息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:9月18日木曜日
夕方5時近くになり、日もかなり傾いてきている。
近くのビルに反射した光を背に受けながら、一人の大柄な男がミシンでは繕えない繊細なオーガンジーのドレープをドレスに縫い止める作業をしていた。
「粗方出来たかな、こっちも」
新宿にある服飾専門学校に数ある実習個室の一室で、巽完二はドレスを持ち上げあくびを1つ零す。
周囲を見回せば、部屋にある幾つかのトルソーには美しく飾られたワンピースやブラウス、スカートが掛けられている。
今この部屋にある服はデザイン科二年に在籍している荒井から依頼され、全て巽が縫い上げたものだ。
これらの服は、来月一日からシンガポールで開催される『クールジャパンフェスタ』で開催されるファッションショーにて披露される予定のものである。
デザインは荒井がしたものの、自分が仕上げた服を晴れ舞台でモデルが着て華やかに披露されるとなれば、気合も入る。
実際、裁縫技術科の講師からもお墨付きがでるほどの美しい出来栄えであり、現在在籍している服飾基礎科が修了した後は裁縫技術科に進学しないか、と真剣に誘われたことも記憶に新しい。
部屋に掛かった時計が、五時を知らせるチャイムを鳴らす。巽は時計を見て息をついた。
急に、携帯電話が音声着信を知らせる。巽は携帯電話を開き、通話ボタンを押した。
『あ、巽君かい? 荒井だけど』
声の主は、巽を縫製作業者として指名した荒井だった。
「荒井先輩、お疲れさまッス。どうしたんですか? なんか公衆電話から?」
『ああ、ちょっとスマホの電源が切れててね。今、学校?』
「はい、粗方作業も終わったので、明日から先輩にチェックしてもらいたいと」
『巽君は、これからまだ暇あるかな?』
「まあ、この作業が終わるまでは基本予定も入れてないです」
『そうか、じゃあ、悪いけどそのまま学校に残ってて。十五分ちょっとでそっちに行けるから、お願いした服の状態をチェックしたいんだ』
「分かりました、じゃ、待ってます」
『なるべく早く着くよう僕も急ぐから。悪いけど、宜しく』
通話が切れる。巽は頭を掻くと、縫いあがったばかりのドレスをトルソーに掛けた。
黄色のシルクの光沢と、黒く染めたレースに付けられたビジューの輝きが美しいコントラストを醸し出している。
「こういうデザインができる先輩はすげえな……。俺もしっかり勉強しねえと」
巽は実習個室を出ると、鍵をかけた。「先輩急いでるっぽかったな、お茶でも買っとくか」
◇◇◇
鳴上雅也は、西武新宿駅の前でタクシーを降りた。
端末が音声通話着信を知らせ、鳴上は懐から出すと通話ボタンを押す。
「鳴上ですが」
『高野です。『猟犬』が品川プリンスホテルに到着しました』
「二時間後に交代要員が到着するから、そのまま監視続行で。応援が必要なら別途部長に依頼をお願いしてもいいので、ロストだけはしないように」
『了解です。監視任務続行します』
通話終了ボタンを押すと、ふむ、と鳴上は呟いた。
再び端末が音声通話着信を知らせ、鳴上は通話ボタンを押す。
「鳴上です」
『辻村です。CLUB緋色跡地に第2総務部部長他3名が』
「監視続行で。何か持って出て来るようなら後でつついてみるから。目を離しちゃだめだよ」
『了解しました』
通話終了ボタンを押すと、はあ、と鳴上は息を吐いた。
「CLUB緋色の件はもう面倒だから最後まで兄貴と悠達に任せとけばいいや。それより問題は、『FSBの猟犬』どもと、『膨らんだ女』連中だな」
鳴上は新宿歌舞伎町に立つペンシルビル群の中の一つの地下に降りていく。
階段を降りた先には、スポットライトに照らされた木でできた扉があるだけの空間があった。
鳴上は、その扉を躊躇なく開ける。
「……いらっしゃい」
薄暗いそこは、バーカウンターのみのショットバーだった。
カウンターの中では、グラスを磨く初老の男が1人立つのみだ。
「ゴールデン・ドリームとチーズナッツ」
鳴上が奥から三つ目の席に座り、注文する。
「……今日はどのような御用で?」
男は冷蔵庫からオレンジを出すと半分に切って絞るとシェーカーに入れた。
「『膨らんだ女』が最近騒がしいようだが?」
男はガリアーノ、コアントロー、生クリームを正確に計ってシェーカーに入れ、そのままシェークする。
冷やしたグラスを出すと、シェーカーの中身をカクテルグラスに注ぎ、鳴上の前に置いた。
「ロシアから、何かを持ってきたようだね」
男は冷蔵庫からチーズとミックスナッツが載せられた皿を出すと、鳴上の前に出す。
「内容は?」
「……魔道書、という噂がある。真偽は不明、だがね」
初老の男はまたグラスを拭き始めた。
「だから連中ははあんなに騒いで……」
鳴上は呟く。初老の男は、鳴上をジロリと見た。
「ただし、日本支部は配送だけ、らしい」
「配送先は?」
「シンガポール」
「なるほど」
「……お客さん、お代を」
男が呟く。
鳴上はカクテルグラスの中の白い液体を全て飲み干すと、財布から一万円札をカウンターに置いた。
「また来るよ」
鳴上はバーを後にした。
「まいどあり」
◇◇◇
服飾専門学校の実習個室の扉がノックされ、荒井が入ってきた。
道具類の片付けを進めていた巽は軽く会釈する。
「ごめんね、もう帰る予定だったんだろ?」
荒井は済まなそうにいいつつ、荷物を傍らに置いた。
いつも持っているボディバッグの他に、梱包された何かが大きなショッパーに入っているのが見える。
「俺は全然、……とりあえず仕上げてみたのでチェックをお願いします!」
巽は買っておいたペットボトルのお茶を差し出した。荒井は微笑んで、それを受け取る。
「縫製は見ただけで完璧だって分かるよ。寸法も見た感じオーダー通りだし、イメージもピッタリだ」
荒井は念のため、と言いつつトルソーに掛かった服を見て回り、頷いた。「ありがとう、巽くん。君に依頼して、本当に良かった」
「いや、先輩こそこういう色使いや布の使い方とか凄いです。今回は勉強になりました!」
巽は頭を下げる。荒井はペットボトルを開封し、お茶を口に含んだ。
「それでね、巽くん。提案があるんだ」
荒井は笑みを湛えながら、傍らのパイプ椅子に座る。巽も空いた丸椅子に座った。
「何スか?」
「巽くんにも、シンガポールに来て欲しいんだ」
荒井は微笑み首を傾げる。
「えっ、俺も?」
巽はポカン、とした顔をした。「シンガポールのファッションショーに出演するのは、先輩だけでしたよね?」
「確かにメインは僕だけど、スタッフもセットで二人まで一緒に渡航費用を出してくれるんだ。今回は本当に巽君にお世話になったし、君もこの服が披露される現場を直に見たいだろ?」
「た、確かに、そうッスね」
巽は視線をそらし、頬を軽く掻く。
「不測の事態が起こるかもしれないし、当日服の調整が必要になった時のためにも君に一緒に来て欲しいんだ」
荒井は巽に手を合わせた。「これまでもデザインなんかで我侭言い放題だったのに、こんなお願いをするのはおこがましいかもしれないけれど、頼むよ、巽君」
「分かりました、こうなったら最後まで付き合いますよ」
巽はニカッと笑う。「因みに英語とか全然ダメなんスけど、大丈夫ですかね?」
「元々は通訳枠だったんだ。英語は僕が通訳するから大丈夫」
「ああ、それなら平気ッスね」
巽はホッとしたように言った。
「それと」
荒井は大きなショッパーを指さす。
「この箱を、ショー当日にシンガポールにいる友人に渡したいんだ。もしかすると僕も忘れちゃうかもしれないし、巽君にも言っておくね。僕が渡せなくても、君が覚えていてくれれば渡せるだろ?」
「そう……ですね。分かりました」
巽が頷くのを見て、荒井はまた笑みを浮かべる。
「ありがとう、何から何まで世話になるなあ」
「いや、こちらこそ、タダでシンガポールに行けるなんて有りがたいです」
「じゃあ、この荷物は持っていくのを忘れないようここに置いておくから、服とデザイン指示書と一緒に梱包してね」
「分かりました」
巽はショッパーを服専用のスーツケースにしまいこんだ。
「さて、後は靴とアクセサリ、か。アクセサリーの進捗があまり良くないみたいだけど、まあ、最悪服が完璧なら大丈夫。本当に助かった」
荒井は、ペットボトルに口をつける。「……」
「うん? なんか言いました?」
「いや、何でもないよ」
巽がスーツケースを閉じながら、荒井へと振り返った。荒井は首を横に振る。
「じゃ、宜しくね、巽君」
インターミッション2:終わり
インターミッションという名前のエピソード間ブリッジ完了。
次回からは「南の大女と北の戦女」です。
テーマは「南の島だけどそれっぽくない!」です。
それではまた次回お会いしましょう。