息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:12月20日土曜日
霧が、音もなく割れた。
白い帳の向こうから、足音が一つ。
軽く、躊躇いのない歩調だった。
「……やっと、ちゃんと顔を向けてくれたね」
声は、思っていたよりも若い。
そして、どこか妙に——聞き覚えがある。
巽完二は、眉をひそめた。
「……は?」
霧の奥から現れたのは、赤い髪の男だった。
白衣を着崩し、片耳に金色のピアスを光らせている。
研究所の人間。
そう判断するには、あまりにも場違いな雰囲気だった。
「なあ」
巽は、低く言う。
「さっきからゴチャゴチャ言ってるが……てめえ、誰だ?」
男は、楽しそうに目を細めた。
「それ、今は大事かな?」
男の手には、いつの間にか剣が握られていた。
装飾過多で、実用性より意図を感じさせる意匠。
『主、警戒しろ』
ロクテンマオウの声が、重く響く。
『あれは……人間ではない』
「へえ」
巽は、肩を竦める。
「ずいぶん失礼なこと言うじゃねえか」
「言われてるよ?」
男はくすりと笑う。「でも、間違ってない」
次の瞬間。
空気が、震えた。
見えない刃が、複数、同時に放たれる。
巽は反射的に身を捻り、床を蹴った。
——遅い。
そう判断した直後、ロクテンマオウが前に出る。
『ジオ』
雷が、刃の軌道を弾き飛ばした。
火花が散り、霧が焼ける匂いが立ちこめる。
「……ッ!」
男は一歩、距離を取った。
その顔には、苛立ちではなく、満足が浮かんでいる。
「やっぱりだ」
男は、嬉しそうに言った。
「君は、期待を裏切らない」
「……何を知った風な口きいてやがる」
巽は、拳を鳴らす。
「俺は、てめえの実験台になる気はねえぞ」
「実験?」
男は首を傾げる。
「違うよ。これは……確認だ」
剣先が、巽を指した。
「君が、どこまで“絆”で立っていられるか」
その言葉に、巽の表情が変わる。
「……てめえ」
雷の気配が、周囲の空気を張り詰めさせた。
「それ以上、仲間のことを口に出すな」
ロクテンマオウが、巽の背後で大きく構える。
雷光が、床を走った。
巽は一気に踏み込み、拳を振り抜いた。
雷を纏った一撃は、確かな手応えとともに男の腹部を捉える。
「……当たった」
だが、次の瞬間。
男の身体が、殴られた衝撃ごとずれた。
骨も肉もあるはずの感触が、霧に溶けるように抜け落ちる。
「なッ……!」
背後。
巽の首筋を、冷たい風が撫でた。
「惜しい」
囁きは、耳元。
反射的に身を捻ると、剣が空を裂き、数本の髪が宙を舞った。
床に落ちたそれは、触れる前に黒く霧散する。
『主! 距離を取れ!』
「言われなくても!」
巽は後方へ跳び、ロクテンマオウと背中を合わせた。
「いいね」
男は剣を構え直す。
「その顔だ。君は、そうじゃないと」
次の瞬間。
雷鳴と、金属音が、霧の底で激突した。
◇◇◇
雷鳴が、霧の中で押し潰された。
巽完二は、床を転がる。
受け身は取った。だが、衝撃は確実に身体の奥へ残る。
痛みは、まだ来ない。
それが逆に不気味だった。
関節を動かすたび、数拍遅れて熱が追いかけてくる。
壊れている場所が、身体の内側で数を増やしていく感覚に、背中を冷たいものが流れる。
「……クソ」
喉の奥で、息が擦れた。
視界の端で、赤い影が揺れる。
男は、距離を詰めても来なければ、下がりもしない。ただ、待っている。
「どうした?」
余裕を含んだ声。
「さっきまでの勢いは?」
巽は歯を食いしばり、立ち上がる。
拳に力を込めるが、雷の立ち上がりが鈍い。
『主、無理をするな』
ロクテンマオウの声が、いつもより近い。
『この霧は、力だけでなく“判断”を削ってくる』
「……分かってる」
分かっている。だが、下がるという選択肢は、最初からない。
男が、ゆっくりと一歩踏み出した。
次の瞬間。
見えない刃が、同時に四方から襲いかかる。
四方ではない。
正確には、逃げ道だけを塞ぐ角度だ。
身体が自然に選ぶ回避先に、必ず一本、刃が待っている。
「ッ!」
巽は反射的に腕で顔を庇う。
皮膚が裂け、血が散った。
浅い。
だが、それが何本も重なる。
「はは……」
男は、楽しそうに息を吐く。
「いいね。ちゃんと、全部受けてる」
「……受けてんじゃねえ」
巽は、ふらつきながらも踏みとどまる。
「……避けきれねえだけだ」
足元が、ずるりと滑った。霧に覆われた床は、いつの間にか傾きを失っている。
『主!』
ロクテンマオウが叫ぶ。
だが、その声さえ、霧に滲む。
「焦ると、判断が遅れる」
男の声が、近い。
「それ、君の悪い癖だ」
刃が、肩を掠める。力が抜け、膝が折れた。
——まずい。
視界が、一瞬だけ暗くなる。
その闇の中で。不意に、声が重なった。
『完二君、無理は禁物です』
直斗の声。落ち着いた、いつもの調子。
『力押しは、君の長所だけど……弱点にもなります』
次に浮かんだのは、陽介の顔だった。
『お前さ、いっつも一人で背負おうとするよな』
『仲間いるんだからさ、頼れよ。……俺が言う事じゃないかもだけど、な?』
声は、優しかった。だからこそ、巽は歯を食いしばる。
もしここで倒れたら、この声は、「仕方なかった」と言ってくれる。
それが、何よりも腹立たしかった。
「……っ」
巽は、強く目を開ける。
「……うるせえ」
幻だ。分かっている。
「……が、今は、頼る」
地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
床に触れたはずの掌の感触が、途中で途切れた。
冷たいのか、熱いのかも分からない。
自分の身体がどこまで残っているのか、一瞬、分からなくなる。
ロクテンマオウが、再びその背後に立った。
『主』
声が、はっきりと戻る。
『まだ、立てるな?』
「当たり前だ」
巽は、血を吐き捨てる。
「俺は……」
男を、睨み据える。
「ここで、折れる役じゃねえ」
雷が、弱々しく、だが確かに、空気を震わせた。
男は、初めて眉をひそめる。
「……ほう」
その一言が、次の局面を告げていた。
◇◇◇
霧が、低く唸った。
巽完二は、息を整えようとしなかった。
整えたところで、追いつかないと分かっていたからだ。
肺が焼ける。関節が、軋む。
だが、立っている。
「……なあ」
巽は、ゆっくりと顔を上げた。
「一つだけ、教えてやるよ」
赤い髪の男は、黙って見ている。剣を下ろしもせず、構えも解かない。
「俺はな」
巽は、自分の拳を見る。震えている。力が抜けかけている。
「強えから、ここに立ってるわけじゃねえ」
雷が、かすかに空気を震わせた。派手さはない。ただ、消えていない。
「立ってるって決めたから、立ってるだけだ」
『主』
ロクテンマオウの声が、はっきりと重なる。
『力を、一点に』
巽は、頷いた。
「全部、ぶつける必要はねえ」
足を踏みしめる。床が、きしんだ。
「一歩、進むだけでいい」
次の瞬間。
雷が、一本だけ落ちた。
轟音ではない。閃光でもない。
だが、それは確かに道を切り開いた。
霧が、裂ける。
床に走る光が、一直線に伸びる。
男は、初めて後ろへ下がった。
「……なるほど」
声に、わずかな熱が混じる。
「君は、勝つつもりじゃない」
巽は、口角を上げた。
「当たり前だろ」
雷を纏ったまま、一歩、踏み出す。
「俺は……皆のところへ戻る」
男の剣が、再び上がる。霧が、再び濃くなる。
だが、先ほどとは違う。
雷は、消えていなかった。完二の足も、止まっていない。
衝突の直前。
ロクテンマオウが、静かに告げる。
『主、流れは……こちらに来ている』
巽は、前を見る。
「十分だ」
雷鳴が、再び走った。
◇◇◇
雷鳴が、三度、走った。
一本目は、道を切り。
二本目は、距離を奪い。
三本目は霧そのものを、拒んだ。
巽完二は、踏み込まない。
踏み込む必要が、もうなかった。
雷は、地面に深く突き立ち、光の柱となって空間を縫い止める。
霧が、その周囲から押し戻されるように薄れていった。
「……チッ」
赤い髪の男が、舌打ちをする。剣は、まだ上がっている。
だが、切っ先の向きが定まらない。
「ここまで、か」
呟きは、悔しさよりも観察に近い。
「君は、最後まで逃げなかった」
「……違う」
巽は、はっきりと言った。
「戻っただけだ」
次の瞬間。雷の柱が、砕けるように霧を押し広げた。
床の輪郭が戻る。
壁の配線が、天井の警告灯が、現実の色を取り戻していく。
男の身体が、霧と同じように揺らいだ。
「ここまでにしておくよ」
笑みは、薄い。
「君は、まだ折れていない。それを確かめられた」
「……二度目は、ねえからな」
巽は、拳を下ろさない。
「次は、ぶっ飛ばす」
男は、楽しそうに目を細めた。
「その台詞が聞けただけで、十分だ」
霧が、音もなく男を包む。次の瞬間、そこには何も残っていなかった。
雷が、消える。巽の膝が、がくりと落ちた。
「……っ」
『主』
ロクテンマオウが、すぐに支える。
『もう、いい。役目は果たした』
「……ああ」
息が、ようやく乱れた。身体のあちこちが、遅れて悲鳴を上げる。
「完二!」
霧の向こうから、声がした。
白い光のラインが、床に伸びる。
その先から、駆けてくる影。
「無事?!」
久慈川りせだった。その後ろに、直斗、千枝、雪子の姿が続く。
「……ああ」
巽は、力なく笑う。
「ちょっと、遅れただけだ」
「ちょっとじゃないよ!」
りせは、駆け寄って膝をつく。
「いきなり消えるんだもん、心臓止まるかと思った!」
「悪い……」
巽は、視線を逸らす。
雪子がメシアライザーを掛けると、巽が負った怪我が元どおり治っていく。
「完二くん、メシアライザーは掛けたけど……念の為、道中はあまり無理はしないで」
「うす」
巽は深呼吸する。
「でも、俺」
顔を上げる。
「ちゃんと、戻ってきた」
直斗が、静かに頷いた。
「……ええ。ルートが、今ははっきり見えます。霧の干渉は、かなり弱まっています」
「よし!」
千枝が拳を握る。
「じゃあ、先輩たちのところに急ごう!」
りせが皆を鼓舞すると、皆は一つ頷いた。
ロクテンマオウが、巽を抱え上げる。
(主、しばらくは無理をするな)
「……言われなくても」
巽は、目を閉じる。霧は、もう追ってこない。だが、あの視線だけは——背中に残っていた。
それでも。
足は、前を向いている。
12話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。
ペルソナ4のシリーズでおそらく初めてペルソナ4主人公と花村陽介と書かなかった章。
どっかしらに出てたからな彼ら……
ぶっちゃけ言えば、彼らと対話したくて小説書いてるまであるしな。
だから、ちょっと、P4R楽しみなんすよ。
それではまた次回お会いしましょう。