息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:12月16日火曜日
八十神山へ向かった黒い車は、山道の途中で“あり得ない事故”を起こした。
「ターゲットの確保に成功しました。ただ」
黒いワンボックスカーの助手席にいる男の言葉を、通話先の人物が遮る。
『うん、厄介な奴が来ているね。制圧部隊を八十神山に展開してるから、そこまで走ってきてよ』
「うわっ」
男は思わず叫んだ。車がフワ、と浮き上がったのだ。
次の瞬間、車が真っ二つに『割れる』。分かたれた車の間には、菜々子が呆然とした顔で浮かんでいた。
◇◇◇
「僕だって、この位……!」
木々の影から姿を表した青年は瞳を青く輝かせて車ごと男達を崖に落とすと、菜々子をゆっくりと着地させる。
「大丈夫、かい?」
青年の言葉に、菜々子は泣き出した。瞳の色が青みがかった黒に戻った青年は、菜々子を優しく抱き寄せる。
「怖かったね、遅くなってごめん」
「お兄ちゃんは、誰なの?」
泣き腫らした目で菜々子が見上げると、青年は微笑んだ。
「僕の名は、南原。君の名は?」
「堂島、菜々子」
「菜々子ちゃんか、いい名前だね」
南原は眉間にシワを寄せ、周りを見回す。
「ごめん、追手が来ているみたいだ」
菜々子が、南原にしがみついた。
「怖いよ、お兄ちゃん」
菜々子の言葉に答えず、南原は菜々子と共に、繁みに身を隠す。
「大丈夫。僕が何とかする。僕を信じて」
菜々子の背中をさすってやりつつ、南原は辺りの気配を探り始めた。
(車八台、ヘリ四機、銃火器多数、……真っ直ぐこっちに来てるってことは、ここに残っているだろう僕達を本気で潰しに来てるか)
南原は菜々子をチラ、と見る。一度攻撃が始まれば、少女など吹き飛んで無くなってしまうだろう。
(できる事は、この子を逃がすことと、時間稼ぎだけ、か)
南原は目を閉じ、右手で菜々子の頭をやんわりと撫でる。
菜々子の姿形を脳裏に浮かべ南原が『音』を発すると、木々がピキピキ、という音とともに枝葉を枯らしハラハラと地面へと落とした。
「え、え? これって……?!」
菜々子が呆然としながら目の前の光景に釘付けとなる。
菜々子の目の前で、一体の『堂島菜々子』がゆっくりと形成されていた。
やがて、『堂島菜々子』はゆっくりと目を開け、菜々子と南原を交互に見る。
『君は僕と一緒に来るんだ。分かったね?』
南原の言葉に、『堂島菜々子』は一つ頷いた。
「菜々子ちゃんは、目を閉じて」
菜々子は、目を閉じる。
「南原の、お兄ちゃん?」
菜々子は呟くように聞いた。「菜々子は、……」
菜々子は白い光に包まれ霧散する。
「ますたー、どうやらはっけんされたようです」
『堂島菜々子』が南原を見上げる。「すぐにてったいすることをていあんいたします」
「解ってる。移動しよう」
「りょうかいしました」
二人は茂みの中を隠れながら移動し始めた。
◇◇◇
「雪子さん」
その声に、桃色の和装も麗しい天城雪子が振り返る。そこには、ブルーグレイの和装をしたベテランの仲居が困惑げに立っていた。
「どうしました?」
雪子が首をかしげると、そっと雪子の耳元に仲居が口を近づける。
「おしどりの間に滞在なさっているお客様、居るでしょう?」
おしどりの間、というワードから、雪子はある人物を導き出す。
「南原さんが、どうされました?」
「昼間に連絡があって、『もし五時を過ぎて戻らなければ食事は要らない、部屋はそのままで』っておっしゃっていたのだけれど、……」
雪子は腕時計を見た。時間は夜十時を回っていて、雪子は眉を顰めた。
「一度、南原さんに連絡を取ってみたらどうかしら?」
雪子の提案に、仲居は首を横に振る。
「3回位連絡してみたのだけれど、繋がらないの」
「えっと、……圏外、ってこと?」
仲居は頷いた。「前金で宿泊料金は頂いているから、今晩は様子を見ましょう? 明日朝になっても戻らないようなら、また連絡を入れましょうか」
「分かりました。そのように致します」
仲居は礼をし持ち場へ去っていく。
(戻らない、か……。何かに巻き込まれた、なんてことあるかしら?)
雪子は急に不安になり、窓から夜空を見上げた。
「こんな気持ち、三年前のあの頃以来だわ」
雪子は呟き、持ち場へ去っていく。
夜空に、流れ星が一つ音もなく落ちていった。
◇◇◇
日付:12月17日水曜日
『俺を呼んだのは、お前だな?』
深夜一時少し前。
世田谷区立梅丘図書館の屋上で、ロクテンマオウは一人の男と対峙していた。
男はロクテンマオウと同じ位の背丈であったが、スーツ姿で微笑するその姿からは全てのものを威圧するオーラを感じる。
「いかにも」
男は静かに言った。
「私が呼んだ」
『神羅、と言ったか? 俺にはお前と会う用はない。明日っから忙しいんだ、さっさと帰りな』
ロクテンマオウはプイ、とそっぽを向く。
「……それは、堂島菜々子殿と関係があるのかな?」
神羅の言葉に、ロクテンマオウは眉を顰め男へと向き直る。
『テメエ、何を知ってる?』
ロクテンマオウの問いに、神羅は口角を上げた。
「取引したい。お前の仲間と会わせてもらおうか」
ロクテンマオウは舌打ちし、しばし考える。
『俺たちは陰の存在。最終的には主達が決めることだ』
ロクテンマオウが念じると、ヤマトタケルが現れた。
『何? ロクテンマオウ。そして、おじさんは誰?』
ヤマトタケルがその華奢な体をロクテンマオウの後ろに隠しながらロクテンマオウに問う。
『アイツの名は神羅。俺を、この世界に呼び出した奴だ。そして、堂島菜々子のことで取引したい、と言っている』
『取引?』
ヤマトタケルが胡散臭そうな視線で神羅をジロジロと眺めた。
『このおじさん、信用できるの?』
『わからん』
ロクテンマオウは神羅と夢の中で対峙した時の強さを思い、歯噛みする。
『主、貴方ならどうする……?』
◇◇◇
夜明け前の稲羽署は、普段よりも騒がしかった。
無線機が短い音を立て、コピー機が休みなく紙を吐き出している。
仮眠用の椅子に腰掛けた刑事が缶コーヒーを煽り、眠気を誤魔化していた。
当事者である堂島遼太郎は、会議用テーブルの端に立ち、次々と差し出される資料に目を通していた。
「こちらが、八十神山中腹で発見された車両です」
若い刑事が現場写真を並べる。黒いワンボックスカー。
車体は、上から押し潰されたように歪み、真っ二つに裂けていた。
堂島は無言のまま、一枚一枚を見ていく。見ながら、どんどん表情が険しくなる。
(……事故じゃないな)
衝突痕がない。横転でもない。爆発にしては、周囲の焼損が少なすぎる。
「検問網からは外れていましたが、山道に入った形跡は確認されています。ただ……」
刑事が言葉を濁す。
「ただ?」
「現場付近で、奇妙な目撃証言がありまして」
堂島は視線を上げた。「近隣住民の話では、人影が屋根から屋根へ飛び移るように移動していたと」
一瞬、部屋の空気が止まる。堂島は、表情を変えなかった。
「……続けろ」
「はい。暗くてはっきりとは見えなかったそうですが、黒っぽいダッフルコートを着た若い男だったと」
その言葉に、堂島の胸がわずかに軋んだ。
(ダッフルコートの青年……)
それは、真衣の証言にあった人物だ。菜々子を連れ去った車を、追いかけていった男。
「他には?」
「目撃者の一人は、人間にしては、動きが速すぎたと……」
若い刑事は、言い終えてから慌てて付け加える。「ああ、もちろん、錯覚や誇張の可能性は高いと思われます」
「……そうだな」
堂島は短く答えた。机の上の写真に、もう一度視線を落とす。
車体の裂け方。金属のねじれ。周囲に残る、妙な足跡と破壊痕。
山中で、これだけの損壊。堂島の脳裏に、かつての光景が蘇る。
東京で刑事をしていた頃。海外絡みの事件。重武装の部隊が動いた後の、「現場」。
(……戦争でもあったか?)
無意識のうちに、そんな言葉が浮かぶ。だが、ここは八十稲羽だ。戦場になる理由がない。
「堂島さん」
声を掛けられ、顔を上げる。
「件の青年についてですが……身元は不明です。ただ、誘拐直後から車を追っていた可能性が高い」
「……敵か、味方か」
堂島は、ぽつりと呟いた。
菜々子を攫った側なら、わざわざ追う必要はない。救おうとしたなら、なぜ警察に連絡を取らなかった?
(……分からん)
だが、ひとつだけはっきりしている。菜々子は、あの車から生きて消えた。
「……堂島さん」
部下が、慎重に言う。
「娘さんの件ですが……」
「ああ」
堂島は資料を揃え、静かに立ち上がった。
「俺が行く」
声に、迷いはなかった。
「この事件は、まだ終わっていない。──それだけは確かだ」
堂島はコートを掴み、歩き出す。
正体不明の青年。あり得ない事故。そして、忽然と消えた娘。
(必ず、追いつく)
刑事として。父として。
堂島遼太郎は、そう心に決めていた。
◇◇◇
「悠、気持ちは分かるが、明日に影響がでるかもしれないだろ、」
花村陽介は目の前でカタカタ震えている恋人を優しく抱き寄せた。
リビングのソファで二人きり、花村と鳴上悠だけが僅かに熱を帯びるこの部屋が急に寒々しく感じられ、花村は眉根を寄せる。
(もう少し俺にも伝達力ってぇのがあったらな)
『陽介』
不意に呼ばれ、俯いていた花村は顔を上げる。
目の前に、高校の時の自分の現身として現れたスサノオが浮かんでいた。
「スサノオ、何だ?」
『もしかしたら、いい話を持ってこれるかもしれねえ。……俺が居ない間、鳴上を頼んだぜ?』
スサノオが、ニイ、と笑う。
『待て、俺も行く』
鳴上と同じ銀灰色の髪色の現身であるイザナギが現れ、スサノオの肩を掴んだ。
『主のことは心配だが、ヤマトタケルから呼び出されてるだろう?』
『ああ。……堂島菜々子のことで、取引したい、と言ってきやがったんだろ』
花村は、驚いて目を見開いた。
「なん、だと?」
『陽介、お前は来るなよ? 相手が何者か分かんねぇんだからな』
不意に、花村のスマートフォンが音声着信を鳴らす。画面には、『白鐘直斗』の文字が表示されていた。
「もしもし、俺だ」
『花村先輩ですか?』
あくまで冷静な口調の白鐘直斗の声がスピーカーから漏れる。
「ああ。今、スサノオがどっかに行こうとしててな」
『その件で連絡しました。今から車をそちらへ向かわせますので、夜遅い所申し訳ありませんが五反田の探偵事務所までご足労願えませんか?』
花村は、鳴上をチラ、と見た。鳴上は、俯き目を閉じている。
「俺は構わない。悠も、一緒に行くよ」
『お願いします。これから相手と交渉しますが、ペルソナ達だけではなく、僕達も話を聞いた方がいいと思うんです』
「そうだな。じゃ、車のほうはよろしく頼む」
『はい。車がそちらへ着いたら連絡させますので』
通話が切れると、花村は鳴上の肩をポン、と叩いた。
「悠、これから重要な話がある。……いつまでも凹んでばっかじゃいられねえぞ?」
鳴上はゆっくりと花村を見上げ、泣き笑いを浮かべる。
花村はスサノオとイザナギへ振り返った。
「こっちは大丈夫だ。車が来次第五反田に向かうから、お前らしっかり話してこいよ」
『任せろ』
スサノオとイザナギは口角を上げ、その場から消える。
花村は鳴上を腕を引いてソファから立たせた。
「折角向こうから来てんだ。俺達はやれることをやるだけだ。……そうだろ?」
「そうだな。ああ」
鳴上は頷くと、深く息を吐いた。
2話からもう色々書くことありまして たのしい!
(登場人物たちはめちゃくちゃ大変)
それではまた次回お会いしましょう。