ペルソナアフターパラレル   作:erupon

6 / 54
※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
※物語に少しずつ不穏な要素が含まれます。

※pixivに掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※本文を読むとわかりますが、クトゥルフ神話成分がしみしみになってくるのでよろしくお願いいたします。



005.アーカムの魔女5

7月1日火曜日

 

 その男は、居間で祖父が残した文書を眺めていた。

 テレビでは、朝のニュース番組を放送している。

 男は、他愛のない事件をセンセーショナルにがなりたてるテレビを不機嫌そうに一瞥し、テレビの音声を消した。

 昨日夕方、とある筋から男にアポイントが入った。

 『ドジアンの書』について、聞きたいということ、『ドジアンの書』を狙う組織があること。

 男は、昔『祖父から伝え聞いたこと』に従って今週分の予定を全てキャンセルし、とある筋のアポイントを受けることにした。

「とはいうものの、」

 男は、文書から視線を上げ、ため息を付いた。「俺、ほとんど知らされてないんだよねー。」

 いいのかね、と思いながら男は祖父が残した文書ファイルを愛用しているステファリマーノのブリーフケースに入れると、朝の情報番組に切り替わったテレビを消す。「じゃ、行きますか。」

 男は呪文のように呟き、ブリーフケースを手に部屋から出て行った。

 

◇◇◇

 

 今野ゼミの部屋では、学生たちが騒いでいた。

「教授の今週の予定が全てキャンセルされて出勤しないことになっているぞ!」

「そんな、ゼミのミーティングも授業の予定も全て白紙状態じゃないか。」

「それどころか、今日の朝も休暇扱いになってる。」

 部屋の出入口の扉が開き、アンジェリアが入ってくる。

「おはようございます、皆さん。どうしました?」

「教授の予定が、今週全てキャンセル扱いになっています。」

「え?」

「今週、教授は来ません。」

「なん、ですって?」

 アンジェリアは眉を顰め、右親指の爪を噛む。「何があったのかしら?」

程なく、学生課に確認に行った学生が戻ってくる。

「昨日の夜、急にアポイントが入ったそうで、教授が全ての予定をキャンセルしたそうです。」

「どこからの?」

「そこまでは、教えられないと。」

「……そう。」

 アンジェリアは、目を細める。少し思考を巡らせ、一人の男子生徒を手招きした。

「なんですか?アンジェリアさん。」

「南原さん、の件よろしくね。」

「はい。」

「じゃ、その他の人たちは今日も『私達だけの』ミーティング、始めましょうか?」

「はい。」

 学生たちは、薄ら笑いを浮かべながら答えた。

 

 

「おはよう、鳴上君。」

 聞き知った声に、鳴上は振り返る。

「あ、……南原。」

南原が居たのは、T大学内掲示板の前だった。何人か学生が集まって掲示板を見ている。「どうしたんだ?皆集まって。」

「西洋考古学を担当している今野教授が、今日から今週いっぱいお休みなんだって。講義もゼミもお休み、みたいだよ。」

 南原は人ごとのように呟いた。「話が聞けたら面白そうだったのに、残念だな。」

「南原、」

 鳴上は南原を見た。身長185センチの長身である鳴上に対し、南原は165センチ。自然と見下ろす形になる。「俺が昨日言ったこと、覚えてるか?」

「ああ。深入りするな、って言ってたね。」

 南原は、鳴上を見上げて微笑んだ。「今野教授が居ないなら、一日図書館に居ようかな。」

 鳴上はため息をついた。

「気をつけろよ。もしかしたらそっちにも何かあるかもしれないぞ?」

「うん、そうだね。」

 南原は目を細めて笑う。「気をつけるよ。……。」

 鳴上は、眉を顰め南原を見た。

「今、なんて言った?」

「じゃあね、鳴上君。レポートやるなら、隣の席とっておくよ?」

 南原は踵を返し、鳴上から離れる。「それとも、今日はもう、来ないかな?」

「南原?」

 鳴上の問いに、南原は答えず図書館へと歩いていった。

 南原の後ろ姿をただ見ていた鳴上は、スマートフォンがメールの着信を知らせるLEDを点滅させていることに気づく。直斗から来たそのメールは、十一時に紀尾井町にあるホテルニューオータニのロビーにて待ち合わせ、と書かれていた。

「俺も、移動しないと。」

 どうやって行くんだっけ、と思考を切り替え、鳴上は正門へと歩いて行った。

 

◇◇◇

 

 ホテルニューオータニのロビーに鳴上が到着したのは、十時半過ぎのことだった。

 ホテルへ移動中、今野教授ゼミの学内ホームページで相手の顔を確認していた鳴上は、ロビーでその顔を探す。やがてロビーの端のソファに座って新聞を広げているビジネスマン風の男が視界に入り、鳴上は声を掛けた。

「すみません、T大人文学部考古学専攻の、今野教授でしょうか?」

 ビジネスマン風のグレーのスーツを着たその男は、新聞の隅から顔を出す。

「君は?」

「T大工学系機械工学部の、鳴上です。」

「何故、君が?」

 怪訝そうな顔で、今野は鳴上を見上げた。

「白鐘探偵事務所で、ちょっとしたバイトをしていまして。」

 やや苦笑いをしながら鳴上が答えれば、今野はやっと表情を和らげ隣のシートを勧める。

「学内の規則では探偵の仕事は特に禁じているものではないけれど、まだ学生の身分なんだ。あまり、危ないことはしないでくれよ?」

「はい、肝に銘じておきます。」

 鳴上は、会釈をして今野の隣に腰掛けた。

「ところで、何故探偵事務所の調査に協力しているんだ?」

「現在所長をしている白鐘直斗さんは、俺の高校時代の後輩に当たります。俺がその高校に居たのは一年だけでしたが、その頃の友人達は今でもいい付き合いをさせてもらっています。」

 今野は頷くと、また新聞に視線を戻した。

「君は、その一年で得難い仲間を沢山手に入れたんだね。ウチに入学するため、そういう時間を削って孤独に勉強する学生も少なくない中で貴重な体験をしたようだ。その友人関係は必ず自分の糧になるから、大事にしなさい。」

「はい。」

 鳴上が微笑んだとき、ホテル正面入口から直斗が入ってくるのが見えた。

 直斗は鳴上を見つけ、まっすぐ歩いてくる。

「先輩、おはようございます。お待たせしてしまい、申し訳ありません。」

「いいんだ、直斗。俺もさっき着いたばかりだよ。」

 鳴上は言い、横に座る今野をちらと見た。

「じゃあ、隣にいらっしゃるのは、」

 直斗が鳴上の隣に座る今野を見れば、今野は新聞を畳んで直斗を見上げた。

「君が白鐘探偵事務所の所長かい?俺は今野義明。T大学で西洋考古学の教鞭をとっている。」

「はじめまして、白鐘探偵事務所の、白鐘直斗です。今日はご足労頂きありがとうございます。」

「……一つだけ、聞いてもいいかな?」

 今野は直斗を見たまま、口角を上げる。

「なんでしょうか?」

「どうして、あの本と俺とを結びつけた?」

「というと?」

「T大人文系文学部考古学専攻で管理されている『考古学物件録』を見るならば、アレは元は中国にあったと記載されているはずだ。西洋考古学を担当している俺ではなく、東洋文化考古学を担当している小野先生に話が行ってもおかしくないだろう?」

「俺の知り合いが、本と、今野教授のおじいさんとの関連を指摘したので。」

 鳴上が言えば、今野は驚いた表情で鳴上へ顔を向ける。

「馬鹿な、どこでそんな……?」

 今野は、そこではあ、と息を吐くと、苦笑いを零した。「いや、いい。俺も話せることは少ないが、君達に協力しよう。そこのラウンジでいいかな?」

「はい。」

 直斗は言いつつも、困惑げに鳴上を見る。

 鳴上は表情を変えずに今野と共にソファを立ち、三人でラウンジへと歩を進めていた。

 

◇◇◇

 

「俺はさ、爺さんは狂っている、と思ってたんだ。」

 今野はラウンジの明るい窓際の席で、静かに話しだした。「俺と親父と区別がつかなかったり、誰も居ないところで何かと話していたり、とにかく家の中では酷いもんだった。でも、一歩外へ出れば普通の人当たりがいい爺さんでね。ギャップに随分悩んだな。」

「ふむ、なるほど。」

 直斗は内容を録音しながら自分もメモを取っていく。

「俺がT大に進学が決まって、爺さんとは違う分野だったがやはり考古学を、って話を家族でしたとき、爺さんは俺を自分の部屋に呼んで、一冊のファイルを寄越してこう言ったんだ。」

 

『『ドジアンの書』は誰にも見せてはならん。アレを狙う者が現れたら、お前の命も狙われる。必ず姿を隠しなさい。』

 

 鳴上と直斗は、お互いの顔を見合わせた。

 今野は静かにコーヒーに口をつける。「その時、こう思うことにしたんだ。爺さんのあの奇行は、自分だけが抱えた秘密が大きすぎて一杯一杯だったんだ、とね。」

「それで、今野教授は『ドジアンの書』を見たことはあるのですか?」

「ないよ。」

 今野は苦笑いを零す。「爺さんの秘密が大きすぎて、俺には背負える気がしなかった。」

 今野は自分の荷物から、古いファイルを出し鳴上と直斗の前に置いた。

「これは?」

「戦時中、陸軍が行ったある研究と実験の顛末が書かれた文書さ。」

 ファイルの表紙には、『中国とアトランティスの関連性の検証』とだけ書かれている。

「内容を読んでも?」

 直斗が手を伸ばす。

「読んでもいいが、保証はしないよ。」

 今野の言葉に、直斗の手が止まる。

「それは、どういう?」

「そういう内容だからさ。」

 今野は言い、窓の外を見る。「正直な所、君達が読むべき箇所は最後の数枚だけでいい。文書のほとんどは、爺さんが『ドジアンの書』を翻訳、内容の解釈を進めた時の追補メモだから。本体がないと意味が無い。」

「最後の数枚、には?」

「爺さんが知っていた、研究の経緯と結果が書かれている。恐らく君達が知りたいのはその部分だろう?」

 今野は直斗をまっすぐ見た。「読んだら、引き返せないよ?いいのかい?」

 直斗はクス、と笑い、鳴上を見る。鳴上も、苦笑いを浮かべていた。

「僕たちは、もう引き返せない所まで来てますからね。」

「だな、そういや神様ぶん殴ってきたっけか。」

「は?」

 今野は首を傾げる。

「じゃ、読むか。」

「ですね。」

 2人はファイルを躊躇なく広げた。

 

 太平洋戦争中、ミッドウェー海戦の大敗から戦況が徐々に悪化する中で、軍部はこの本を兵器として利用することを考えていたようだ。軍部は当時古代サンスクリット語の研究をしていた私を主任とする研究班を創設した。軍部は、私達を前線へ送らないことを条件に翻訳と内容の解釈を私と助手の二人に命じた。自分たちの思想、言語形態から外れた本の翻訳は困難を極めた。が、翻訳、内容の解釈が進むうちに、本の内容が恐ろしく冒涜的で、人間の所業ではないことに気づいた。この本の内容を実行することは即ち人類全てが危険に晒されるのではないか。私と助手は研究の中止を具申したが、軍や他の研究班の仲間は聞き入れなかった。戦況が悪化する中で誰もが戦争に負けることへの恐怖で既に正気では無く、何かに縋りたかったのかもしれない。

 私と助手は、敢えて不完全な翻訳論文を彼らに渡す事にした。それならば、化物を呼び出せない、と考えたからだ。だが、ほぼ翻訳が終わる頃、軍部から私は資料の拡充のため、という名目で満州行きを命じられた。私は助手も一緒に、と言ったが、結局ひとりで行くことになった。私は、助手に危なくなったら皆を見捨ててでも逃げろ、と言い残して満州に渡った。満州に着いた私が程なく受け取った電文には、実験失敗により、以後調査研究を中止する旨が書かれていた。

 私はすぐに日本へ戻ったが、そこで待っていたのはあの本と論文だけだった。助手は行方不明、その他研究員と警備兵、将校達は全員死んだ、とだけ聞かされた。

 私はあらゆる手段を講じて本を破壊しようとしたが出来なかった。大空襲の時ですら無傷だったその本は、やがて、私に幻影のようについてくるようになった。また、私なりに助手も探したが、行方は結局分からなかった。

 私は、本と論文を別々に秘匿することにした。

 今なら分かる。あの本は、人間が触っていいものではなかったのだ。

 

 

 読み終えた二人は、しばらく考え込んでいた。

 今野はその様子をじっと見ている。

「俺が提示できる話は以上だ。……君達の役に立てるといいのだが。」

「あの、」

 鳴上が今野へ銀灰色の瞳を向ける。「研究班のメンバーのリストは、あるんでしょうか?」

「そこまで詳しく読み込んでいないが、そういうものはなかった。経緯を察するにこの件は軍の秘密研究の一部だったようだから、そういう物は全て破棄されたんじゃないかと思っているが。」

「そうですか。」

 鳴上は少し残念そうに呟いた。

「今野教授、もしも僕らがドジアンの書をどこか厳重に管理できる場所に移したとしても、問題はないですか?」

 直斗の問いに、今野は一つ頷く。

「今は閲覧許可もださない物だからね。どうせなら、然るべき場所で厳重に保管すべきだろう。」

「分かりました。」

 直斗はボイスレコーダーを止め、手帳を閉じた。ファイルも今野に返却する。「今野教授にはこのまま、申し訳ありませんがこのホテルの部屋から出ないよう、またGPSで位置を探られないよう携帯電話の電源を切って滞在してください。期間はとりあえず日曜日まで。部屋についてはこちらでこれから手配させていただきます。」

 直斗が手を振ると、ロビーに控えた薬師寺が一つ会釈をすると手続きを開始した。

「分かった。そうさせてもらう。」

「僕達は、これから今野教授から提供いただいた情報を検討してからドジアンの書を狙う者達への対応を開始します。今野教授、連絡手段としてこちらの携帯電話をお使いください。」

 直斗は、1台の携帯電話と充電器を今野の前に出す。「僕の連絡先がプリセットされていますので、呼び出して頂ければすぐに駆けつけますよ。」

「分かった。」

 今野が携帯電話とファイルをブリーフケースに入れた時、薬師寺がホテルの制服を来た女性と共に三人が座るテーブルまでやってくる。女性は深々と今野に向かって礼をした。

「本日は当ホテルに宿泊いただき有難うございます。部屋へ案内させていただきますので、ご準備が出来次第お声がけください。」

「ありがとう。もう大丈夫だ。」

 今野はポケットに入れていたスマートフォンの主電源をオフにしながら席を立つ。「君達も、なるべく危ないことにならないよう気をつけてくれよ。」

「はい。ありがとうございます。」

 今野は女性と共にエレベーターホールへと去って行った。空いた席には薬師寺がさも当然のように着席する。

「俺達は情報を一度吟味したほうが良さそうだ。」

 鳴上は呟きながら、窓の外を見た。「気になるワードが幾つか出ていたな。意味を見極めたほうがいい。」

「それは僕も同感です。ホテルで昼食を取ってから探偵事務所で検討しましょう。」

「そうだな。」

 薬師寺が会計票を持って先に出る。二人もその後に続きラウンジを出ると、レストランへ向かった。

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。
こちらも元々長いチャプターでしたので分けています。


クトゥルフ名物(?)手記も出せた

それではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。