息をするように主人公と花村くんがお付き合いしています。
※P4だけじゃなくP3成分も入ってきてます。
なおこの小説を書いたときはまだP5発売されておりません。こわい
※Pixiv二掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※クトゥルフ神話成分がしみしみですよろしくお願いいたします。
※ちょっと痛そうな表現ありますが、タグはこれで大丈夫なはず!だめだったら言って…
※ボーイズラブタグが有効になりました。編集するのはそろそろやめようと思うので、OKな人はぜひ引き続きどうぞ。
日付:12月23日火曜日
白鐘探偵事務所は、相変わらず静かだった。
事件が終わったあとだというのに。
いや、終わったからこそ、なのかもしれない。
古い木の床。窓から差し込む冬の光。
どこにでもある、少し手狭な部屋。
なのに、空気が重い。
俺はソファに腰を下ろし、無意識に指を組んでいた。
(……落ち着け)
自分に言い聞かせるが、どうにも身体が言うことをきかない。
背後にいる気配が、原因だ。
『……主よ』
低く、張りつめた声。
ロクテンマオウは、俺の背後に立ったまま、微動だにしていなかった。
いつもなら、もう少し尊大な態度を取るくせに、今日は違う。
警戒している。
本気で。
反対側では、ヤマトタケルが静かに腕を組んで立っている。
こちらは逆に、感情を表に出さない。観察者の顔だ。
そして、机の向こう。
白鐘直斗は、眼鏡を押し上げながら、湯気の立つマグカップに視線を落としていた。
「……君が呼び出した相手は、もうすぐ来るはずだ」
「ああ」
短く答える。
直斗は、それ以上は聞いてこなかった。聞かなくても分かっている、という顔だ。
この場にいる全員が、薄々感じている。
まだ終わっていない。
ドアが、ノックされた。 コン、コン。
やけに控えめな音だった。
「……どうぞ」
直斗の声に応じて、ドアが開く。
「よ」
軽い声。だが、どこかよそよそしい。
立っていたのは、七瀬だった。
同じ学校で、何度も顔を合わせた。雑談もしたし、くだらない話で笑ったこともある。
なのに。
「……久しぶり、だな」
「そうだね」
七瀬はそう言って、小さく笑った。
けれど。その笑みは、どこか作られたものだった。
視線が、俺の後ろに流れる。
ロクテンマオウ。ヤマトタケル。
一瞬だけ、七瀬の表情が硬くなる。
「……そっか。二人ともいるんだ」
『……』
ロクテンマオウは、何も言わない。
だが、雷を帯びた気配が、わずかに強まった。
七瀬は、それを感じ取ったのか、肩をすくめる。
「大丈夫。今日は、喧嘩しに来たわけじゃない」
俺は、真正面から七瀬を見る。
「……あの霧の中で、俺が見たもん」
言葉を選ぶ。
「お前、知ってるだろ」
七瀬は、少しだけ目を伏せた。
それから、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
「……うん」
短い返事。だが、それだけで十分だった。
ロクテンマオウが、低く唸る。
『主……これは』
「分かってる」
俺は、小さく頷いた。
ここから先は、もう事件の後始末じゃない。
理解するための時間だ。
そしてきっと聞いてしまえば、戻れない話でもある。
七瀬は、顔を上げる。
その目は、友達を見るものではなかった。
「巽君」
名前を呼ばれる。「……どこから、話そうか」
事務所の時計が、静かに音を立てていた。
霧は、もう外にはない。だがこの部屋には、まだ残っている。
◇◇◇
「……じゃあ、巽君」
七瀬は、指を組んだまま言った。
「まず、ひとつだけ確認させてほしい」
「なんだよ」
「君は、『スサノオがなぜ最初から現世にいたのか』を知りたいんだよね」
胸の奥が、わずかに軋む。
「ああ」
短く答える。七瀬は、少しだけ息を吐いた。
「それともうひとつ」
視線が、俺の背後へ向く。
「『なぜ花村先輩だったのか』。そこも、だ」
『……』
ロクテンマオウが、低く唸った。雷の気配が、ほんのわずかに強まる。
「結論から言うよ」
七瀬は、それを無視するように続けた。
「偶然じゃない」
直斗が、眼鏡の奥で目を細める。
ヤマトタケルは、相変わらず黙っている。
「誰かが、用意した」
七瀬の声は、淡々としていた。
「……用意、だぁ?」
思わず眉をひそめる。
「誰だよ。そんなことができる奴」
七瀬は、すぐには答えなかった。
代わりに、窓の外を一度だけ見やる。
冬の空。風は、弱い。
「ハスターはね」
七瀬は、静かに言った。
「風に近い」
「は?」
「拡散する。……境界を越える。……形を持たず、どこにでも入り込む」
言葉を並べながら、七瀬は指先で空をなぞる。
「瀬文が使っていた力も、あれは深淵というより」
七瀬は少し遠くを見る目をした。
「風に混じったものだった」
その言葉に、背筋が冷える。
霧。侵食。気づけば、そこにあるもの。
「だから、対になるものが必要だった」
「……それが、スサノオか」
七瀬は、小さく頷いた。
「風を裂く風、境界を越えるものを、押し戻す力」
『……』
今度は、ヤマトタケルがわずかに視線を動かした。
「でもな」
俺は、首を振る。
「スサノオは、花村先輩のペルソナだろ? だったら、なんで最初から出てきたんだよ」
七瀬は、少し困ったように笑った。
「そこが、一番ややこしいところだ」
そして、言った。
「巽君。……花村先輩は、普通に生きてたね?」
「……ああ」
「戦う理由もなかったし、立ち上がる必要もなかった」
それは、事実だ。
「だから」
七瀬の声が、わずかに低くなる。
「立ち上がれるようにした」
空気が、張りつめる。
『……誰が』
ロクテンマオウが、初めて口を開いた。
七瀬は、一瞬だけそちらを見る。そして、視線を俺に戻した。
「僕だよ」
静かな声。だが、重かった。
「瀬文が、裏で何を準備しているか、……全部は分からなかったけど」
七瀬は、一つため息を付く。
「……ろくでもないことだけは、分かってた」
七瀬は、指を組み直す。
「だから、カウンターを置いた。ハスターに近い力に、対抗できる存在を」
「……勝手にかよ」
思わず、そう漏れる。七瀬は、苦笑した。
「そうだね。でも、僕が直接手を出すよりか、マシだったんだ。……本当だよ」
直斗が、静かに口を開く。
「……それが、花村先輩だった理由は?」
七瀬は、少しだけ考えてから答えた。
「風に、耐えられたから」
「耐える?」
「流されない。でも、逆らいすぎない」
七瀬は、俺を見る。
「巽君、……君は、花村先輩をどう思う?」
急に振られて、言葉に詰まる。
「……無茶するし、ヘラヘラしてるし……でも、折れねえ」
「そう」
七瀬は、静かに頷いた。
「だから、スサノオは立ち上がった。何もしなくてもじゃない。壊れずにいられたからだ」
その言葉が、胸に落ちる。ロクテンマオウが、俺の背後で息を整えるのが分かった。
「……アザトースの魔女は?」
直斗が問う。七瀬は、少しだけ目を伏せた。
「気づいてはいたよ。でも、あの人は観測する側だ。介入は、しない」
短い沈黙。
「……結果として」
七瀬は、そう締めくくった。
「風は、風で押し返された。世界は、守られた」
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
答えは、出た。
でも、すべてを飲み込めたわけじゃない。
ロクテンマオウが、低く唸る。
『……スサノオ』
その名を出しただけで、空気が、さらに張りつめた。
七瀬は、それに気づいたのか、話を切る。
「ここまでにしよう。これ以上は……聞かせない方がいい」
その言葉が、妙に重かった。風が、窓を鳴らす。
外では、何も起きていない。
だが、俺の中では、確実に何かが動いていた。
◇◇◇
七瀬は、一度言葉を切った。
出されていた茶に口をつける。
俺は、その様子を伺っていた。
話が一区切りついた、というより。
これ以上踏み込めば、どこかを壊すと分かっている人間の間合いだ。
「……もう一つ、聞きたいことがある」
俺がそう言うと、七瀬は小さく頷いた。
「鳴上先輩の親父さんと、叔父さん」
言い淀む。
あの二人の背中を思い出すと、どうしても言葉が慎重になる。
「……あの人たちも、最初からこっち側だったのか?」
七瀬は、少しだけ首を傾げた。
「こっち側って言い方は、正確じゃないかな」
「じゃあ、どういう」
「選ばれたわけじゃない」
七瀬は、はっきり言った。
「力を与えられたわけでもない」
直斗が、黙って聞いている。ヤマトタケルも、口を挟まない。
「羽というきっかけはあったにせよ、……ただ、知ってしまっただけだ」
「……知った?」
「世界の裏側を。人が、簡単に壊れるってことを」
七瀬の声は、淡々としていた。
「普通なら、逃げる。見なかったことにする。自分には関係ないって言って」
それは、責める言い方じゃない。事実の羅列だ。
「でも、あの人たちは違った」
七瀬は、視線を上げる。
「逃げなかった。黙らなかった。……忘れなかった」
それだけで、十分だった。
「ペルソナってのは」
七瀬は、言葉を探すように少し間を置く。
「才能じゃない。もちろん、資格でもない」
俺は、無意識に拳を握る。
「選び続けた結果だ」
その言葉が、胸に落ちる。
「そうか……」
鳴上先輩の親父さんと、叔父さん。
前に出るときは出て、下がるときは、ちゃんと下がる。決して、主役になろうとしない。
「詳しいことは、僕も全部は知らない」
七瀬は、少し肩をすくめた。
「知ってるのは、ここまでだ。それ以上は……本人たちの話になる」
「……十分だ」
俺は、そう答えた。
無理に全部知る必要はない。あの人たちは、逃げなかった。
それだけで、尊敬するには足りる。
『……主よ』
ロクテンマオウが、静かに言う。『人とは、弱い』
「ああ」
『だが、弱さを理由に退かぬ者もいる』
「……そうだな」
七瀬は、そのやり取りを見て、少しだけ目を細めた。
「だから」
ぽつりと、言う。
「君たちの戦いは、偶然じゃない」
風が、窓を揺らす。外は、相変わらず平穏だ。
だが、俺の中では、霧が少しずつ晴れていく感覚があった。
七瀬は、深く息を吸ってから言った。
「……次で、最後にしよう」
その言葉に、俺は頷いた。もう一つ、聞かなきゃならない。
聞いたら、きっと、もう戻れない。
◇◇◇
七瀬の言葉が途切れた、その瞬間だった。
──空気が、変わった。
はっきりとした音があったわけじゃない。
何かが壊れたわけでもない。ただ、押し返されるような感覚。
背後で、ロクテンマオウの気配が膨らむ。
『……主』
低く、慎重な声。さっきまでの緊張とは、質が違う。
「……来たか」
俺がそう呟いた瞬間、直斗が小さく息を呑んだ。
「これは……」
ヤマトタケルが、初めて一歩前に出る。視線は七瀬ではなく、さらに向こうを見ていた。
──風。
窓は閉まっている。それなのに、カーテンがわずかに揺れた。
『……スサノオ』
ロクテンマオウが名を呼ぶ。
返事は、ない。だが、確かに、いる。
七瀬は、その変化を感じ取ったのか、ほんの一瞬だけ表情を曇らせた。
「……やっぱり、共有されるよね」
「何がだよ」
「僕の話」
七瀬は、ゆっくりと言った。
「ロクテンマオウは出続けている側だ。だから、情報が遮断されない」
直斗が、静かに補足する。
「ペルソナ同士の共鳴……というより、知覚の共有に近いですね」
その言葉が終わる前に、風圧が、部屋を押した。バン、と窓が鳴る。
『……』
今度は、ヤマトタケルが、無言で剣の柄に手を置いた。
戦う構えじゃない。備える構えだ。
「……怒ってる、ってわけじゃねえよな」
俺がそう言うと、七瀬は苦笑した。
「怒ってる、とは違うかな」
少し間を置いて、続ける。
「気に入らない、だ」
「うわ、厄介だな」
「でしょ」
七瀬は、肩をすくめた。
「自分が選ばれた理由を、誰かが用意したって形で知らされるのは……」
言葉を濁す。でも、十分だった。
『……』
風が、低く唸る。声にはならない。けれど、感情ははっきりしている。
──納得していない。
『主よ』
ロクテンマオウが、俺にだけ聞こえる声で言う。
『あれは、誇り高き者だ』
「ああ」
『自ら立ち上がったと思っていたはずだ』
「……だろうな」
だからこそ、今は荒れている。七瀬は、視線を伏せた。
「だから、ここまでだ」
きっぱりと。
「これ以上は、言わない」
「言えば、あの風は……もっと荒れる」
直斗が、頷く。
「妥当な判断ですね」
ヤマトタケルも、ゆっくりと一歩下がる。風が、少しずつ収まっていく。
完全には消えない。だが、暴れ回る気配はなくなった。
七瀬は、立ち上がった。
「巽君」
名字で呼ばれる。
「君が戦ったことは、無意味じゃない」
七瀬は、ただ微笑んだ。
「でも……全部を知る必要も、ない」
俺は、黙って頷いた。正直、頭はまだ追いついていない。
でも、ひとつだけ分かる。
この話は、誰にでも聞かせていいものじゃない。
七瀬は、ドアの前で一度立ち止まる。
「……それと」
振り返らずに言った。
「花村先輩に、よろしく」
その一言で、七瀬が友人に戻った気がした。
ドアが閉まる。
事務所に残ったのは、俺と直斗と、二体のペルソナ。
『……嵐は去ったな』
ロクテンマオウが、そう呟く。
「いや」
俺は、息を吐いた。
「嵐は……中に残ったまんまだ」
風は、もう吹いていない。
だが、確かに、共有されてしまった真実は、そこにあった。
◇◇◇
七瀬が去ったあと、白鐘探偵事務所には静けさが戻った。
さっきまで確かにあった緊張の名残だけが、空気の底に沈んでいる。
直斗は机に戻り、眼鏡を外してレンズを拭いていた。
それは、考え事をするときの癖だ。
「……全部を知った、という顔ではないですね?」
不意に、そう言われる。
「当たり前だろ」
俺はソファに深く座り直した。
「知ったっていうより、聞かされた、って感じだ」
直斗は、軽く頷いた。
「それで十分だと思います。理解と納得は、別ですから」
窓の外では、風が止んでいた。
さっきまで、確かにそこにあった気配も、今はない。
『……』
ロクテンマオウは、いつもの位置に戻っていた。
威圧も、緊張も、もうない。
ただ、どこか、考え込んでいるようだった。
「なあ」
俺は、天井を見上げたまま言う。
「俺たちがやったこと、意味はあったんだよな?」
『無論だ』
ロクテンマオウの声は、いつもより穏やかだった。
『知らずに振るわれる力より、選んで振るわれた力のほうが、遥かに重い』
「……だよな」
全部が計算されていたわけじゃない。誰かに用意された部分も、確かにあった。
それでも、戦ったのは、俺たちだ。選んだのも、退かなかったのも。
直斗が、ふと窓の外を見る。
「日常、ですね」
「だな」
俺も、そちらを見る。
車の音。人の声。いつもの街並み。
クリスマスが近いからか、なんとなく浮足立つ喧騒。
世界は、何事もなかったみたいに続いている。
「……先輩たちに、この話は?」
直斗の問いに、俺は少し考える。
「言わねえよ」
「そうですか」
「知る必要がある奴と、ねえ奴がいる。……それだけだ」
直斗は、否定しなかった。
それが答えだと分かっている顔だった。
『……風は』
ロクテンマオウが、ぽつりと言う。
『荒れることもある。だが、必ず止む』
「……だといいな」
俺は立ち上がり、ジャケットを羽織った。
ドアに手をかける前に、一度だけ振り返る。
探偵事務所は、いつも通りだった。
何も変わっていない。
でも、俺は、少しだけ変わった気がする。
「明日、例のところで」
「はい」
直斗の答えを背に受け、外に出る。
冷たい空気が、肺に入る。風が、頬をかすめた。
「……行くか」
誰にともなく呟く。霧は、もうない。
それでも世界は続く。当たり前みたいに、何も知らない顔で。
だからこそ。
俺たちは、風の中を歩いていく。
17話です。
あとがきはpixivにはない機能なので、ここでしかしない話をしたりしなかったり。
星の輝きと地上の天使 完!
長丁場のお話でしたがお付き合いいただいた皆様ありがとうございました。
今回は、どうしてもこの終わり方でなければならなかった。
だって、ネタバレする人はあの人しかいなかったので……完二しか話ができなかった。
へんなとこで話をするわけにもいかないから、直斗も一緒。
それはそうと、あいつは一体何者なんですかね…
そしてクリスマスイブ、それぞれいちゃいちゃしやがれこんちくしょう。
それではまたお会いしましょう。
厳密には続いてないけど同じ時間軸の話がいくつかありますので。