ペルソナアフターパラレル   作:erupon

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※原作後・大学生設定の二次創作です。
※pixiv掲載作品を、ハーメルン掲載にあたり一部改稿しています。


疾風の魔術師
000.疾風の魔術師


 その日、俺、こと花村陽介が目を覚ました時にはすでに、部屋のカーテンは開いていた。

 昨夜の深夜0時に同衾する相棒から誕生日おめでとう、と囁かれ、夜遅くまで肌を重ねていた記憶は、確かに幸せと熱の余韻だけを残しているけれど、横を見れば、隣で寝ているはずの銀灰色の美しい髪色を持つ相棒の姿はなかった。

「あれ?悠?」

 俺が寝ぼけたまま呟けば、部屋のドアが開いて隙間から探していた銀灰色の髪と瞳が覗く。

「ああ、起こしたか。ごめん。」

 俺の唯一無二の相棒であり恋人である鳴上悠は済まなそうに言うと、カフェオレが入ったカップを載せたトレイを持って部屋へ入ってきた。「おはよう、陽介。」

「うん、おはよーございますー。」

 俺は寝ぼけ眼を擦りながら、体を起こす。

「とりあえずカフェオレ淹れたから飲んどけ。飲み終わる頃には朝飯出来てるからさ。」

「ん、ありがとう。」

 俺は悠から自分のマグカップを受け取ると、手を振った。

 その様子を見た悠は笑顔を浮かべ、部屋を出る。

 俺は、自分の手に包まれたマグカップに視線を落とした。「そういえば、今日はどっか出かける、って言ってたな。」

『そうなのか?』

 急に聞こえた声に寝ぼけていた俺の頭が急速に起き始め、周りを見回す。

「え、え?」

『おいおい、俺を忘れたってか?ひっでーな。』

 俺は、少し冷めたカフェオレを一気に煽ると、もう一度周りを見回した。

「……誰だ。」

『俺だよ、俺。』

 後ろから何者かに急に抱きしめられ、俺は固まる。

 俺の体の前に回されたその腕は、懐かしい八十神高校の学ラン姿だった。『我は汝。汝は、我。』

 聞き間違えようのない声色で、耳元でそれは囁く。

「スサ、ノオ?」

 俺のの問いに、後ろから抱きしめていた人物がフフ、と笑った。

『やっと思い出してくれた。』

「陽介、そろそろ起きないと、」

 ガチャリ、と扉が開いて悠が寝室へと入ってくる。「えっ?」

『よう、鳴上。久しぶりだな。』

 悠は、俺を後ろから抱きしめている存在を凝視していた。

「陽介、後ろ、……?」

 悠の問いに、俺は困ったような顔をする。

「うん、なんというか、俺もびっくりしてる。」

『やっと出てこれたんだからさ、もうちょっと嬉しがってくれよー?』

 スサノオは嬉しそうな声色で俺達に言った。

「あー、まあ。朝飯、食う?」

 悠は観念したように苦笑いを浮かべ、改めて俺達に声を掛けた。

 

◇◇◇

 

『あ、俺モノ食えないから。気にせず食ってくれ。』

 スサノオは花村の予想通り、八十神高校の制服姿だった。

 彼は現在、リビングのソファでゴロゴロしながら、花村が買ってきた雑誌を眺めている。 

 花村は微妙な顔をしながら、鳴上は興味津津、といった風情で朝食を食べていた。 

「でさ、スサノオ。」

 花村はベーコンエッグをつつきながら、自分の後ろにあるソファにいるスサノオに声を掛けた。

『ん?何?』

「どうして出てきた?というか、どうやって?」

 陽介の問いに、スサノオは首をかしげる。

『何というか、急に出れそうな気がしたから、出てみたら出れた、みたいな。』

「それは、」

 鳴上はチラッとスサノオを見て、味噌汁をすする。「クマと同じパターン、ってやつ?」

「ああ、そういやそういうのもあったな。」

 花村は肯定し、ご飯を掻き込んだ。「確か『外へ出るという発想がなかった』、だっけか。」

『それ、結構近いかも。』

 スサノオは言い、起き上がってソファの上であぐらをかく。『俺、テレビの中以外では陽介から出られないと思っていたから。』

「しかし、疑問は残るな。」

 鳴上は食事を終えて箸を置くと、スサノオを見た。「どうして、今なんだ?」

『多分、だけど。』

 スサノオは首にかけたヘッドホンをいじりながら答える。『二十歳になったから、じゃね?』

 その言葉に、花村は壁にかかった時計を見た。液晶画面には『6月22日』とデジタル表示されている。

「んー、確かにそうなんだけどさ、」

 花村も食事を終えて箸を置き、頭を掻いた。「もしかして、他のメンバーもこうなるってこと?」

『それは、他の奴らが出る気があれば、って話だと思うけどなあ?』

 スサノオは肩をすくめた。『俺は、陽介達が普段どういう場所で生活してんのか興味があったし。』

「そういうもんかね。」

 鳴上は花村の声を後ろで聞きながら、食事を終えた後の皿を片付け台所へ向かい、改めてコーヒーを淹れはじめる。

 花村は、ソファですっかりくつろいでいるスサノオをため息混じりに振り返った。

『そうだ、鳴上。』

 鳴上はその声に手を止め、スサノオを見る。『今日はどっか出かけんの?』

「え、ああ、そのつもりだ。」

 鳴上は、苦笑いを浮かべて答えた。「だが、お前が出てきてるんじゃ、……。」

『俺のことで心配だ、っていうなら多分大丈夫。』

 スサノオはニヤッと笑う。『他の人間には分かんないから。あ、もちろん俺はお前らと一緒に行くからな?』

「ですよねー……。」

 花村は、盛大に溜息をついた。

 

 三年前の八十稲羽で起きた連続殺人事件と世界の危機を救った俺と陽介は、俺が告白する形で恋人同士になっていた。

 その関係は俺が八十稲羽を去った後も続き、お互い東京にある大学へ通う今でもルームシェアという形で同棲している。

 バイトや違う大学でのスケジュールなどで陽介と時間が合わない日もあったが、今日だけは、と打ち合わせて日曜ながらバイト休みを勝ち取ったのだ。

 俺も常日頃から陽介の運の悪さは分かっていて、色々と対策を練っていたつもりだった。が、予想の斜め上を行くこの状況を、些か持て余していたのかも知れない。

『なあ、鳴上?』

 陽介を挟んだ向こうから、スサノオが声をかけてくる。

 驚いたことに、確かに俺達以外の人間は、スサノオを触ることはおろか、知覚さえできないらしかった。

 さっきから何度もスサノオの体を行き交う通行人がすり抜けて行く。

「何だ?」

 俺が聞けば、スサノオは金色の瞳をキラキラさせながら俺の方を向いた。

『今日は何処に行くのかなー、と思ってさ。都会って、色々あって結構楽しいな!』

「言ったらつまんないだろ?」

 陽介が、なだめるように呟く。「着いてからの、お楽しみだよ。」

 な、悠?と済まなそうに言う陽介に、俺はただ頷き返すことしか出来なかった。

 

◇◇◇

 

 目的地は、雑誌にも掲載され予約も滅多に取れないほどの大人気となっている、ハワイアンパンケーキの店だった。

 行列している女性たちの視線を痛いぐらい感じつつ鳴上が予約した旨を告げると、奥の四人座れる丸いテーブルに案内される。

 二人はメニューに掲載されているカラフルに彩られたパンケーキの写真からそれぞれ選び、コーヒーとともに注文した。

「ここ、大人気の店なのに予約するのも大変だったろ?」

 花村が周りで供されているパンケーキを見て、キラキラした笑顔で鳴上を見る。

「陽介が以前雑誌を見てて凄い食いついてたろ?だから、ちょっと頑張ってみた。」

 すました顔で鳴上は言うが、この日この席を予約するために桐条グループの中枢に食い込んでいる自分の両親にさえ頭を下げ、使えるコネを使いまくったかいがあった、と心の中でガッツポーズをとっていた。

「マジで? ほんとにありがとな!」

『陽介は本当に甘いもの大好きだもんな?』

 スサノオがからかうも、花村はなんとでも言えとばかりにその背後から華を振りまく勢いの笑顔を見せる。

 その様子を、鳴上は幸せそうに眺めていた。

 不意に、店員の1人が鳴上に近づき頭を下げる。

「鳴上様、お荷物が届いております。」 

 店員が、赤い大きめの箱と、ペンケースほどの大きさの青い箱を鳴上に手渡す。

 二つとも、綺麗にリボンが結ばれていた。

「ありがとう。」

 鳴上はそれを受け取り、青い箱を陽介の前に置く。「誕生日おめでとう、陽介。気に入ってくれるか分からないけど、使ってくれるとうれしい。」

「悠、ありがとう!」

 花村は満面の笑みで青い箱を受け取った。「開けていい?」

「いいよ、と言いたいところだけど。そろそろパンケーキが来る頃合いじゃないかな?」

 鳴上が赤い箱を空いている席に置き、店の厨房へと視線を向けた。

 視線の先には、パンケーキを持った店員が近づいて来ている。

『ふうん、中々いいんじゃないの?』

 スサノオは、ニコニコしながらパンケーキを待つ二人をニヤニヤしながら眺めていた。

 

「いやあ、美味かったなあ、あのフワフワパンケーキ!」

 ハワイアンパンケーキの店を出た後もニコニコしながら花村は鳴上を見た。

 鳴上は赤い箱を大事そうに抱え、花村のボディバッグの中には青い箱が大事にしまわれている。

「本当なら酒も飲める年齢だしディナーも考えたんだけど、俺がまだ付き合えないからさ。」

「じゃ、悠の誕生日は旨い酒が飲める店で乾杯だな!」

 花村が任せとけ、と言わんばかりにグッとサムアップすれば、鳴上は嬉しそうに笑った。

『……あ。』

 スサノオが、何かに気付き金色の瞳を見開く。

「うわっ」

 花村が、急に眉を顰めてふらついた。

「陽介!」

 鳴上が花村を抱きとめる。「大丈夫か?」

 次の瞬間、数百メートル先のビルからジリリリリリ、と警報が聞こえた。

 周りの通行人も足を止め、警報が鳴った方を見る。

 何人かの男が銀行から袋を抱え、止めてあった白い車に載せているのが遠目に見えた。

『悪いな、情報共有させてもらった。』

 スサノオがフワリと浮かんだ。その体に、見覚えのある風属性の証である翡翠色の光を纏う。

「いきなり何を、お前!」

 花村がスサノオに叫ぶ。

 その言葉に、鳴上が銀灰色の瞳を見開きスサノオを見た。

『で、今銀行を襲った連中がこっちに来るんだけど?』

「あっ、そうだった!」

『俺を使え、陽介。』

 花村は背負っていたボディバッグを鳴上に渡す。

「悠、ちょっと荷物頼むわ。」

「よ、陽介?まさか、」

『それでいい。準備はいいか?』

「もちろん」

 花村は口元に笑みを浮かべ、しかし視線はまっすぐに銀行の前から急発進した白い車を捉える。

 歩道のフェンスから車道に体を半分のり出すと、ターゲットに向かって右手を振りかざした。

『ガルーラ!』

 次の瞬間、白い車の下から強烈な旋風が湧き上がった。

 周りの通行人が突然湧いた突風に顔をしかめ声を上げる中、白い車自体が旋風に煽られひっくり返る。

 白い車は大きな音と共にそのまま動きを停止した。

 パトカーのサイレンが徐々に大きく聞こえていたから、程なく白い車の周りを囲むように警察車両が到着するはずだ。

「ちょ!お前威力強すぎ!」

 花村は振り返り、スサノオを睨んだ。

『何言ってんだ、イメージ通りだったろ?』

 事も無げにスサノオは言い、鳴上の隣に音もなく着地する。『悪かったな、鳴上。』

「あ、いや、……。」

 鳴上は目の前で見たことを反芻し、なお且つ起こったことに対しただ驚くだけだった。「なあ、スサノオ、」

『質問なら帰ってからな。』

 花村が鳴上の元へ走ってきた。

「面倒なことになる前にこの場から離れよう。」

 花村が鳴上からボディバッグを受け取りながら提案する。

 鳴上は頷くと、二人と一人はその場を離れるべく駅へと移動を開始した。

 

◇◇◇

 

 夕食を自宅近くのフレンチレストランで済ませ、俺達が自宅に戻った時には夜八時を回っていた。

 なんだか疲れた、と陽介が言っていたから急ぎ風呂を沸かし、先に入浴してもらう。

 現在リビングには俺とスサノオだけだ。

『さて鳴上、何が聞きたいんだ?』

 アイツが、金色の瞳を俺に向けている。俺は、昼間に聞きたかったことを口にした。

「テレビの中でなくても、スキルは使えるのか?」

『その時ペルソナがいれば。ガルーラの威力は見たろ?』

 アイツがドヤ顔で俺を見る。

「アレはやり過ぎだ。」

 俺が軽く睨めば、アイツはハハ、と笑った。

『陽介が『テレビの中でシャドウと戦う時のイメージ』でスキルを使ったからな。』

「イメージ?」

『そこは練習してもらわねーと。』

 アイツは肩をすくめる。『俺達がスキルをコントロールする訳じゃない。』

「それは、どういう、」

 俺は更に問いを続けようとした。

 

「いやー、待たせちまったなっ」

 いいお湯だった、と言いながら花村がリビングに入ってきた。

 Tシャツにスエットのズボンという姿に着替えていたが、髪はまだ濡れていて、バスタオルで包みながら拭いている。

 スサノオがあぐらをかいているソファの上から花村を見、鳴上は一つため息とともに立ち上がった。

「陽介、ビールでも出そうか?」

「ビールもいいけど、せっかくならお前と飲みたいし今日はやめとく。ウィルキンソンないっけ?」

「ちょっと待ってろ、すぐに出す。」

 鳴上が台所へと向かうと、花村はスサノオを見た。

「何を話してた?」

『鳴上は、陽介がガルーラを使ったことに驚いたらしい。』

「俺もびっくりだわ。」

 花村がバスタオルを首から掛けると、スサノオの隣に座る。「なんつー誕生日になってんだ、俺。」

『まあいいじゃねーの。』

 スサノオは笑って花村を見た。『必要なときにはいつでも呼んでくれよ。役に立つぜ?』

「いつでも、ねえ。」

 花村は苦笑いとともに、自分の両手をマジマジと見る。

『コレは俺からの成人祝いってことで。』

 スサノオはポン、と花村の肩を叩いた。『ま、今晩『も』がんばれよ?』

「え?って、お、おいっ!」

 花村が意味を理解し、顔をパッと赤くする。

『じゃあ、そろそろ行くわ。色々できるからさ、便利に使ってくれ。』

 鳴上が、氷を入れたグラスとウィルキンソンジンジャーエールを載せたトレイを持ってリビングに戻ってきた。

 一方、スサノオはソファから降りて立ち上がり、一度伸びをする。

「スサノオ」

 鳴上が声を掛けると、スサノオはニッと笑った。

『鳴上、今日は邪魔して悪かったな。また会おうぜ。』 

 スサノオの体が翡翠色の光に包まれ、立ち消える。

 鳴上はふう、と息を吐くとテーブルにトレイを置いた。

「台風のように引っ掻き回して行ったな、アイツ。」

 花村が、顔を赤くしながら鳴上に頭を下げる。「こんな事になるなんて思わなかったよ。ゴメンな。」

「いや、陽介が謝るところじゃないだろう?」

 鳴上はグラスにジンジャーエールを注ぐと花村の前に置く。「俺も混乱してるんだ、今日のことは。」

「でも使えちゃったんだよな、スキルが。」

 花村はハア、と息を漏らす。「アイツ、成人祝いとか言ってやがったけど、どうしよう、コレ。」

「まあ、とりあえず落ち着こう。」

 鳴上は自分に言い聞かせるように言い、花村は冷たいジンジャーエールに口をつけた。「ところで、陽介?」

「うん?」

「なんで顔赤いんだ?今日ふらついたりしていたけど、体調とかおかしいところは無いか?」

 鳴上の問いに、花村は目を閉じあの時の事を思い返す。

「あの時、俺が見ていた風景と明らかに違う画像が直接頭の中に飛び込んできてさ。そこでは、白い車と銀行の様子が大きく映し出されていて、俺、その白い車に、……。」

 そこで、花村はある事に思い当たり顔を更に赤らめると、バスタオルで顔を隠した。

 鳴上は、訝しげに花村を見る。

「何だよ?」

「いや、ほら、ダンジョン攻略してたときにもあったけど、さ。」

 ペルソナ使った後ってほら、落ち着かねーっつうか収まりがつかねーっつうか、と消え入りそうな声で告白する花村に、鳴上はホッとしたように笑みを浮かべる。

「陽介、そんなの俺だって知ってるよ。」

 鳴上は花村の隣に座ると、バスタオルを取り上げた。

「え、あ、その、あのー、」

 シドロモドロになる恋人に、鳴上は小首を傾げて笑いかけ、そのままソファに押し倒した。

 気になることは幾つかあれど、今は頭の隅に追いやっておこう、と鳴上は決める。

 

「改めて陽介、二十歳の誕生日おめでとう」

「あ、ありが、とう」

 鳴上は恋人にしたこの男の鼻をちょん、とつつくとソファから立つ。

「続きは寝室で。」

 手を振りリビングを出る鳴上を見送り、花村は耳まで赤くなった顔を隠すようにタオルを被ってソファに突っ伏した。

 

 

 

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は静かな?日常編でしたが、この先では少しずつ別の顔を見せていく予定です。
よろしければ、続きをお待ちください。
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