ペルソナアフターパラレル   作:erupon

48 / 54
※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
 息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。

※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
 なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい


※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。

※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。


047.星の輝きと地上の天使11

 日付:12月20日土曜日

 

 ごう、と唸るような熱風に思わず目を細めた。

 落ちている。

 そう理解した瞬間、視界いっぱいに赤黒い光が広がる。

 

 俺と相棒──鳴上悠は、何もない空間に放り出されていた。

 下から吹き上げる熱気が、まるでこの場所そのものが生きているかのように脈打っている。

「……スサノオ!」

 叫ぶと、翡翠色の疾風が即座に展開された。

 身体を包む風が落下の勢いを殺し、やがて俺たちは黒く硬い石の床へと降ろされる。

「叔父さんは?」

『無事だ。イザナギが降ろした』

 不機嫌そうな声と共に、スサノオは顎で示す。

 熱で揺らぐ空気の向こう、堂島さんとイザナギの姿が見えた。

「……なあ、これ」

 俺は額の汗を拭いながら、周囲を見回す。

 

 暗闇であるはずの空間は、中心にある“何か”によって照らされていた。

 赤く、歪み、まがまがしく光る塊。

 それは不定形のアメーバのように形を変えながら、周囲の石、土、空気、闇さえも引き寄せている。

 

 それは光であり、熱であり、圧力だった。

 

「……最悪だな」

『ああ。状況は、な』

 スサノオの声が低くなる。

 その中心。蠢く触手の奥に、小さく、本当に小さく、人の影が見え隠れしていた。

「南原、か」

 相棒が呟く。

 驚いたことに、悠は薄く笑っていた。

「喜べ、陽介。ラストダンジョンまでショートカットだ」

「は? お前な、ここダンジョンじゃねえだろ。言うなら最終面だ」

 思わず突っ込むと、悠はくく、と喉を鳴らす。

「細かいこと言うな」

「お前が言うな」

 笑ってる場合じゃない。

 分かってる。分かってるのに、どういうわけか笑ってしまう。

 どうにもならなさそうな壁の前に立ったとき、人間は笑うしかなくなるらしい。

「なあ」

 悠が真顔に戻る。

「俺が前に出る。叔父さんを後ろから走らせて、中心の人影まで行けるか?」

 俺は即座に首を振った。

「却下だ。相変わらず無茶言いやがって」

「陽介」

「ペルソナもまとえないくせに、生身で突っ込むとか正気か?」

 言い切ると、悠は一瞬だけ目を伏せ、それから笑った。

「……お前もその顔で言うか」

 どうやら俺も笑っていたらしい。

「イザナミの時も、何とかなったろ」

「その理屈、毎回擦るなよ」

「うるせえ、一生擦っていくわ」

 俺たちは肩を軽くぶつけ合う。

「とにかくだ」

 俺は前を見る。

「道は俺たちで切り開く。叔父さんは、あの人影にペンダントをかけることと、自分の身の安全だけ考えてくれ」

 キメ顔で相棒が言えば、堂島さんが近づいてきて、苦笑した。

「……非常識にも慣れてきたが、暑いな。冬だってのに」

「原因は全部、あれです」

 俺が指さすと、堂島さんは深く息を吐いた。

「分かった。やれることをやろう」

 イザナギが静かに構え、スサノオが俺の背に重なる。

 少しだけ、熱が和らいだ。

 

 火属性耐性。

 こんなところで役に立つとはな。

 

「行くぞ、相棒」

「ああ」

 

 俺たちは、赤く脈打つ光へと、一歩を踏み出した。

 

 ◇◇◇

 

 白く、重たい霧が視界を塞いでいる。

 それでも、足元に引かれた淡い光のラインだけは、はっきりと見えていた。

「……ほんと、気持ち悪いよね。これ」

 巽完二が、光の線をまたぐように壁へ踏み込んでから、顔をしかめて振り返る。

「壁に入るって、こう……内臓が一瞬ズレる感じがするっていうかよ」

「ちょっと完二、言い方」

 久慈川りせが肩をすくめる。

「まるで、うちのカンゼオンが変なことしてるみたいじゃん。ちゃんとしたナビだよ?」

「いや、りせが悪いって言ってるわけじゃ……」

「二人とも」

 白鐘直斗が、歩調を落とさずに声を挟んだ。

 

 壁を抜けた先は、研究所の内部であるはずだった。

 天井を走る配線、壁面に残る警告灯、床に描かれた黄色いライン。

 だがそれらは、霧に滲んで輪郭を失い、まるで“記憶の中の研究所”をなぞっているように見える。

 現実と錯覚の境目が、ここでは曖昧だった。

「まだ敵が出ないとも限りません。今は……鳴上先輩たちに追いつくのが先です」

 

 霧の向こうで、何かが動いた気がした。

 直斗は一瞬だけ足を止め、周囲を見回す。

 音はない。

 距離感も、方向感覚も、曖昧なままだ。

 

「……そうだな」

 巽は短く答え、前を向いた。

 

 ——そのとき。

 

 遠くで、何かが転がるような金属音がした。

 研究室で聞こえるような、器具が床に落ちる音。

 だが振り返っても、そこにあるのは白い霧だけだった。

 

(そうとは、限らないかもしれないよ)

 

 耳元を、冷たい声がかすめた。

 巽は思わず足を止める。

「完二君?」

 里中千枝が、不思議そうに見上げる。

「どうしたの?」

「……いや」

 巽は頭を振った。

「なんでもねえっす」

 霧は、相変わらず濃い。

 だが、さっきまで視界の端にちらついていた異形の影は、いつの間にか消えていた。

 

(君は、僕に会わなければならない。そうでしょう?)

 

 再び、声。

 巽は反射的に周囲を見回す。

 だが、見えるのは白い霧と、ぼんやりとした仲間たちの背中だけだ。

 

(早……く。こっちだよ)

 

 言葉の途中が、ノイズに塗り潰される。

 巽は顔をしかめ、ロクテンマオウの気配を探る。

『主、気をつけろ』

 低い声が、頭の奥で響いた。

『この霧……“道”を歪めている』

「……チッ」

 巽は小さく舌打ちし、歩みを早める。

 光のラインが、わずかに揺らいだ。

 

 ——次の瞬間。

 

 足元の感触が、変わる。

 硬い床を踏んだはずなのに、踏み応えが、ない。

「……?」

 一歩、進む。

 仲間の気配が、急に遠くなる。「おい、待っ……」

 声を上げかけた、そのときだった。

 

 霧が、音もなく“折れた”。

 視界が一瞬、真っ白に塗り潰される。

 思わず、足を止める。

 

 次に見えたのは、誰もいない通路だった。

「……は?」

 巽は立ち止まり、振り返る。

 光のラインは、どこにもない。

 仲間の声も、足音も、聞こえなかった。

 代わりに。

 

「やっと、二人きりだ」

 

 はっきりとした声が、正面から聞こえた。

 巽は、ゆっくりと拳を握る。

「……誰だ、てめえ」

 霧の奥で、何かが動いた。

 

 ◇◇◇

 

 巽は、しばらくその場から動けなかった。

 

 仲間の気配が、ない。

 声も、足音も、霧に吸われたまま戻ってこない。

「……おい」

 小さく呼びかけてみる。

 返事はない。

 代わりに、遠くで何かが擦れるような音がした。

 研究室で聞いたことのある、金属が床を引きずる音。

 だが視界に映るのは、白い霧と、ぼやけた壁だけだ。

『主』

 ロクテンマオウの声が、低く響く。

『ここは、先ほどまでの通路とは違う。座標が、ずれている』

「……ず、れ?」

 巽は眉をひそめ、振り返る。

 来たはずの方向に、壁はない。

 あるのは、同じ色、同じ濃さの霧だけだった。

「冗談だろ……」

 光のラインを探す。

 床に描かれていたはずの誘導線は、影も形も残っていない。

『道が、消えた』

 ロクテンマオウの言葉は短い。

『主は今、単独だ』

 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。

「……チッ」

 巽は大きく息を吐き、拳を握る。

「つまり、迷子ってことかよ」

『違う』

 即座に返る否定。

『選り分けられた』

 巽は、ぞくりと背中を震わせた。

 その言葉は、意味が分かりすぎた。

 仲間から引き離された、というより、最初から「ここに来る前提」で並べ替えられていた、そんな感覚。

 

 霧の中で、誰かが小さく息を吸う音がした。

「君は、いつもそうだ」

 声が、静かに続ける。

「強い顔をしているのに、本当は一番、置いていかれるのを怖がっている」

 霧が、わずかに揺れた。

「君は、ここに来るべきだった」

 声は、今度ははっきりと正面から聞こえた。

 距離は、近い。巽は一歩、前に出る。

 同時に、ロクテンマオウがその背後に立った。

「……俺に用があるって言いてえのか」

「そうだ」

 

 声音には、奇妙な親しみが混じっている。

 懐かしさのような、嫌悪のような、判別のつかない感情。

「君は、僕のことを知っている」

「知るわけねえだろ」

「それでも、仲間は君を置いて先に行く」

 その言葉に、巽の呼吸が一瞬だけ乱れた。

 否定しようとして、できなかった。

 過去の記憶が、霧の中に浮かび上がりかける。

 だが巽は、歯を食いしばってそれを振り払う。

 巽は吐き捨てる。

「俺は、てめえみたいなのと話した覚えはねえ」

 霧の向こうで、何かが笑った気配がした。

「それは、君が忘れているだけだ」

 

 次の瞬間。

 霧が裂け、見えない“何か”が、空気を切り裂く音を立てて巽の頬をかすめた。

 熱い痛み。血が、一筋、垂れる。

『主!』

 ロクテンマオウが、低く唸る。

「これは、幻ではない」

 巽は、ゆっくりと笑った。

「……なるほどな」

 血を拭い、拳を上げる。

「やっと分かったぜ」

 霧の中に向かって、言い放つ。

「てめえ、俺をここで止めるつもりだろ」

 返事はない。だが、殺気だけが、確かにそこにあった。

 巽は一歩、踏み出す。

「悪いな」

 雷の気配が、空気を震わせる。

「俺、仲間のとこに戻る用事があるんだ」

 

 霧が、静かにざわめいた。

 

 




11話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。

短い章ですが、ここで交通整理して次(巽完二と謎の人物)を書かないといけないので仕方なかった。


それではまた次回お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。