息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:12月19日(金)
研究所の監視用コンソールルームでは、一人の男の声が響き渡っている。
『たっ、助けて、ください!』
スピーカーから聞こえる男の声は焦りきっていた。
『あいつら、使い魔を捉えて、!』
椅子を軋ませ、瀬文赤い髪を軽くかき上げた。
「……あのさあ。なんで、すぐ“助けてください”なのさ?」
『えっ』
向こうは言葉を失い、スピーカーには息遣いだけが漏れる。
「アンタもいい大人なんだからさ。そのくらいのトラブル、自力で何とかしなよ?」
『そんなこと言ったって! あいつら化け物を連れていて!』
言い訳がましくがなり立てる声に、瀬文はうんざりした顔のまま肩を竦めた。
「んもー……解った解った」
傍らのカフェラテをくい、と飲み干す。
「ここのフェンスを越えたら、保護してあげるから。……だから、そこまで走ってきてよ」
『……じゃ、助かる、んですか?』
「うん。君を選んだのは僕。期待して使い魔貸したんだからさ、がっかりさせないで?」
『は、はい!』
通信がプツリと切れた。
瀬文はノートに素早く図形を書き込み、机の上の小瓶を手に取って一滴垂らす。
「いあ……いあ……はすたあ……」
ポソポソと呟きが続く。
「……あい……あい……はすたー……」
やがてノートから黒い霧が立ち上り、異形が形作られていく。
頭と首は馬。ハチのような胴体。胸から腕、腹から足。背にはコウモリじみた膜翼。
『我を喚んだのは、貴様か?』
異形──ビヤーキーが瀬文を見下ろした。
「あのさ、ちょっとお使いを頼みたいんだよね」
瀬文はニヤリと笑い、ある音を発する。
『承知した』
黒い生物は音もなく姿を消す。
瀬文はあくびをし、研究室を出た。通路の向こうから顔を出した浜中と目が合う。
「どうした? 瀬文」
眼鏡越しに浜中が目を細める。瀬文は笑みを作って見上げた。
「ああ、浜中クン。研究は進んでる?」
「貴重なサンプルを持ってこないどころか、どこの馬の骨だか解らない男を連れてくるとは、どういうことだ?」
浜中の渋面に、瀬文は笑みを崩さない。
「アレは餌だってば」
浜中の眉がぴくりと動く。
「どういう意味だ?」
「種を蒔いて、やっと収穫できそうなんだ。野菜や果物を収穫する人達の気持ちが解った気がする。興味深いね」
「……俺はお前が分からんよ」
浜中は肩を竦める。
「費用の工面は感謝する。研究は続けられそうだ」
「そう来なくちゃ。大事な研究だからね」
瀬文は手をヒラヒラさせ、浜中の脇をすり抜けた。
「がんばってね、浜中クン」
浜中は振り返り、瀬文の背中をただ見ていたが、やがて同じように肩を竦めると別の研究室へ歩みを進めた。
◇◇◇
まだ日が上る前の八十稲羽は、静寂と冬の寒さに包まれている。
児童公園のジャングルジムの頂上には巽完二とロクテンマオウ。下には白鐘直斗とヤマトタケルが寄りかかっていた。
「直斗、準備はいいか?」
完二の声に、ロクテンマオウとヤマトタケルがふわりと浮かぶ。
「始めてください」
直斗の号令に、ロクテンマオウが口から白いモヤを吐き出した。
モヤは淡く光る白い玉へと変化する。
『お前の主はどこに居る?』
ロクテンマオウの問いに、玉は音もなく移動を開始した。
完二がジャングルジムを降りる頃、玉を追ってロクテンマオウとヤマトタケルが家々の向こうへ消えていく。
「あっちか」
完二が呟くと、直斗はクス、と笑った。
「うん? 何かおかしいことを言ったか?」
完二が見下ろすと、直斗は苦笑いで見上げる。
「いえ……本来現実のみを信じて行動すべき私立探偵である僕が、ペルソナや魔術といった不確かなものに頼っているのが面白かっただけです」
「ふうん、そんなもんか」
完二は肩を竦め、ペルソナが飛び去った方向へ顔を向けた。
「急ごう。大体の方向は分かるとはいえ、何があるか分かんねえからな」
「はい」
二人は児童公園を出て、走り出す。
その少し後。
ジャングルジムの影に、ふわりと二つの影が現れた。
『言ってくれれば、ついていくのにね?』
ハニーブラウンのツインテールを揺らし、久慈川りせの姿をしたカンゼオンが笑う。
『クマも、きっとお役立ちクマよ?』
赤と青に彩られた、クマの姿を模したカムイが大仰に肩を竦めた。
『面白そうだしさ、ついていっちゃう?』
カンゼオンがウィンクする。
『それは名案クマ!』
カムイが手を挙げた。
『邪魔しない程度に、お助けしちゃお?』
『そうと決まれば、れっつらごー! クマ!』
二体の影もまた、ふわりと空中へ飛び上がる。
『あっちクマ!』
カムイの楽しそうな声に、カンゼオンも笑みを浮かべて後を追った。
◇◇◇
「玉は……あのアパートに入っていったか……?」
完二と直斗は電信柱の影に隠れ、二階建てアパートを見守っていた。
玉はたしかに、二階の一室へ吸い込まれるように消えた。
直斗は眉を寄せる。
(監視の使い魔を飛ばしていた方は稲羽署を嗅ぎ回っていた気配と一致する。なら、ここで尻尾を切ろうとするのも……)
『直斗、僕様子を見て来ようか?』
ヤマトタケルが提案する。
「少しだけ待ってください。……考えます」
直斗が言い切るより先に、ロクテンマオウが異変に気づいた。
『まずい!』
「何が……」
完二が問うた瞬間、目の前のアパートが轟音と共に爆発した。
「直斗!」
完二が直斗を庇うように抱き寄せる。
熱風と破片が舞い、窓ガラスがはじけ飛ぶ音が連鎖した。
『玉の持ち主は確かにそこに居た。……だが、どうなったかは……!』
ロクテンマオウが肩を竦める。
周囲の家々に明かりが灯り始める。
人の声。犬の吠え声。遠くでサイレンの気配。
「……まずい。一度引きましょう」
直斗が苦い顔で言った。
「ヤマトタケル、申し訳ありませんが状況を」
直斗がヤマトタケルを見上げたとき、ヤマトタケルとカンゼオンとカムイが何か話しているのが目に入った。
「なっ……!?」
「お前ら、何してんだ!」
完二が叫ぶ。
『助けに来たクマ!』
カムイが満面の笑みで親指を立てた。
『カンゼオン、様子はどうクマ?』
『玉の主は、玉を壊してガス爆発を起こして逃げたみたいだよ?』
炎が映った金色の瞳をキラキラさせ、カンゼオンは笑う。
『やっぱりそうか』
ロクテンマオウが眉を顰める。
『あんなものを放つ奴が簡単に死ぬとは思ってなかったが』
『どうする? 後を追いかける?』
カンゼオンの問いに、直斗は頷いた。
「はい。彼は少なくとも行方をくらまそうとして、ここまでしています。僕らが追う敵の関係者である可能性は極めて高い」
『うん、解った!』
カンゼオンはヤマトタケルとロクテンマオウ、カムイの手を取った。
『じゃ、先にサーチしながら追いかけるから、……一つお願いしてもいいかな?』
「なんだ?」
『完二は、りせとクマを起こしてきて。直斗は私達の後を追って来てよ』
「分かりました」
直斗は頷く。
「完二君、至急りせさんとクマ君へ連絡を。位置は逐一知らせます」
「……分かった。気をつけろよ?」
「もちろんです」
ぽん、と完二が直斗の肩を叩く。
『ちぇー、完二ったら、あそこはチューするとこじゃん!』
「な、何を言ってるんですか!」
直斗が顔を赤らめると、ヤマトタケルが後ろからぎゅ、と抱きしめた。
『このくらいが丁度いいんだってば!』
『はいはい、解ったから先に行くクマよー?』
『やだ、待ってー!』
『ったく、お前ら真面目にやれ!』
四体の影が一斉に飛び去る。
直斗は一瞬だけ息を吐き、すぐに前を向いた。
「行きます。見失えません」
爆発現場が、消防車と警察車両のサイレンで慌ただしさを増していくのを背に、直斗は走り出した。
◇◇◇
「もしもし、こちら堂島」
階下から聞こえる不機嫌そうな声で、鳴上は目を覚ました。
薄暗い部屋の時計を見ると、朝五時少し前。堂島の出勤には早すぎる。
「なんだと?! 分かった、こっちに車を回せ。それから鑑識を先行させて、消防と連携を取らせろ。とにかく被害状況の確認だ。他の生活安全の連中にも声をかけろ」
鳴上は部屋着のまま階段を降りた。
顔を洗い、ワイシャツを着ている堂島と行き合う。
「叔父さん……」
「ああ、悠か。起こしてしまったな、すまん」
二人でリビングに向かうと、イザナギとスサノオが器用にお茶を淹れていた。
『寒いから、お茶を飲んでから行ったほうがいいと思う』
イザナギが笑う。堂島は苦笑いしながら湯呑みを受け取った。
「何があったんですか?」
「アパートがガス爆発を起こした」
スサノオが鳴上にも湯呑みを渡す。
「ガス爆発……」
「場所はここから車で二十分近くかかる。もうすぐパトカーがこっちに来る」
「……そうですか」
「なあに、今回の件とは関係ないさ。俺も初動だけ出たら、お前たちと合流する」
堂島はそう言ったが、鳴上は黙っていた。
──タイミングが良すぎる。
堂島が苦笑いを零す。
「……何もないのが取り柄だったこの街、か」
「そう、ですね」
鳴上は湯呑みを両手で包み、温もりを確かめる。
「あの時のように騒がしくなってきたな。ま、あの時は色々あったが……今度は轍は踏まん。何せ、今のところ全部解ってるんだからな」
堂島は周りのペルソナを見やった。
『任せとけ』
スサノオが金色の瞳を細めて笑う。
不意に玄関のチャイムが鳴った。
堂島は立ち上がり、同じく立ち上がろうとした鳴上を制止する。
「じゃ、行ってくる。お前たちは引き続き調査を頼むぞ」
「はい。いってらっしゃい」
ドアの向こうにパトカーが停まっている。堂島が出ていき、玄関の鍵が掛かる音がした。
鳴上はふう、と息を吐いた。
「アパートのガス爆発……タイミング的に、関係があると見て間違いないだろうな」
『ほんと、どうしてそんなに聡いかね?』
スサノオが頭をポリポリ掻く。
『主。できたら花村も交えて話をしたほうがいいかもしれない。……起きれば、だが』
イザナギが言う。鳴上はこたつの電源を入れた。
「分かった。起こしてくる」
鳴上が階段を上がっていく。
イザナギはその背を見送り、スサノオに向き直る。
『で、どこまで情報共有できている?』
『カンゼオンとカムイ、ヤマトタケルとロクテンマオウと直斗が敵を追ってる。完二がりせとクマを起こしてる真っ最中ってとこだな』
『俺と同じ情報か』
イザナギは目を閉じる。
『りせは起きたようだが、クマが中々起きないようだな』
『アイツ、結構寝汚いからな。携帯鳴らしても起きないの、しょっちゅうだぜ?』
スサノオが頭の上で手を組む。
『カムイが起こしに行かないと無理だろ、アレ』
『カンゼオンが能力を発揮できるなら、カムイが一時的に外れても問題はないか』
イザナギがぽそ、と何かを呟く。
スサノオはこたつに突っ伏し、呆れた顔をした。
『……お前って、たまに大胆だよな』
『そうか?』
『緊急事態だからって、直接念話で起こしに行くか? フツー』
『起きたなら良いだろう』
イザナギが立ち上がったところで、階段から足音がする。
寝不足顔の花村陽介が、鳴上に支えられながらフラフラと降りてきていた。
「……お前ら、起きてたのか」
『陽介、よく階段から落ちなかったなー?』
スサノオがからかう。花村はあくびを噛み殺した。
「まあ……悠が支えてくれたからな」
花村はこたつに足を潜り込ませる。
『花村、お茶でいいか?』
「おう……」
「で、スサノオ」
花村はスサノオを見る。
「何が起こってる?」
『さっき、八十稲羽の町外れのアパートで爆発事故が起きた』
「っ……!」
花村が息を呑む。
「被害は?」
『分からん。警察や消防が調べる』
「……そうか」
鳴上が花村の隣に座り、湯呑みを置いた。
「落ち着け」
「ああ」
花村が湯呑みに口を付けたとき、スサノオが口角を上げる。
『……そんで、ここから本題なんだが』
三人の視線が集まる。
『アパートを爆破した奴は、稲羽署を嗅ぎ回ってた“監視の使い魔”の主だ。あの、ぷにぷにしたやつな』
「見張ってた……?」
花村が眉を顰める。
「初めて聞いたぞ」
『そりゃそうだ。初めて言ったしな。完二と直斗からは言われてねーの?』
スサノオはフフ、と笑った。
「聞いてねえ……」
『まあ、俺が教えた所で、マークしてることがバレたら意味ねえだろ? そいつが何をするか分かんねーし』
鳴上はイザナギに視線を向けた。イザナギは済まなそうに目を逸らし、頭を下げる。
『済まない、主よ』
「……イザナギも同じスタンスか」
鳴上が息を吐くと、スサノオが続けた。
『ともかく、あっちは完二と直斗が追ってる。りせとクマも合流してる。直に居場所は掴めるさ』
スサノオは花村の肩をぽんぽん叩いた。
「そうだろうけどよ……」
花村は憮然とした顔で湯呑みを握る。
「もう少し俺達を信用──」
その瞬間。
花村の背中を、ぞわり、と悪寒が走った。
部屋の空気が“歪む”。冬の冷気とは違う、薄い膜が破れるような気配。
『陽介!』
スサノオが花村を抱え、部屋の端へ飛ぶ。
「ぐ、うっ……!」
花村は左肩を抑え、痛みに顔を歪めた。
「陽介!」
鳴上は叫び、ペルソナをコウリュウへ付け替える。
スサノオは何も見えない中空を睨み据えた。
『誰だ!』
返事の代わりに、黒い影がゆっくりとまとまり、異形の生物が現れる。
『我は、ハスターに仕える星間の駿馬。縁あって、その男を貰い受けに来た』
馬をかたどった顔から、言葉と共に黒い霧が漏れた。
『死にたくなくば、そこをどけ』
『そんなこと、させるわけねえだろ!』
スサノオが翡翠色の光を放つ。
『やるぞ、陽介!』
「解ってる……!」
コウリュウのメシアライザーが花村の傷を塞ぐ。
花村は歯を食いしばり、立ち上がった。
鳴上はイザナギを前に出す。
「ヨシツネ!」
イザナギは膝丸を現出させ、異形へ斬りかかった。
『やるな?』
ビヤーキーは鉤爪で受ける。だが、イザナギは無視するように花村へ視線を向けた。
花村は居間から庭へ飛び出し、そのまま空中へ舞い上がる。
「てめえは、何をしたい!」
唸るように問うと、ビヤーキーはニイ、と笑った。
『その疾風──いつまで維持できるかな?』
ビヤーキーは花村の速度に追いすがり、両手で叩き落とした。
「ぐあっ!」
花村が地面に叩きつけられ、出血で震える。
「陽介!」
鳴上が駆け寄ろうとすると、その前にビヤーキーが舞い降りた。
『邪魔をするな。星の神の恩寵を受けし者よ』
ビヤーキーは花村を鉤爪で器用に引き寄せ、首筋に噛み付く。
「ぁ……っ、ひ……あぁ……!」
悲鳴が漏れ、血が地面を濡らす。
「陽介ぇ!」
『主!』
イザナギが鳴上を護るように前へ出て斬りかかる。
『ほう。やはり貴様は邪魔だ』
ビヤーキーはぐったりした花村を背に乗せ、飛び上がった。
「陽介!」
鳴上の声が掠れる。
闇へ溶けるように、ビヤーキーは上昇する。
『この者は預かる』
鳴上が追うが、届かない。夜空の奥へ消える影。
「……そんな、こと……!」
地面に残された血糊に跪き、鳴上はうなだれた。
『主、俺ではあの速さには追いつけない』
イザナギがそばに降りる。
『済まない』
鳴上は肩を震わせ、泣いていた。
◇◇◇
「アイツ、どこまで行くんだろ!」
久慈川りせは憤慨しながらカンゼオンに話しかける。
「分かりません。が、りせさんにはご苦労かけますが見失わないようにお願いしますよ」
「追跡はりせちーにお任せ、ってね!」
『りせ。彼はどうやら富士山の方に向かっているようです』
カンゼオンは金色の瞳を細める。
りせ・クマと合流した完二と直斗は、各々のペルソナに運ばれながら“逃走者のタクシー”を追っていた。
爆発の混乱に紛れて逃げた主は、タクシーを拾い、そのまま八十稲羽の外へ出たのだ。
タクシーは河口湖周辺を抜け、富士山へ向かうルートをひた走る。
「富士山というと、例の研究所がある辺りですね」
直斗がヤマトタケルを見る。ヤマトタケルは頷いた。
『多分、向かう先は俺達が行く先だろうな』
ロクテンマオウがふむ、と唸る。
「それさえ分かりゃ、明日にでも乗り込んでぶっ潰してやる!」
完二が拳を握る。
「完二君。目的は南原さんの救出です。後始末はあの人達に任せましょう」
直斗の冷静なツッコミに、完二はバツが悪そうに頭を掻いた。
「そういや、そうだっけか……」
「この先、なんだか変な感じクマ」
クマが首を傾げる。「まるで、この先……鏡があるみたいな?」
「鏡?」
りせが振り返る。「この先もずっと森が続いてるじゃない!」
『りせ!』
カンゼオンが急に止まった。他のペルソナも空中で停止する。
「ちょ、待ってよ! アイツ先に行っちゃう!」
りせがカンゼオンを叩く。
『これ以上進めません』
カンゼオンは肩を竦めた。
「そんなー!」
りせが手を伸ばす。だが、何かに阻まれた。透明な壁。
「うそ……」
完二がガンガン叩く。
「どうすんだよ、どんどん先に行っちまうぞ!」
『待って! 上からなんかくる!』
ヤマトタケルが叫ぶ。
上空から飛来したのは黒い影だった。その背には、誰かが載せられている。
「何アレ?!」
りせがカンゼオンに尋ねる。だが影は意に介さず、タクシーを一撃で破壊した。
爆発。炎上。夜の森が赤く染まる。
影が旋回し、姿が見えた。
『馬……?』
カムイが首を傾げる。
『にしては、翼があったね?』
カンゼオンは呆然と下を向いた。
「ちょっと、カンゼオン?」
『……花村先輩が、載せられてた』
震える声でカンゼオンが呟いた。
『サーチをかけようと思ったけど、影が去るスピードが早くて……!』
「ヨースケが?!」
クマが泣きそうな顔で炎上する車を見つめる。
「嘘クマ! ヨースケは、センセイと一緒にいるはずクマ!」
『しかし、確かに……花村先輩と、絡め取られたスサノオが……』
カンゼオンがポロポロと涙を流す。
直斗は唇を噛み、視線を伏せた。
「……この場所は覚えておきましょう」
直斗が言う。
「一度八十稲羽に戻り、先輩達と合流すべきです。少なくとも、ここから先へは行けない。見えない壁の対策が必要です」
「そう、だな」
完二も頷く。
「今、俺達は何も出来ねえ。頭冷やして、やり方考えねーと」
「そうクマね……」
四人は名残惜しそうに影が消えた方向を見やり、来た道を引き返し始めた。
◇◇◇
「いやあ、ありがと!」
瀬文はビヤーキーを撫で、背に載せた花村を眺めた。
『造作も無い』
ビヤーキーはふん、と視線を背ける。
『だが、貴様の加護がなければコイツを連れてくることは出来なかったろう』
「うんうん! もっと褒めてくれてもいいんだからね!」
瀬文は花村を床に下ろし、ビヤーキーが血を吸った傷を舐めた。
すると、その傷がすうっと消える。
「うん……さすが地球でも最強に近いペルソナを扱うだけあって、血も美味しいや」
瀬文はニンマリと笑った。
『我は、次は何をすればいい?』
「僕がいいよって言うまで待機で」
『了解した』
ビヤーキーは黒い霧となって消える。
瀬文は花村の手を握り、その顔を覗き込んだ。
「ようこそ、疾風使い。……君が僕の手に落ちてくるのを、ずっと待っていたんだよ」
瀬文はうっとりと微笑む。
「僕のために──餌になってね?」
6話です。
やっと、中盤メインイベント「花村陽介の誘拐」までこぎつけた!
ずっと花村陽介強すぎ問題があったわけですが、ちょっと整理したらこんな描写になりました。
今後もこういう問題はあるんだろうなあと思いますが、インフレしない程度にがんばります。
それではまた次回お会いしましょう。