息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:9月28日日曜日
『膨らんだ女神よ その可憐な手で我らを守りたもう』
シンガポールのスラム街のとある階段の奥深くに、その広い洞窟は存在した。
洞窟はあるカルト教団の手によって丁重に保護隠蔽され、関係者以外は全貌を掴んでいない。
『膨らんだ女神よ その美しき笑みを我らに恵みたもう』
祭壇には火が焚かれ、手術台のような木製のベッドには一人の男が四肢をベッドで繋がれていた。
「嫌だ、助けて」
男が手錠をガチャガチャと鳴らしながら泣き叫ぶ。
男は、スラムでよく見かける薄汚れた服を着ていた。
『膨らんだ女神よ 貴方への贈り物を持って我らの平安と繁栄を祈りたもう』
祈りを捧げていた神官や、祭壇の下で地面に平伏しながら祈る者達は全て、黒と黄色のシルクのローブを纏っている。
神官と共に祈っていた男が、装飾が施された鎌を神官に恭しく差し出した。
『膨らんだ女神よ 貴方と我らが永遠に共に有りますよう』
神官は、祈りと共に狂気の篭った目で繋がれた男を見、持った鎌を男の腕に突き立てる。
男の絶叫と、骨肉が切断されていく音が洞窟に響き渡った。
洞窟の奥から、黒い風が沸き起こる。
黒い風はやがて光る双眸を開き、やがて身長が二メートルを超えるかろうじて女性形、とよべる怪物に姿を変えた。
さらに怪物が腰帯に挿した扇を広げ顔を半分隠すと、怪物は細身で美しい中国系美少女へ姿を変える。
『我を慕う民よ 貴様らに慈悲を。邪魔者には死を』
美少女は言い、口角をはしたなく上げて嗤った。
「女神様」
神官が傅きながら声を掛ける。
『明日、邪魔を為す者が現れる。排除の方法は貴様に任せる』
「女神様の意のままに」
◇◇◇
日付:9月29日月曜日
『本日はシンガポール航空をご利用いただきありがとうございます。……』
機内アナウンスを聞きながら、イリーナ・ドミトリエフは雑誌を眺めていた。
『当機はモスクワ、ドモジェドヴォ空港を十五時二十分、定刻通りの離陸を予定しております。』
ぺらり、とページをつまらなそうにめくる。
『シンガポール、チャンギ空港への到着も現在のところ、定刻通り現地時間九月三十日朝五時四十分の到着の見込みです。現在到着地シンガポールの天候は曇り。……』
ワレリー・クルーツィスは銀縁の眼鏡をかけ、持ち歩いているペーパーバックを読んでいる。
「ワレリー」
イリーナが、不意にワレリーに声を掛ける。
「何かな?」
ワレリーが、イリーナへ視線を向けた。イリーナは、雑誌へ視線を向けたままだ。
「黄色い猿がたくさんいても、殺って構わないのよね?」
「……ああ。ただ、我らの目的はあくまで『本』。殲滅までは業務内容に入っていないぞ」
ワレリーはため息混じりに呟き、またペーパーバックへ視線を戻す。
「ええ。目的は解っているわ」
イリーナは言うと、ガサガサとシート前のポケットからイヤホンを出した。
「おやすみ、イリーナ」
ワレリーはイリーナに声をかける。
イリーナは雑誌を前ポケットに突っ込むと、イヤホンを付けた。
ポケットから薬を数種類出すとまとめて口に放り込み、配られたミネラルウォーターで喉に流し込む。
「おやすみ、ワレリー。いい夢を」
イリーナが程なく寝息をたて始めたのを見て、ワレリーはため息をついた。
(また薬が増えたな……)
気分安定薬に抗うつ剤、抗精神病薬と睡眠導入剤……。諜報機関のガードとして殺人をも厭わない職場にいると、人を殺しすぎて精神に変調をきたす者も多い。彼自身は調査員兼研究員として活動しているため、滅多に自分で手を汚すことはないものの、調査員としての彼の重要なミッションがガードの精神状態管理と、壊れてしまった時の『処分』であった。
(この仕事が終わったら、イリーナをパラオにでも連れて行ってやろう。たまには思い切り遊ばせてやらないと、擦り切れるばかりだからな)
ワレリーはイリーナのブロンドヘアを軽く撫でると、持っていたペーパーバックにまた視線を戻した。
◇◇◇
四人が乗ったのは、羽田を朝九時に離陸するシンガポール航空とANAのコードシェア便だった。他の出演者やスタッフより一便早かった彼らに対し、シートは鳴上の母親が言っていたとおりビジネスクラスが手配されている。お陰で七時間程度の飛行機内での旅も快適に過ごし、先程シンガポール・チャンギ国際空港に到着したところだ。
「南の島って、やっぱ暑いんだな」
ボーディングブリッジに先に出た花村陽介がブツブツと文句を言う。
「飛行機から出た瞬間暖房が入ってんのかと思ったぜ」
「こんなとこに暖房入ってる訳ねーじゃないすか」
巽完二が後から降りてきて、ジワリと感じる暑さに眉を顰めた。
「完二君、これから入国審査があるので、ちゃんと先程書いた入出国カードとパスポートをカウンターに提出出来るように準備しておいてくださいね」
巽に心配そうに話かける白鐘直斗は旅慣れている様子で軽装である。
いつものパンツスーツではなく膝丈スカートを中心とした今風のコーディネートで、べっ甲素材の眼鏡を掛けていた。
「解ってるって。あんまりその、そう、心配すんなって!」
巽は直斗から視線を外して彷徨わせる。
直斗は高校の頃も綺麗なプロポーションだったが高校卒業後もそれは維持されていて、スーツ以外の私服はお泊りぐらいしか見ていないためどうしても視線を直斗に向けられなかった。
「あの、完二君、聞いてます?」
「聞いてるって、ちゃんと。ほら、パスポートもカバーから出して入出国カードも持ってるだろ?」
前を歩いていた花村が殿の鳴上悠の横に来る。
「なんつーか、初々しい? こっちもアテられそうだわ。完二何やってんだか」
花村がヒソヒソと鳴上に耳打ちした。
「ここには名目上『観光』で来てるし、一緒に歩いているのは特に問題ないだろ?」
鳴上はクス、と笑う。
「俺達だって、『遊びに来てる』し、ちょっとぐらいくっついてもいいんだぞ?」
「お前、たまに変な男気発揮するよな?」
花村が苦笑いとともに前を向けば、巽と直斗が互いに頬を染めながら話をしている様子が見えた。
たまに視線がかち合うと慌てて視線をそらしたり、しかし話をするためまた互いを見たり忙しい。
「さっさと入国手続き済ませて、夕飯食いに行こうぜ?」
『IMMIGRATION』の文字を見つけ、花村が鳴上に笑いかけると、鳴上は花村と手を繋いだ。
「ああ、早いとこ色々済ませてしまおう」
急に手を握られ、花村の顔が一気に赤くなる。
「ちょ、おま」
「陽介、前の二人を笑えないなあ?」
クスクス笑いながら鳴上が手を離すと、花村が手を繋ぎ返した。
「そこ、は、離さなくてもいいから」
視線を逸らしながら言う花村をチラ、と見て鳴上は咳払いをする。
「ヨースケは甘えんぼクマー」
「そこでクマの真似やめろって……」
花村はブフ、という笑い声を聞き前を向くと、巽と直斗が顔を真赤にして笑いを堪えていた。
「な、鳴上先輩、クマ公の真似うますぎッス……」
「花村先輩が甘えんぼ……」
花村が鳴上の方を見れば、鳴上は全く別の方向を見ながら言った。
「ヨースケ、怒ったクマ?」
花村ははあ、とため息をつくと肩を落とす。
「なんかもう、うん、ツッコミ追いつかねえよ……」
『陽介、気づいてるか?』
スサノオの問いに、花村は肯定した。
(つか、ほかの連中は気づいてんの?)
『少なくともヤマトタケルは気づいてる。イザナギとロクテンマオウは、どうかな?』
(イザナギは気づいてんだろ。ロクテンマオウは経験値少ねえからな、何かあったらヤマトタケルにフォローしてもらうか)
『有事の時には指示をくれればその通りに動いてやっから心配すんな。じゃ、何する?』
(こっちを監視している連中の数と位置の把握だな。後、『お前が見える奴が居るか』知りたい)
『任せろ』
花村から翡翠色の光を帯びてスサノオが現れる。『なんかあったらすぐ戻せよ?』
「先輩」
直斗の言葉を花村が制止した。
「奴らにカードを見せてやる必要はねえよ。」
さっと周囲を見回し、鳴上と顔を見合わせる。
「すぐ終わるから、先にイミグレーションカウンターで手続き済ませて荷物を回収しておいてくれ。俺らも後から行くから」
「分かりました」
直斗は巽を伴ってイミグレーションカウンターの列へ並ぶ。
花村は鳴上に手を引かれつつ直斗達とは別の列に並んだ。
「悠、到着ロビーで監視しているのが五人居る」
花村が呟く。
「スサノオが発見されていないから『魔女』ではない。けど、行動が組織的だな。……マフィアの下っ端、って感じ?」
「物理なら、なんとかなるだろ」
鳴上がのんびりとした口調で呟いた瞬間、花村の目の前にスサノオが現れた。
『陽介?』
スサノオが、明らかに不満げな顔で花村を見下ろす。
「俺達に『迎え』が来てる。ホテルに着いたら五人の情報はペルソナを介して共有するよ」
スサノオが花村の中に戻った。
「迎え?」
鳴上が首を傾げる。
「誰だろう?」
「見たこと無い男だけど、服装からすると、多分桐条の第二総務部絡みだと思う」
「なるほど、だからスサノオを戻したのか」
花村と鳴上がイミグレーションカウンターを抜けると、バゲージピックアップエリアで荷物を順次確保する巽と、荷物の番をする直斗がいた。
「ファーストクラスとビジネスクラスの分が優先して荷物が流れます。先輩たちの分は確保してあるので、一応確認下さい。後は完二君の荷物だけです」
直斗から荷物を渡され、鳴上と花村は確認後頷く。
完二が、恐らくは一番大きなサイズのスーツケースをヒョイと上げ、ガラガラ押しながら三人の元へやって来た。
「スンマセン、お待たせしました」
「デカイな、そのスーツケース。何が入ってんだ?」
物珍しそうに、花村が巽が押すスーツケースを眺める。
「俺の荷物の他に、ファッションショーで使う靴と、アクセサリーが入ってるッス」
「なるほど、それならその大きさも納得だ」
感心したように鳴上が言いながらバゲージチェックを受け、ゲートからロビーへ出る。
『監視している五人は動かないようだな』
少し残念そうにスサノオが呟いた。
「鳴上君、こっちだ」
少し周りを気にしながら、黒いスーツ姿の男一人とポロシャツにスラックス姿の男が一人が駆け寄ってくる。
「すみません、どなたでしたっけ?」
鳴上が尋ねると、黒いスーツ姿の男とポロシャツの男は互いの顔を見合わせた。
「僕は桐条ホールディングス第二総務部部長代理の北島です。こちらが、桐条電気化学シンガポール支社の安西副支社長になります」
黒いスーツ姿の男が鳴上に握手を求める。
「初めまして。鳴上悠です。後、ご存知かと思いますが花村陽介、巽完二、白鐘直斗です」
鳴上は北島と握手を交わした。
「僕の両親がお世話になっています。結構無茶なことを言っていないか心配なんですけれど、大丈夫ですか?」
鳴上の心配そうな顔に、北島は苦笑いを零す。
「大概無茶ばっかりですので、なんだか慣れました」
「ああ、やっぱり。本当にすみません」
鳴上が頭を下げた。
そのやりとりを視線の端に捉えながら、花村はもう一度周りを見回す。
(スサノオ、連中は?)
『あの北島って奴と安西って奴が来たことで撤退したみたいだな』
(ふうん。用心に越したことはない、周囲の監視は続行だ)
『了解』
「……すけ、陽介」
不意に名前を呼ばれたことに気づき、花村は声の方へ顔を向けた。
「悠、呼んだか?」
「北島さん達が車でホテルまで送ってくれるって。先に完二と直斗達が移動していったから、俺達も行こう」
鳴上が微笑みながら、花村の手を引く。花村も釣られて笑顔になった。
「ああ、そうだな。折角『遊びに来た』んだから、楽しまねーと」
やってきましたシンガポール!
南の島でもやることはやってます
それではまた次回お会いしましょう。