったし、もしファトゥムを止めて、無事に討伐できたか分からない。

 考えれば考えるほど最適な結果だった。

 

 二〇四五年三月下旬。

 俺は<超級>が嫌いになった。




VS【地神】
(U・ω・U)<相性が悪過ぎた
(U・ω・U)<例えるなら【ウンディーネ】の人と醤油抗菌レベル

必殺スキル
(U・ω・U)<よくある融合合体
(U・ω・U)<馬が全身を覆う鎧になる
(U・ω・U)<効果はガードナー体のステータス加算&スキル使用権+α
(U・ω・U)<元が純竜級相当(STR3000、END6000、AGI1000)なので
(U・ω・U)<必殺後は《獣心憑依》込みで耐久型超級職ぐらいになる
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