息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:12月20日土曜日
ごう、と唸るような熱風に思わず目を細めた。
落ちている。
そう理解した瞬間、視界いっぱいに赤黒い光が広がる。
俺と相棒──鳴上悠は、何もない空間に放り出されていた。
下から吹き上げる熱気が、まるでこの場所そのものが生きているかのように脈打っている。
「……スサノオ!」
叫ぶと、翡翠色の疾風が即座に展開された。
身体を包む風が落下の勢いを殺し、やがて俺たちは黒く硬い石の床へと降ろされる。
「叔父さんは?」
『無事だ。イザナギが降ろした』
不機嫌そうな声と共に、スサノオは顎で示す。
熱で揺らぐ空気の向こう、堂島さんとイザナギの姿が見えた。
「……なあ、これ」
俺は額の汗を拭いながら、周囲を見回す。
暗闇であるはずの空間は、中心にある“何か”によって照らされていた。
赤く、歪み、まがまがしく光る塊。
それは不定形のアメーバのように形を変えながら、周囲の石、土、空気、闇さえも引き寄せている。
それは光であり、熱であり、圧力だった。
「……最悪だな」
『ああ。状況は、な』
スサノオの声が低くなる。
その中心。蠢く触手の奥に、小さく、本当に小さく、人の影が見え隠れしていた。
「南原、か」
相棒が呟く。
驚いたことに、悠は薄く笑っていた。
「喜べ、陽介。ラストダンジョンまでショートカットだ」
「は? お前な、ここダンジョンじゃねえだろ。言うなら最終面だ」
思わず突っ込むと、悠はくく、と喉を鳴らす。
「細かいこと言うな」
「お前が言うな」
笑ってる場合じゃない。
分かってる。分かってるのに、どういうわけか笑ってしまう。
どうにもならなさそうな壁の前に立ったとき、人間は笑うしかなくなるらしい。
「なあ」
悠が真顔に戻る。
「俺が前に出る。叔父さんを後ろから走らせて、中心の人影まで行けるか?」
俺は即座に首を振った。
「却下だ。相変わらず無茶言いやがって」
「陽介」
「ペルソナもまとえないくせに、生身で突っ込むとか正気か?」
言い切ると、悠は一瞬だけ目を伏せ、それから笑った。
「……お前もその顔で言うか」
どうやら俺も笑っていたらしい。
「イザナミの時も、何とかなったろ」
「その理屈、毎回擦るなよ」
「うるせえ、一生擦っていくわ」
俺たちは肩を軽くぶつけ合う。
「とにかくだ」
俺は前を見る。
「道は俺たちで切り開く。叔父さんは、あの人影にペンダントをかけることと、自分の身の安全だけ考えてくれ」
キメ顔で相棒が言えば、堂島さんが近づいてきて、苦笑した。
「……非常識にも慣れてきたが、暑いな。冬だってのに」
「原因は全部、あれです」
俺が指さすと、堂島さんは深く息を吐いた。
「分かった。やれることをやろう」
イザナギが静かに構え、スサノオが俺の背に重なる。
少しだけ、熱が和らいだ。
火属性耐性。
こんなところで役に立つとはな。
「行くぞ、相棒」
「ああ」
俺たちは、赤く脈打つ光へと、一歩を踏み出した。
◇◇◇
白く、重たい霧が視界を塞いでいる。
それでも、足元に引かれた淡い光のラインだけは、はっきりと見えていた。
「……ほんと、気持ち悪いよね。これ」
巽完二が、光の線をまたぐように壁へ踏み込んでから、顔をしかめて振り返る。
「壁に入るって、こう……内臓が一瞬ズレる感じがするっていうかよ」
「ちょっと完二、言い方」
久慈川りせが肩をすくめる。
「まるで、うちのカンゼオンが変なことしてるみたいじゃん。ちゃんとしたナビだよ?」
「いや、りせが悪いって言ってるわけじゃ……」
「二人とも」
白鐘直斗が、歩調を落とさずに声を挟んだ。
壁を抜けた先は、研究所の内部であるはずだった。
天井を走る配線、壁面に残る警告灯、床に描かれた黄色いライン。
だがそれらは、霧に滲んで輪郭を失い、まるで“記憶の中の研究所”をなぞっているように見える。
現実と錯覚の境目が、ここでは曖昧だった。
「まだ敵が出ないとも限りません。今は……鳴上先輩たちに追いつくのが先です」
霧の向こうで、何かが動いた気がした。
直斗は一瞬だけ足を止め、周囲を見回す。
音はない。
距離感も、方向感覚も、曖昧なままだ。
「……そうだな」
巽は短く答え、前を向いた。
——そのとき。
遠くで、何かが転がるような金属音がした。
研究室で聞こえるような、器具が床に落ちる音。
だが振り返っても、そこにあるのは白い霧だけだった。
(そうとは、限らないかもしれないよ)
耳元を、冷たい声がかすめた。
巽は思わず足を止める。
「完二君?」
里中千枝が、不思議そうに見上げる。
「どうしたの?」
「……いや」
巽は頭を振った。
「なんでもねえっす」
霧は、相変わらず濃い。
だが、さっきまで視界の端にちらついていた異形の影は、いつの間にか消えていた。
(君は、僕に会わなければならない。そうでしょう?)
再び、声。
巽は反射的に周囲を見回す。
だが、見えるのは白い霧と、ぼんやりとした仲間たちの背中だけだ。
(早……く。こっちだよ)
言葉の途中が、ノイズに塗り潰される。
巽は顔をしかめ、ロクテンマオウの気配を探る。
『主、気をつけろ』
低い声が、頭の奥で響いた。
『この霧……“道”を歪めている』
「……チッ」
巽は小さく舌打ちし、歩みを早める。
光のラインが、わずかに揺らいだ。
——次の瞬間。
足元の感触が、変わる。
硬い床を踏んだはずなのに、踏み応えが、ない。
「……?」
一歩、進む。
仲間の気配が、急に遠くなる。「おい、待っ……」
声を上げかけた、そのときだった。
霧が、音もなく“折れた”。
視界が一瞬、真っ白に塗り潰される。
思わず、足を止める。
次に見えたのは、誰もいない通路だった。
「……は?」
巽は立ち止まり、振り返る。
光のラインは、どこにもない。
仲間の声も、足音も、聞こえなかった。
代わりに。
「やっと、二人きりだ」
はっきりとした声が、正面から聞こえた。
巽は、ゆっくりと拳を握る。
「……誰だ、てめえ」
霧の奥で、何かが動いた。
◇◇◇
巽は、しばらくその場から動けなかった。
仲間の気配が、ない。
声も、足音も、霧に吸われたまま戻ってこない。
「……おい」
小さく呼びかけてみる。
返事はない。
代わりに、遠くで何かが擦れるような音がした。
研究室で聞いたことのある、金属が床を引きずる音。
だが視界に映るのは、白い霧と、ぼやけた壁だけだ。
『主』
ロクテンマオウの声が、低く響く。
『ここは、先ほどまでの通路とは違う。座標が、ずれている』
「……ず、れ?」
巽は眉をひそめ、振り返る。
来たはずの方向に、壁はない。
あるのは、同じ色、同じ濃さの霧だけだった。
「冗談だろ……」
光のラインを探す。
床に描かれていたはずの誘導線は、影も形も残っていない。
『道が、消えた』
ロクテンマオウの言葉は短い。
『主は今、単独だ』
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
「……チッ」
巽は大きく息を吐き、拳を握る。
「つまり、迷子ってことかよ」
『違う』
即座に返る否定。
『選り分けられた』
巽は、ぞくりと背中を震わせた。
その言葉は、意味が分かりすぎた。
仲間から引き離された、というより、最初から「ここに来る前提」で並べ替えられていた、そんな感覚。
霧の中で、誰かが小さく息を吸う音がした。
「君は、いつもそうだ」
声が、静かに続ける。
「強い顔をしているのに、本当は一番、置いていかれるのを怖がっている」
霧が、わずかに揺れた。
「君は、ここに来るべきだった」
声は、今度ははっきりと正面から聞こえた。
距離は、近い。巽は一歩、前に出る。
同時に、ロクテンマオウがその背後に立った。
「……俺に用があるって言いてえのか」
「そうだ」
声音には、奇妙な親しみが混じっている。
懐かしさのような、嫌悪のような、判別のつかない感情。
「君は、僕のことを知っている」
「知るわけねえだろ」
「それでも、仲間は君を置いて先に行く」
その言葉に、巽の呼吸が一瞬だけ乱れた。
否定しようとして、できなかった。
過去の記憶が、霧の中に浮かび上がりかける。
だが巽は、歯を食いしばってそれを振り払う。
巽は吐き捨てる。
「俺は、てめえみたいなのと話した覚えはねえ」
霧の向こうで、何かが笑った気配がした。
「それは、君が忘れているだけだ」
次の瞬間。
霧が裂け、見えない“何か”が、空気を切り裂く音を立てて巽の頬をかすめた。
熱い痛み。血が、一筋、垂れる。
『主!』
ロクテンマオウが、低く唸る。
「これは、幻ではない」
巽は、ゆっくりと笑った。
「……なるほどな」
血を拭い、拳を上げる。
「やっと分かったぜ」
霧の中に向かって、言い放つ。
「てめえ、俺をここで止めるつもりだろ」
返事はない。だが、殺気だけが、確かにそこにあった。
巽は一歩、踏み出す。
「悪いな」
雷の気配が、空気を震わせる。
「俺、仲間のとこに戻る用事があるんだ」
霧が、静かにざわめいた。
11話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。
短い章ですが、ここで交通整理して次(巽完二と謎の人物)を書かないといけないので仕方なかった。
それではまた次回お会いしましょう。