息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
037.星の輝きと地上の天使1
日付:12月16日火曜日
午後3時過ぎの八十稲羽は抜けるような晴天で、教室にもその光は燦々と降り注ぐ。お陰で教室の電灯は半分だけ、廊下側だけで充分だった。
「菜々ちゃん、一緒に帰ろう?」
同じクラスの友人である高梨真衣が声をかけると、堂島菜々子は笑顔で頷いた。
「いいよ!」
二人はランドセルを背負うと、仲良く八十稲羽小学校の校門へと向かう。
「今日は何して遊ぼうか?」
真衣の問いかけに、菜々子は少し考えてから口を開いた。
「でも先に宿題やらないと……」
「じゃ、一緒に宿題やったあとで遊ぼうよ!」
真衣の提案に、菜々子は満面の笑みを浮かべる。
「うん!」
2人は笑いながらいつもの通り正門を抜け、通学路として利用している住宅街の道を歩き始めた。
◇◇◇
身長は百六十センチと少し。ブルーブラックの少し癖がある髪をマッシュボブに切り揃え、美少年然とした整った顔立ちの青年が、八十稲羽の街を歩いていた。
一度降ったらしい雪は解け、住宅の陰に少し残るだけになっている。しかし冬の寒さはところどころにある水たまりに薄く氷を張っていた。
(寒いな、流石に)
青年は手に持った八十稲羽の地図で確認しつつ、ある電柱の前で立ち止まる。
黒いピンストライプのダッフルコートのファーを気にしつつ見上げれば、電柱の向こうに綺麗な青空が見えた。
「ここが小西早紀の発見現場、か」
呟きは、白い息とともに霧散する。足元を見ると、茶色く濁った色の小さなガラスの筒が括りつけられていた。フ、と青年と苦笑いを浮かべ、しゃがんでガラスの筒に触れ、ポソと何かの音を発する。フワ、と白い輝きにガラスの筒が包まれ、その光が消えると筒の茶色く濁った色はすっかりなくなり、新品とも見まごうほど透明になった。
満足気に青年は頷くと、ポケットの中からコーン型のお香が入ったジッパー付きビニール袋を取り出す。ビニール袋からお香を手に取ると両手で包み、また何か呟く。フワリと花の香りが辺りを包み、青年が左手をゆっくり開けると、ジャスミンやブーゲンビリアといった花が右手に載せられていた。彼は香りを振りまく花々をガラスの筒いっぱいに刺し、手を合わせた。
(あとは鮫川の河原に、……あれ?)
不意に何かの『悪意』を感じ、青年は眉根を寄せた。
落ちたジップロックを拾うと立ち上がる。
(……近い。人か、それとも──)
青年は辺りを見回し、悪意を感じる方向へ向け走りだした。
◇◇◇
「今週のラブリーンも面白かったね!」
菜々子が言うと、真衣も頷く。
「ライバルがピンチになったときにラブリーンが助けてて可愛いのにカッコ良かった!」
「うん、そうだね!」
菜々子と真衣は並んで歩いている。
「それで、……」
次の瞬間、真衣は黒く大きい車が後ろから近づいてくるのが見えた。
「え?」
黒いミニバンのスライドドアは開けられ、そこから伸ばされた手が菜々子の右腕とランドセルを掴む。
「きゃ」
呆然とする菜々子を飲み込み、ミニバンはスライドドアを閉めるとそのまま走り去った。
「き、きゃああああああああっ!」
真衣が叫んだ。
「な、菜々ちゃん!」
「くそ、間に合わなかったか……」
呟きが不意に耳に届き、真衣はビク、として振り返る。
そこには、黒いピンストライプのダッフルコートを着た青年が息を切らせながら立っていた。
「君、落ち着いて」
青年は真衣の瞳を覗き込みながら、両肩を掴んだ。
「僕があの車を追いかけるから、君は警察に通報してくれないか?」
真衣が、震えながら頷く。
青年はふう、と安心したように息を吐き、微笑んだ。
「じゃ、頼んだよ」
青年は車が走り去った方向へ駆け出す。真衣は家に向かって走りだした。
青年はビニール袋をポケットから取り出すと、右手でくしゃりと握りしめポソ、と呟く。
次に青年が手を広げると、ビニール製の鳥が彼の手から飛び立った。
「あの車を追いかけろ。見失うな!」
青年の命令に鳥は青年の頭上を一度旋回し、一直線に飛んで行く。
「緊急事態だ、仕方ない」
青年は自分に言い聞かせると、パルクールのように電柱を駆け上がる。そのまま住宅街の屋根伝いに鳥が飛んだ方向へ直線的に移動を開始した。
(八十稲羽を通る幹線道路では、高速道路へ抜けるには少し遠回りだったはず。ミニバンサイズであれば、峠を通って沖奈に抜けたほうが早い。待ち伏せるならば八十神山、か)
◇◇◇
稲羽署生活安全刑事課のデスクで報告書を作成していた堂島遼太郎は、タバコを吸おうと席を立った。
「堂島さん、電話が入っています」
同僚の言葉に、堂島は眉を顰める。
「わかった。回せ」
持って出たタバコを机に放り投げつつ、席に座り直す。
「はい、生活安全刑事課の堂島ですが」
『すみません、私は高梨真衣の母の美穂と申します』
その言葉に、堂島は自らの記憶を手繰り寄せた。
「確か、菜々子と同じクラスの」
堂島の言葉に、高梨はホッとしたように肯定する。
警察に電話するにはそれなりに勇気がいるだろう事が透けて見え、堂島は苦笑いした。「で、どういったご用件ですか?」
なるべく柔らかい口調で堂島が聞けば、電話先で一つ息を吐く音が聞こえた。
『あの、うちの子が、菜々子ちゃんが誘拐された、と言ってまして』
「……は?」
電話の向こうで、何かのやり取りがされている。
しかし、堂島にはその音が余り耳に入ってこなかった。
『あの、高梨、真衣です。あのう、菜々子ちゃんのお父さんですか?』
やや高い、少女の声が聞こえる。
「ああ、そう、だけど」
堂島は、それだけ答えた。
『菜々ちゃんと一緒に帰ってたら、黒い車から人の手が伸びてきて、菜々ちゃんを連れて行っちゃったの……』
「その、車の特徴は、解るかな?」
『黒くて四角い車。……何処かのお兄ちゃんが、自分が、車を追うから警察に連絡してくれ、って言ってたの』
グス、と鼻を啜る音が聞こえる。
恐らくは真衣が言っていることは正しいのだろう。となれば、早くしないといけない。
「真衣ちゃん、お母さんと代わって貰えるかな?」
それと同時に、堂島は電話を担当共通回線に切り替えた。同僚が次々と受話器を取る。
『もしもし、代わりました』
「菜々子が誘拐されたということであれば、誘拐犯の特定と誘拐犯を追っていった、という男性を特定する必要があり、娘さんにもう一度ちゃんと話を聞く必要があります。大変申し訳ないのですが、今から伺っても構いませんか?」
話の内容に、受話器を握った同僚たちからどよめきが起こる。
『はい、大丈夫です。菜々子ちゃんのためですもの、協力しますわ。ね、真衣?』
『うん、がんばる』
「それでは三十分以内にお伺い出来ると思うので、暫くお待ちください。それではまた、後ほど」
通話を終えると、堂島ははあ、と息を吐く。
「堂島さん、至急黒いワンボックスカーを対象に検問を張ります。後、高梨真衣ちゃんと男性以外の目撃証言が取れないか当たってみますよ」
同僚の友田が声をかける。
「堂島さんは、高梨さん宅で裏を取ってきてください」
「分かった。任せるぞ」
堂島は友田の肩を叩き、その場を後にした。
◇◇◇
研究所の一室。壁一面のモニターに山道が映し出されていた。
『コード、ピックアッパーよりセンターへ。ターゲットの確保に成功しました。ただ』
黒いワンボックスカーの助手席にいる男の言葉を、白衣を着た青年が遮る。
「うん、厄介な奴が来ているね。アベンジャーを八十神山に展開してるから、そこまで粘ってよ」
青年がそう言った時、エンジン音が急に大きくなった。
『うわっ』
ピックアッパー、と名乗った男の叫びがスピーカーに入るやいなや、バリバリと大きな音がして静かになる。
「シーカー、状況報告」
青年の命令に、やや間があいて通話回線が開いた。
『コード、シーカーより報告。ピックアッパーが大破沈黙、対象の生死は不明です』
「あっそう。じゃー、しょうがないねえ」
青年の言葉に、青年の隣に立っていた大柄な男がじろりと青年を見下ろす。
白衣を着た青年は、赤い髪を掻き上げ大柄な男を見上げた。
「どうするんだ? 瀬文」
大柄な男が腕組みをする。瀬文、と呼ばれた青年は一つ息を漏らした。
「厄介な奴を確保したいな。せっかく展開したんだ、アベンジャーを使おう」
大柄な男の眉がぴくりと上がった。
「それは構わないが、生死は?」
「問わないよ。最大戦力で攻撃、アイツが沈黙するまで思い切りやっちゃっていいから」
瀬文はクス、と笑う。
「本当に、いいんだな?」
念を押すように大柄な男が尋ねた。
「いやあ、アイツ相手なら殺しに行かないと無理だから。部下を死なせたくないなら本気でやってよ、井本クン?」
井本、と言われた大柄な男は表情を変えず瀬文を睨む。「全く、日本人は人を殺し慣れてないのが一番の問題だな」
瀬文は大仰に肩を竦めた。
「浜中にはどう説明するんだ?」
井本の問いに、瀬文はニヤ、と笑う。
「状況が変わったでいいよ」
瀬文の答えに、井本は眉間に皺を寄せた。
「それに、そんなに悲観的にならなくても大丈夫」
「どういう、事だ?」
「そのうちわかるよ。……やっと巡ってきたチャンスは、モノにしないとね」
瀬文はクスクス笑うと、井本を見上げた。「後は井本隊長率いる戦闘警備セクションに引き継ぐよ。井本クン、いい報告を期待してるからね」
瀬文は肩を竦め、部屋を出る。
扉が締まったあと、井本は舌打ちをした。
「センターよりシーカー、アベンジャーに通達。現場に残存する人物を最大戦力で攻撃、これを確保せよ」
『シーカー、了解』
『アベンジャー、了解』
部下に指示を出した井本は、戦況モニターを注視しだした。
◇◇◇
自分のスマートフォンがその着信を知らせた時、花村陽介は日本橋の某高級デパートを出た所だった。
『もしもし、白鐘ですが』
その声に、花村は日本橋駅の喧騒を避けるようにデパートのバックヤードに避難する。
「この時間に電話をかけてくるなんて珍しいな。どうした?」
『鳴上先輩にもお伝えいただきたいのですが』
白鐘直斗の声は若干緊張を帯びていて、花村はスマートフォンの通話音量のレベルを上げた。
「勿体ぶってるな。どうした?」
『菜々子ちゃんが誘拐されました』
「えっ?」
花村は思わず大きな声を上げてしまい、周りを見回す。
「……本当なのか?」
花村は声を潜めて聞き直した。
『僕も、先程稲羽署から応援要請が来て知りました。現在取り急ぎ現況資料を取り寄せている所です。八十稲羽には明日朝向かい、そこで堂島さんと合流する予定になっています』
「俺も行く、というか、何か手伝わせてくれ」
『完二君にも声をかけました。先輩も、鳴上先輩に声をかけていただけませんか?』
「分かった。すぐ電話する。詳しい情報が分かったら教えてくれ」
『承知しました。それでは、宜しくお願いします』
通話が切れるのと同時に、スマートフォンがまた着信を知らせる。液晶画面には『鳴上悠』と表示されていた。
「悠か?」
花村の問いに、電話の向こうから鳴上にしては余裕がない様子で返事が返ってくる。
『陽介、さっき完二から連絡が来た。菜々子が誘拐された、って本当なのか?』
「俺はさっき直斗から聞いたところだ。完二から連絡が行ったなら話は早いな」
『じゃあ、やっぱり……!』
「悠、お前だけで先行しようなんて思うなよ?」
花村は鳴上に釘を刺す。
「分かってんだろうな?」
しばらくの間があいた。
『……解ってる。これは、三年前のあの時と同じだ……!』
鳴上の声の端々が震えているのを感じ、花村は悲しそうに俯く。
「俺は今から家に帰る。悠は今どこにいるんだ?」
『……学校のゼミ室にいる』
「じゃあ、迎えに行くからな。そこを動くなよ?」
花村は言いながら、デパートのバックヤードを出てそのまま地下鉄東西線の改札をSuicaで通った。
『なんだ、信用がないんだな』
自嘲気味に鳴上は呟く。
「それこそ前科があるからな。……三十分以内に本郷に着くから、赤門前で待ち合わせな?」
『分かった。待ってる』
「じゃ、後で」
花村は通話を切ると、入線してきた三鷹行きの電車に乗り込んだ。
鳴上悠は、大学校舎内の片隅で切れた通話画面を見つめたまま、静かに拳を握りしめていた。
ついにはじまった禁断の菜々子ちゃん誘拐事件。
あの不穏勢はだれなんだ。
それではまた次回お会いしましょう。