※モブ厳マンです。
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
今回は『アーカムの魔女』と次回『赤いサロン』の間のインターミッションです。
ちょっとだけ暴力表現(痛そうな表現)がありますが、気楽に読んでいただけると幸いです。
pixivではまえがきめちゃくちゃ書いていますが、こっちでは少なめですよろしくお願いします。
010.インターミッション1
日付:8月某日
鳴上悠と花村陽介と白鐘直斗、そして久慈川りせは東京ドーム一階上段のボックスシートに居た。
眼下では、プロ野球の試合では『伝統の一戦』とも称される巨人と阪神が試合中である。
夏休みも終盤に差し掛かったこの時期は、特に両チームのファンが熱く声援を送っていた。
「先輩が野球観戦が好きだなんて知らなかった!」
りせがきゃっきゃ言いながら鳴上の右腕をとる。
「ここなら、ちょっとぐらいはしゃいでも大丈夫だよねっ。」
「確かにこのボックスは貸しきりましたけどね。」
苦笑いをしながら直斗は自席のドリンクホルダーから烏龍茶が入った紙コップを手にした。
「りせー、あんまりやりすぎんなよ、何処で撮られてるか分かんねーぞー?」
花村がやれやれ、といった風情で声をかければ、りせは振り返ってべーっと舌を出した。
「花村先輩はいつも悠先輩と一緒なんだから、いいじゃん!」
「はいはい、そうですねー。」
花村はビールに口をつけ、肩をすくめる。
「悠、何飲む?」
「や、烏龍茶でいいよ。」
鳴上は笑顔で花村に言った。
「野球も盛り上がってるし、酔っ払って見逃すのも勿体無い。」
「せんぱーい、もうお酒飲めるのに勿体なーい!」
りせの言葉に、鳴上はりせの頭を軽く撫でた。
「今も充分楽しいよ、りせ。」
「んもー、先輩が楽しいならいいけど?」
直斗は花村と顔を見合わせ、笑う。
鳴上の足元には昼に銀座で買い物した三人からのプレゼントが置かれていた。
前日には、八十稲羽に残っているメンバーから誕生日プレゼントが宅配されてきている。
その量の多さにリビングが散らかり放題だ。
因みに、野球観戦を言い出したのは鳴上である。
誕生日当日に何処に行きたいかとメールがりせから来た時、少し考えて東京ドームで野球観戦、と返したのだ。
ボックスシートであれば他のグループと隔離されるし、りせが多少騒いだところで野球の応援でかき消されるからいいだろう、と鳴上が花村に言った所、花村は即座に直斗とりせに連絡を取り、一番取りづらい巨人阪神戦だったのにも関わらずりせと直斗の人脈をフル動員した結果、ボックスシートの1スペースを確保することに成功した。
現在試合は二回裏、巨人が攻撃中である。
少々周りが騒がしいが目立たないしまあいいか、と思いつつ花村は、ドリンクを買いに席を立った。
「そういえば、先輩たちと直斗、どうして右手の中指にリングしてるの?」
りせが、鳴上と直斗を見て首を傾げる。
「まあ、色々と事情があって、外れなくなりまして。」
苦笑いと共に直斗が言えば、りせがあからさまに不満な顔になった。
「いいなあ、私もそれ欲しいー!」
「いや、その、それは……。」
直斗と鳴上は苦笑いを浮かべる。
現実世界でペルソナが出せないりせに、また起こるかもしれない魔女との戦いは極めて危険だろう。
りせには悪いが、先日の話は言うわけにはいかないし、ペルソナを見られるわけにもいかない、というのが昨晩三人が話し合った末の結論だった。
「悠、烏龍茶買ってきたぞー?」
花村が大きめの紙カップを二つ持って戻ってくる。
「ついでにキャラメルポップコーン買ってきたけど、りせどうよ?」
「食べる!」
りせがポップコーンが入った紙カップを受け取ると、2,3個口にポップコーンを放り込んだ。「うん、美味しい。」
花村は知らん顔で着席する。
ちら、と直斗を見れば、明らかにホッとした顔になっていた。
◇◇◇
『陽介達、ほんとにあんなにうるさいところで楽しいのかな?』
東京ドームの屋根の上で、スサノオが寝転んでいる。
『俺は楽しいけど。』
隣でやはり寛ぐように座っているイザナギが下から聞こえる歓声をバックに夜空を見上げた。
『僕も楽しいよ? いろんな人がいるもんね!』
ヤマトタケルもニコニコしながらドームの屋根の上でピョンピョン跳ねる。『探偵は人間観察が大事って直斗が言ってたよ!』
『へえ、探偵ってのも面倒なんだなあ。』
スサノオはよいしょ、と起き上がった。『そだ、お前の主、今日誕生日なんだろ?おめでとさん?』
スサノオが首を傾げれば、イザナギはにこ、と笑ってスサノオの頭を撫でた。
『ありがとう?』
スサノオの顔が、ポン、と赤くなる。
『イザナギ、どうしてそこで疑問形?』
『さあ?』
イザナギは肩をすくめた。その後ろから、ヤマトタケルが抱きついてくる。
『ずーるーいー!僕も頭撫でられたいよー!』
イザナギはバランスを崩しかけながらもヤマトタケルがかぶる帽子の上から優しく撫でた。『やったね!えっと、お誕生日おめでとう!』
『ありがとう、ヤマトタケル?』
『だから何故疑問形?』
『さあ?』
◇◇◇
乾いた空気に、抜けるような青空。
茶色の地面に直に座って所々に浮かんでいた雲を眺めていた南原は、肩を軽く回した。ゴキ、といい音がして少しだけ楽になる。
すっかり硝煙の匂いが染み付いたシャツで汗を拭うと、はあ、と一つ息を吐いた。
「やっぱアフリカってば、あっついねー!」
その声に振り返れば、モスグリーンのタンクトップにやはりモスグリーンの上着を肩がけにし、迷彩模様のズボンにブーツを履いた女性がニヤニヤしながら立っている。
胸元には、ブルークリスタルのペンダントが光っていた。
「主s、……ミスブルー。」
「いい加減こっちでの名前に慣れてよ、ミスターN。」
ミスブルーは細かい穴が開いたグローブで南原の頭をポンポン、と軽く叩く。
「癖は中々抜けませんよ、ミスブルー。」
南原は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
ここはアフリカ、ナイジェリア。
某過激派組織の拠点を強襲、掃討する作戦に参加する傭兵部隊の拠点である。
8月になるまではどちらかといえば地の利を活かしたゲリラ戦により過激派組織の方が正規軍より優勢であった。しかし、8月になりミスブルーとミスターNと名乗る傭兵が正規軍に参画したところで情勢が一変する。
ミスブルーは栗色の長髪をもつスタイル抜群の美女、ミスターNは高校生ぐらいにも見える美少年という戦場には似つかわしくない風貌だった。
正規軍の中でもこの二人は大丈夫か、という議論がなされていた。
しかし、初陣となったゲリラ組織の防衛ラインの寸断作戦において2人が持っていたのは『自前の』M134ガトリングミニガン。
『誰も支給していない』重さ30キロを超えるそれを軽々と使いこなし、過激派組織の防衛ラインを二人だけでボロボロにしていく。
その時の過激派組織の主力武器が迫撃砲とカラシニコフ系軍用小銃だったことを考えると、数の差はあれど、もはや圧倒的な戦力差であった。
散り散りに逃げた残党も正規軍に駆逐され、初めて正規軍が完全勝利を収めた戦闘となる。
それ以降も、二人の圧倒的な火力と隠密行動による拠点制圧により過激派組織は防衛ラインを後退させ、誘拐した女性達を奪われ今やその勢いを大きく失っていた。
「ところでミスブルー、確認したいことがあるのですが。」
南原が、自分の主であるミスブルーを見上げる。
「そのペンダント、使い心地はいかがですか?」
南原の問いに、ミスブルーと名乗る魔女は自分の胸元を見た。
「この過酷な環境の中で問題なく使えてるし合格ね。初めてアーティファクトを作った割に、上手く出来てるじゃない。」
「それなら良かった。」
南原はほっと胸を撫で下ろす。
「魔力チャージャー兼荷物入れ。持ってきたミニガンとM5906、弾薬も全部問題なく出し入れできてるし、当然荷物検査にも引っかからないし、重いものを入れても重くないし。魔力は結構いっぱい貯められるんだっけ?」
「はい。魔力が貯まるほど、多くの荷物を入れられます。荷物の総量は大きさ、重さに関係なく魔力総量により、です。」
「うん、問題ないね。」
でさー、話変わるけどミニガンの弾薬を支給しろって言ったら高いから少ししか買えないとかしみったれてんじゃんねー?とミスブルーが愚痴を言い始める。
南原はそれを聞き流しながら、澄み切った青空を再び見上げた。
空気は汚いしこんなに青い空は見えないけれど、東京は住み心地良かったな、とふと思う。
南原は、東京にあるあの図書館のあの席にそろそろ帰りたいなあ、と思い始めていた。
◇◇◇
「いっやー、野球観戦なんて初めてだったけど、今日の席だったらいいかもな?」
球場で軽くビールを飲み、上機嫌になった花村が鳴上に問いかける。
鳴上と花村が帰宅したのは、22時を少し回った頃だった。
花村がリビングのソファに置いてある鳴上へのプレゼントをどけて座ると、鳴上が台所から赤い包みを持ってくる。
それは、花村の誕生日に訪れたパンケーキカフェで、鳴上が受け取った荷物のうちの1つだった。
「遂にこれを開ける時が来たな。」
「おお、気になってたんだソレ。」
花村がソファから身を乗り出す。「中身は何だ?」
「実はこれ、父さんが寄越したものなんだよ。」
苦笑いと共に鳴上は花村に零した。
「え?悠の親父さんが?」
鳴上が包み紙を丁寧にはがしていく。
中から出てきたのは1枚のカードとシングルモルトウィスキー余市20年だった。
『誕生日おめでとう。やっと酒が飲める歳になったな。共に飲めないのは申し訳ないと思うが、友人達とやってくれ。』
「20年、か。」
困惑の色を浮かべた表情で、鳴上は丁寧に書かれた手書きのメッセージを見つめる。
鳴上の様子を見た花村は、後ろから鳴上の頭を軽く叩いた。
「親父さんからのプレゼントだろ?ちゃんと受け取れって。」
努めて明るい口調で花村は言うと、ソファから立って台所へ足を向ける。「折角だし、開けようぜ?」
花村は戸棚を開け、慣れた手つきでグラス2つ取った。
「あ、ああ。」
鳴上は今の気持ちに半ば困惑しながら、テーブルの上に置いたウィスキーに視線を落とす。「今更……。」
グラスに氷が当たるカランカラン、という音を聞きながら、気持ちを持て余していた鳴上は、ふう、と一つ溜息をついた。
◇◇◇
日付:8月31日日曜日
もう、だめかもしれない。
男はそう思った。妻もすっかり老けこんでしまい、毎晩悪夢を見る。
悪夢は、確実に自分の心を、自分の中の、人としての正気を蝕んでいる、気がする。
おかしい、何故こんなことになった?
何故?俺は、おれは、……。
おれは、娘に、何かを残してやりたい。東京にいる、娘のために。
震える手で、スマートフォンのメール送信画面を開いた。
何かを伝えなければ。
何を、伝える?
悪夢をみること、妻が老けこんでいくことを。助けてくれ、もう、もう、
ダメカモシレナイ。
その時。
背中に、激しい痛みを感じて男はその場にうつ伏せにもんどり打って倒れた。
倒れた上に何かが乱暴に乗り、激痛に呻く。
落としたスマートフォンに何とか手を伸ばし、震える手でメールの送信ボタンを押した。 押したはず。
余りの激痛に、意識が朦朧としている。
男は、最後の力を振り絞って後ろを振り返った。
見えたのは、自分に馬乗りになりまるで化物を見ているかのような目で自分を見下ろしている妻と、妻が自分に向け振り下ろす瞬間の包丁の切っ先だった。
暗転。
インターミッション1:終わり
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
話と話の間のインターミッション(幕間回)でした。
次回からは新しいエピソード「赤いサロン」です。
よろしくお願いいたします。