ペルソナアフターパラレル   作:erupon

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※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
 息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。

※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
 なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい


※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。

※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。


049.星の輝きと地上の天使13

 日付:12月20日土曜日

 

 

 地下最深部の空気は、音を吸っていた。

 途中で合流した特捜隊全員とともに、鳴上悠は一歩踏み出した。

 

 ここは、声が届く場所ではない。

 言葉も、怒号も、命令も、意味を持たない。

 赤黒い光が、空間の中心で脈打っている。

 それは炎ではなく、雷でもなく、まして霧でもなかった。

 熱と闇が、同時に存在しているとしか言いようのない異様な輝き。

 

 その前に、男が立っていた。

 裾の長い白衣、赤い髪。金色のピアス。白衣の中から垣間見える、薄青い光を放つ石。

 瀬文は、振り返らなかった。彼は、何かを見ている。

 それは人間ではない。それでも、確かにこちら側と繋がっているものだった。

「……あれが」

 誰かが、息を呑む音を立てた。完二か、千枝か、直斗か。

 鳴上には分からない。

 ただ、自分の中の何かが、不用意に踏み込むなと告げていた。

 瀬文は、ようやくこちらを振り返った。

「来たんだ」

 声は穏やかだった。敵意も、驚きもない。

 まるで、予定通りの実験結果を確認する研究者のように。

「思ったより、揃ってるね」

 鳴上、花村、堂島。そして仲間たち。

 視線が、一人一人を撫でるように巡る。

 値踏みではない。比較でもない。観測だった。

「ここが、終点だ」

 瀬文は、そう言った。「君たちが辿り着ける、最深部」

 花村陽介が、一歩前に出た。

「……南原は、どこだ」

 瀬文は、赤黒い光の中心を、指さしはしなかった。ただ、視線を向ける。

「そこにいる」

 光の奥。揺らぐ熱の中に、人の影が見え隠れする。

「まだ、生きている」

 その言い方が、花村の癇に障った。

「まだ、って……」

「正確に言うなら」

 瀬文は、淡々と訂正する。

「生きていられている」

 空気が、重くなる。

「君たちは、彼を救いに来た」

 瀬文は続ける。

「だが、彼はここまで来たんだ」

 赤黒い光が、わずかに強まる。

「恐怖を受け入れ、否定され、壊され、それでも残ったものを……」

 

 鳴上は、直感的に理解した。

 この男は、説得される相手ではない。

「……それで」

 鳴上は、静かに問う。

「俺たちに、何をさせるつもりだ」

 瀬文は、少しだけ笑った。

「選ばせるつもりはないよ」

 視線が、堂島に向く。

「もう、選択は終わっている」

 堂島遼太郎は、無言でその視線を受け止めた。拳銃は、まだ抜いていない。

 瀬文は、満足そうに頷いた。

「いい位置だ」

 そして、こう言った。

「ここから先は。……君たちが何をしても、意味を持たない」

 その言葉に、誰も反論できなかった。

 なぜなら、 瀬文は一度も嘘をついていないからだ。

 彼は、深淵に立っていた。

 

 そして、人間は。まだ、そこに届いていなかった。

 

 ◇◇◇

 

 最初に動いたのは、花村陽介だった。

 言葉は、もう要らなかった。

「——ッ!」

 踏み込みと同時に、空気が裂ける。床を蹴った衝撃が遅れて伝わり、赤黒い光の中に翡翠色の線が走った。

 

「——スサノオ!」

 

 呼び名は、合図ではない。確認だ。

 花村の背後で、スサノオが完全に顕現する。放たれた風が爆ぜた。

 直線ではない。 狙いも定まっていない。

 感情のままに放たれた突風が、瀬文へと叩きつけられる。

「……なるほど」

 瀬文は、避けなかった。

 足元の影が揺れ、空間が歪む。

 風は、瀬文の“少し手前”で軌道を変え、何もない場所を切り裂いた。

「速い。だが」

 瀬文の声は、淡々としている。

「測定できる」

 

 次の瞬間、重力が裏返った。

 上下の感覚が反転し、花村の身体が強引に引き戻される。

 スサノオの風が、悲鳴のように鳴った。

「くッ……!」

『陽介!』

「分かってる!」

 花村は歯を食いしばり、風を叩きつける。

 加速と減速を同時にかける、無茶な軌道。

 制御ではない。理屈を捨てた動きだった。

 風が、瀬文の目前まで迫る。

 一瞬——白衣の裾が、揺れた。

 

 ほんの一瞬。だが確かに、瀬文は半歩、後ろへ下がった。

 空気が、止まる。

 花村は、それを見逃さなかった。

 鳴上も、完二も、堂島も。

 

「……ああ」

 瀬文が、低く息を吐く。黒い気配が、わずかに乱れた。

「これは……」

 彼は、花村を見る。

「観測に向かない」

 

 次の瞬間、空間が閉じた。風は霧に押し返され、深淵は沈黙する。

 花村の身体が、床に叩きつけられた。

「ぐっ……!」

 スサノオが即座に彼を包み、衝撃を殺す。

「……クソ」

 花村は、立ち上がろうとして、膝をついた。呼吸が荒い。だが、目は逸らさない。

「逃げんのかよ」

「違う」

 瀬文は、静かに答えた。

「進むだけだ」

 その視線は、もう花村を見ていなかった。

 赤黒い光の中心にいる、南原へと向いている。

 花村は、理解した。

 これは勝負ではない。殴り合いでも、決着でもない。

 

 ◇◇◇

 

 風が止んだ。

 

 正確には、風が意味を失った。

 赤黒い光の前で、花村は肩で息をしながら立っていた。

 膝は笑い、喉の奥がひりつく。それでも、目だけは瀬文から逸らさなかった。

「……やっぱ、ダメか」

 吐き捨てるような声だった。

 鳴上は一歩前に出る。完二、千枝、直斗も、それぞれ間合いを取る。

 誰かが合図を出したわけではない。自然に、連携が始まった。

 

「行けるところまで、行く」

 

 鳴上の声は低い。命令ではない。確認だった。

 応えるように、皆が動く。

 直斗の指示が飛ぶ。千枝と完二が前に出る。

 花村が、再びスサノオの風を纏う。

 攻撃は単発ではない。間断なく、連続する。

 

 瀬文は、それを受けながらも立っていた。

 だが、完璧ではなかった。

 白衣に、裂け目が走る。足元の影が、わずかに遅れる。

 黒い気配が、瀬文の動きに追いつかなくなる。

「……ふむ」

 瀬文は、初めて考え込むように間を置いた。

「ここまで来たか」

 彼は、人間たちを見回す。怒りはない。焦りもない。

 それは、計算をやり直す視線だった。

「だが、再現性が低い」

 瀬文は、ぽつりと呟く。

「個体差が大きすぎる。感情のノイズが、邪魔をする」

 赤黒い光が、強く脈打つ。

「……近道を使うか」

 その言葉に、鳴上は即座に反応した。

「やめろ」

 瀬文は、聞いていなかった。

 彼は、中心の光へと歩み寄る。熱と闇の中に、人の影が揺れている。

「供物という言葉は、嫌いかな?」

 軽い調子で、瀬文は言った。

「でもね、これは合理的だ」

 指先が、空間をなぞる。魔法陣が立ち上がる。破壊のためのものではない。

 

 収束と短縮。

「彼は、すでに“向こう側”に半分足を踏み入れている」

 瀬文の声は、静かだった。

「なら、最後まで使わせてもらう。君たちが、ここまで来るための——」

 鳴上が叫ぶ。

「南原を、道具にするな!」

「道具?」

 瀬文は、首を傾げた。

「違う。これは、出口だ」

 赤黒い光が、急速に収束を始める。空間そのものが、内側へと折り畳まれていく。

 花村は、直感的に悟った。

「……このままじゃ、全部持ってかれる」

 戦いではない。これは、切り上げだ。

 瀬文は、もう勝敗の土俵にいない。

「もう潮時か」

 独り言のように、瀬文は言った。

「君たちは、十分だ。だが」

 視線が、鳴上たちに戻る。

「続きには、向いていない」

 魔法陣が、完成に近づく。このままでは、届かない。

 力の問題ではない。論理が違う。

 鳴上は、歯を食いしばった。

 

 ◇◇◇

 

 空間が、収束を始めていた。

 赤黒い光は、もはや拡散しない。

 外へ向かう力を捨て、内側へ、内側へと折り畳まれていく。

 それは攻撃ではない。終わらせるための魔法だった。

「……まずいな」

 鳴上が、低く呟く。

 スサノオの風が、意味を失い始めている。

 吹き荒れていたはずの疾風が、透明な壁に阻まれ、削がれていく。

「逃げる気かよ……!」

 花村が歯を食いしばる。だが、瀬文は振り返らない。

「逃げる?」

 淡々とした声。

「違うよ。切り上げるだけだ」

 魔法陣が、完成に近づく。

 その中心に立つ瀬文の姿が、少しずつ曖昧になる。チカチカと瞬く胸元の青い光。

 白衣の輪郭が揺らぎ、影が足元から剥がれ始めていた。

 

 ——このままでは、届かない。

 鳴上も、花村も、それを理解していた。力が足りないのではない。土俵が違う。

 

 そのとき。

 一歩、前に出た影があった。

「……ちょっと、いいか」

 堂島遼太郎だった。誰もが、一瞬だけ彼を見る。

「堂島さん……?」

「動くな」

 短く、しかしはっきりとした声。堂島は、ゆっくりとホルスターに手を伸ばした。

 拳銃を抜くその動きに、迷いはない。だが、覚悟だけがあった。

 瀬文が、初めて堂島を見る。

「面白いね。まだ、そこに立つ気かい?」

「立つさ」

 堂島は答えた。「俺は、父親だからな」

 それ以上、言葉はなかった。

 

 引き金が引かれる。

 

 乾いた発砲音が、空間を裂いた。魔法でも、風でもない。ただの弾丸。

 それは、瀬文の身体を貫いた。心臓ではない、淡く光る場所を。

 

「……ああ」

 瀬文が、小さく息を吐く。魔法陣が、ひび割れた。

 収束していた光が、制御を失って散る。「なるほど……」

 

 彼は、胸元——いや、自分を形作っていた核に手を当てた。

 撃ち抜かれたそれは光を失い、パラパラと崩れ始めている。

「これは……効くね」

 笑った。本当に、軽口だった。

「人間側の現実で、構築を壊されるとは」

「やはり……そうか」

 堂島は、口元に笑みを浮かべる。

「お前が持ってるその石と似たものを持っていてな」

 上着のポケットに入れた石が、その存在を主張した。

「あとは……刑事のカンだ」

 黒い気配が、瀬文から離れ始める。逃げるのではない。見限るように。

「カン、かあ……」

 瀬文はにい、と笑顔を作る。

「……もういいよ」

 瀬文は、どこか満足そうに呟いた。

「ログは取れた。ここまでだ」

 空間の奥で、何かが応答した気配があった。

 名も、声もない。ただ、意識だけ引き上げられる。

 瀬文は恍惚とした顔でその流れに任せ、最後に鳴上たちを一瞥した。

 

「じゃあね。……ニンゲン」

 

 それが、瀬文の最後の言葉だった。

 白衣が霧に溶け、影が砕け、身体は、形を保てなくなる。

 それは、立っているのではない。そう見えているだけだ。

 黒い存在感が、背後から引いていく。逃走でも、撤退でもない。

 接続が、静かに断たれていく。空間の奥で、圧が変わる。

 音はなく、声もない。ただ、世界の“重さ”だけが、わずかに書き換えられた。

 

 

 霧が、ほどける。白衣が、影が、輪郭が……順番に意味を失っていく。

 瀬文は、崩れた。破壊されたのではない。消滅したのでもない。

 ここに留まる理由を、失っただけだった。

 静寂が、落ちる。

 

 堂島は、銃を下ろした。

 手が、わずかに震えている。誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 この場で起きたことを、誰も即座に英雄譚にはできなかったからだ。

 

 赤黒い光は完全に失われ、地下空間は、ただの広い空洞へと戻りつつあった。

「……終わった、のか?」

 誰かが、かすれた声で呟く。

「終わった、というより」

 鳴上が、静かに答えた。「降りたんだ」

 堂島遼太郎は、何も言わなかった。

 彼は、ポケットの中でペンダントを強く握りしめた。

 

 

 




13話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。

謎の男瀬文と特別捜査隊との戦いがメインですが。
幕引きはやっぱりこの人でした。(やりたかった)

結局こいつ何だったんでしょうね。


それではまた次回お会いしましょう。
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