ペルソナアフターパラレル   作:erupon

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※ペルソナ4原作後、大学生設定の二次創作です。
※物語に少しずつ不穏な要素が含まれます。

※pixivに掲載していたものをハーメルンに投稿するのにあたり、一部改稿しています。
※本文を読むとわかりますが、クトゥルフ神話成分がしみしみですのでよろしくお願いいたします。



006.アーカムの魔女6

7月1日火曜日

 

「すみません、ハイボール3つと生ビール二つ、モヒート二つとミントジュレップ二つお願いします。」

「はい、畏まりましたー!」

 午後六時を過ぎた本郷の洋風居酒屋では、例のごとく今野ゼミが飲み会をしている。

 いつもは別のバイトが彼らの対応をしているのだが、今日はそのバイトがおらず、あまりお近づきになりたくない寺田が彼らのほぼ専属店員になっていた。

『なんともまあ、よくお飲みになることで。』

 厨房の奥にあるバックヤードの扉によりかかり、スサノオは呆れ混じりに呟く。

 花村は隣のビルのコーヒーショップでスサノオから転送された音声を拾っているはずだ。

「そういえば、南原のこと、何か分かった?」

 ゼミの学生が話を振る。

「それが、学生課でも『個人情報なので。』の一点張りでさ。じゃあ、と思ってアイツがいつもいる図書館で知ってる司書に頼んで本の閲覧履歴を見せてもらったんだけど、」

 調べていたらしい学生が口ごもる。

「なんだよ?」

「本を借りた履歴がなかったんだ。」

「おかしくね?」

 つまみ代わりに頼んだパスタを食べていた学生が、調べていた学生に反論する。「アイツ、いつも特別閲覧室にいるよな?あそこで閲覧する本は、全て司書が学生の名前を登録するはずだろう?」

「なかったんだ。俺もおかしいと思って、リストを見なおしたよ。」

「そう。……ないなら、仕方ないわね。」

 アンジェリアの鶴の一声で場が静かになる。

「ハイボール3つと生ビール二つ、モヒート二つとミントジュレップ二つお持ちしました!」

 寺田がトレイにグラスを満載にして彼らの席に置いていく。「空いたグラスは下げてもいいですか?」

「ああ、お願いします。」

 寺田は営業スマイルを顔に貼り付け手早くグラスを片付け、厨房奥の洗い場に戻った。

「そうそう、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど?」

 アンジェリアが、微笑みながら今野ゼミの学生達に問いかける。

 学生たちは、アンジェリアの言葉を待っていた。「私ね、考古学保管庫で戦時中に中国から持ち込まれた古文書が欲しいの。今野教授が学校にいらっしゃらないから、私達で探しましょう?」

 アンジェリアは今野ゼミの学生たちをぐるっと見回した。「手伝ってくれるよね?」

 もちろん!とあちこちで声があがる。

「明日、入り口の鍵を借りとくよ!」

『これって、明日なんか事を起こすフラグじゃねーの?』

 スサノオが、眉を顰めて閉じた目をゆっくり開けた。

 その時何処からか視線を感じ、思わずそちらへ視線をやる。その時、目を見開いたアンジェリアとスサノオの目があった。アンジェリアは小さく呟く。

 

あなた、だれ?

 

 スサノオはアンジェリアの呟きを拾った瞬間舌打ちをすると、壁をスルッと抜けて隣のビルへと跳んだ。

 

◇◇◇

 

(スサノオ、何があった?)

 花村はコーヒーショップでセルフサービスのグラスを返却し、外へ飛び出す。

『アイツ、俺と目があった。俺が見えてる。』

(げっ、マジか!)

 花村が大通りまで走ると、洋風居酒屋が入っているビルから一人男が飛び出してきた。

『なあ、陽介。』

 スサノオがやや不機嫌そうに言う。『後から取り巻きが一人出てきた。俺達の後をつけてる。』

(あちらさんの反応が思ったより早いな。)

『どうする?』

(奴らにこっちのカードを見せてやる必要はねえし、タクシー使って秋葉原に出て、そこから山手線とか使って撒くか。タクシーの中で悠に連絡を取ろう。)

『ま、そのへんは陽介に任せるわ。』

(後ろの奴の位置だけは把握してろよな?)

『了解。』

 花村は後ろから走ってくる男が来る前に空車のタクシーを拾った。

「すみません、秋葉原駅までお願いします。」

「まいどあり。」

 花村を乗せたタクシーが走り始める。

 花村が後ろを振り返れば、ついてきている男もタクシーを拾っていた。

 花村はシートベルトをすると、鳴上に電話をかける。

「悠か?俺だ。」

『陽介、』

「今、何処にいる?」

『直斗の事務所、だけど。』

「悪い、今追っかけられてんだ。直斗に変わってくれねーかな?」

 電話の向こうで、明らかに息を呑む音が漏れ聞こえた。

『……白鐘です。花村先輩、今どちらですか?』 

 直斗の冷静な声に、花村は少し安心する。

「本郷三丁目から秋葉原駅までタクシー使って移動中。向こうもタクシー拾って絶賛追跡中、ってとこだな。」

『それでは、秋葉原でタクシーを降りたら新橋まで無理に撒かなくてもいいので移動してください。JR新橋駅銀座口でお待ちしています。』

「分かった。」

 花村は通話を切ると、ため息をついた。

『どうすんだ?』

(駅についたら、京浜東北か山手線で新橋まで移動。そこからは、直斗におまかせ、だな。)

『スキルを使うかと思ったのに残念だなー。』

(それじゃ、何のために本郷でタクシーを拾ったのか分かんねーだろうがよ。)

 花村は、またため息を漏らす。

「お客さん、そろそろ着くけど?」

 タクシーの運転手の声で、花村は車窓を見た。秋葉原クロスフィールド、ヨドバシカメラがすでに見えている。

「ありがとうございまーす。駅前のタクシー乗降場でいいです。」

「はい、まいど。」

『向こうもまだくっついてきてるな。』

(まあ、仕方ねえだろ。直斗も無理に撒かなくてもいい、って言ってたし。そこまで粘着すっかな?)

 タクシーは秋葉原駅前のガンダムカフェの前に停まった。花村は領収書と引き換えに料金を払う。

 花村はそこから走ってJR秋葉原駅の改札を通り、東京方面行きの京浜東北線に扉が閉まる前に飛び乗った。

 電車が動き出し、思わず花村はドアにもたれかかる。

 息を整えながら、車窓が秋葉原から神田の街へと向かっているのを確認した。

『陽介、朗報だ。』

(なんだ?)

『アイツ、この電車に乗れてない。うまいこと撒けたっぽいな。』

「まじか、よかったぁ……。」

 花村は、肩で息をしながら一言呟く。「本気で走ったかいあったわー。」

『ついてきた奴、走るの遅かったなー。勉強ばっかで運動してねーの見え見えだぜ。』

「それもラッキーだった、って感じか?」

 電車は新橋へ向け、順調に走行している。

 

「そう、秋葉原で見失っちゃったのね?」

 洋風居酒屋で電話を受けた学生から電話を受け取り、アンジェリアは大仰にため息をついた。「いいわ。今日はもうお開きにするから。また、明日ね。」

 通話終了ボタンを押し、アンジェリアはスマートフォンを学生に返す。

「アンジェリアさん、今日はもう帰りますか?」

「ええ。ゼミのオフ会はまた明日ね。」

「お疲れ様でしたー。」

 学生達は料金の精算を行っていた。

 寺田は厨房奥で食器を整理しながら、内心ホッとしながらその様子をちらっと見る。

「え?」

 アンジェリアと、視線がかちあった。

 何故か背中に冷たいものが伝うような感覚を味わった寺田は、アンジェリアを避けるように背を向け、食洗機で洗った皿の拭き上げ作業を始める。「くっそ、なんだこの感じ……。」

 まるで、巨大な得体のしれないものに、後ろから狙われている感覚。

 気のせい気のせい、と呪文を唱えるようにブツブツ言いながら、寺田は作業に没頭することにした。

 

「陽介!」

 JR新橋駅の銀座口。

 鳴上は、花村を見つけ駆け寄り、そのまま抱きしめた。「無事で、よかった……。」

「悠、ただいま。無事逃げ切ったぜ。」

 花村は曖昧な笑みを浮かべたまま鳴上にもたれかかる。「疲れた、なんか。」

『俺もがんばったんだぞ、褒めてくれよー。』

 フワリ、とスサノオが現れると、鳴上はスサノオの頭を撫でた。

「スサノオ、陽介を守ってくれてありがとうな。」

「花村先輩、大丈夫ですか?」

 鳴上の後ろから、直斗が走ってくる。その足が、止まった。「えっ?花村先輩の、シャドウ?」

 直斗の視線は、明らかにスサノオに向けられている。

 花村と鳴上はお互いを見合わせ、そしてフワフワ浮かんでいるスサノオを見てああ、と気がついた。

「こいつ、俺のペルソナ。」

 苦笑いをして花村が言えば、直斗はただぽかんとしてスサノオを眺めている。「スサノオ、一応ご挨拶しておけよ。」

『え?ああ。白鐘はこっちでは初めてだったな。まー、よろしく頼むわ。』

「なんで上から目線なんだよお前!」

 花村が眉を顰めて文句を言えば、スサノオはプイ、と横を向いた。

『いいじゃん、俺だってがんばってんだしさー。』

「いや、その、直斗、秘密にしてたわけじゃないんだけどさ、言いそびれたっつーか。」

 その場から固まって動けずにいる直斗に気づき、花村がフォローを入れる。「つい最近、出てきちゃったんだよな、コイツ。俺の一部だと思って、仲良くしてやってくれ。」

「あ、は、はい。」

 直斗が脳髄反射で答え、おずおずと手を出す。「スサノオ、宜しくお願いいたします。」

『お、おう。』

 スサノオが直斗と握手をした。

「触れるんですね。まあ、当たり前か。」

 まじまじと直斗が握手をした手を見る。

「ペルソナ使い以外は見えない、とつい一時間前まで思ってたんだけどな。」

 花村は呟いた。「その辺のところも合わせて情報共有してえんだけど。」

 花村の言葉に、直斗が思い出したように鳴上と花村を見た。

「地下に車を待たせています。そちらで話を伺います。」

「おう、サンキューな。」

 三人は並んで歩き始める。「しっかし、この歳になって鬼ごっこはねーわな。」

 そのまま地下駐車場に行き、直斗はハイヤー待機プールに待たせていた車を呼び出した。

「陽介、何があったんだ?」

 薬師寺が運転する車に乗り、鳴上は花村に尋ねる。花村が聞いたことをつぶさに報告すると、直斗は眉を顰めた。

「向こうが、花村先輩の力に気づいたってことですよね。」

「こっちも気づいてっけどな。」

「ご自宅にお送りしてもよいですが、一度事務所に戻って鳴上先輩の荷物を回収しましょう。」

 薬師寺が頷き、車を五反田方面へ向ける。「花村先輩、しばらく休んでいてください。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」

『ところで、陽介。』

 スサノオが花村の頭の中で声を上げる。『ちょっと提案があるんだが。』

(何だ?)

『あいつらが本を探す前に、俺達で探さねえ?』

「えっ?」

 思わず、花村は声に出した。鳴上と直斗が花村を見る。

『なんとかして手にしたい魔道書だろ?だったらさ、なんかしら魔力が込められてるんじゃねーのかな?俺、そういうの分かるっぽいし。』

「そうか、そういうのも有り、か。」

『後は、陽介がそれをやって保つかどうか、だけどな。』

(いや、保たせるしかないだろうよ。)

「陽介?」

 鳴上は花村を心配そうに声を掛けた。

「なあ、提案があるんだけど、聞いてくれ。」

 花村はやや疲れた顔に笑みを貼り付け、鳴上と直斗を見やる。「奴らが事を起こす前に、俺達でドジアンの書を探して他の場所に移さないか?」

 

◇◇◇

 

 寺田は洋風居酒屋の閉店準備を着々と続けていた。

「そういや、寺田君。いい友達を持ったねえ。」

 剣崎がニコニコしながらカウンターを拭いている。「昨日来てくれた彼、中々好青年じゃないか。」

「良い奴ですよ、大学で初めて会ったんですけどね。」

 寺田も機嫌よく答えた。

「今日はそろそろ店じまいだから、上がっていいよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「じゃ、今日はお疲れさま。」

 寺田はバックヤードで着替え、ビルの階段を降りた。

 そして、一階についた時はあ、とため息をつく。

「何だったんだろうな、あの、アレ?」

 背筋が凍るような、という表現がしっくりきそうなあの感覚。

 何故だか、今このまま外に出たらヤバイ気がする。何か良くないことが待っていそうな予感。

 独りごちた寺田は、階段に腰掛けスマートフォンでEvernoteにメモを一つ作成する。「裏口から出ても、結局表に出るだけなんだよなあ、このビル。仕方ねえ、堂々と出るか。」

 店長とか巻き込んでもしょーがねえもんな、と呟きながら寺田はビルの表口から出た。

「こんばんわ、店員さん?」

 うわあ、居た。と寺田は呟く。

 声の方を向けば、アンジェリアがにっこりと微笑みながら立っていた。「この後、少し時間あるかしら?」

「いやあ、無理っす。」

「あら、つれないのね。」

 ゆっくりと近づくアンジェリアに合わせて、寺田はゆっくりと後ろへ下がる。

「ちょっと、待ってくださ……!」

 その時、寺田は背中に何かが当たった、気がした。

 次の瞬間、体に力が入らなくなり、その場に倒れる。

 何か叫ぼうと思うも、口から言葉がでなかった。

「ちょっと、お付き合いくださいね。」

 アンジェリアはクスクス笑う。

「アンジェリアさん、コイツどうします?」

「スマホを探して?あと、車に載せて運びましょ。」

「はい。」

 寺田は、学生たちに運ばれながら、俺これからどうなるんだろう、死ぬのかな、痛いの嫌だな、と思った。

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。
こちらも元々長いチャプターでしたので分けています。

どんどん神話的アーティファクトを出していくのが楽しい。
それではまた次回。
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