息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:10月1日水曜日
『クールジャパンフェスタ、開幕です!』
声優やネット界隈の有名人、協賛会社や通産省の代表がメインステージに揃って華々しくオープニングセレモニーが開催されていた。
シンガポールはもとより、他国から参加しているコアなファン達が歓声を上げる。
「おーおー、すっげぇな、あっちは」
地鳴りのような歓声がサンテック国際会議場に響き渡る。
「耳が痛いですよ、本当に」
白鐘直斗が眉を顰め、眼鏡のズレを直した。「完二君は大丈夫、なんですか?」
「ま、なんとか」
巽完二は肩を竦める。
クールジャパンフェスタの会場の一角の仕切られたエリアでは、ファッションショーの最終リハーサルと衣装合わせが行われていた。
各服飾系専門学校からの出展された衣装をきらびやかに纏ったモデル達がキャットウォークを美しい所作とともに歩き、ステージでポージングする。スポットライトや音楽も本番さながらに操作され、女性達をより引き立たせていた。
係員が控室で大声を出す。周りの音がうるさすぎて、そうでもしないと声が通らないのだ。
「最後は各学校の代表者が今回のイベントのTシャツを着たモデルと共にキャットウォークを歩きまーす! 準備お願いします!」
「じゃ、行ってくるわ」
巽はぽん、と直斗の頭に手を置き、そのまま他の代表者と共に部屋を出て行く。
『直斗、会場の様子がおかしい』
ヤマトタケルの声が頭に響き、直斗は咄嗟にスマートフォンを耳に当てた。
「どうしましたか?」
『確かにイベントで多くの人が来てるんだけど、異質な雰囲気の人も混じってるみたい。イザナギとスサノオにも声を掛けて警戒した方がいいかも』
「そうですか。じゃあ、先輩達に声を掛けて、手伝ってもらって下さい」
『分かった!』
直斗はスマートフォンを耳から離すと、しばし思考を巡らせる。
(街のあちこちの銀行の貸し金庫にはデコイが配置してあって、今や普通の方法では本物が何処にあるか分からない筈。そうなった場合、一番手っ取り早いのは、……それまでの持ち主に何処にあるか訊くか、持ってこさせること。僕ならば、完二君に……)
「まさか」
直斗は控室を飛び出し、ステージへ向かった。
キャットウォークの先のステージ上はで、モデルの一人が、他のモデルにナイフを突きつけている。彼女の目は、真っ直ぐ巽へと向いていた。
モデルが何かを巽に叫ぶ。巽は眉を顰め、……首を捻った。
「完二君!」
直斗が巽の横で止まる。
「直斗」
巽が苦笑いを浮かべた。
「悪い、奴が何て言ってるか分かんねえ」
「はい、任せて下さい」
直斗もまた苦笑いを零すと、ナイフを持っているモデルへと視線を向ける。
『すみません、彼は英語が苦手なので、もう一度おっしゃっていただけませんか?』
直斗の言葉に、モデルはその綺麗な顔を歪めた。
『もう一度言ってあげる。今日の夜十一時に、スリ・マリアマン寺院のゴープラムに荷物を持って来なさい。さもなくば』
彼女の口角が上がる。
『この会場を爆破してあげる』
『爆破……?!』
『待っているわ』
モデルは小さく何かを呟くと、その場からふわ、と陽炎のように揺らぐとそのまま消え失せた。
捕まっていたモデルは緊張の糸が切れたのか、気を失ってその場で斃れる。
直斗は倒れたモデルへと駆け寄り、脈や吐息を確認し、息をついた。
「直斗!」
巽が直斗の元へ走ってくる。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。この方も気を失っているだけなので、医務室でしばらく休めば回復すると思われます」
「それには及ばないよ、直斗」
観客席の奥から、鳴上と花村が走ってきた。彼らの首からは、関係者用パスが下がっている。
「花村が会場をモニターしてたから、大体のやりとりは解ってる」
「先輩」
鳴上はイシスを呼び出し、会場全体にメシアライザーを発動させた。
恐慌状態に陥っていた他のスタッフ達も徐々に落ち着きを取り戻し、気を失っていたモデルもうっすらと目を開ける。
『わ、私は……?』
モデルが直斗に話しかけると、直斗はにこ、と笑顔を向けた。
『大丈夫。ちょっと災難でしたね』
『は、はあ……』
直斗と巽がモデルを助け起こし、スタッフに引き渡す。
「陽介、そっちは……?」
鳴上が花村へ視線をやると、花村は肩を竦めて首を横に振った。
「目の前で転移魔法を使われた、としても、これだけこのエリアに人間がいたらノイズが大きすぎて無理だって、さ」
「そうか」
鳴上はペルソナを自分に戻すと、口角を上げる。
直斗は、花村と話す鳴上の様子を見ながら、ため息をついた。
(まさか先輩方は、こうなることを見越してワザと完二君と僕、モデルを泳がせていたわけじゃ、ないですよね? ……確かに完二君はすぐ顔に出るので知らせないほうがいいとは思いますけれど)
「直斗」
巽が眉根を寄せながら直斗を見る。「悪い、さっきモデルは何て言ってた?」
「あ、そういえばまだお話していませんでしたね」
直斗は巽を見上げる。「今夜十一時に、ある寺院に荷物を持ってこなければ、会場を爆破するそうです」
「なっ、それじゃあすでに仕掛け」
巽の言葉を直斗は制した。
「爆発物、であればヤマトタケルで充分探せます。夜十一時、となればまだ十時間以上時間はある。いくらでも探すことはできますよ」
不意に、ヤマトタケルが直斗の頭上に現れる。
「やれますね?」
『もちろん! この規模なら四時間もあれば爆発物は見つけられる。粗方探したら、後は入り口を見張っていればなんとかなるんじゃない?』
ヤマトタケルは言い、にっこり笑った。
「なるほどな」
感心したように巽が頷くと、ヤマトタケルは早速壁を抜けて外へ出て行く。
「陽介、完二、直斗。これからのことについて軽く意識合わせしておきたい。どうやら今日のリハーサルはここまでみたいだし、少しシティモールのカフェに行かないか?」
鳴上の声に他の三人は頷くと、スタッフに一声かけて会場を出た。
◇◇◇
夜十一時少し前のチャイナタウンは、キラキラしたネオンと商店の看板の明かり、歩道にはみ出したイートインスペースで供される様々な食材を使った中国料理のむせるほどの香りと南国特有の熱い空気が満ちた場所だった。
「東南アジアの夜の街のテンプレって感じだな」
「確かに一気に南国感が増してくるな」
花村と鳴上が笑いながら話しているのを後ろで眺めながら、直斗はヤマトタケルを飛ばして周囲を警戒させている。
「先輩達、やっぱすげえわ」
巽の言葉に、直斗は無言で彼の顔を見上げた。
「これから何が起こるか分からねえってのに、あんなに笑ってんのな」
「ああ、あれは……、なんでしょうね?」
直斗は、曖昧な笑みを返す。
「ただ、この二人が居る限り、負けない気はします」
「ああ、そうだな」
巽は『荷物』が入ったショッパーを抱え直した。
結局、爆発物を見つけることは出来なかった。
北島に連絡を取り、今もサンテック国際会議展示場には『貴重な展示物があるため』という尤もらしい理由を付け警備体制を強化してもらっている。
(結局『見つからなかった』ことで、僕達は彼女の言葉に応えることになってしまったわけですけれど、……ブラフ、とも言い切れないところが辛いですね)
『直斗、二人組が後を付けてる』
ヤマトタケルの言葉に、直斗は視線を下へ向ける。
「そうですか……二人組の容姿は分かりませんか?」
『白人だね。男女ペアで、……女性側の武装がかなり物騒? ッて感じ?』
クスクス、とヤマトタケルの笑い声が聞こえた。
「やはり『猟犬』、……距離は?」
はあ、と直斗はため息をつく。
『距離は、三百mぐらい? 付かず離れず、プロの犯行だねー』
「分かりました。引き続き警戒をお願いしますね」
『うん、任せて!』
ヤマトタケルの楽しげな声に、直斗は再びため息をついた。
「……直斗? ヤマトタケルが今日ずっと動きっぱなしだったから、疲れてるんじゃないか?」
心配そうに巽が声を掛ける。
「あ、はい、大丈夫、です」
直斗は微笑みと共に答えた。
◇◇◇
夜十一時、普段なら閉まっているであろうスリ・マリアマン寺院の門は開いていた。
門を抜けると、高さ十五メートルのゴープラムと呼ばれる門が月明かりの元威容を誇っている。
その下には、女性と、男性数人が居た。
彼らは鳴上達に気づき、ゆっくりと視線を入り口の門へ向ける。
『どうやら日本人は時間には正確なようね。こちらとしても助かるわ』
女性はくす、と笑うと一歩鳴上達へ足を踏み出した。『そこの女、『荷物』を持って来なさい。そして、私達とあなた達の間にある石柱の横に置くのよ』
直斗は巽から『荷物』を受け取ると、ゆっくりと女へ向け歩き出す。
そして、直斗が入り口の門とゴープラムと中間点にある石柱に到着し、その横に『荷物』を置いた。
『直斗!』
ヤマトタケルがトップスピードで飛来し、直斗を攫うようにその場から退避させる。次の瞬間、それまで直斗が居た場所に数本の矢が刺さった。
「助かりました、ありがとう」
『ごめん、ちょっと後ろから来てる二人組をマークしてて庇うのギリギリになっちゃった……』
痛い所ない? と悲しそうな顔で訊くヤマトタケルの頭を直斗は優しく撫でてやる。
「直斗、大丈夫か?」
巽が駆け寄り、直斗を抱きしめた。
「怪我、は?」
「ええ、大丈夫です。どちらかと言えば、完二君に抱きしめられてるので怪我しそうですが」
直斗が苦笑いと共に答えると、巽が顔を真赤にして直斗を開放する。
「あっ、わ、悪ぃ」
巽はゴープラムに居る四人をギッ、と睨んだ。
次の瞬間、寺院の入口の門から、白人二人組が拳銃を構えながらゆっくりと入ってくる。
『悪いが、この『荷物』は返してもらうぞ』
男が、流暢な英語でゴープラムの下にいる集団に言うと、男の一人がパン、と手を叩いた。
急にそれまでの暑さが嘘のように空気が冷え、霧が辺りを覆っていく。
「これは、何だ?」
「仮に異界化、と僕らは呼んでいます」
直斗はオーバルタイプの空色のメタルフレームの眼鏡をかけた。
「完二君、例の眼鏡をかければ霧は見えなくなるはずです」
「お、おう」
巽はポケットに入れてきたオーバルタイプのメタルフレームのサングラスを掛ける。
「うお、確かに……まるで、この前のテレビの中みてえだ」
濃くなってきた霧が、嘘のように晴れて見えた。
「なるほど、要するにここはテレビの中の世界と同じってことか」
巽はニヤリと笑った。「じゃ、思い切り暴れても問題ねえってことだな」
◇◇◇
「相棒、さて、どうするよ?」
花村は、鳴上をチラリと見やった。その先には『猟犬』、そして巽と直斗が見える。
「ん、そうだな」
鳴上は数秒周囲を見回す。
「陽介は『荷物』の確保、完二は全員にマハジオンガで牽制、直斗はメギドラを前の四人に対して発動、攻撃を。俺は」
鳴上は入り口付近に居る『猟犬』を見やった。
女性の顔が笑っているのを見、叫ぶ。
「全員伏せろ!」
四人が伏せるのと、『猟犬』の女性であるイリーナが自動小銃を構えたのはほぼ同時。イリーナが掃射すると、木の影に隠れていた男数人が斃れた。
「あいつら、誰だろうとお構いなしかよ」
舌打ちと共に花村がブツブツ文句を言うと、脳裏でスサノオの声が聞こえる。
『陽介、イザナギから伝言。さっき言った通り、俺達は『荷物』を確保。タイミングは俺達に任せる、とさ。確保した後は、疾風の壁を作って銃弾を避けたほうがいいかもな』
(了解、じゃ、お前を纏ってフルスピードで突っ込むか)
花村は自分の手の中にアルカナカードを現出させ、そのまま握りつぶした。翡翠色と共にスサノオが現れ、そのまま花村と重なる。
(うわぁ……)
花村はゴープラムの向こう側から黒い波動を感じ、思わず眉根を寄せた。
『猟犬』の方は一歩ずつ、『荷物』へと近づいている。猶予はもうなかった。
『ガル』
自分に向け疾風魔法をかけると、花村は飛ぶように駈け出した。
それを見て、巽がロクテンマオウを召喚して敵と認識した全員に電撃を仕掛ける。
「ぐぅあっ」
ワレリーがよろけ、イリーナが巽へ向いた瞬間、イリーナの目の前にあった『荷物』を花村が攫って行く。
「なんですってっ?!」
モデルの女性が叫んだ瞬間、四つの光が彼らの前で収束し爆発した。
「きゃああっ!」
「まさか『ペルソナ使い』か」
黄色と黒で彩られたシルクを着た男がつぶやくと、本を片手に何かを詠唱する。
同時に広場に黒く光る魔法陣が形成されていく。
「チッ」
鳴上が舌打ちと共に詠唱を邪魔すべくアギラオを男へ飛ばした。
アギラオが、召喚された何かの影によって防がれる。
「これは……まさか」
鳴上は眉を顰めた。
「シャドウ……?!」
鳴上は自分たちよりも背が高い、黒い塔のような巨人を見上げ歯噛みする。
(確か、コイツは『平衡の巨人』。……名前は覚えてるが属性までは……)
そもそもシャドウはそれぞれのダンジョン固有で出現していた。
まさか、異界化したこの場に出てくるとは思っていない。
しかも、このシャドウは鳴上にとっては因縁深いダンジョン『天上楽土』で出現していた。
あの時は無我夢中でダンジョンを進んでいったが故に、シャドウのデータはあまり覚える余裕もなかったのだ。
「悠、俺は黒い奴を何とかする、直斗と完二に指示を!」
花村が叫んだ時、さらに三つの魔法陣が展開され、銀色の刺が車輪となって銀色の服を纏った男が逆さに吊るされたシャドウ、緑色の光とともにくるくると回る立方体のシャドウ、白い戦車にレモン色の砲塔を持つシャドウが現れる。
「げっ」
「完二は緑のシジルを平衡の巨人から引き剥がして物理攻撃、直斗は洗礼の砲座に光攻撃を!」
「了解!」
鳴上は自分のペルソナにベルゼブブを降魔すると、イザナギの手に髑髏の杖が収まり首から髑髏の首飾りが下げられ、黒く輝くハエの羽根を背に宿し頭上には王の証である王冠が現れる。
花村が平衡の巨人にガルダインを詠唱し、巽は平衡の巨人を庇いに行こうとした緑のシジルの縁を掴むと思い切り反対方向へ引っぱり地面へ激突させた。
直斗が移動しながらマハンマを詠唱すると、光の札が魔法陣を展開し洗礼の砲座を灼き切り塵と化する。鳴上はアギダインを詠唱し、混沌のキュプロクスを業火に包んだ。
「先輩、僕はこのまま緑のシジルへ向かいます!」
「こっちは任せろ相棒!」
「俺も直斗が来るなら大丈夫ッス!」
「そのまま各個撃破を」
鳴上は急に背後から息苦しい程の強い光を浴び、膝をつく、
後ろを向けば、ワレリーが十字架を握りしめ何かを詠唱していた。
(くそ、悪魔系だと聖書の詠唱でもダメージ食うのか)
「来い、メタトロン!」
鳴上はペルソナをメタトロンにチェンジすると、イザナギが白く輝き一対の光り輝く翼を背負う天使の姿に変貌する。「天軍の剣で奥の呪文詠唱者ごと吹き飛ばせ!」
手に光剣を携え、翼をはためかせたイザナギが混沌のキュプロクスに襲いかかった。
その剣戟は混沌のキュプロクスを粉砕し、そのままゴープラムの中に居た四人をも巻き込む。
悲鳴や怒号と共にゴープラムの支柱が砕け、崩れ落ちた。
「悠、大丈夫かっ!」
花村が鳴上に駆け寄ろうと一歩踏み出す。
その背後に強烈な寒気を感じ、体を捻るとその鼻先にイリーナのナイフの切っ先があった。「うぉわっ」
「陽介!」
鳴上が振り返った時、ゴープラムの残骸から人影がゆらりと立ち上がった。
「く、……!」
『我らが神を冒涜する者は誰であろうと殺す』
黄色と黒のシルクで彩られた法衣を着た男が、殺気を纏う。
『膨らんだ乙女よ、我が生命を対価に顕現されよ! この場に居る者達を道連れに……!』
法衣を着た男が斃れ、黒い霧が吹き出す。一気に空気にこの世界のものではない異質なモノが入り込んでくる感覚に、鳴上は眉根を寄せた。
「皆、なにか来る……!」
鳴上がペルソナをルシフェルにチェンジする。
黒い霧はやがてゴープラムの奥を巻き込み魔力の圧が一気に上がると、その場に『女』が現れた。
身長二メートルを超え、体重は大きく二百五十キロを超えそうな巨大な体躯のその女性は、目こそ繊細で美しいものであったが、目の下から全身、腕や足がある場所にも触手が生えのたくっている。顔から生えた触手の先には美しい曲線を描く薔薇色の唇があり、よだれを垂れ流したそれらには牙が見え隠れする、見るもおぞましい姿であった。
「うお、なんだありゃ」
巽が指さしながら困ったように直斗を見る。
直斗は肩を竦めた。
「僕にも、さっぱり」
「Не смотрите, Ирина!」
ワレリーが叫ぶ。
イリーナは、花村に向けた刃を降ろし呆然として異形の女を見ていた。
「あははははははははははぁぁはあはははああはははははははは!」
イリーナはいきなり嘲笑い出し、嬉々としてナイフを構える。
「Статистика!」
イリーナは花村を突き飛ばすように前に出ると、異形の女へ向け跳躍した。
「Не ходите, Ирина!」
ワレリーがまた叫ぶ。
しかし、イリーナはまるで聞いていないかのように触手へナイフを振り下ろした。
異形の女は笑みを浮かべると、数本の触手を犠牲にイリーナを腕から生える太い触手で絡め取る。
ぶらりと垂れ下がるイリーナは、もはや抵抗する力は残っていなかった。
異形の女は、触手の先にある無数の唇の一つをイリーナに重ねた。
イリーナは、されるがまま唇を蹂躙されている。
何が起こったか分からず呆然と立ち尽くしていた鳴上は、ハッと我に返った。
「陽介、完ニ、あの人をアレから引き剥がすんだ!」
「言われなくても!」
先に動いたのはやはり花村で、スサノオを纏うと一気に疾走る。
まるで翔ぶような勢いで異形の女に肉薄した彼は、構えた包丁二本をイリーナを絡め取っている触手へ振るった。
異形の少女は眉を顰め、イリーナをボトリと落とす。イリーナはただ、目を見開いたままその場にころがっていた。
花村が触手から離れた瞬間、ロクテンマオウから最大級の雷撃が異形の少女に放たれる。その間隙を縫って、ヤマトタケルに抱えられた直斗がイリーナを触手から引き離した。
それを見て、鳴上は万物属性の最大魔法『メギドラオン』を発動させる。
四大属性の光の奔流が異形の少女に収束し、爆発を起こした。
「うおおおおおおっ!」
鳴上は爆風をルシフェルと自分の魔力の圧で強引に跳ね返し、異形の少女へ全てのダメージを叩き込む。
異形の少女は声にならない音を喚き散らし、触手の塊となり地面へと沈んでいった。
「悠!」
花村が鳴上の異変を察知し、駆け寄った。
鳴上は服のあちこちが焼け落ちていて酷い有様だった。
ゆらりと体のバランスを崩すも、花村が受け止めゆっくりと寝かせてやる。
「悠、大丈夫か? なあ?」
「よう、すけ、……まだ、おわって、ない」
花村と鳴上の前に、巽と直斗が立つ。
その視線は、イリーナとワレリーへと向けられていた。
ワレリーは、ただ目を開けて息をするだけのイリーナをぎゅ、と抱きしめている。
『すまない、イリーナ、……奴が出てくるかもしれないことは、解っていたのに。もう少し、私が気をつけてさえいれば』
ワレリーはゆっくりと立ち上がり、懐からハンドガンを出すとイリーナの額に狙いを定めた。
「やめろ!」
完二と直斗が自身のペルソナをワレリーへと向かわせるも、ワレリーは引き金を引く。
イリーナは頭を撃ち抜かれ、一度跳ねるとそのまま動かなくなった。
「なぜ、そんなことをした?!」
直斗が叫ぶと、ワレリーは顔に笑みを作る。
「私達は『猟犬』。国の所有物であり、使い捨ての道具でもある。……壊れたら、捨てて新しいものに入れ替える。当たり前のことだ」
ワレリーは直斗に静かに答える。
「自分たちを、道具って」
「そういう世界もある、ということだ。君達には、あまり踏み入って欲しくないがね」
流暢な日本語で呟くように言い、ワレリーは肩で息をしている鳴上や自分を射殺す程の視線を向ける花村、巽と直斗へと顔を向けた。
「もうすぐ、霧が晴れる。君達は、回復魔法は使わなくてもいいのかい?」
「……お気遣いなく」
鳴上は言うと、カグヤを召喚したイザナギを現出させ、メディアラハンを唱える。
鳴上の怪我は言うまでもなく、他の三人のかすり傷や衣服の傷さえ元に戻すその能力を見て、ワレリーは目を細めた。
「君達は、私が今まで見た中でも最強の魔術師だ。だが、本国には報告しない」
「ありがとう、ございます」
鳴上は、花村の助けを借りてよろよろと立ち上がる。
霧が晴れると、鳴上が破壊したゴープラムがまたその威容を取り戻した。
先ほどまで異形の者が穿った地面や建物への穴も消え失せ、ゴープラムの下には黄色と黒の法衣を纏った男女四人が倒れている。
しかし、ワレリーの足元のイリーナが再び動くようなことはなかった。
「君達とは、また機会があるならば今度はもっと平和的に相対したいものだ。……До свидания」
踵を返し、ワレリーはスリ・マリアマン寺院から出て行った。
「……直斗、北島さんに後ろの四人の確保の依頼を。陽介、俺はもう平気だから、四人のうちの一人が持ってるはずの魔道書を確保してくれ。完二、済まないが少しだけ、寄りかかっても、いいかな?」
「全然平気じゃねーじゃんか、まあ行ってくるけど」
花村は鳴上の肩を巽に預け、電話をかけ始めた直斗を横目に見ながら気を失って倒れている男の手から魔道書を拾い上げる。
「先輩、大丈夫ッスか?」
巽が声を掛けると、鳴上は苦笑いを零した。
「正直な所、気力がギリギリ、といったところだ。魔力をギリギリまで使い切るとこうなるんだな。覚えておこう」
「先輩、無理しすぎッスよ。もっと、こう、自分を大事にしないと。……花村先輩だって、俺達だっているんスから」
「ああ。そうだ。……俺は本当に、幸せなのかも、しれな、……いな」
急に鳴上の体重のかかり方が変わり、巽が慌てて鳴上を抱きとめる。
気を失い項垂れた鳴上の顔から眼鏡が外れ、石畳の上でカランと音をたてた。
事件はここで収束。次回はいつものとおりネタバレ回(と水着回)。
それではまた次回お会いしましょう。