ペルソナアフターパラレル   作:erupon

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※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
※物語に少しずつ不穏な要素が含まれます。

※pixivに掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※本文を読むとわかりますが、クトゥルフ神話成分がしみしみになってくるのでよろしくお願いいたします。





002.アーカムの魔女2

6月28日土曜日

 

 御茶ノ水駅からほど近い場所にキャンパスがあるM大のカフェテリア。

 花村陽介は買ってきた缶コーヒーを飲んでいた。

 二限の講義が終わり、テーブルの上にはテキストが積んである。窓のそばの席で、耳にはヘッドフォンを着けている。が、実は音は鳴っていない。

(スサノオ、)

『今、一人だな?』

 花村の呼びかけに対し、スサノオが念を押す。『情報量が多いかもしれない。目を閉じておいてくれ。』

 花村は、先日の情報共有の時のことを思い出した。

(じゃ、寝た振りでもしとくから、始めてくれ)

 花村は、テキストを枕にしてテーブルに臥せ、目を閉じた。

 

 もうすぐ日没、という頃合いのグラデーションがかかった空の下、スサノオは自分を呼んだ存在の確認のため、日本橋から銀座方面へ飛んでいた。

 街にはネオンと明かりが灯り、そこだけ昼間の如く明るくなっている。

『白鐘に情報を流したのは、お前か。』

 その『人物』は、銀座松屋の時計塔の上に居た。短く切りそろえた黒髪に碧眼の美少年で、見た目の年齢はスサノオと同じくらい。普通の学ラン姿で、時計塔の上から交差点を見下ろしている。

「僕は、君が見えていた。」

 少年が、口を開いた。「君も、僕が見えたから、ここに来たんだろう?」

『で?何のためにこんなことを?』

「君は、自分の縄張りを荒らされたくないだろう?」

『ああん?』

「今月、アーカムから魔女が来た。魔女は、日本に持ち込まれた魔道書を奪うつもりらしい。」

 少年は、スサノオをちら、と見上げる。碧眼が街の明かりを映して光っていた。「魔道書は戦時中のどさくさで日本に持ち込まれてしまったのだけれど、アーカムの魔女どもが手にするのは避けたい。」

『そんなのお前らがやれよ。お陰で陽介も巻き込まれる。』

「僕は手出しはできない。僕にも君と同じく主がいるが、主が許さないんだ。」

 少年の残念そうな言葉に、スサノオはふん、と鼻をならした。

『ちなみに、その魔道書があいつらに渡るとどうなるんだ?』

「テロの手口に、邪神の召喚が追加されるだろうね。神が召喚されればどうなるか?」

『まー、世界滅亡だろうな。』

「そう。あの春の日、君たちが戦ったアレを虫けらのごとく潰す連中が召喚されるんだ。」

 少年は無表情のまま、街を眺めている。「主はまだ、恐らくこの世界の存続を願っている。彼らに滅亡の引き金を引かせるわけにはいかないよ。」

『あの時、お前らは陽介達が死にかけてるのを外野で観戦してたクチかよ。虫酸が走るな。』

 スサノオ自身から、怒りの感情が滲んだ。『アレで陽介達がどんな目にあったか……!』

「君たちがどれだけの苦難にさらされたかは、分かっているつもりだ。」

 少年は交差点へと視線を落とす。「そのおかげで今があることも、十分分かっている。」

『ふうん、だったら、』

「だから、君達が持つ力も分かっている。」

 スサノオはジロリと少年を見た。

『お前ら、陽介を巻き込むために情報を流しやがったな?』

「君たちの中で、現在魔女に対抗できるのは花村陽介とスサノオ、君達だけだ。」

『俺は、お前らの手の上で踊る気はない。』

 スサノオは少年から視線を外す。

「君たちがやらなければ世界が滅びるかもしれない、だけだね。」

 残念そうな少年の言葉に、スサノオは舌打ちをした。

『つまんねぇ。』

 スサノオは時計塔の時計を確認する。

 花村が白鐘探偵事務所に到着している頃あいだった。

「僕からも、主には進言してみるよ。もう少しどうにかできないか、とね。」

 少年は肩をすくめる。「あとの情報は、君の主から聞いてよ。」

『どうなってもしらねーからな!』

 スサノオは言い捨てると、時計台からフワリと離れた。そのまま銀座から新橋へ抜けるルートへ進路を向け飛び続ける。振り返って見れば、少年は少し体を動かして、スサノオが飛び去るのを見ていた。

 

 花村の目の前が暗くなる。

 情報共有、とは頭の中で、スサノオが見聞きしたことが映画のように映像と音声が流れる感じか、と花村は思いつつゆっくりと目を開けた。

(随分怪しいことになってるじゃねーか。)

『呼ばれなきゃ、無視したさ。』

 スサノオはややご機嫌斜めの様子だ。『俺は、陽介をこれに巻き込みたくない。奴らの手の上で踊らされているようで気分が悪い。』

(でも、直斗からの依頼も受けちまったからなあ。)

 花村は、息を一つ吐いた。(落ち着け、スサノオ。とりあえず重要な情報が幾つか混じってたから整理したい。)

『そうだな。陽介が依頼されている分の練習もしねえといけないしな。』

(どういう意味だ?)

 スサノオがカラカラと笑った。

『それは後の、お楽しみってことで。』

(お楽しみってなんだよそれ。)

 花村は再度目をとじる。(少なくとも悠と直斗は現実世界でペルソナが出せない。戦闘になったら、使えるのは俺だけ、か。確かにスキルを使うのも久々だし、練習しねえと危ねえか。)

 嫌な感じがして、花村は眉を顰めつつ缶コーヒーに口をつけた。

「俺がしっかりしねえとな。」

「何をしっかりするの?」

 ぶっ、と花村は缶コーヒーを吹き出しそうになる。

 ゲホゲホ、とむせる花村を見て、女性はポケットティッシュを差し出した。

「ちょ、おま、……凪嶋、急に話しかけんなよ。」

 花村はヘッドホンを外し、苦笑いをしながら凪嶋へ話しかける。

「ごめんごめん!」

 凪嶋はポケットティッシュで吹いたコーヒーを拭いている花村に手を合わせて謝る。「その代わり、お昼ごはんのお茶おごるから!」

「どうせ給茶機のアレだろうがよ……。」

 花村がはあ、とため息をつくと、凪嶋はあはは、と笑った。

「だって、花村君っていつもお弁当じゃん。しかもすっごい美味しそうな奴。」

「あ、……まあな。」

 今日も小さめのトートバッグに鳴上が作った弁当がしっかり入っている。

「おっ、凪嶋と花村か。今日は講義あったっけ?」

 立川が凪嶋と花村に声をかけた。立川の後ろから寺田もカフェテリアに入ってくる。

「よう、寺田と立川か。」

 凪嶋と寺田、立川は花村と同じ講義をとっていた。部活動にも入っておらず、大学構内ではなんとなく一緒に話したり移動したりしている。

「この時間だし、飯食って帰るだろ?どうせだったらみんなで食おうぜ。」

 寺田が指さした時計は、すでに十一時を回っていた。

「そうだな。花村、お前お茶でいい?」

「いいよ。」

「じゃ、席とっといてくれよ。俺ら買ってくるから。」

「おう、任せとけ。」

 花村が答えると、立川が寺田と凪嶋を伴ってカフェテリアに食事を買いに行く。

 花村はその後姿を見送りテキストなどを他の席に置きながら、一つため息をついた。「ま、がんばりますかね。」

 

◇◇◇

 

 本郷にあるT大弥生講堂前で鳴上が声を掛けたのは、図書館でよく顔を合わせる友人、南原だった。

「あれ、鳴上君。図書館以外で会うなんて、珍しいね。」

 僕が人文系で、鳴上君は工学系だから校舎も違うのに、と南原が笑う。

「南原、今日これからの講義は?」

 鳴上の問いに、南原は自分の手帳を開く。

「うん、一コマ休講になってたから午後はないね。お腹も減ったし、食堂行こうかな、なんて思ってた。」

「じゃ、一緒に飯食わないか?」

 鳴上の提案に、南原は一つ頷いた。

「いいよ。でも、こっちだと工学系の校舎から遠くない?」

「今日は午後からは授業とってないからいいんだ。」

「そう、ならいいけど。」

 南原と鳴上が並んで歩き始める。周囲の女子の視線が、在学中の男子では当代随一とも噂される美少年顔の南原とパーフェクトな容姿の鳴上の二人に自然と集まり始める。

「ちょっと聞きたいことがあって。」

「聞きたいこと?」

 鳴上の言葉に、南原は首を傾げる。

「考古学専攻のゼミに最近来た、交換留学生のこと、なんだけど?」

「えっと、ああ、アンジェリアさんのことかな?もしかして。」

 南原は苦笑いをする。「そうだな、」

 南原は少し思案を巡らせ、鳴上の顔を見上げた。「食堂で食事をしたら、外のカフェで話をする、でもいいかな?」

「いいよ。」

 鳴上は人好きのする笑みを浮かべる。

「じゃあ、早い所ご飯食べちゃおうか。」

 二人は第一食堂に並んで入っていった。

 

◇◇◇

 

「そうそう、俺さ、最近本郷の洋風居酒屋でバイトしてんだけど、」

 M大カフェテリアでは、寺田が話題の口火を切っていた。「最近、よく来る集団がいんのよ。」

 花村は、お茶をすすりながら寺田の話に耳を傾ける。

「お前、居酒屋でバイトしてんの?今度行くから店教えろよ?」

 立川がチャーハンを食べているレンゲを振って話題を混ぜ返せば、寺田は嫌そうな顔をする。

「嫌だよ、お前どうせ俺のツケで飲む気だろ?」

「なんでバレた!」

 四人はあはは、と笑った。

「そのよく来る連中は、金髪のカワイイ子と十人ぐらいの男子の集団でさ、まあ団体さんなんだけど、結構飲んでくれるから店としても助かってるみたいでさ、あんまり悪いようにしないでね、って釘さされてんのよ。」

「ふうん、そういうのってあるんだな。」

 花村が弁当に入っていたプチトマトをクチに放り込み呟く。

「で、ここから本題なんだけど、あいつらなんかよくストローでプチ王様ゲーム?やっててさあ、ストローは最近は店で出してるけど、それを金髪の女の子が持ってきてる白い瓶に突っ込んで、あたった人は王様でなんかやる、みたいなことしてるみたいなんだよね。」

「普通の居酒屋で?個室とかではなく?」

 凪嶋の問いに、寺田は一つ頷く。

「で、そいつらさ、初めは金髪の子をチヤホヤしてる感じだったんだけど、なんか最近は金髪の子の取り巻き?みたいな、まるで家来みたいな感じでさ。なんだか新興宗教みたいで気味が悪いっつーか。」

「因みにさ、その金髪の可愛い子って、なんて呼ばれてんの?」

 花村の問いに、寺田は首を傾げる。

「確か、アンジェ?いや、アンジェリア、だったかなあ?」

「あれ、花村君ってそういうのに興味あるわけ?」

 凪嶋の問いに、花村はあはは、と笑う。

「そりゃー、俺だって金髪の可愛い子って聞けば気になるって。なあ寺田、マジでバイト先教えろよ。その子見てみたいからさ。」

「しょうがねえな、花村。男の友情だぞ。」

 ツケはなしだかんな?と寺田は念を押しながらカバンからノートとペンを取り出した。

「おいおい、なんでお前俺には教えてくれないん?」

 立川の問いに、寺田ははあ、とため息をつく。

「お前はマジでツケるだろうが。」

「畜生なんでバレてんだ!」

「だからだよ!」

 騒がしく食事をしながら、寺田はノートの端に店の名前をメモし花村に渡した。「ほらコレ。」

「おー、サンキュー!」

 花村はヘラっと笑いながら寺田からメモを受け取り、内容を確認する。

「くそう、花村を尾行してやる!」

「訳がわからねえよ!」

「まあまあ、二人とも落ち着こう?」

 三人の様子を眺めながら、花村は急速に頭が冷静になっていくのを感じていた。

 

◇◇◇

 

 南原に案内されて入店したT大近くのカフェには、大学生らしき人影は一つもなかった。

 洒落た雰囲気の店なのに、と思って鳴上が周囲をよく観察してみれば、値段が少々高め設定になっていて妙に納得する。近くにはシアトル系コーヒーチェーンも幾つかあるため、学生はそちらへ行っているのだろう。

「ここのコーヒーを飲んだら、他のチェーン店なんて行けないよ。いつも静かだし、大学のことからしばらく離れて頭をリセットしたいときにはうってつけの場所さ。」

 ウェイターに案内された席につきながら、南原は微笑む。「秘密の場所なんだから、皆には内緒だよ?」

 南原は、注文を取りに来たウェイターに慣れた様子で水出しコーヒー二つ、と注文した。

「なんか、悪いな。」

 こういう所もよく知らなくて、と鳴上は肩を竦めながら苦笑いをすると、南原は首を横にふる。

「いいんだ。僕も最近ここのコーヒー飲んでないな、と思っていたから。別にいつ来たっていいんだけど、いつでもあると思うと中々来なかったりしてね。」

「ああ、それはあるかもな。」

 しばらく他愛のない話をしていたが、ウェイターがアイスコーヒーが入った大きめのグラス二つと会計票を席に置いて去った後、南原は目を細めて話題を変える。

「鳴上君が聞きたいのは、アンジェリア・バセットさんのことだっけ。彼女は、ミスカトニック大学から来ている交換留学生、だね。」

 南原はアイスコーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜながら言った。「ミスカトニック大学はあまり日本では知られていないけど、考古学、特に神秘学系統については世界でも有数の規模の資料が揃うと言われていてね。まあ、よくある『業界では結構有名』、って感じかな。」

 アイスコーヒーにシロップではなく砂糖を入れるとか珍しいな、と思いながら鳴上は南原を見ている。「僕も人文系だから一緒に授業を受けたことがあるけれど、今野教授ゼミにいる男子がアンジェリアさんを中心に集団的熱狂?……違うな、陶酔と崇拝、みたいな状態になっちゃっててね。彼女が絡まなければ普通なんだけど、何だか変な感じだよ。」

 南原は肩を竦めて、アイスコーヒーに挿したストローをくわえた。

「ふうん、」

 鳴上は相槌を打ちながら、頭の中で情報を整理する。

「ところで、鳴上君はどうしてアンジェリアさんのことを聞くのかな?」

 南原は、微笑んで鳴上を見る。

「工学系の方でもちょっとした噂になっててね。話を聞いてみれば授業を受ける時期もちょっと中途半端だし、どういう人なのかと思って。」

「……なるほど。」

 南原は、アイスコーヒーに再び口をつけ、腕組みする。「そうだなあ、何かあったかな?」

 彼は暫く目を閉じて考えていたが、やがて一つ頷き目をあけた。「そうだ、今野教授ゼミの学生の一人が、こんなことを言ってた。」

 

 考古学保管庫にある、アンジェリアさんが見たい資料標本の閲覧を、今野教授が許可してくれない。

 

「資料標本の閲覧、か。」

 鳴上は視線をテーブルに落とす。「何の文書、だろう?」

「文書?」

 鳴上の呟きに、南原が反応する。

「いや、『資料標本』の閲覧、と聞いたから、何かの文書か、巻物か、それに類するものなのかと。」

「ああ、なるほどね。」

 南原は感心したように頷いた。

「因みに、考古学保管庫にある学術資料標本は、必ず教授の許可が必要なのか?」

「ウチの考古学保管庫には本当に古かったり貴重なものもあってね。保存状態によっては慎重に扱わないといけないから司書の立会が必須の物件もあるんだよ。だから、予約申請書の提出時には担当教授直筆の承認サインが必要なんだ。」

 南原はの問いに頷いた「ただ、学生の研究レポートで必要な物もあるし、基本的に担当教授が許可しない、なんて話は聞いたことがない、かなあ。」

「どういう事だろう?」

 鳴上は首をひねった。「何の資料かも気になるけど、……。」

「じゃあ僕、聞いてみようか?アンジェリアさんのことについては僕も興味が出てきたし。」

 南原は笑顔でアイスコーヒーを飲み干し、眉を顰める。「うへ、上手く溶けなかったっぽいな、甘すぎる。」

「いいのか?俺は人文系の知り合いは南原ぐらいしか居ないから助かるけど、」

 危ないことにはならないか?と言いかけた鳴上の言葉は、南原に制止され口から出ることはなかった。

「その代わり、」

 南原は、お冷をすすりながら、上目遣いに鳴上を見る。その目は笑っておらず、視線は鳴上の銀灰色の目へと向いていた。「次に会うときには、アンジェリアさんの事が知りたい本当の理由を教えて?」

「あ……。」

「今の鳴上君の様子は、まるで彼女の身辺調査でもしているみたいだ。何のためにこの情報が必要なのか、知りたいかな。」

 鳴上は、苦笑いを浮かべ、残りのアイスコーヒーを煽る。

「分かった。俺の負けだ。」

 鳴上の言葉に、南原は満足そうに頷いた。

「うん。じゃあ来週、いつもの時間に図書館のあの場所で。多分毎日いるから。」

 南原はポケットから五百円玉を一枚出すと、会計票の上に置いて席を立つ。「じゃあね、鳴上君。」

 後は頼んだ、という風情で南原は店を出た。鳴上は、一つため息をつくと会計票と五百円玉を取って席を立つ。

「俺、そんなに分かりやすかったかな……。」

 店員に千円を支払い領収書を書いてもらいながら、鳴上は自問自答していた。

 

◇◇◇

 

 その晩、至極残念そうに花村は自宅のソファに置いてあるクッションを抱き込んでいた。

「悠、来週は夕食は家では食わねーから。」

 今にも死にそうな声で、花村は呟いた。

「え、どうして?」

 食後のコーヒーを淹れてきた鳴上は、花村の様子を見てなんとなく察する。「ああ、直斗の依頼の件、か。」

「本当は適当に飲んで帰ってくればいいかなあなんて思ってたんだけどさ、どうも俺の学校の知り合いがバイトしてんだわ。」

「じゃあ、ある程度食って帰るしかないな。」

 鳴上は、苦笑いしながらコーヒーが入ったマグカップを花村の前に置く。「弁当は作ってもいいんだろ?」

「弁当ないとマジで死ぬ。」

 花村はしょんぼりしながら言った。

「じゃあ、プリンとか作っとくから一緒に食おう、な?」

 鳴上が隣に座って、花村の肩をポンポン叩く。

「うん、食う。」

 花村は自分のマグカップを手にとった。「ガトーショコラとカヌレ……。」

「分かった分かった。」

 鳴上は笑顔を若干引きつらせながら花村の肩を抱き寄せる。「まあ、頑張ってみるよ。」

「うん、オネガイシマス」

 花村は鳴上にもたれかかり、ため息をついた。「なんでアイツ、よりによってそこでバイトしてんだよ、全く。」

 これも恋人の持ち前の運の悪さ故のことか?と思いつつ、鳴上は自分の分のコーヒーに口をつける。

『安請け合いするからだぞ、陽介。』

「スサノオ、出てきてたのか。」

 鳴上は、テーブルの反対側であぐらをかいて不貞腐れているスサノオへ視線を移す。

『自分よりも他人を優先して、自分でストレスを貯めこむその性格、そろそろ直したほうがいいんじゃねーかな。』

 心底呆れた、といった風情でスサノオは花村を見ている。

「しょうがねーじゃんよ、お前も言われてたろ?今なんとかできそうなのは俺達だけだって。」

 ブツブツと花村が反論する。スサノオは頭をガシガシと掻くと、大仰にため息をついた。

『なあ、鳴上。明日、陽介と俺に付き合えねえ?』

「明日?……まあ大丈夫だと思うが。何をするんだ?」

『俺を便利に使うための、練習さ。』

 スサノオは言うと翡翠色の光を残し立ち消える。 

「練習、ねえ。」

 鳴上はさっきから過剰にスキンシップを取ってくる花村を抱き寄せる。

「悠、もっとくっついても、いい?」

 花村の問いに、鳴上は微笑む。つくづく恋人には甘いな、と鳴上は心のなかで苦笑いをした。

「ダメって言ったこと、あったっけ?」

「ない。」

 鳴上の答えに、花村はクッションを手放しぎゅ、と鳴上を抱きしめる。

 鳴上は花村の好きにさせておきながら、南原との会話と今野教授、スサノオがあの晩出会った少年の言葉の意味を考えていた。

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
さらに状況が動いていきます。
次回もおたのしみに。
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