魔法少女あまた☆マギカ   作:星屑アマタ

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二十七.五話眼 あまたの過去~B面~

※本話には現在のアマタのイメージを壊す恐れが大いにあります。今のイメージのアマタが良い方は決して見ないで下さい。B面を見なくても、ギリシア編同様に今後の展開で分からない事が発生する恐れは無いので。

 

 

 

 階段を慌ただしく駆け降りる音。一人の少女は顔に満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに階段に付けられたバリアフリー用の手摺を見ながらも触れずに駆け降りる。

 またその笑みの反面で、手摺は自分にはもう用の無い不要な物と見下し、軽蔑もする。

 

 そして、少女は1階のある部屋を強く開き、その部屋の中に居る二人に眼を開いて微笑む。

 

「御父さん、御母さん!! 見て、私!! 神様から眼を貰ったの!!」

 

 その二人は少女の親なのだろう。行き成りの娘の発言と、娘の顔に先程まではなかった物が二つ加わっており、互いに頬を抓ったりして夢か現かの確認を行う。

 

「私……見えてるよ……御父さんの顔も、御母さんの顔も……ちょっと、景色が霞んで見辛いけど、見えてるよ……」

 

 少女の瞳からは大粒の涙がポロポロと毀れ、それが視界を霞ませている。

 だけど、そんな彼女以上に涙を流しているのが、両親だった。

 

「本当に御父さんや御母さんの顔が見えてるのか?」

 

 父親はそんな少女の言葉が信じれずに、もう一度涙しながら確認する。

 

「うん、見えてるよ。さっき、私の顔を鏡で見たけど、顔立ちは御母さんに、髪の色が真っ黒なのは本当に御父さんに似てるね。それでね、それでね!!」

 

 少女は自分と親の遺伝的な類似点をあげ、本当に見えてる事をアピールする。

 娘の口から発せられる、キーワードの一つ一つが、二人を夢から現実に引っ張る。

 二人には、娘の顔にどうして眼が現れたのかなんて関係ない。こうして、目の前で娘が笑って、喜んで、嬉しそうに、口少なく自信の無い何時もとは打って変わって喋ってる娘の姿だけで十分だった。

 本当にそれだけで少女の親は良かったのだ……

 

 少女も親が喜び、世界が見れるようになった。

 

 本当にこれで済めば、まるで小説のハッピーエンドの様だった。

 

 だけど、唐突に事件は起きたのだ……

 

 少女が喜んだ翌日の朝刊の一面記事に書かれた『連続少女誘拐惨殺事件』の文字。

 新聞に銘打たれた通りで、次々と少女達が誘拐されて殺害された事件だが、発見された死体の大半が眼球を抉られたり、耳を削ぎ落とされたり、爪を剥がれてたりと猟奇的で有った事が世間を騒がせる。

 そして、そんな新聞が出回る直前に、少女の窪みに眼が埋まった事で、近所では在らぬ噂が立ち始めたのだ。

 

曰く、少女の親が、娘の為に子供を殺して眼を移植した。

 

 当然、適合相性の問題も有るし、そう簡単に移植は出来ない。落ち着いて脳で考えると、馬鹿げた噂では有る。

 

 だけど……この事件の発生地が、少女住む市内での事で無ければの話だ……

 しかも、少女の父親は市内では有数の名医で開業医と来た物だ……

 

 ヒステリックになり、近隣住民は騒ぎ立て始める。

 少女の両親も、自分の所為で招いた現状に不安になる娘をギュッと抱きしめて、時間が経てば解決すると、病院を長期休業してずっと少女の側に居て何度も何度も優しく諭すが……

 

 「この悪魔が」、「この化け物が」、「人殺し」、「鬼」と罵声、家に石が投げ込まれたりして窓ガラスが割られ、玄関に動物の死骸が置かれたりと様々な嫌がらせが起きる度に、少女を抱きしめる力はどんどんと弱弱しくなる。

 それでも、決して両親は娘を責めたりはしなかった。

 何よりも娘が大好きで、溺愛していたから。そして、妻は自分が少女を五体満足でちゃんと産んであげれなかったからと何度も自分に罪が有ると責任転嫁をする。

 

 嫌がらせは、事件が発生する度にエスカレートし、最後には……

 

 少女の両親は堪え切れずに首を吊って心中しまった……

 娘も一緒に死なせるか、最後の最後まで迷ったが、娘に手を掛ける事がどうしても二人には出来なかった。

 だから、娘名義の口座を作って、そこに多額の財産を振り込み、残して逝く事にした。

 娘には最後の最後まで自分で決断し、生きると決めた時は自由に世界を見て貰える様にと。

 

 少女は自分の所為だと嘆き、何度も何度も大泣きをした。

 両親の残した財産と手紙、死体を何度も見て何度も泣いた。

 そして、両親を追い詰めた人間を憎みに憎んだ…… 

 

 両親が死んで数日後、連続誘拐殺人事件の犯人が捕まった。

 犯人は少女の住む、眼と鼻の先にある家の老夫婦で、犯行の理由は老い先短い自分達の最後の享楽。

 これからの若い人間達が苦しみ嘆く顔が見たかったと云う身も蓋も無い理由。

 

 少女はそれを、両親が首を吊ったまま放置されている寝室のテレビに流れたニュースで知った……

 犯人が捕まるや否や、近所の人間の対応の変わりようには酷い物が有った。

 彼等は、少女が外を歩いていると「御父さんと御母さんは元気?」と言って御菓子や人形や玩具を与えた。

 一刻も早く、開業医であり名医の少女の父親とよりを戻そうとしてるのだ。少女の両親が首を吊ったとは知らずに……

 

 少女にはそんな人間が非常に烏滸がましく見えた。

 そして、人間の醜さを知った……

 

 更に日にちは経ち、大分元気になり感情を取り戻して来たある日の事だ……

 自分と契約した存在であるキュウべえが少女の目の前に再び現れて、少女に魔女の存在を話し始めたのだ。

 

「どうして、私が人間を助けないといけないの?」

 

「別に君がこの町を守る守らないは関係ないさ。でも、魔女を倒さない事には、君のソウルジェムを回復する事は出来ない」

 

「それって、この宝石の事?」

 

 少女が取り出した卵状の宝石は、鼠色をしており綺麗とは形容し難い物だった。

 

「そうだよ。ソウルジェムが穢れを溜めてしまうと、魔法が使えなくなってしまう。だから、僕と今から魔女を倒しに行こうよ」

 

 そして……少女こと、星屑アマタは現在……

 元気に走っていた……

 

 

 

「キュウべぇ、どうしたら良いのぉぉおおおおおおおお!!」

 

「僕に言われても……とにかく、しっかり現実に向かき合って立ち向かうとしか……」

 

「無理無理無理無理無理っ!!」

 

 全力で何かから逃げる私。その何かは言うまでもないだろう……

 

「コルコルコルコルコルっ!!」

 

 私と大して大きさが変わらないと云う巨大な斧を振り回しながらこちらに全速力で追いかけて来る、真っ赤なサラファンを纏い仮面を付けた人型の影。(※サラファン:ロシアの民族衣装 ※コルコル:ロシアの呪詛の擬音らしい?コルホーズ(劣悪環境の集団農場)が語源らしい?)

 どう考えても、私には荷が重すぎる……

 先日、キュウべぇと云う謎の生命体に、黒色以外の色を『見る事を御願いした』結果、この様な化け物と戦う事を強要され、元気に現実から逃走中である。

 

「何度も言うけど、君達魔法少女には―――」

 

「あぁ~、イエスイエス。困難に立ち向かう力が有るね。でも、力が有っても立ち向かう勇気も、経験も無い私には無理な相談なのよね」

 

「だからこそ、実戦経験は必要だと思うんだ。先ずは武器を召喚して」

 

「武器!? どうやって召喚するの!?」

 

「念じればアマタの思いに呼応して出て来るよ」

 

 成程、良く有りがちな設定なのね。

 それじゃあ、目の前の敵に打ち勝つ遠距離武器を考えましょうか?

 流石にあんなのと近接戦闘するなんて御免だし……

 やっぱり、手軽で強い武器って言ったら拳銃よねぇ~♪

 

「拳銃よぉ、出よぉ♪」

 

 すると私のスカートの中からリボルバー拳銃と呼ばれる物が、本当に何処から出て来たのか2丁毀れ落ちて来る。

 私はそれを素早く拾い上げ、ウェディングドレスの様な衣装を纏う少女、いや魔法少女には明らかに不釣り合いな質量兵器を構えて、弾丸を発射する事が出来ると思われるトリガーを引く。

 

 火薬の破裂する音、刹那銃口より飛び出す弾丸。

 直線軌道の先の魔女の額へと螺旋を描きつつ、弾が向うが……

 

 簡単に魔女の斧の一振りで粉微塵に弾丸が砕かれてしまう……

 

「って、困難に立ち向かう力はどうなってるの!?」

 

「うん、アマタにはこの魔女は荷が重すぎたみたいだよ……一旦、ここは引いた方が良いかもしれない」

 

「だから、さっきから逃走しようとしてたでしょ!! 出口は何処にあるの!?」  

 

「来た道を戻れば良いだけだよ」

 

 魔女の創りだした結界と呼ばれる空間を素早く見渡し、私がこの広い空間に入る為に使った道へと視線を向け、全力で走る方向を変える。

 急な方向転換に、魔女もやや驚きだが、私が逃げる事は理解できてるみたいで、小さな手斧を持った緑色の服を着た無数の人形に命令を出して出口への通路に先回りをさせる。

 

「どいてぇ!!」

 

 拳銃のトリガーを引くが、易々と防がれる。どうやら、威力不足の様である……

 私が未熟な所為か、それとも武器自体の威力がないのかは分からないが、取り敢えず逃げる場所が無くなったのは確かである……

 

「キュウべぇ、どうすればいいの!?」

 

「正直、御手上げとしか言いようが……」

 

「もう!! こんなんだったら、目が見えないまま一生御父さんと御母さんと一緒に暮らしてれば良かったぁ!! アンタが悪いんだよ!!」

 

「僕は君の願いを聞いただけで……って、首を掴んで揺さぶらないでくれないか?」

 

 魔女が巨大な斧を大きく振りかぶり、逃げ場が最早無い私は、その場にへたれ込んで半泣きでキュウべぇの首を掴み揺さぶって死を覚悟していた。

 

 だが……将にその時であった……

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 黄色い閃光が逃げ場を塞いでいた使い魔達を一掃し、私へと将に攻撃をしようとしていた魔女へと直撃して態勢を崩す。

 

「マミぃ!!」

 

 その一撃と声に覚えが有るのか、キュウべぇは嬉しそうに攻撃を放った魔法少女の名前と思われる物を言う。

 

「あら、キュウべぇ? それに、その子は?」

 

 使い魔達の壁が無くなり、自由に出入りできるようになった通路。その奥から、危機一髪で私を助けてくれた魔法少女が姿を現した。

 黄色のカールした髪、白色の羽付き帽子、ソウルジェムが付いた花の髪飾り、コルセットが付いた魔法少女服に、胸元には黄色のリボンと大きめの胸。

 

 そして、各々の手には銃口が細長い銃を持っている……

 

 命を失いかけてた私には、彼女は御姫様のピンチにやって来てくれる白馬の王子様のように見えた。

 正直、それ以外形容が出来なかった……例え、私の為にやって来てくれた訳でもない彼女の存在が、そのように見えてしまうのだ……

 生死の境を見た現状では将にそれしか表現は出来ない……

 

「助かったよ、マミぃ」

 

「その子も魔法少女みたいね? でも、今は話を聞いてる暇はなさそうね? 先ずは前の魔女を倒さないとね♪」

 

 行き成り登場し、私から乱入してきた彼女に魔女は狙いを替え、斧を再度振りかぶる。

 

「可愛い子にオイタは駄目よ?」

 

 急に地面から無数の黄色のリボンが出現し、魔女が斧を振り下ろす前に斧を持つ手に絡まり、手の動きを止める。

 敵の動きを封じると、手に持つ銃のトリガーを引いて魔女へ攻撃し、銃を魔女へと投げつける。その行動は、私が使った拳銃とは違い、銃弾が1丁に一発しか入らないからかと思われる。

 次に彼女はスカートの端を軽く摘みスカートの中から先と同じ銃を大量に召喚しする。召喚された銃は自重に引かれ地面へと落下し、次々と銃口から地面へと突き刺さる。

 その地面へと突き刺さった銃を次々と引き抜き、彼女はその銃口を魔女へと向けて弾丸を発射する。

 彼女が使ってる銃は単発式ではあるが、威力が私が使った物とは段違いであるからか、ダメージすら与えられなかった私と違い、次々と魔女にダメージを与えて行き、あっと云う間に止めを刺してしまう。

 

 討伐された魔女は断末魔をあげて、その場に黒色の球体の宝石を落として、結界と一緒に消滅してしまい、路地裏へと景色が変わる。

 黄色の魔法少女はその黒い球体を拾い上げ、地面に座り込んでいる私に手渡してくれる。

 所で、この黒い球体はなんだろう? 悪い物ではないと思うけど……

 

「あの……助けてくれてありがとうございます……それに、この黒い宝石は……」

 

「良いのよ♪ キュウべぇ、しっかり魔法少女の面倒は見てあげないとダメでしょ?」

 

 この黒い宝石は……何なの……後でキュウべぇにでも聞くとしよう……

 

「僕もまさかアマタの最初の魔女が、あそこまで強力な魔女とは思わなかったんだよ」

 

 黄色の魔法少女に注意されても、反論するキュウべぇ。正直、徐々にキュウべぇに対する怒りのボルテージが上昇中である。

 後にキュウべぇの扱いが非常に悪くなったのは、これが皮切りだと云うのは言わずもがなである。

 

「あら? もしかして新入りさん? 私は巴マミ、宜しくね」

 

「わ、私は星屑アマタって言います。助けに来てくれて本当にありがとうございます」

 

「良いのよ。それに、本当に偶然魔女の結界が有ったから来ただけだし」

 

「そう云えば、マミは何でここに居るんだい? 見滝原市の方はどうしたんだい?」

 

「こっちに美味しいケーキ屋さんが出来たって聞いたから、来ただけよ。そうだ、アマタちゃんも一緒に今からどう? 私も一人で持って帰って食べるよりは一緒に食べた方が楽しいし」

 

「はい!! マミさん!!」

 

 

 

「へぇ、アマタちゃんは先週魔法少女になったばかりなのね?」

 

「はい♪ キュウべぇと契約して魔法少女になりました」

 

 その後、新しく出来た近くのケーキ屋さんにマミさんと入り、ケーキと紅茶を注文。

 ケーキの種類はマミさんはモンブランで、私はアップルパイ。

 ケーキを食べながら私はマミさんから、魔法少女の日常について御教授して貰っていた。

 

「そうなのね。さっきは私が偶然来たから良かったけど、今度からは気を付けてね」

 

「うぅ……魔法少女のデビュー戦があんな感じになっちゃうなんて……でも、マミさんに出会えたからそんな事帳消しです。マミさんは私の白馬の王子様です♪」

 

「あら、ありがとう」

 

 そう言って私に微笑んでくれるマミさん。マミさん、まじマミさん♪

 

「マミさんは、どうして魔法少女をやってるんですか?」

 

「う~ん、私の場合は成り行きかな。交通事故に遭って、死にそうになってたの。そこにキュウべぇが現れて契約したの」

 

 あ、かなり拙い事を聞いちゃった気が……でも、良くそんな死ぬ寸前の場にキュウべぇがいたわね……

 私の時と良い、キュウべぇは本当になんで狙ったかのようなタイミングで現れるんだろうね?

 

「え、えっと……ごめんなさい……」

 

「良いのよ。じゃあ、私からも。ねぇ、アマタちゃんは何で魔法少女になったの?」

 

「私は産まれつき視力どころか眼球が無くて、世界が見れなかったんです。でも、先週の私の誕生日にキュウべぇと出会って、黒色以外の色も見る事が出来る眼球を貰ったんです」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 今度はマミさんが少し申し訳なさそうな顔になり謝られる。

 

「いえ、先に聞いちゃったのは私ですし……お、御相子様です」

 

「そうね」

 

 しかし、語り手の私が言うのも何だけど、案外この頃の私って意外と臆病と言うか、まだ丁寧語とか使ってたんだよねぇ。

 何時くらいから、今の口調になったんだっけ? 取り敢えず、これ以降にキュウべぇをサンドバッグにし始めてから、結構口調が変わり始めたのは覚えてるけど……

 まぁ、同性愛に目覚めたのはこの時からなのは確かだね♪

 

「そう云えば、マミさんって制服着てますけど、どこの高校に通われてるのですか?」

 

「えっ? ふふふふ」

 

 話を変えようとして、質問するがマミさんは可笑しそうに笑い始める。

 なんか変な事を質問してしまったのだろうか?

 

「えっと……変な事を言いましたか?」

 

「ごめんなさいね。実は私はまだ中学二年生よ。そんなに年に見える?」

 

「ご、ごめんなさい!! ちょっと大人びてて、胸も大きかったので……つい……高校生かと……」

 

「別に怒ってる訳じゃないのよ? 所で、アマタちゃんは何歳なの?」

 

 私が世界を見れなかった事をさっき話した為、学校に通っていないのではと判断したマミさんは、敢えて私の年齢の方を尋ねて来る。

 空気を悪くしないようにと、先の先まで読みつつの会話の返し方。矢張り、魔法少女だけでなく人生でも先輩なんだなぁと思わされる。

 

「先週誕生日を迎えましたので、今は14歳です」

 

「あら、私と同い年なのね」

 

 まさかの事件。私とマミさんが同い年とか……

 明らかにこの身長差、体のラインの凹凸の格差社会……嘘だと言ってよバニー……

 

「絶対に同い年に見えません。何処から見ても、マミさんと私は仲の良い先輩と後輩か、姉妹ですよ」

 

「じゃあ、先輩として私も頑張らないといけないわね」

 

「なら、後輩として先輩に甘えても良いですか♪」

 

「あらあら、アマタちゃんは甘えんぼさんね。良いわよ♪ 私は見滝原市で魔法少女をやってるから、御互い空いた時には何時でも御話しましょうね」

 

 この人は私の王子様。この日から私はマミさんの事が好きになり始め、気が付けば一女性として好きになり始めたのだ。

 性別なんて関係ない。優しくて恰好良いマミさんが大好きなんだ!!

 

 

 

 そんなこんなで、私はマミさんと色々と御話をして、御父さんと御母さんが待っている自宅に戻る。

 「ただいま」と言っても、声は帰ってこない……

 私は御父さんと御母さんが居る寝室へと向かい、そこで首を吊っている二人にもう一度帰宅した事を告げる。

 

「御父さん、御母さん……今日は、マミさんって人と出会ったんです。私、恋をしました……そして、勇気を貰いました。私と同じように不幸になっても、めげずに頑張ってるマミさんに勇気を貰いました」

 

 心なしか、冷たくなって動かない御父さんと御母さんが、私の言葉を聞いて微笑んでくれたようにも見えた。

 

「だから、先ずは手始めに、御父さんと御母さんと私を苦しめた、御近所さんを殺って来ますね♪ 今、どんな顔をして過ごしてるか見てやりたいですし♪」

 

 私は憎むべき対象が、人の親の死を露知らず、どの様な顔をして過ごしてるのか見てみたいと思うと、私の視界が増える。

 今自分の目で見てる世界と、横になって煎餅を齧り子供達とテレビを見て過ごす人間の姿の二つの世界が見える。

 だが、世界は二つに留まらず、見える世界が次々と増え始める。スーパーに自転車で向かうおばさん、車を洗車する男、公園で遊ぶ子供達……

 脳裏に次々と色んな光景が浮かぶ。まるで、複数のテレビで一度に沢山の番組を見ているかのようだった。

 

 そして最後に映ったのは、一度に与えられる情報が処理出来ずに混乱して、苦しむ自分の顔。

 誰が私を見ているのだろうと、苦しみを堪えて前を見ると、目の前には一つの眼球がたゆたい、その眼が私をじっと見ていたのだ。

 私はその瞬間に全てを把握したのだ。この眼球は私の魔法であり、この眼球が見た物が私に映像として送られてくると云う事を……

 

 だからつまり……

 

「あの悪魔どもは……やった事を忘れて、本当に幸せそうに生きてるよね?」

 

 私は人間の愚かさを、膨張する殺意を知った。

 

「心が汚れている人間は、苦しんで死んでしまった方が良いよね?」

 

 私の手には召喚された拳銃。

 気付けば……復讐と銘打った血祭りに興じていた……

 子供も大人も関係無い、拳銃を手に持つ私の姿を見て謝る人間も、刃向かう人間も……

 

 全て……全て……平等に復讐をする……

 当然、隠れる人間も居るが、私の能力の前には無謀。

 

 そして、全て終えた後には、全てが満たされるかと思ったが、どうも気分が浮かない。

 心にぽっかりと空いた穴がどうしても埋まらないのだ。

 何をしても御母さんや御父さんは、絶対に戻って来ない……誰も私を愛してくれないから……

 やり遂げても満たされず、行き場の無い感情に血溜まりの中で私は嗚咽した。

 

 けど、そんな中……先程のマミさんの姿が浮かぶ……

 

 彼女ならきっと私を愛してくれるだろうし……私も彼女を愛せるであろう……

 

 好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き……目に入れても可愛いくらい大好き。愛おしいほど大好き。食べたいほど大好き。

 あぁ、彼女は私の王子様なのだ……

 

 だけど、私は彼女への連絡手段を持っていない。

 だから、マミさんの居場所が分かるキュウべぇが現れるのを待つだけである。

 

 そして意外にも早くその機会が訪れ、数週間後に私の町にマミさんは再びやって来て、私はあの日一緒にケーキを食べた店に招待した。

 あの日に私が起こした住宅街大量殺人事件以来、まだ犯人がうろついていると言われてるこの町にやって来る人間はメッキリ減った所為か、あの日の様にケーキ屋さんには人が賑わっておらず、店の中には1人の従業員と私とマミさんだけの寂しい空間だった。

 

 私はマミさんに御礼と云う事で、ケーキと紅茶を御馳走して、私が起こした事を全て伏せた上であれからの事を色々と話す。

 最近、余所から来た魔法少女と争っているやら、大分戦闘に慣れた事、マミさんに憧れて武器をマスケット銃にした事。

 マミさんは、私が色々な事を話す度に嬉しそうにして、時折私の頭を撫でてくれたりする。

 

 やっぱり、マミさんは私を愛してくれる。

 そう分かると、私の心に空いてしまった穴が、再び埋まった。

 

 すっかり満たされてからは、時間の流れが速く感じられ、気付けば夕方の6時。

 最近見滝原市の方も、魔女が乱出したりと色々と大変らしく、また時間が出来たら来ると言って、マミさんは最後にそう言って私の頭をもう一度撫でて、私の頬にキスをしてくれてから帰った。

 

 その後は、私も色々と忙しく、争っていた魔法少女が魔女化して魔法少女の事実に気付き、私の住んでる町にも魔女がぽつぽつと出始めて、ジュエルシード狩りに精を出したり、使い魔を召喚したりと……

 

 そして最後に、マミさんの死をキュウべぇの口から告げられて、私はこの町を捨てて……

 

 杏子ちゃんに、ほむらちゃんに、まどかちゃんに、さやかちゃんに会って……

 沢山の優しい優しい友達が出来た……

 

 私は友達や愛に満たされたのだ……

 

 

 

 

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