魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~ 作:Sady
カツカツ、とミッドチルダ首都クナラガンの地下に存在する空間――次元特務部隊の隊舎とも言える通路に足音が一定のリズムで鳴り響く。
二人で歩いているにしては足音が小さく、それはそこを歩く二人が普段から静かな足取りで足音を消すのが癖になっているからだ。
「それで、六課での調子はどーだ?」
コウヨウは最高評議会直属という管理局の中で暗部に位置する部隊にいる割には陽気な性格をしており、目的地まで無言でいるという事が面白くないのか管理局で今話題の機動六課に最高評議会の命令で一時的に属している同僚でもあり友人とも言えるアークに尋ねる。
「さっきの見てたら分かっただろ? 若い奴が多いと困ったもんだ」
「そりゃそーだわな。それに、才能がある人に私の気持ちは分からないって言い分はこれまた勝手なもんだぜ。嬢ちゃんがその言葉聞いたらどんな反応をするか」
才能があるという事は必ずとも良い事ばかりではない。それはこの部隊に属する者なら誰もが身に染みて理解しているだろう。
それを最も体現してるのがコウヨウもよく気にかけている存在である読心のスキルを持つコメットだろう。彼女がレアスキルの発現をきっかけに人生が180度変わったと言っても過言ではない。
それについてどう思っているかなどを言及したことはないし、俺が盲目である気持ちが他人に理解出来ないように、俺も彼女の気持ちが分かるとも思わない。つまりは才能がある人間に才能がない人間の事が理解出来ない。逆もまた然り、という事を言いたいのだろう。
「そうだな・・・あいつは捨てられるなら捨てたいだろうなあんなレアスキルは。一般人にはどう考えても過ぎたモノだ」
「あんなもん日常を生きるには邪魔なだけだからな。でも、あの六課の嬢ちゃんは才能があって損する事なんて有り得ないって思ってんだろーぜ。きっと」
「俺から見てもティアナは素質はある方なんだけどな。いかんせん周りがレアスキルと言っても良いような分かりやすい才能を持ってるから自分の事が見えてないんだろう」
「そーだな。俺は天賦の才、ってのはなかったみてーだし気持ちは分かるんだけどなー。この『眼』だって生まれ持ってのもんじゃねーし」
心眼、文字通り心の眼。じいさんの持つ千里眼みたいなスキルとはまた違う眼。昔、あの殺戮ジャンキーに潰されてから死ぬ物狂いの訓練の果てに身に付いた技術。俺が誇れる努力の結晶。
「まー俺は置いときこの部隊にいるのは大体大きすぎる才能ってやつのせいだからな。お前も、嬢ちゃんも」
「才能を使わないことは出来ても捨てるなんて事どうあがいても不可能だからな。人生において常に付き纏う、さながら呪いだな」
『封印』というスキルを持つこいつなりの皮肉なのか、はっと半ば吐き捨てるように笑い飛ばす。
今でこそ地位もありある程度の自由を得ているアークだが、入隊当初の次元管理特務部隊での激務は凄まじいの一言に尽きる。最高評議会が長年望んでいた理想のレアスキルを持っている為に将来的に幹部になるのが決まっていた事から極力死亡するような任務は回されなかったとはいえ当時は自由など一切なかった。
俺も入隊当初に経験したからこそ分かるが、管理局が謳うクリーンな世界とはかけ離れた暗い部分、人間の汚い所を見せつけられその中で生きることを強制されるのは精神的にくるものがある。そんな世界で生きる原因となったレアスキルを呪いと称すのはまさに正鵠を射ているのかもしれない。
「呪い、ね。そりゃ俺には分からん感覚だわ」
「持たざる者には分からんものさ、こういうのは」
「そんなもんかね」
「そんなもんだ」
「で、話を戻すが六課での生活は大丈夫なんか? 俺が言うのもなんだが三脳から指示されたのをこなすのは大変だろ」
三脳というのは最高評議会の事だ。勿論面向かって言った事はないけどな。
直属部隊の幹部という大層な立場にいる俺といえど絶対の忠誠を誓っている訳ではない。それはアークも含め、だ。そもそもそんなものを持ってるのは幹部の中でもじいさんくらいだ。アレはもはや崇拝の域に達しているとも言える。そしてその事は三脳連中だって知っている。
知っていてなお部下の忠誠を得られてない最高評議会が無能かと言えば、逆である。
忠誠を誓わせずともジェイル・スカリエッティや俺達を抑えつけ従えている事が脅威なのだ。英雄と謳われているのは伊達ではない。
「まぁ達成不可能という程ではないな。それより単純に六課に馴染む方が俺にとっては大変な気がする」
「ハハハハッ! 人様の所を言える義理じゃねーが問題抱えまくりの人員に部隊だもんな!」
「近い内に部隊内で問題が起きるなアレは」
主にティアナとかなのはとかティアナとかで。
「いやそこは問題起こる前に解決してやれよお前あの部隊ん中じゃ年長者だろ」
勿論守護騎士とやら達は除外してな。
「部隊に来て数日の奴がか?」
「日数なんて関係ねーのさ。ほらあれだ、揉め事への冷静な対処で年上の貫録見せつけて好感度UPのチャンス、ってな?」
「ラブコメじゃないんだぞ。自分が関係ないからってお前楽しんでるだろ」
「そりゃそーさ、所詮他人事だからな」
「まぁ気が向けば、だな」
「と言いつつも、だろ? 素直じゃねーなー」
特務部隊にいるやつは能力もそうだが性格や人格の面においても一癖も二癖もあるやつが多い。その筆頭がこれから会う爆弾娘と揶揄されるシェリーなのだが、そいつらを含めた部下をアークは部隊長として纏めている。
その手腕を持ってすれば六課が抱えている問題も事もなく解決出来ると俺は踏んでいる。
「ふん、そんなことよりもお喋りはここまでだ」
世間話程度の会話だったがあくまで移動時間の暇潰しであり、このまま少しからかってやろうと思ったが会話の流れを不利と見たのか打ち切られた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あーまだ来ないのー? もう私帰っていいー?」
「だから今迎えに行ってると言っとるじゃろ。もう少しじゃから静かに待っとれ」
「ほんとめんどくさいわー早く帰って寝たい」
「まったくこやつは・・・」
会議室の前にして聞こえてきたのは、女性の気だるそうな声とそれを諌める年老いた男性の声だった。
「相変わらず、だらしがない女だなお前は」
「待たせて悪かったなー。じーさんよぉ」
そう言いながら扉を開け中に入ると手で額を抑えながら深い溜め息をついているランディと白いTシャツにジーパンとラフな格好でだるそうに座っている金髪の妙齢の美女――シェリーが目に入った。
シェリー
彼女は家名を名乗っておらず、戸籍上でも姓はなくただのシェリーとして登録されている。
本人は自分の過去を多くは語らないが生まれは管理外世界であるらしい。彼女は強力なレアスキルを持っており、数年前に評議会と繋がっている研究所に捕まったのだが、その研究所を壊滅させ捕まえてくれた仕返しとばかりにその他関連施設を次々を潰しまわり、その力を以ってついには管理局創設以来個人で初めてここクラナガンの地下まで侵入した人物でもある。尤も、その快進撃も俺とコウヨウの2人に防がれそのまま入隊することになったのだが。
それらを可能とした彼女の力は『サイコキネシス』。現在の管理局の技術では解明不可能のレアスキルの中のレアスキル――あるいは、レアスキルであってレアスキルでない力。便宜上サイコキネシスと呼んでいるが触れずに物を動かす、火を操る、透視、念話など様々な力を行使できる能力である。その原理が不明の魔法ではない『ナニか』を人々は超能力と、そう呼んでいる。
ただ幸運だったのはそんな詳細不明の能力にも俺の『封印』が効き、首輪をつける事が可能だったことだろう。
ここ会議室にいるのは先にいた2人と今来た俺達の4人だけだ。通常大きな任務が終わった後の報告会は最高評議会のいる部屋にて行われるのだが、シェリーは最高評議会の部屋に入る事はおろか最下層であるそのフロアに下りる事さえ禁じられている為、報告会はこの4人だけで行われ、それをランディーが三脳に伝える形になる。
「それでは、報告会を始めるとしようかの」
いつも通りに最年長であるランディーの言葉で会議が始まる。
「じゃーほーこくねー。エクリプス感染者についてだけど特にこれと言ったことはなかったかなー。野良感染者は何人か掃除しといたけどキャリア長い奴は全然姿見せてなーい。だからもう帰ってきちゃった。これ以上は時間のムダムダ」
だらっと机にしな垂れておおよそやる気が感じられない姿勢で間延びした声で自らが就いていた任務について報告する。報告というよりは子供の感想みたいな内容だが。
「ふむ、あれについては儂らでコントロールしておきたいのじゃが・・・仕方ないかの」
「ここ最近は大人しいとは言え厄介な奴らだからなー。魔法あんまきかねーし。ま、今でしゃばってこられたらたまんねーからいいんじゃねーの?」
「正直今はエクリプス感染者なんて調査してる場合じゃない。そんな事よりシェリーが帰還してきた事の方が大きいな」
「こんなのでも戦力としては一級品じゃからな」
シェリーにはエクリプスについて調べさせていたのだが今の情勢ではいかんせん重要度が低い。それより今はラグナロクだ。こちらはミッド襲撃が予測されている以上なによりも優先してしかるべきだ。
「それよりさー、なんかどこの犯罪組織もやたら活発になってたけど今どうなってんの?」
長い事ミッドチルダを離れていたシェリーは今俺達がどういう方針で動いているのかを知らない為疑問の声をあげたのでコウヨウが大体の現状をざっくり伝える。
「へーなんか、大変なことになってんのね」
「だからお前にはもっと働いてもらうんだがな」
返事を聞いた途端にうへぇ、と顔を歪めるもどうせ反対しても無駄なことを経験として知っているシェリーは諦めたように次は何をすればいいの?と視線を投げかけてくる。
「なに、簡単な事だ。コウヨウと一緒に犯罪者どもを潰せ」
「はあ!? マジかよ!?」
その内容に反応したのはコウヨウだった。まぁ言ってなかったしな。
一緒にということは必然こいつの面倒をみるということだからこの反応は仕方ないのかもしれない。お守頑張ってくれ。
「それって、暴れて良いってこと?」
「あぁ、ラグナロクに便乗して一斉蜂起しようとしてるバカ共に教えてやれ。俺達特務がいる限り無駄だということをな」
「俺はスルーかよ」
決定事項だからな。
「で、じいさんの方は何か収穫があったか?」
「いんや、今の所当たりは引いておらんな。ラグナロクにはあ奴がおるからの。儂の千里眼を知っておる故補足されるような真似はしておらん。憎たらしいことにの」
俺達以外にじいさんの千里眼を知る者は両手で足りる程度しかいないのだが、こればっかりは仕方ない。ラグナロクのリーダーは、犯罪者の中ではただ唯一それを知る人間だ。監視の目があることがバレているなら手掛かりの発見は困難だ。
「取り敢えずは現状維持だな。俺の方も調査を進めて行きたいんだが・・・今の六課の調子では、どうだろうな」
俺は調査の他にも六課にある程度の成果を挙げさせなければならない以上、今の六課の現状はよろしくない。内部分裂などされては目も当てられないからな・・・
「じゃ、とりま1週間くれー様子見るか! それで何も進展がなかったらまたなんか手を考えねーといけねーな」
「はーい」
「そうじゃな、儂も成果を挙げられてない以上文句もないわい」
成果がないと言ってもそれはラグナロクに関してでだけでありその他犯罪者の逮捕数は相当なものなんだけどな。それも特務の幹部が本腰入れたら当然の結果とも言えるが。ランディコウヨウ2人のサーチ&デストロイのコンボが凶悪過ぎる。
その分事務やらが若干滞りつつあるのが懸念材料と言えば懸念材料なのである。
気が早いだろうが全てが終わった時の後始末を考えると鬱になりそうだ。
大まかな事は決まったが俺達の仕事はそれだけでなく部隊としての運営もしないといけないのでそれぞれが書類を手に取り詳細を詰めていく。
次元管理特務部隊の夜は長い。
えー5人目?くらいであるオリジナルキャラの登場ですね。名前だけはちょろっと出てた彼女です。
というか今回は原作キャラが全く登場しない回でしたね(゜Д゜;)
さて、エクリプスという単語が出てお気付きの方はお気付きでしょうが、4期まで予定してますよこの小説は、というより明らかに設定が4期向きだと思うんですよね。
もしかしたらフッケバインとか4期のキャラも登場する事もあるかもしれません。出たとしてもほんのちょっとだけでしょうが。
今回はあまり面白みのない話だったので次は明るい話行こうかと思います。リインフォース回を予定してます。
この土日で頑張って仕上げてみせます。