ペルソナアフターパラレル   作:erupon

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※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
 息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。

※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
 なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい


※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。

※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。


051.星の輝きと地上の天使15

 日付:12月20日土曜日

 

 最初に鳴ったのは、誰かの荒い呼吸だった。

 

 それが自分のものだと気づいて、鳴上悠はゆっくり息を整える。

 周囲はまだ薄い霧に包まれているが、異界の圧は明らかに後退していた。

 

「……全員、聞こえるか」

 声を張る必要はなかった。それでも、返事が欲しかった。

「大丈夫だ、ここにいる」

 花村陽介が手を上げる。その声に、少しだけ余裕が戻る。

「千枝、問題なし!」

「……私も平気。火傷はないわ」

 里中千枝と天城雪子が続く。二人とも息は荒いが、立っている。

「完二は?」

「生きてるっす。……ちょっと、しびれてるっスけど」

 巽完二は肩を回しながら答えた。無理に明るく振る舞っているのが分かる。

「直斗」

「はい。……問題ありません。軽い擦過傷だけです」

 白鐘直斗は、すでに周囲を観察し始めている。

 眼鏡の位置を直す仕草が、いつも通りで少し安心した。

「りせ、クマ」

「いるよ、先輩。……ごめん、頭がちょっとクラクラする」

「クマもだいじょうぶクマ! ちょっとSP足りないだけクマ!」

 久慈川りせは額を押さえ、クマは胸を張る。無理はしているが、立てている。

 鳴上は、最後に一人だけ視線を向けた。

「……叔父さん」

「ああ」

 短い返事だったが、声はしっかりしている。

 鳴上は、最後にもう一度数える。

 

 全員、いる。

 

 鳴上は、静かに息を吐いた。

 全員、ここにいる。

 

 鳴上は、一人だけ視線を落とした。

「……南原」

 堂島遼太郎が、その名に反応して一歩前へ出る。南原は、床に横たわったまま動かない。

「呼吸はあります。浅いですが、安定しています」

 直斗の報告に、堂島は短く頷いた。

「よし」

 それだけで十分だった。

 鳴上は、皆の顔を見回す。血の匂いは薄い。だが、疲労は明らかだった。

「回復を優先する。無理はするな」

 その言葉を合図に、ペルソナの光がいくつか灯る。

 回復魔法の柔らかな輝きが、静かに広がった。

 誰も言葉を発しない。ただ、傷が癒え、呼吸が整っていく。

 戦いは、確かに終わっていた。鳴上は、最後にもう一度数える。

 

 やはり、全員いる。誰も欠けていない。

 

 それを確認した瞬間、胸の奥に溜めていたものが、少しだけほどけた。

「……よし」

 鳴上は、静かに言った。

 

 そのときだった。

 足元で、微かな振動が走った。ほんの一瞬。だが、確かな感触。

 鳴上は、顔を上げる。

「……直斗」

「ええ」

 直斗も、同じものを感じ取っていた。

「まだ、終わっていません」

 その言葉に、誰も異を唱えなかった。

 全員が生きている。だが、ここに留まれる保証はない。

 鳴上は、拳を握る。

「──次は、出る準備だ」

 静かな声だったが、全員に届いた。

 

 ◇◇◇

 

 振動は、最初は錯覚のようだった。

 床の下を、何かが通り過ぎた気がする。それだけだ。

「……来る」

 直斗が、低く言った。

 次の瞬間、地面が大きく揺れた。重たい衝撃が足元から突き上げ、瓦礫が音を立てて転がる。

「うわっ!?」

「ちょ、ちょっと待って、これ本気でヤバくない!?」

 りせが思わず声を上げ、クマがバランスを取る。

「落ち着け!」

 鳴上が叫ぶ。

「全員、姿勢を低く!」

 天井の一部が、ひび割れる。細かな破片が雨のように降り注ぎ、空気が一気に濁った。

 堂島は、南原をかばうように身を寄せる。

 銃に手を伸ばすが、すぐに意味がないと判断して手を離した。

 

 問題は、敵ではなかった。

 空間そのものが、限界を迎えている。

「瀬文が消えた影響ですね」

 直斗は周囲を見回しながら、冷静に言葉を選ぶ。

「この施設は……いえ、この空間自体が、外なる力によって無理やり形を保っていました。その支えがなくなった」

「つまり?」

 千枝が叫ぶ。

「崩壊します。時間の問題です」

 答えは、簡潔だった。

 再び、大きな揺れ。遠くで、金属が引き裂かれるような音が響く。

「……ここには、もういられない」

 花村が、珍しく軽口を挟まずに言った。

「マジかよ……」

 完二が舌打ちをする。

 床が、また一段低く沈んだ。鳴上は、全員を見回す。

 ここで迷えば、全員が飲み込まれる。だが、焦っても意味はない。

「……切り替える」

 短く言う。

「ここはもう戦場じゃない。脱出優先だ」

 その言葉に、誰も異論を挟まなかった。

 

 世界は、確実に崩れ始めている。

 それは、敵意も悪意もない、ただの現象だった。

 だからこそ、容赦がなかった。

 天井の奥で、大きな破断音が鳴る。鳴上は、前を見据える。

「時間がない。急ぐぞ」

 その言葉を合図に、全員が動き出した。

 

 ◇◇◇

 

 床の揺れが、はっきりと周期を持ち始めていた。

 

 一度大きく沈み、少し戻り、また沈む。

 建物が呼吸をしているような、不気味な感覚だ。

「……りせ、どうだ」

 鳴上の問いに、りせは一瞬だけ目を閉じた。

 呼吸を整えるように、胸に手を当てる。

「……ダメ」

 短く、しかしはっきりと言う。

「地上に向かうルート、途中で途切れてる。先が……ない」

 その言葉に、空気が一段重くなる。

「見えねえ、ってことか?」

 完二が訊ねる。

「ううん。見えないんじゃない」

 りせは首を振った。

「存在してない。空間が、途中からごっそり落ちてる」

 床が、また一段揺れた。

「……やはり、ですね」

 直斗が静かに頷く。

「この振動の伝わり方と、空間の歪み方から見て、通常ルートは既に崩落しています。おそらく、連結部から順に」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

 千枝の問いに鳴上は即答した。

「別ルートを探すしかない。直斗、他に抜け道は?」

 直斗は周囲を見回す。

 天井、壁、床など、歪みの残る構造を一つ一つ確認する。

「……あります」

 断言だった。

「貨物用の縦シャフト。通常は封鎖されていますが、この崩れ方なら、まだ“残っている”可能性が高い」

「りせ?」

「……うん、そこ、かろうじて繋がってる」

 りせは額を押さえながら、続ける。

「ただし、長くは持たない。今も……徐々に落ちてる」

 言葉の直後、遠くで鈍い轟音が響いた。

「決まりだな」

 花村が、肩を回す。

「寄り道してる暇はなさそうだ」

「クマ、転移は使えるか?」

 鳴上が問う。

「今すぐはムリクマ! でも、縦シャフトまで行ければ……なんとかなるかも!」

「十分だ」

 鳴上は全員を見回す。

「南原を優先する。移動は、ペルソナで支援。全員で行く」

 誰も異論を挟まない。

 直斗が先行し、りせがナビを取る。

 千枝と完二が左右を固め、雪子が後方を警戒する。

 堂島は、南原をしっかりと抱え直した。

「……行くぞ」

 鳴上の合図と同時に、全員が動き出す。

 背後で、何かが崩れ落ちる音がした。

 だが、振り返る者はいない。

 ここは、もう戻る場所ではなかった。

 

 ◇◇◇

 

 縦シャフトの前に辿り着いたとき、天井が大きく軋んだ。

 金属が引き裂かれる音が、頭上から降ってくる。

 暗い縦穴の奥で、何かが崩れ落ちていく気配がはっきりと伝わってきた。

「……まだ、繋がってる」

 りせが息を詰める。

「でも、ギリギリ。このままじゃ、数分ももたない」

「十分だ」

 鳴上は即答した。

 直斗が縦穴の内部を見上げ、素早く判断を下す。

「通常の昇降は不可能です。ですが、ここを“座標”として固定できれば……」

「クマ!」

「分かってるクマ!」

 クマは一歩前に出ると、両手を広げた。その体から、柔らかな光が滲み出す。

「全員、近くに集まるクマ! できるだけ、密着してほしいクマよ!」

「密着って……今それ言う?」

 完二が苦笑するが、すぐに従う。

 千枝と雪子が位置を詰め、直斗がりせを支える。

 堂島は南原を抱えたまま、クマのすぐ後ろに立った。

 

 床が、また一段沈んだ。

 

「急げ!」

 鳴上の声が響く。クマは目を閉じる。

「……クマは、ここが終点じゃないって信じてるクマ!」

 次の瞬間、光が弾けた。足元から、円形の魔法陣が広がる。

 床のひび割れをなぞるように、光が走り、空間そのものを固定していく。

「……負荷が大きい」

 直斗が歯を食いしばる。

「クマ、保てますか?」

「ギリギリ……クマ!」

 縦穴の奥で、崩落が始まった。黒い影が落ち、風圧が吹き上がる。

 魔法陣が揺れ、光が一瞬、途切れかけた。

「クマ!」

 りせが叫ぶ。

「……大丈夫クマ!」

 クマは声を張り上げる。

「みんながいるから、クマは踏ん張れるクマ!」

 鳴上は、イザナギを顕現させる。

「支えるぞ!」

 イザナギの光が、魔法陣に重なる。

 千枝と雪子も、それぞれのペルソナの力を添えた。

 これは戦闘ではない。ただ、落ちないように踏みとどまる行為だった。

「今だ!」

 直斗が叫ぶ。

「落ちるなよ!」

 花村が、歯を食いしばって声を重ねた。

 クマは、最後の力を振り絞る。

「……行くクマ!」

 光が、一気に収束した。

 足元の感覚が消える。上下も、前後も、分からなくなる。

 ただ、一瞬だけ。全員が、強く引き寄せられる感覚を覚えた。

 

 次の瞬間。

 冷たい空気が、肺に流れ込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 光が、反転する。

 一瞬、内臓をひっくり返されるような感覚が走り、次の瞬間には、確かな地面の感触が足の裏に戻っていた。

 冷たい夜気が、肺に流れ込む。

「……着いた、のか」

 巽が、呆然と呟いた。

 

 霧はない。

 赤黒い光も、崩れゆく異界の轟音も、もうどこにも存在しなかった。

 研究所の正面玄関の前である。

 見上げれば、冬の空。

 雲の切れ間から、淡く白みはじめた夜明け前の色が覗いていた。

「……戻ってきたんだな」

 鳴上の低い声に、誰も異論を挟まなかった。

 堂島は、腕の中を見やる。

 抱えてきた南原は意識を失ったままだが、呼吸は安定している。

 首から下げられたペンダントも、その輝きを失わず、確かにそこにあった。

 状態が、さっきと変わっていないことを確認し、堂島は小さく息を吐いた。

「全員、いるな?」

 自然と出た言葉だった。

「はい。全員、確認できます」

 直斗が即座に答える。

 千枝はその場にへたり込み、地面に手をついた。

「……あー……よかった……」

「本当に……」

 雪子も、静かに息を吐く。

 クマはぺたんと座り込み、空を仰いだ。

「外の空気……ちゃんと現実クマ……」

 りせが、その様子を見て小さく笑う。

「うん。ちゃんと、帰ってきたね」

 花村は少し遅れて、周囲をぐるりと見回した。

 誰も欠けていないことを確認すると、肩から力を抜く。

「……生きてるな。全員」

「ああ」

 鳴上が、短く頷いた。

 

 そのときだった。

 

「……おかえり」

 聞き覚えのある声に、鳴上は顔を上げる。

 研究所の外灯の下、地上で待機していた二人の男が立っていた。

 鳴上友樹と、雅也。

「父さん……」

「無事で何よりだ」

 友樹は一歩近づき、全員を見渡す。

「……本当によくやったな」

 その一言で、張り詰めていたものが、ふっと緩むのを鳴上は感じた。

「後始末は、こっちで引き受ける」

 雅也が短く告げる。

「増援はもう入ってる。研究所関係者も、関係者は確保済みだ」

 遠くで、現実のサイレンの音が鳴っていた。

「……あとは、大人の仕事だな」

 堂島が苦笑する。

「そういうことだ」

 友樹は頷く。

「今日はもう、休め。全員だ」

 

 誰も反対しなかった。

 冬の冷たい空気の中で、彼らは確かに地上へと帰還した。

 




15話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。

鳴上さん、あんまりにも強大な敵を相手にしすぎて何回も全員いることを確認するの図。
キモチは分かるし、自分も書いててちょっとスンとしてたけれど、うちの鳴上悠ならそのくらい石橋叩く。間違いない。

クマのトラエスト。
あの呪文、ドラクエのリレミトもそうなんだけど、よくわからんで使ってたんですよねぇ…。今も「こんな表現で大丈夫か?」とは思うけど、うちではこういうことになりました。


それではまた次回お会いしましょう。
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