第六形態カンスト一般モブ<マスター>はありし日の夢を見るか   作:【風車之愚者】

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約束の果たし方①

 □■【獣戦鬼】ノーム・アル

 

 商人の娘アレナの護衛と、砂漠の案内。

 クエストはあっさりと終了した。

 

「何もないわね」

 

「だから言ったろ」

 

 スヴァジルファリに二人乗りして移動する。

 馬車は邪魔なのでアイテムボックスに格納した。

 

「もっと何かを感じると思っていたわ」

 

「なんでだ?」

 

「内緒。教えてあげない」

 

 小生意気なガキめ。振り落とせ相棒。

 危ないから駄目? そうだね。

 

「っと、すまん。少し寄り道していいか」

 

「いいわよ」

 

 理由も話も聞かず、彼女は頷いた。

 

 街の中央を伸びる大通りを進んで四角を左。

 三角屋根のパン屋を通り過ぎた先を曲がる。

 こじんまりとした二階建ての貸家、そこが俺の、俺達のクラン<四大精霊>の拠点がある。

 

 ……拠点があった、場所だった。

 今は何もない。砂しかない。

 喧騒も、道標も、小麦の匂いも、無愛想な大家も。

 

 確かに鮮明に覚えているのに。

 記憶の中にしか、その光景はない。

 

「ただいま」

 

 時間を見つけてはこの場所を訪れている。

 理由は分からない。名残惜しいからだろうか。忘れないようにするためだろうか。

 

 目を閉じれば彼女達の声が聞こえる。

 楽しかった日々に手が届きそうで、しかし霞のように、触れる寸前で立ち消える。

 

 あの日、拠点から持ち出せたものは少ない。

 俺個人のアイテムボックスに詰め込めるだけ詰めた荷物は、全体の半分に満たなかっただろう。

 残りは砂の海に沈んで無くなった。

 メンバーの荷物はほとんどが失われた。

 一度発掘を試みたが、そもそも原形を留めず風化したのか、無駄骨に終わった。

 

「心中お察しするわ」

 

「お前に何が……」

 

 分かる、と言いかけて口を閉じる。

 アレナの表情は無知のそれと違って。

 その瞳はかつての街並みを映していた。

 

「知ってる、のか?」

 

「マニゴルドさんに聞いた。この土地を買うつもりで、無茶な商売をしてるって噂もね」

 

 あのデブ余計なことを。

 

「好きに笑えよ。バカのやる事だってな」

 

「笑いやしないわよ。先は越すけど」

 

 アレナは両手を広げて辺りを見回す。

 

「私、この土地を買う予定なの」

 

「…………は?」

 

「今日はその下見ね。実際に現地を見て、瑕疵の有無を確かめたくて」

 

 待て、待ってくれ。話についていけない。

 この女はなんて言った? 買う? 何を?

 

「ここの、土地は……砂漠でもカルディナの国土で……個人が買えるような値段じゃ、ない」

 

「普通はそう。でも言ったけど、私は議長様に心配りをいただいているの。次期議員として街の復興を進める手筈になっているわ。それで、あなたにも……」

 

 彼女の言葉が頭に入って来ない。

 

 真面目にやってきたとは言えない。

 全力で目指していたと胸を張れない。

 言い訳のように、適当に石を積み上げていた。

 全てあっさり崩れる音がした。

 

 ああ、なんだ。結局は無駄だった。

 どこかで理解して、目を逸らしていたが。

 

 凡人(ノーム・アル)が何かを成すなど。

 土台ムリな話だったのだ。

 

「……ねえ、聞いてるの?」

 

 倒れ込むように一歩前に出る。

 心配そうな表情のアレナに近づいて、腰のフレイルを振りかぶった。

 

「ノーム?」

 

「伏せろッ!」

 

 ――振り下ろした戦槌が、凶刃を防ぎ止める。

 

「あ、えっ」

 

「敵だ! ボサっとすんな下がれ!」

 

 奇襲を許してしまった。不覚だ。

 思うところはあるが護衛を優先する。

 すぐさまアレナを背後に。スヴァジルファリに乗せて逃げ出す準備を整える。

 

 敵は一体。砂埃で視認しづらいが人型だ。

 棒状の武器でこちらと競り合っている。

 頭上にモンスターのネームが表示された。

 

 【ドラグワーム】。

 

「どこがだよ!?」

 

 どう見ても【ワーム】じゃないだろうが。

 大きさは人間並みだし、機械仕掛けの装甲。

 よく観察すると武器だと思っていたものは無骨なスコップだった。殴られたら死ぬので大差ない。

 

「つーか、どこから出てきやがった」

 

「多分だけど地下ね」

 

 やけに自信ありげにアレナが断言する。

 

「《鑑定眼》で見たら【黄銅之掘削(ブラス・スコッパー)】ですって。穴掘りが得意なのかしら。やっぱり例の<遺跡>が稼働しているって話は本当だったのね」

 

 情報が多い。半分しか理解できんわ。

 

「待て、《鑑定眼》? 《看破》じゃなく?」

 

 つまりモンスターではなく、アイテム扱いという事か?

 

「《看破》は習得してないわ。試してみてよ」

 

「俺も覚えてねえよ」

 

 ジョブの空き枠が無いとこんな時に不便だ。

 普通【斥候】あたりに就けば済むんだが。

 いや、スキル付きのアクセサリーがあったな。

 

 機械を《看破》した結果は【ドラグワーム】で変わりない。ただ《鑑定眼》だと確かに【黄銅之掘削】と表示される。更に言えば、胸部のコアらしき部分で蟲の脳味噌のホルマリン漬けが浮かんでいた。

 

「王国で似た例があったわ。モンスターを乗っ取る先々期文明の機械兵器。煌玉兵だったかしら」

 

「前例あるんだ。対策は?」

 

「壊して。王国のケースは火が弱点だったはず」

 

 戦闘は避けられないわけだ。

 

「スヴァジルファリ! アレナを頼むぞ!」

 

『Brrr!』

 

 相棒に背中を任せ、ステータスは“写した”まま。

 獣戦士系統の《獣心憑依》で加算したSTRを発揮して機械のスコップを押し返す。

 

 相手のスコップは大振りで単純だ。

 振り下ろし。薙ぎ払い。突き出し。この三パターンの攻撃モーションを繰り返す。

 振り下ろしと突き出しはできるだけ足で避ける。無理だと思ったら盾でいなす。

 薙ぎ払いだけは回避が難しいので、腰を据えて守りを固める。新調した盾は十分な性能を発揮した。

 

「しかし火か……火ねえ」

 

 シンプルな攻防と観察を続ける。

 どうやら敵の知能はあまり高くないらしい。

 

 ならばと薙ぎ払いを受け止める。今回は盾と武器を交差してスコップに噛ませるような形で。

 

「突き出して連続二回の薙ぎ払い。その後、お前は必ずスコップを手元に引き戻して振り下ろす」

 

 だが押さえつけたスコップは戻りが遅れる。

 この隙に火属性の【ジェム】を投擲する。

 

 火花が炸裂する。

 装甲が焦げた相手は再び動き出す。

 

「効いてないが?」

 

 そうだよな金属と謎のガラスだもんな。明らかに耐火性能が高いよ。下級魔法は通じないって。

 王国のは火薬武器が誘爆したんじゃねえの?(正解)

 

 その点【黄銅之掘削】は銃器なしの近接型だ。

 他の弱点は露出したコアぐらい。

 

 だが待てよ。どうして煌玉兵はモンスターを乗っ取る必要がある? そんな面倒な手間をかけるなら、そうしないとならない理由があるんじゃないか。

 

「寄生……動力源?」

 

 機械が動くにはエネルギーが必要だ。デンドロだとMPを使う魔力式が多い。その動力をこいつはモンスターから賄っているとしたら。

 

「コアの【ドラグワーム】(ホルマリン漬け)が無くなれば、こいつは燃料切れで停止する」

 

 問題は純竜級モンスターを討伐する火力(ダメージソース)だ。

 あの状態ならコアから外せば死ぬだろうか。

 

「相棒」

 

『Brrrr』

 

 以心伝心で、後方から魔法支援が行われる。

 速度と貫通力を高めた《ストーン・バレット》が機械のコア目掛けて突き刺さる。そして破裂。

 石弾の先端に埋めた【ジェム】が起動して、それぞれの魔法と、石弾の破片が装甲を抉る。

 

 よくある【ジェム】貯蔵連打理論の小技だ。

 術者より速い魔法で【ジェム】を当てるという。俺は榴弾を参考に、着弾時の威力を上げている。

 

「やったか……」

 

 コアが壊れた【黄銅之掘削】は動かなくなった。

 その物言わぬスクラップにアレナが近寄る。

 

「おい。危ないから触るな」

 

「持ち帰って調べないと」

 

「はあ?」

 

「この土地がそのままになっていたのは理由があるの。資材が必要なのもそうだけど、最近になって近くに<遺跡>が見つかってね。土地を買う前に調査しておきたいと思っていたのよ」

 

 こんなふうに襲われるの嫌だし、と呟いた彼女はスクラップをアイテムボックスに仕舞う。

 

「その情報は聞いてないぞ」

 

「依頼に関係ないと思ったのよ。今日は単なる下見で、<遺跡>は後日のつもりだったから」

 

「現に襲われただろうが」

 

「それは……ごめんなさい」

 

「……いや、下調べをサボった俺も悪い。とにかく帰るぞ。また何体も出てきたらめんど、う……」

 

 来た道を振り返って、言葉を失う。

 

 開けた砂漠の地平線に砂埃が舞っている。

 遠目に、無数の影が動いている。

 一秒ごとに砂が跳ねる。足元が揺れる。大地が鳴る。それが徐々に……大きくなって近づいて来る。

 

「嘘、だろ」

 

 今し方倒した機械と同種のソレは、一塊になって、一直線にこちらへと向かっている。

 さっきの【黄銅之掘削】、砂漠を石畳に均す【黄銅之整地(ブラス・グランディング)】、飛び出したモンスターを刈り取って素材や動力に加工する【黄銅之開拓(ブラス・フォーミング)】。

 

 そして整地した砂漠に、奇怪なオブジェクトを建てる【黄銅之建国(ブラス・ビルダー)】と銘打たれた一番大きな機械。

 

 ソレらが無人の土地を蹂躙している。

 

「ねえ! 止めなくていいの!?」

 

「止める……?」

 

 この女(アレナ)は何を言っているのだろう。

 

「止めてどうなる? 意味があるのかよ」

 

「だって、大事な場所なんでしょう!」

 

「仮に連中を止めたとして。結局お前が土地を買って、新しい街に作り変えるんだろう? そこには俺の……俺達の居場所は、もう無い。なら同じだ」

 

 機械に取られようが、アレナに取られようが。

 奪われるという表現すら傲慢だが。

 誰に奪われるかというだけの話だ。

 

「それは違うわ」

 

 同じだというのに。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の言葉で不思議と昔を思い出す。

 

「私は■■■■の街を元通りにするの。故郷を離れて、帰りたいという難民が、ここに戻って来られるように。自分のために新しい街を建てる事はしない」

 

 一度、街の市長を助けた事があった。

 年のいった男で一人娘がいたように思う。

 娘が里帰りしたタイミングで、モンスターに襲われた。それをクランの皆で助けた。

 

 どうして今、関係ない事を思い出したのだろう。

 

「だからあなたを選んだ。あなたは忘れていない。この街の事をずっと覚えている。だからお願い」

 

 その時だったか。否、いつも言っていた。

 名前と実力を誇示するため。売り出すため。

 小っ恥ずかしい通り名を。

 

「力を貸して。“<四大精霊>の土”」

 

「……そういうのは、もっと早く言えよ」

 

 そうだ。まだ終わっていない。

 完全に失われてなんかいないんだ。

 

 俺が<四大精霊>である限り。

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