第六形態カンスト一般モブ<マスター>はありし日の夢を見るか   作:【風車之愚者】

6 / 8
約束の果たし方②

 □■カルディナ砂漠・■■■■跡地

 

 <遺跡>に眠っていたソレは、王国のカルチェラタンと同様、先々期文明末期に生産された煌玉兵だ。

 

 しかし、そのコンセプトは少々異なる。

 カルチェラタンの【風信子(ジルコン)】が、“化身”への対抗手段として造られた、量産型の戦力だとするなら。

 

 こちらの【黄銅(ブラス)】は、“化身”との戦いに敗れた人類の生存圏を確保するために造られた開拓団。

 いわば後ろ向きで悲観的な最終手段であり、あってはならない予備プランである。

 

 基本的な仕組みは変わらず。非人間範疇生物(モンスター)をMP供給源とし、保護すべき人間範疇生物と区別する設定で、<遺跡>のプラントが稼働する限り、無人での活動が可能になっている。

 

 一団を統率する【黄銅之建国】は、時代を経て目覚めた後、周囲の環境を測定して結論を出した。

 

 “この土地の文明は崩壊した”

 

 “ならば、新たに築かねばならぬ”

 

 “人類の生存圏を。比類無き安全圏を”

 

 偽りの黄金を冠する煌玉兵は、もはや存在しない人類のため、虚栄の都市を建築する。彼らにとっての『非人間範疇生物』を排除しながら。

 

 “――――?”

 

 先遣隊の信号が途絶したタイミングで【黄銅之建国】の思考回路にエラー(違和感)が発生する。

 一定範囲に侵入した配下の全滅。集団で純竜級モンスターを狩猟できる【黄銅】が、だ。想定される敵性対象の脅威度を一段階引き上げる。

 

 追加の部隊を送るが、またも信号途絶。

 

 “何が起きている”

 

 やむなく【黄銅之建国】は都市建築作業の優先順位を下げ、配下の反応が消えた地点を目指す。

 

 そこには壁があった。

 建築家によるものではない、城壁とは呼べない、石垣未満の単なる壁だ。

 センサーの計測結果は、壁が円周上に形成されていること、一地点のみ穴が開いている事を伝える。

 

 “障害物は排除する”

 

 奇しくも【黄銅】は土木作業が得手である。

 石の壁ごとき、【掘削】で十分と演算した。

 

 スコップを壁に突き立てた【掘削】は、飛来した石弾と爆発の連鎖でまとめて炎上する。

 

 “――――”

 

 なるほど、と人間なら感じただろうか。

 再演算した【黄銅之建国】は石壁の瑕疵、唯一の出入り口に配下を進めさせる。

 道幅が狭いため一機ずつになるが、敵性対象のいる内側に進む事ができるだろうと。

 

 魔法の集中砲火と【ジェム】の地雷原で阻まれる。

 

 “――――”

 

 配下に指示して坑道を掘り進める。

 

 地下は迎撃魔法と【ジェム】の罠。

 

 ゆえに煌玉兵は足踏みを余儀なくされていた。

 たった一人の<マスター>によって。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■【獣戦鬼】ノーム・アル

 

 防御陣地の構築に成功した。

 

 石壁と周囲の地面は【ジェム】と自動迎撃魔法を仕込み、突破しようとした敵を攻撃する。

 わざと開けた通路に群がる相手を地雷原で減らし、それでも抜けてきたやつは、直接トドメを刺す。

 

「右、左、前、止まって防御、硬直三秒、攻撃、また右、右、左……」

 

 煌玉兵の種類と行動パターンは覚えた。

 後は詰まないように、位置取りを考える。

 この数相手に、考えずに勝てるほど俺は強くない。思考を止めるな、戦いながら頭を回し続けろ。

 

「もう【ジェム】最後よ!」

 

「話しかけんな気が散る!」

 

 アレナが上級魔法の【ジェム】を大量に持っていて助かった。おかげで俺のところまで抜ける煌玉兵がほぼゼロに近い。で、何が最後だって?

 適宜【ジェム】は地属性魔法を使って壁と地雷原に補充していたが。いよいよ在庫切れか。

 

「だが、これで、ラストぉ!」

 

 煌玉兵に【紅蓮鎖獄の審問官】をぶち込む。

 汚ねえスクラップにしてやったぜ。

 後は外のデカブツだけ……!

 

 壁が崩れる。

 瓦礫を乗り越えて【黄銅之建国】が現れた。

 【ジェム】無しで迎撃するのは無理だ。それはいい。力不足は納得している。問題は、

 

「デカ過ぎんだろ……!?」

 

 遠くから見るのとはわけが違う。

 他の煌玉兵はあくまで人間大だった。

 しかし【黄銅之建国】は十メートル超、【マーシャルⅡ】 と比べて倍以上のサイズだ。

 こちらの攻撃は足までしか届かないし、そもそも雑魚にあった弱点のコアが見当たらない。

 

 どうやって倒す? 考えろ俺。

 攻撃パターンは初見。【ジェム】なし。

 

 必殺スキルだって既に使用済みだ。

 大軍を足止めするため、防壁が必要だった。

 だから使わざるを得なかった。

 

「殴り合うしかないってのか……」

 

 即死はしない、と思う。

 必殺スキルの《堅土張磊(スヴァジルファリ)》は合体スキルだ。スヴァジルファリは鎧になって、俺を守ってくれる。

 俺のステータスを加算する効果もあるから【黄銅之建国】とだって戦えるはずだ。

 

 ……最低、死ぬ気で相打ちに持っていく。

 

「アレナ。シェルター作るから、終わるまで隠れとけ。出てくるなよ」

 

「ちょっと!」

 

 騒ぐ前に彼女を押し込む。

 お前が死んだら街を復興できないだろ。

 

「やるぞ相棒」

 

『Brrrr』

 

 頭上の巨大な手に対抗して武器を振る。

 

 大きな、積み重なる石が、巨腕を止める。

 

「砂を石に変える魔法」

 

 必殺スキルの効果中に限り、スヴァジルファリの魔法は性能が上昇する。

 狭い範囲だが強固な石壁を生み出したり。

 あるいは素人が考えた、名前もついていないような魔法を実用レベルまで引き上げたり。

 

 そしてスヴァジルファリは石を纏う事で、その質量に比例して全ステータスを加算する。

 通常は限度がある。その辺の石ころでは足りず、必要な分は魔法で創り出す事になるから。

 

 だが、こと砂漠においては。

 

「――()()()()()()()()()

 ――俺は通常の何倍も強化できる。

 

 加算したMPを糧に追加強化を図る。

 あの時に使えていれば、少しは違う結果になっていただろうか。いや無理だな。【地神】相手だと。

 

 石の鎧を重ねてデカブツに並ぶ。

 

 サブジョブに置いた【彫刻家】の汎用スキル《造形》で石材の加工速度と精度は増している。

 さらに【鎧職人】のスキル《鎧品質向上》は文字通り、製作する鎧の性能を高める効果がある。

 肝心の前提スキル《鎧製作》は生産系ジョブをメインにしないと使えないので、本来ならサブジョブで《鎧品質向上》を使用しても意味がない。

 こんな使い方をするのは俺ぐらいだろう。

 

「重ねた分コストが嵩むんでな。さっさと倒れろ」

 

 目線が並んだ【黄銅之建国】と組み合う。

 関節部分を狙って、やつの片腕を強引に捻る。

 そのまま千切り捨てたら大ダメージだ。

 

 膂力は互角。片手なら押し勝てる。

 

 そんな淡い期待は、【黄銅之建国】が指先から放った光でかき消される。

 

 光線を浴びた箇所の鎧が溶け落ちる。

 石鎧を溶かしたやつは、粘土状になった石を塗り重ね、失った腕を再構築してみせた。

 

「考える事は同じかよクソ」

 

 素材を加工・建造するスキルだろう。

 機体の再生とか聞いてねえぞ。

 それなら、こっちは逆にこうしてやる。

 

「石を砂に変える魔法!」

 

 追加パーツを砂に変えてやる。素材は砂を元にした石なんだ、ややこしいが、また砂にできる。

 

 ……ただ。

 

 魔力消費が二倍になり、形勢が逆転した。

 こちらはコストが尽きるまでの時間制限があり、対して【黄銅之建国】はガス欠の様子がない。

 モンスターのコアと別の動力源を組み込んでいるのだろうか。だとしたらどう対処すりゃいい?

 

「火力が足りない」

 

 欲しいのはデカブツを一撃で屠る攻撃力。

 中途半端なビルドの俺は攻撃スキルに欠ける。

 強化した地属性魔法も、素材を加工する【黄銅之建国】の装甲を貫くには工夫が必要だ。

 上級魔法の【ジェム】を切らした今、できる事と言ったら小技の連打ぐらいで……違う、手はある。

 

「ノーム!」

 

 俺と同調して地上のアレナが声を張り上げる。

 シェルターから出るなって言ったのに。だがちょうどいいタイミングだ。

 戦闘の余波で飛ばされそうになりながら、彼女は棒状の包みを掲げた。

 

「これ! 使って!」

 

「それクエスト報酬じゃなかったか」

 

「あなたが死んだら私も殺されるから。欲しがってたなら、当然使えるんでしょ。いいから!」

 

 だからって放り投げるなよ。

 サイズ比の都合から指でつまみ、外殻の内側へ。

 

 手にしたそれは、俺が欲しかった武器。

 名刀百選が一振り、【火蔵(カグラ)】という。

 

「ちなみに俺、剣は使えないぞ」

 

「は? 冗談やめてよ!?」

 

 冗談じゃない。剣の扱いは素人だ。

 そのまま振ったらすっぽ抜けるかもな。

 

「もう一仕事頼んだ。相棒」

 

 合図で石鎧が形を変える。

 外殻染みた全身鎧から、天貫く()へ。

 

 俺は【火蔵】を抜刀して構える。

 天地の鍛治師が鍛えたこの名刀は『炎と熱を吸収して刃の斬れ味を高める』という性能を有している。

 

「火種を起こす魔法」

 

 俺は塔に【ジェム】を投げ入れ、火を灯す。

 

「空気を吹き込む魔法」

 

 火の粉は、吹き込んだ風により勢いを増す。

 

「液体を操作する魔法」

 

 石の端材と【オリハルコン】を『炉』に入れる。

 高熱で溶けた金属の流れを制御する。

 

「鉱石を圧縮する魔法」

 

 ドロドロの金属に【火蔵】を差し込む。

 ありったけの魔力を注いで圧縮強化する。

 

 完成したのは刀身が埋もれたハンマーだ。

 熱と炎を閉じ込めた無骨なそれを担ぐ。

 

「妨害せずに待ってるとは行儀が良いな?」

 

 デカブツは『炉』を前に動きを止めていた。

 あれだけ暴れておいて、なぜとは思うが。

 まさか()()()()()()()とかじゃあるまいし。

 

 まあいい、これで終いだ。

 

 もし仮に【火蔵】を俺が使うとしたら。

 眠れない夜に少しだけ考えた事があった。

 俺の結論はこうだ。

 

「【火蔵】――《火具槌(カグツチ)》」

 

 腰だめから振り抜いた一刀(一打)で――【黄銅之建国】は炎に包まれ、崩壊した。




【黄銅之建国】
(U・ω・U)<建築特化
(U・ω・U)<戦闘能力は二の次
(U・ω・U)<非人間範疇生物を動力源にする事と、敵性対象の排除に加えて
(U・ω・U)<最も大事な拠点作成の任務が与えられており
(U・ω・U)<建築の邪魔になる石の塊とかでもない限り、建造物への対処優先度は低いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。