魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~ 作:Sady
前後の2部に分けようと思ったんですけど結局1つで通しました。
今までで一番書いてて楽しかった話でもあります。
――どうしてこうなった。
きっと昨日アークに「お前明日休みだろ、ちょっと付き合え」と言われた時に特に予定もなかったから深く考えずにOKを出してしまったのが、全ての始まりだったんだろう。
あまりに予想の斜め上を行く事態に私は現実逃避をするかのようにこの状態に至るまでの出来事を追想していた。
アークに返事をした後、主に明日の休みは出掛けるという旨を伝えたのだが、私の交友関係にある者たちは皆仕事であり誰と出掛けるのかが気になったのか聞かれ、アークだと答えたら主的にその人物は予想外だったのか一体いつの間に一緒にお出掛けする程仲良くなったんや! と矢継ぎ早にいくつも質問された。
その有無を言わさぬ迫力で問い詰めてくる主にやや引きながら六課の設備を案内した時ですと答える。
恐らく主が想像しているような仲ではないのだがそう言っても聞きそうになく、高町なのは達と同じく浮いた話もなくて男性経験がほぼ皆無な私が異性と出掛けるという事実に暴走していた。やはり主自身も男性経験がない事を気にしているのだろうか。
それからも主の暴走は止まることなく、デートなのだからしっかりとお洒落しなければならないといけないらしく、どんな服を着て行くかや上手くいくよう作戦を考えだしたりして時間は過ぎて行った。
主の暴走に我関せずスタイルを貫いていたヴィータの御愁傷様、と慰めるような表情がとても印象的だった。
待ち合わせの時間は昼前で、主や騎士達は仕事なので先に出ていったが皆一言私に頑張れよと声を掛けていった。
出掛ける準備も終わり少し時間に余裕があるので私は昨夜主がコーディネートした服を着て改まって鏡の前に立って確認する。
白のワンピースにミントグリーンのロングカーディガンと、スカートよりズボンを好む私は普段あまり着る事のないような服装だが、主は可愛らしい服で女性らしさを前面に出させたかったみたいでこのような格好となった。
主は似合ってると太鼓判を押してくれたがそれは身内贔屓なもので本当に似合っているのか不安になって今からそわそわしてしまう。
・・・このままそわそわしてるのもなんなので早めに家を出る事にする。
待ち合わせの場所に着いたがやはり少しだけ早く出たせいかまだアークはいなかった。
来るまでの時間を潰そうにも私の端末にはこういった時に時間を潰せるようなものが何もなく手持無沙汰なので自然と周りに目をやってしまう。
それで気になるのは若い人ばかりで、更に男女の組み合わせが多い事だろうか。
そんな感じで見回していると私はこういった若者文化に疎いのだと改めて痛感する。実際の年齢はともかく体の方は老いることもなく若いままなのでもっと勉強したほうが良いのだろうか・・・
まぁそれはいずれまた考える事にして時計を見るともうそろそろ約束の時間だった。
もしかして遅れてくるのだろうかと思った時、
「待たせたみたいだな」
声を掛けられてそちらを向くと、ワインレッドのカジュアルシャツに黒っぽいジーパンという格好で、よう、と片手をあげてるアークがいた。
髪と眼の色といい赤尽くしだな。
「少しだけな」
「それは悪かったな。俺は待つのが嫌いだからこういうのは大体時間ぴったりに着くようにしてるんだ。それにしても・・・」
「な、なんだ」
アークの品定めをするような視線に思わず焦る様に声を出してしまう。
「いや、お前の私服が予想してたような感じと違ったからつい、な」
「へ、変・・・か?」
「もっとビシっとしたもんを想像してたが、これはこれで似合ってるさ。いつもみたいな無表情じゃなくて今みたいな顔だったらな」
「そ、そうか」
似合ってる、と言われ普段の顔は無表情に思われてるという事や今自分はどんな顔しているのだろうかなどを気にすることも出来ず少し頬が熱くなったように感じる。
「なにこんなので照れてるんだ。普段男性局員から言われたりしないのか?」
「そんな事、言われる訳がないだろう」
「へぇ、お前は顔もスタイルも良いから言われ慣れてると思ったんだが」
少しだけ意外そうな顔をしているアークに私こそ、そう思われていること自体が意外だ。そして遠回しにまた褒められてることに気付いて再び頬に感じる熱が上がった気がした。
普段クールで近づきがたい雰囲気を出してるリインフォースは業務上必要な時以外に声を掛けられる事はほとんどなく、勇気を出した局員に声を掛けられたとしても「何かご用ですか?」と返事をすると声を掛けた男性局員はその平淡な声に機嫌が悪いと感じるのか、ごもって結局は何も言わずにすいませんでしたと言って去っていく。そうしている内に彼女は男性に声を掛けられるのを嫌うと言った類の噂が男性局員の間で流れたりして、更に声を掛ける男性局員が減っていき、今では彼女に声を掛けた者は勇者ともてはやされたりする。因みに、密かに結成されている彼女のファンクラブの名前は「リインフォースさんを遠くから見守り隊」。他にも「リインフォース様に罵られ隊」「リインフォース様に踏まれ隊」などが存在すると噂されるが、これの真偽は定かではない。
「それより! 今日はどんな用事なんだ? まさか何もないということはないだろう?」
「そのまさか、だ」
「えっ?」
「と、言いたい所だが。ちゃんと用はある」
「そうか・・・」
用事があるという事実に内心ほっと一息つく。用事があったからこそこうして会っているだけで断じてデートではないと自分に言い聞かせるように念じる。
昨日主が延々と男と女の2人きりで出掛けたらそれはどんなものでもデートだとか男心をくすぐる女性の仕草だとかさりげないボディタッチの仕方とか夜のテクニックやその他諸々を語っていたせいで私もどうしてもそのような方向に思考が偏ってしまう。
「まぁ、それも夕方からだ。それまではデートと洒落込もうかお嬢さん?」
「デ――っ!」
私としては認めたくなかったが「デート」という単語がアークの口から出た以上、認めざるを得ない。少なくともアークの中ではそのつもりなのだと理解した。
六課に出向してきてから数日経つがまともに会話したのはこれで2回目、10年前を合わせても3回目、たったそれだけなのだ。それなのにお互いのことをあまり知らぬ内からデート・・・デート・・・
私は自分がよく知るベルカの時代との違いに軽くカルチャーショックを受けていた。
「・・・・・」
「はっ」
様々なことが頭の中でぐるぐる回って半ば放心気味だったが、呆れたような目で私を見ているアークに気付き元に戻る。
「なぁ・・・お前は仮にもデバイスだろ? 大丈夫か、なぁ?」
「う、うるさい・・・」
「まぁいい、どうせこういう事に不慣れだとは思ってたさ、ここまでとは思わなかったが」
自分でも今のはどうかと思ったが、これも人間に近付いている証拠と喜ぶべきか恥じ入るべきか、悩み所だった。
待ち合わせが昼前だったが今のやりとりで思った以上に時間が経っていたらしく、まずは軽く昼食を取ることになった。
「それだけしか食べないのか? 成人男性の食事としてはいささか少ないようだが・・・」
トーストとコーヒーだけという成人男性の平均的な食事量を下回る注文しかしなかったアークに本当にこれだけで足りるのかを質問する。
「あぁ・・・朝が少し多かったもんでな・・・」
「? それならいいが」
遠い目でそういうアークに少し疑問が残るが、何故か聞いてはいけない気がしたのでよしとして私も注文したサンドイッチセット食べる。私は食事を取らなくても主からの魔力供給があれば活動出来るのだが、食事をしていればきちんと自力で魔力を生成出来るので毎日3食しっかりと食べている。主は私達が人として生きる事を望んでいるし、味覚もあることだしな。
そして食べ終わると店を出てデパートやアクセサリーショップや流行りのモノを取り扱っている店が並ぶセンター街を歩いている。因みに会計はアークが全て出した。誘ったのは自分で、金銭については心配する必要がないとのことだったのでお言葉に甘えておいた。
「こうして歩いているとここは本当に平和だな。賑やかで、笑顔が絶えない良い街だ」
「それを守るのが俺達管理局の仕事だからな」
「ふふっ」
「なんだ?」
「お前の口から平和を守るという言葉が出たのがなんだかおかしくてな」
「酷い言い草だな、俺ほど平和の為に尽力してる奴は他にいないぞ。何せ、上司が上司だからな」
「そうだな、私なんかを救ってくれる程だ。きっと、そうなんだろう」
軽口を叩き合いやっと緊張が解れて落ち着いてきたからか先程まで色々考えてた自分が馬鹿みたいに思える。誰かと遊びに出掛けることなど久方ぶりだ。折角隠し事も、遠慮もする必要がない相手と一緒なのだから、難しいことを考えずに楽しむことだけを考えることにした。
「ではアーク、あの店を見に行こう」
「なんだ、やっと乗り気になったのか?」
「ああ、私は今までこういった場所に来なかったからな。騎士達は時々主や高町なのは達と一緒に服を買いに行ったりしているが私はどうにもそういうのが苦手だったんだ。帰ってきて疲れ果ててる騎士達を見ているから余計にな」
それからいくつもの店を見て回ったが、今まで知らなかった流行り物など分からないモノがあると、アークはこんなものも知らないのかと笑いつつも詳しく色んな事を教えてくれた。
「しかし、なんでお前はこんなに流行に詳しいんだ?」
「通販狂いが知り合いにいてな・・・雑誌見せられたり話したりしている内に詳しくなったんだよ」
「そうなのか」
「俺は逆になんでお前がこんなにも疎いのか聞きたいくらいだ」
「興味や関心がないと、頭に入らんものだ」
「お前デバイスだろ・・・というかある程度は知っとけよ。一般常識として」
「今日知ったから、良いんだ」
そんな知り合いがいたのか・・・私とは真逆の人間だな。
「さーて、そろそろ時間だな」
その言葉を聞いて時間を確認すると確かにもう夕方時だ。今は夏なので空がまだ明るく全然気付かなかったがそれだけ私も楽しんでいたということなんだろう。
車を置いてあるということなので、少しだけ歩いたが割と近い駐車場に停めてたのかすぐに着いた。
そこにあった高そうな車を見て、成程確かにこんな車を買うくらいなのだから金銭に余裕はあるのだなと思った。
「意外と安全運転だな・・・」
「黙ってると思ったら口を開けばそれか、どんな運転をしてると思ってたんだ」
私は車や乗り物に乗ってる時はあまり話さないタイプなんだが、つい思ったことが口からポロリと零れてしまった。
「もっとスピードを出すものと思っていたから・・・スポーツカーみたいだしな」
「法定速度は、守りましょう」
反論の余地のない返事だった。
「それで、どこに向かってるんだ?」
「まぁもう着くさ、それまではお楽しみということでな。何、お前が損する事はないさ」
これ以上問い詰めても言うつもりはなさそうだったので私もそれ以上聞く事はなく、目的地に到着するまで車内には静かな空間が広がっていた。
というのが、今までに至るまでのおおよその筋だ。
目的地と思われるどこかのホテルに着いて、スタッフに別室に案内されてあれよあれよと言う間に私はいつの間にか高そうなドレスをその身に纏っていた。
何故サイズがピッタリなのかも気になるが、それよりも私は現状が把握出来ずにいた。
――どうして、こうなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
着替えが済んだと聞いたのでスタッフにリインフォースのいる部屋に通して貰った。
ドアを開けて見えるのが、胸元が大きく開いた淡い水色のドレスを着て鏡を見たまま呆然としているリインフォース。
少しして俺の存在に気付いたのかこちらへと歩みよってくる。
「これはどういうことだ!?」
「あぁ似合ってるぞ。黒も良いと思ったがその色も綺麗に映えるな」
「そうではなく! いや、このドレスもだが!」
「ドレスか? 安心していい、費用は俺持ちだ。今日のパーティが終わったらそのまま持って帰って良い」
「そういうことでもなく! って、パーティ・・・だと?」
「ホテルでドレスと言えばパーティしかないだろ」
「それはそうだが・・・もしかして用事とはこれ、か?」
「そうだ。何か質問があるなら今の内に聞こう」
聞きたいことが多いのか少しだけ考える素振りを見せる。
「ではまず、これは何のパーティなんだ?」
「懇意にされてる人から招待された財界のパーティだ」
「何故私なんだ?」
「簡単に言えば、一番都合が良かったからだな。お前になら知られて困ることもあまりない。尤もお前が困るパターンならあるかもしれんが」
「このドレスは?」
「職人が一晩でやってくれた。完成がギリギリだったからそれまで時間潰しも兼ねてのデートだな。昼間のは」
「サイズが合っているのは?」
「管理局員は毎年健康診断を受けているだろ。管理局のデータで俺が調べられない事は何一つない」
「私のプライバシーは?」
「・・・・・」
「なんでそこで黙る!」
「一応、お前以外の身体データは見てないから安心してくれ」
「安心出来る訳ないだろう!!」
顔を真っ赤にして掴み掛かられた。
まぁ勝手に身体データを覗かれた訳だから怒るのも仕方ないのかもしれない。一言だけ言わせて貰うのならば、素晴らしい数字だった。
それと一応言っておくが、これは犯罪ではない。外部の者や閲覧する権限がない者がプロテクトを破って勝手に見たら犯罪だが、俺の場合は正式にアクセス権を持っているし今回だって管理者側のコードを使用しているから、合法である。それにこのパーティも一種の接待であるので公私混同でもないしデータを悪用しなければなんの問題もない。費用も自前だしな。
「落ち着いたか?」
「~~~っ! もういい過ぎた事だ。それで、私は何をすればいいんだ?」
「特に何かをしてもらい訳じゃない。あまり離れずにいてくれたらそれで良い。あとは臨機応変に頼む」
「分かった」
「で、もう質問はないな? 行くぞ。あぁ言い忘れてたが自己紹介する時はリインフォースと名前を言うだけで良い。まぁ夜天の魔道書と分かる奴には分かるだろうがな」
会場へ向かいながら他にも注意する点やマナーについて確認するが多少古い形式だが流石にそういう知識は豊富だった。クイントはこういうのは無縁だったせいかその手の知識もからっきしだったがその点リインフォースなら安心である。
会場へ入ると既にあらかた参加者が揃っていて、積極的な人間は挨拶周りを始めている。そろそろ参加者が揃い切って乾杯という時間なのでグラス片手に待機している人も多い。
「お、思ったより人が多いな。それに、あまりこういった時勢に詳しくない私でも知ってる顔もちらほら見掛けるぞ・・・」
「割かし規模の大きいパーティだからな。息子や後継を連れて顔を売りに来ているのも大勢いる。政界や管理局や教会とも繋がりを持ってる奴も多い」
「そ、そんな所に私を連れてきたのか・・・」
「気後れしているのかも知れんが、これはお前の主や六課のタメになるかもしれないんだぞ?」
「どういうことだ?」
主のタメになるという言葉が出た途端に不安げな顔からいつもの仕事をしている時のような顔に切り替わる。
「実の所、ここにはお前が夜天の書の管制人格と知ってる奴もいるし、俺が最高評議会と繋がってるのを知ってる奴もいる。その証拠に俺達が入場してからちらほら視線を感じるしな。気になるんだろう、どうして俺とお前が一緒にいるのかが」
「つまり、主――八神はやてと評議会の鬼札が繋がってるかもしれない。と勘繰られてるということか?」
「そういうことだな。お前と個人で繋がってるのか、それとも主まで繋がってるのか探りを入れたいのもいるだろう。上層部や教会との繋がりが強い奴は特に。六課の設立は有名だし俺の出向も耳が速い奴は知ってるだろうしな」
六課設立にあたり反対派の勢力はそれなりに削いだものの未だに上手い事邪魔を入れてくる奴はいる。反対派と言えど管理局の一員であり、あまり力を削ぐ訳にもいかない為放置しているのも多いがそれもうざったい。六課内部でも面倒なことが起こりそうなのに更に外部からも邪魔が来ては困る。故にひとまずはここらで牽制しときたい。
――八神はやてとアーク・リリィは裏で繋がっているのか
――六課設立には最高評議会の意向も大きく反映されているのか
――既に八神はやては最高評議会の傀儡となっているのか
そうやって深読みしてくれればしてくれる程良い。藪をつついて蛇どころか、それこそ鬼が出てきてはたまらない。慎重な奴はしばらく様子を見て余計なことはしなくなる。
「これだけ規模だ。確実に様々な所へ伝わる筈だ」
「お前も大変なのだな」
「上司が上司だからな」
管理局の暗部や派閥争い。それぞれの勢力の調整やらに苦労しているのが伝わったのかリインフォースからの同情の言葉に昼間と同じ言葉を使いまわし皮肉で答える。
話している間に参加者が揃ったようで、主催者グループがマイクを持って歓迎の口上を述べている。お忙しい中よくぞ来てくれました、から入り定型句とも言える挨拶が終わり乾杯と共にパーティの開始が告げられる。
最初に招待をしてくれた主催者グループの一人である人物に挨拶をしに行く。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「おぉ! これはアーク執務官! いやいやよく来てくれたよ。この通り料理も良い物を用意している。楽しんでくれたまえ!」
俺と同じようにこの初老の男性に招待された人達が挨拶をするために周りにいるが、こちらを見ると片手をあげこちらに足を向ける。
この初老の男性こそホテル・アグスタでも会った財界へのコネを作る為に少しばかり工作してまで近づいた人物だ。護衛で守られたという事実は俺が思う以上に効果を発揮してくれているのか、多少のコネが出来れば良いといった程度だったのだがかなり気に入られたみたいで良い感じに利用させてもらっている。おまけに地位もそれなりにあるが裏事情に詳しくない人物でもあるのでとても扱いやすい。
「所で、隣の美人なお嬢さんはどなたかご紹介してもらっていいかな?」
「リインフォースと申します。彼には私もよくしてもらっております」
軽く頭を下げながら丁寧に自己紹介をするリインフォース。
「そうかそうか! お嬢さんのような美人がいればこのパーティも盛り上がるというものだ。是非君も楽しんでいってくれたまえ!」
それでは、とそう言い残し先程いた輪の中に戻っていく。
それからも顔見知りに挨拶をしにいったり、それとなくリインフォースとの関係を探るような質問をしてくるような輩の相手や娘を連れてきて紹介してくる人達の対応など、料理を口に運ぶ暇もないままに時間は過ぎて行き、パーティはお開きとなった。
「お前はいつもこんなことをしていたのか?」
「そうだな。こんな規模のは久々だが似たようなもんだ。お前がいたから寄ってくる女性は少なかったのは読み通りだった」
「最初から人を女避けにも使うつもりだったのか・・・・それにしても、疲れたな」
パーティも終わり現在は用意してもらっていた同じホテルの部屋で元の服に着替えて休憩している。
「今日得たモノを考えたらこのくらいは仕方ないで割り切れるさ」
「それもそうだな」
「ただ、教会がどう動くだけが気になるがな」
「ん?」
「お前がベルカにおいて価値ある存在であるのは言わずもがなだし、俺は俺でベルカの血統でもあるし古代ベルカ由来のロストロギアも所持している。教会ってのは基本的に宗教組織だからな。こればっかりは予想出来ん」
「・・・・・本当に苦労してるんだな」
「その通りだ。取り敢えず今はルームサービス頼んだからそれを頂くとするか。ああいうパーティは料理こそあるもののよっぽど暇な奴じゃない限り食事を取る場ではないからな。俺達は特に忙しかったしお前もほとんど食べてないだろ?」
主催者側もそれが分かっているのでゲストにはパーティが終わったあとの為に一部屋用意されている。俺は特に気に入られているせいかどうやら他よりも良い部屋を宛がってくれたようだ。
「それでは、お疲れ様」
「お疲れ様」
綺麗に料理が並べられたテーブルに座り、本日二度目となる乾杯をあげる。
ちん、と鈴の音のような綺麗な音を鳴らしたあとにグラスに注がれていたワインを嚥下する。
「これは・・・」
「ベルカ自治区で作られた銘のワインを取り寄せた。製法は昔ならではのモノらしいからお前にとっては懐かしい味だろ」
「あぁ・・・私達が闇の書となる前、僅かだったが幸せだった時を思い出す」
思い出のある代物だけあってか、料理を食べつつもグラスを傾ける頻度も多く、飲む量も少しばかり多かった。
「昼間の時もパーティの時も思ったのだが、お前が女性の扱いが出来てるというか、気が回るのだな」
「慣れだ、慣れ」
「疲れた1日だったが最後にこうして気分良く終われて、充実した休日だった」
酔いが回ってきてるのかすっかり上気した顔で、少しだけ饒舌になっているリインフォース。無表情で人形のよう、と言われる彼女だがもし今の彼女を見たら誰もがそんなことはないと言うだろう。
多少ペースが速いものの自分の限界や適量は把握しているようで酔って前後不覚になるようなこともなく、食事の時間は終わった。
帰りも車のためアルコールが抜けるまで時間を潰してから、ホテルを後にし帰路につく。
「これは勘なんだが、まだ何か用があるんじゃないか? アーク」
「ははっ、中々良い勘をしていると褒めるべきか、何かあると悟られたことを悔しく思うべきかどちらかな」
「ふふっ、そこは素直に褒めておくべきだろう?」
帰りの車内では行きとは違い静寂が漂うことなく言葉が交わされていた。
「そうだな・・・まず一つ目は伝言だな」
「伝言?」
「伝言ともお願いとも取れるが、そうだ。お前の主にな」
「そのくらい構わないが、なんと伝えれば良いんだ?」
「なに、お前もはやても分かってるだろうがティアナのことだ。本人が乗り越えるのを期待してるのかどうか知らんが、あまり放っておけるものでもない」
「そうだな、私は新人達の訓練を見ないが確かにヴィータが気にしていたのを覚えているぞ」
「俺にも評議会から言われてる仕事もあるからな、それに支障をきたしたら困る意味合いもあるんで俺が問題を解決してやろうと思うんだが、俺のやり方はいかんせん荒っぽいとよく言われるからな。部隊長の許可があれば後々楽だから、口裏合わせ頼むってことだな」
「ふむ・・・分かった。で、これが一つ目ということはまだあるんだろう?」
「あぁ、寧ろこっちが本題というか、本命だな」
本命という言葉で先程の話より重要度が高いと察し真剣な顔を向けるリインフォースに対し、俺は事も無げに一言だけ放った。
――俺達の方に付く気はないか?
「・・・・・どういう、意味だ?」
「勧誘でも、引き抜きでも、好きに取れば良い」
「主を裏切れと? 脅しか? それは」
「そこまで言ってないし、脅しでもなんでもない。別に断ってくれても良い話だ。ただ戦力が欲しいだけでな。お前についてる枷――俺は『楔』と呼んでいるがそれを施しているだけで俺の能力の容量を食ってるし、都合が良いからそう提案してるだけだ。お前の楔も外れて主の心配事も減るしな」
色んなメリットデメリットを考慮してるのか目を瞑って黙りこんでいるリインフォースに更に言葉を重ねる。
「念を押すようだが、別に断ってくれても良い」
「お前の目的は、なんなんだ・・・?」
「俺がどれだけ平和に尽力してるかは、この1日で伝わったかと思うんだが? 加えて言うならば、どちらかが損をするような提案をしないのも、もう分かってるだろう」
俺としては本当に断られても構わない。
ただ、もしリインフォースが引き入れられたならずっとやり易くなる。それだけのことだ。シェリーは優秀だが扱い難いし、クイントだけでは少し足りないのが、現状だ。
が、他に手もある。今は迎え入れる準備があるとだけ知ってもらえればそれでいい。
「ま、すぐに返事してくれとも言わないし、再三言うが断ってくれても一向に構わない」
「・・・・・考えておく」
「それで十分だ。覚えておいてもらえるだけ、良かったもんだ。デバイスでもあるお前が忘れるなんてこと有り得ないだろうがな」
「ふん」
「そうそう、ドレスのことだがお前宛てで後日家に届くようになってるからそれも覚えておいてくれ」
この重い空気を晴らすように言ってなかった要件を伝える。
「本当に良いのか?」
「良いも何も貰ってくれないと困るくらいだ。サイズもお前に合わせて作ってるんだしな」
「うーん・・・」
「どうしても理由が要るなら勝手に身体データを閲覧したお詫びの品とでも思ってくれ」
「っ思い出させるな! 折角忘れかけていたというのに!」
「いやいやだからお前意図的に削除しない限り物事忘れないだろ」
どうやら先程の空気を払拭することには成功したようで、このまま楽しかった1日で終えることが出来そうだ。
「じゃあここまでで良いのか? きっちり家まで送り届けてやるぞ?」
「もうすぐそこだからここでいい」
「そうか」
一時停車してあとはリインフォースが降りるのを待つだけなのだが、当人は唸りながらもじもじしてて降りようとする素振りがない。
「・・・何かまだ言いたいことでもあるのか?」
「いやっ、言いたいことはないんだが・・・」
なんだかハッキリしない返事だが、やがて何かを決心したようでこちらを向いた。
「先に言っておくが、深い意味はないからな」
それが言い終わると同時にリインフォースの顔が近付いてきてそのまま頬に軟らかいものが触れた。
そう思った次の瞬間にはもうリインフォースは車を降りていて首だけをこちらへ向けてる体勢で立っていた。
「今日は楽しかった。その礼だ。ではまたなっ」
それだけ言って小走りで去って行った。
僅かに見えた顔は余程恥ずかしかったのか耳まで真っ赤であった。
それが昨夜はやてがリインフォースに語っていた男女のデートの別れ際の鉄則の一つであったことを、アークは知らない。
おまけ
「リインフォースゥ! 今届いたこのドレスどうしたん!? 買ったん!? 通販か!」
「いえ、それは先日出掛けた時のもので・・・」
「しかもこのドレスあの有名なブランドのとこのやないか! アグスタで私らが着てたのよりええもんやでこれ!」
「あの・・・」
「私が代わりに貰いたいくらいや!」
「私に合わせているので主ではサイズが」
「乳がどうした! どうせそんなもん年取ったら垂れてくんねんぞ!」
「私は年を取らないのですが・・・」
「うがああああああああああ! これか! 若い男捕まえたけしからん乳はこれか!」
「ちょ、あの、あるj(ry」
ドレスが届いた時の反応とか地味に気にしてたり楽しみにしてる人がいるかもしれないのでおまけという形であとがきスペースに載せました。
おまけって初めて書きましたが、需要はあるのかはわかりません。
前半はリインフォース視点で後半はアーク視点でお送りしました。
前半は可愛いリインフォース、後半は大人なリインフォースって感じです。
大人なデートという雰囲気を出してみたかったのですがどうだったでしょうか?
因みに主人公に朝ごはんいっぱい食べさしたり通販狂いの知り合いというのは彼女です。そうです、皆さん大好きクイントさんです。
それにしてもリインフォースの圧倒的ヒロイン力・・・
もうこれはヒロインは決まりか?と書きながらにして思ってました。
アグスタのオーナーや3話くらいに出てきた准将には名前がついているというのに財界の初老の男性には未だ名前がないという。もしまた出番があるなら考えてあげようかしら。
もしこの小説がR18だったなら、ホテルで食事が終わった後に帰らずにお泊りして朝帰りというイベントが発生しています。
酒に酔わせる手段ばっかですねアークさん。