魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~ 作:Sady
今回はタイトルからも分かるようにティアナ回です。
ここらへんから原作から分離していくかも・・・?
「ここも、ハズレみたいだね」
「あぁ、もぬけの殻だな。一足先に逃げられたようだ」
最高評議会からの命の1つである魔法生物の凶暴化の原因解明の調査であるが、進展の方はイマイチだった。交錯する情報の中から拠点を絞り込み突入を幾度か繰り返すもダミーの研究所だったり、今みたいに間に合わないでいる。研究データの方も削除を徹底されており常に逃走の準備をしているようだ。これまでに収集出来た僅かなデータによると超大型魔法生物の凶暴化と制御が目的と思われるが、所詮少ない情報を紡ぎ合わせた推測に過ぎない。
一応ジェイルにも心当たりがないか聞いてみたが、この件に関しては全く関与していないとのことで大した情報は得られなかった。ナンバーズ達の戦闘データを取る過程で何回か例の魔法生物と遭遇したらしく、出現したポイントを教えてくれたので多少捜査範囲が絞れたくらいか。
「しかし今更な話だが、午後からは貴重な休みだったんだろ? 俺としてはありがたいが付き合って貰って良かったのか?」
「体調管理はしっかりしてるから大丈夫。それに、調査を手伝う代わりに六課での時間を増やしてもらう。そういう約束もあるしね」
「お前も大概仕事人間だな。しかし体調管理、ね。その辺出来てないのが六課には2人もいるな」
「それってやっぱりなのはにティアナ、だよね」
思い当たる所があるのか眉を顰めてバツが悪そうに答える。
「なのはは仕事が終わってからも夜遅くまでフォワード陣の為に訓練スケジュール組んでたりしてるからね。特にティアナがミスショットの件以来焦っちゃってるのを気にしてるみたいで・・・」
「それで自分まで睡眠時間削ってるなんて空回りにも程があるぞ」
「それとなく休むように言ってるんだけど・・・教え子達の為にって言われちゃうとどうしても強く言えなくて・・・」
「まさに仕事が恋人状態だな」
いかに効率よく且つ手を抜くかを考えてる俺とは大違いだ。合理主義と言えば聞こえは良いんだけどな。
「そろそろ部隊としても見過ごせる問題ではないが、そうなる前にどうにかするか」
「そうだけど、なのははともかくティアナは自分で乗り越えないといけない問題なんじゃないかな、こういうのは」
「そうだな、それが一番理想的だろう。でもなフェイト、俺達は管理局員で、士官学校や訓練校の生徒じゃないんだよ。任務に支障をきたさないように体調を管理するのはもはや義務だし、ましてや才能がない事を言い訳にして無茶した挙句部隊の人間を危険に晒すかもしれないなんて論外だ」
「アーク! そんな言い方・・・」
遠回しにティアナを非難している言い草にフェイトも思わず、といった風に声を荒げる。
酷い言い草かもしれないが、管理局の仕事の多くは誰かを守ることに繋がる。
管理局員は戦う力のない一般人を守らなければならない。それ以外は本来二の次であり、どれだけ頑張ろうが結果的に守れなければ罵声を浴びせられる――誰かを守るということはそれだけの責任がある。人の命は軽くない。
滅私奉公、管理局の一員であるということは見知らぬ誰かのために全力を尽くすということだ。
世間は結果しか見ない。どれだけ必死で努力しても結果が伴わなければ努力が足りないと言われるし、本人にやる気がなくても結果さえ出していれば民衆は賛美を送る。そういうものだ。
「コンディションが悪かった、才能がなかったなんて、もし誰かが死んでも同じ事が言えるか? 大袈裟かもしれないが、アグスタの時も下手すればスバルは死んでたし、今のままじゃ次も同じ事が起きないとは言い切れんだろう」
「・・・・・」
フェイトも心情的にはそんなことない、と言いたいのだろうが執務官としての冷静な部分はティアナがそれを引き起こす可能性を孕んでいるのを否定出来ないのか俯いて押し黙る。
あの時はフレンドリーファイアに近い形だったが次はその矛先が守るべき市民である可能性もある。
「だから、誰かが言ってやらないといけないんだよ。敵を撃つためじゃなくて、誰かを守る為に引き金を引かないとダメだってな」
「アーク・・・」
フェイトはその言葉に込められた意味を汲み取ったのか名前を呼びながら俯いていた顔をあげる。
俺はその顔に向かって安心させてやるかのように、次の言葉に自信を込める。
「少し荒事になるだろうが、なんとかしてやるさ」
などと言ってから数日、ようやくその機会が巡ってきた。
ただ口で言って聞かせても大して意味がないのはこれまでで分かっている。言って聞くならヴァイスが注意してる時点で解決してる。人には痛みが伴わなければ理解出来ないこともある。
だから今回教導という形で模擬戦するのに託けることにした。
機会があれば教導に参加してくれって一応言われているし丁度良い。
いちいち手間を掛けて正規の方法で申請して許可を取った今日の模擬戦で使うつもりの道具をトランクにしまい六課へ出勤する。
俺の本来の地位であればこんなおもちゃごときに申請も要らない――寧ろ許可を出す側なのだが今は真面目な執務官、多少の面倒は多めに見るしかない。まぁ真面目な執務官が訓練目的とはいえこんなものの使用を申請したことに事務の人間は驚いていたが。
六課の隊舎に着いた俺は部隊長室へと足を運ぶ。申請の手続きやら捜査の資料纏めやらで意外と忙しかったので、部隊長であるはやてにはリインフォースを通してこそいるものの業務的には今日俺が教導に参加することしか報告出来ていない。
入室許可を得て挨拶と共に入室するとそこには軽い事務作業をしているはやてとリインフォースがいる。そういえば六課に来てからちっこい方のツヴァイは全然見かけてないな。巡り合わせが悪いのか。
「この書類仕上げたら丁度区切りええからちょっとだけ待ってな」
その言葉の通りに3分と掛けずに書類を完成させ、背筋を伸ばしてからデスクに肘をつき顔の前で手を組むはやて。報告の度このポーズを構えるがどうやら部隊長としての威厳を出そうと色々試した結果これに落ち着いたらしい。バカか。
「それではアーク執務官、今日はフォワード達に教導してもらえると聞きましたが訓練スケジュールの提出を」
「はい。こちらが訓練スケジュールと訓練に使用する道具の一覧及びその使用許可証です」
端末を操作して纏めておいたデータをはやての部隊長用コードに送信する。
教導官の資格を持つ人間や正式に部隊の教導役として組み込まれている人間以外、つまり今回のように出向という形で六課にいる外部の人間である俺が教導する場合は部隊長に訓練スケジュールの詳細を確認してもらい許可をもらう必要がある。
はやてはそのデータを確認している内に眉を顰める所もあったが予めリインフォースから手荒になるであろうことは伝えていたのでそのまま許可をくれた。
「さて、これで業務上の手続きは完了や。で、許可は出したけどなんでこんなもん用意したかは一応説明してもらおうかな」
「キャロやエリオの子供達には忌避感があるかもしれんが折角俺が教導するんだ、なのはじゃなく俺にしか教えられないことを教えようと思ってな。それに子供と言っても管理局員である以上、避けられないものでもある」
「まぁ書類見る限り危険は殆どないし、いつかぶち当たる問題やから強くは言わんけど」
「と言っても正直今回は教導自体がついでみたいなもんだろ。本題は違う」
「それはリインフォースからも聞いてるけど、大丈夫そうなん?」
「さぁ? こればっかりはやってみないと分からないな。それに、もう放置は出来ない。少ないとはいえ解決する為の時間はあった」
「そう言われるとなぁ・・・時間が解決してくれると思ってた私らの見通しの甘さのせい、か」
今回の教導はあくまでおまけ、メインはアグスタの時から徐々に浮き彫りになってきたティアナが抱えている問題の解決。
過度な訓練にしても強さを求める若い局員にありがちなこと、時間が経てば冷静になって頭を冷やすだろうとそこまで問題視していなかった。だが実際は強い劣等感に苛まれた焦り故の行動で、時間が解決する所か悪化している。
「俺はこの件に関して責任があるとすれば3人いると、そう思っている。1人は勿論本人であるティアナ。2人目は教導官であるなのは。そして最後は部隊長であるはやて、お前だ」
何が悪かったのかはティアナにおいては言わずもがなであり他の2人、なのはは教え子と向き合わなかった事、もしもじっくり話し合ってお互いの意見や想いをぶつけあっていたなら、そもそもここまで大きな問題にならなかったはずだ。
そしてはやてが責められるべき点は部隊の人間を身内で固めた部隊構成だ。エース級をかき集めた代償に、それぞれ事情を抱えた新人を4人も部隊に組み込んだ。ならばいずれこういった問題が起こるなんて当然考慮して然るべきであるし、それに対応出来る人員の確保、本格的な対処を打っていなかった。
戦力と信頼出来る仲間を集める事を優先するあまり人間関係や組織としての体制を蔑ろにしてしまった。
「誰よりも身に染みて分かってるだろうが管理局に勤める先輩として忠告しておこうか。周りに敵が多くて信頼出来る人間、どの派閥にも属してない新人を起用したがるのは分かるが、やりすぎだ」
「・・・ホンマに、耳が痛い話や」
はやてとてこの件には頭を悩ませていただろう。でも、どうしたらいいか分からなかった。総合魔導師ランクSSといっても経験の浅い少女、無論同世代においてでは夜天の主であることも手伝って経験は多い方だろう。それでも、一つの部隊を纏める長としては絶対的に経験が少ない。いくら管理局が実力重視で魔導師ランクが絶対視される傾向が強かろうが、部隊長を務める人間ともなると大体は40は過ぎてるし、若くても20台後半、管理局の他のどの部署よりも密度の濃い経験を暗部で積んできた俺とて特務部隊の隊長に就いたのは21の時、3年前。前部隊長の予想外の離隊で予定していた隊長就任が早まった程だ。それまでの7年間隊長の座は空席で、本来裏方であるが経験豊富な最古参のランディが実質仕切り部隊を回していた。
「現在の管理局の体制を変えたいみたいだが、急ぎ過ぎたな。そういう意味ではこの部隊で一番焦っている人間はティアナなんかじゃなくて、お前かもしれないな。一度落ち着いて周りを見回して、よく考えてみると良い。そうすれば、もしかしたら今まで見えてなかったものも見えてくるかもしれないぞ」
「はぁ・・・そうしてみることにするわ。なにはともあれ、この件に関しては頼んだわ」
改めて言葉にして指摘されたせいか、いつもよりトーンが幾分か低くなった声を背に受け部隊長室を後にする。
管理局を変える、ね。
はやてもまだ19歳であり、就職年齢が年々下がってきているミッドチルダだが、それでも管理局全体で見ればまだまだ若く、24である俺も同じように若い部類に入る。
管理局を変えようとした人間はこれまでにも数多くいた。正義の為、世界の為、復讐の為、利益の為、様々な理由を掲げていたがついにそれを成し得た者は1人もいない。
今までの人間が出来なかったからはやてにも無理だ、というつもりはない。このまま順調に成長すれば次世代を纏める人間に成り得る程のポテンシャルを秘めているし、いずれは管理局の歴史にも名を残すかもしれない。ただ、今のままでは絶対的に経験も足りず情報も足りていない。
何より大前提として最高評議会に辿り着いていなければお話にもならない。管理局を変えるならば寧ろそこからが本番と言っても良い。だが、幸か不幸かはやての周りにはそこに辿り着く為のピースは数多く散らばっている。闇の書、ギル・グレアム、リインフォース、ジェイル・スカリエッティ、レリック、Fプロジェクト、戦闘機人、そして――アーク・L・シーリング。
敵となるか味方となるか、いずれにせよこの一連の流れが引き起こす事件、そしてこれからの管理局の行く末が不謹慎ながら楽しみでもある。
部隊長室を出て今度は海上訓練施設へ足を向ける。
到着した時にはフォワード達の朝の基礎訓練も終わり準備万端の様子で、模擬戦の形で教導するということがもう伝わっていたのか、いつも訓練している時のシャツではなく各々がバリアジャケット姿で整列している。
俺の戦う姿を見るのは捜査を共にしているフェイトを除きこれが2回目なのでやはり注目度は高く、なのはやヴィータを始め時間の空いている人達も観戦するつもりのようだ。
トランクを足元に置いて、整列している4人の前に立つ。
「今日は高町教導官に代わり俺が君達の教導することになっている。聞き及んでいるようだが教導の内容は俺との模擬戦形式だ」
今日は以前のように一般局員のデザインのバリアジャケットではなく自前の、俺が自分で考案したバリアジャケットだ。
簡潔に表現するならばそれは軍服。管理局の制服も軍服と言えるがそれは礼服仕様といったものだ。しかし俺のものは戦闘仕様で、威圧感を放っているのが大きな違いと言えるだろう。
中には赤色のシャツに黒のネクタイ。
上衣は遠目には黒と見紛う程の濃紺でシングルの4つ掛けボタン、左右の胸にはポケットがあり左には時空管理局のエンブレムが刺繍されている。帯革は濃紺色で上衣腰部で締められており、襟元には三佐を示す階級章もある。
下衣は上衣と共生地のスラックスで裾はロングブーツの中に収まっている。
そしてそれらの上にロングコートを袖を通して着ている。
その姿を目にしたフォワード達は俺にこれまでにない真剣さを感じたのかより気を引き締める。
「模擬戦の前にいくつか質問しておこうか。管理局員が実際に本格戦闘をする相手は誰だ?」
俺から見て一番右にいるキャロに視線を向けて答えを促す。
「えっと、戦闘となると主に犯罪者や有害指定された魔法生物とか・・・でしょうか」
「そうだな、お前達がこの前の出張任務で相手したような生態型ロストロギアといったような例外も多少存在するが、それで概ね正解だ」
正解、という一言にキャロはほっと安堵の息を漏らす。
「基本的に管理局員が戦う相手というのは犯罪者といっていい。では次だ、管理局員の魔導師ランクの平均は?」
「C~Dランクです」
次はキャロの隣に並んでいるエリオに質問する。思っていたよりは簡単な質問だったのかキャロと同じく安心した様子がみられる。
そのエリオの隣のスバルは順番に質問されていて、次は自分の番ということに気付き少しそわそわしている。
そんなフォワード達の反応を見て、以前士官学校に特別講師として招かれ教壇に立ったことを思い出しつつも話を進める。
「その通りだ。犯罪者の魔導師ランクの平均も大体同じくらいだ。まぁ魔導師じゃない奴らもいるから実際はもう少し低いんだが。次はスバルだな、犯罪者との戦闘の際に局員は常にハンデを背負っている。それはなんだ?」
「局員は特定の犯罪者を除き生かしたまま逮捕しなければならない、っていう戦闘マニュアルにある項目、ですか?」
流石陸士訓練校首席だけあって基本的な戦闘マニュアルは暗記しているらしい。
この特定の犯罪者というのはS級の広域指名手配犯や、Dead or Alive判定を受けた犯罪者だ。それ以外の犯罪者に対して、クリーンを謳っている管理局は生きたまま捕らえ更生を促している。刑罰に関しても死刑は表向きには、存在していない。
非殺傷設定も便利だが絶対に死なない訳ではないし激しく抵抗する犯罪者を生け捕りにするのは難しい。それもただ生きていればOKという訳でなく、社会復帰した時のことも考えて後遺症が残りそうな攻撃を控えているからだ。
「半分正解だ。では、もう半分はなんだ? ティアナ」
「・・・質量兵器、ですね」
「そうだ。犯罪者が使えて局員が使えないものは2つ、殺傷設定の魔法と質量兵器。特に新人は質量兵器に対する忌避感が強く、うまく対処出来ずに死亡に至るケースもままある」
そう言って、足元に置いていたケースを持ちあげロックを外す。
「今六課が敵対している相手はガジェットを送りこんできている。今はまだ質量兵器の使用を確認されていないが今後ともそうだとは限らない。ガジェット自体が質量兵器みたいなもんだけどな。で、もし相手が質量兵器を使ってきても対応出来るように慣れてもらう。だから」
そこで一旦言葉を区切り、使用許可の申請までして準備したケースの中身――最も犯罪者間で流通しているタイプの拳銃を取り出してその手に握り、フォワード達へ銃口を向ける。
実際に目にするのは初めてなのか、フォワード達4人が息を飲むのが分かる。
「今日の模擬戦では、こいつを使う」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「時間制限は20分、目標はアークに1撃入れる事。使用する拳銃に込められた弾数は12発リロードはなし、今回の教導目的は質量兵器を対処しつつ普段通りの戦闘が出来るようになること、か」
「エリオ達大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよフェイトちゃん」
アーク達とは離れた位置にあるビルの屋上になのはやフェイト、ヴィータにシグナムといった隊長陣が揃って観戦にきていた。
シグナムが模擬戦のルール概要を確認するように呟き、フェイトは過保護故にそわそわしている。そんなフェイトを安心させるようになのはが言葉を掛ける。
「バリアジャケットを見る分にはどちらかってーと機動性に比重を置いてる感じだな。その割にはちょいと装甲が厚めだけど、個人戦の多い執務官なら仕方ねーわな」
ヴィータはアークのバリアジャケットと見て冷静に分析を始める。
バリアジャケットは自然と自らの戦闘スタイルが反映した構成になるため、戦闘になる際などに重要な分析材料になる。
「テスタロッサはあいつと共に捜査に出てるんだろう? お前の目から見てどうだった?」
「そうだね、ポジションで言うならガードウィングが一番近いと思う。戦い方は堅牢で安定感があるし隙がない。デバイス特性でシールドやバリアは殆ど無視されるから一瞬の判断の遅れが致命的になる。私達でもリミッターがついてる状態じゃ、一撃入れるのは簡単じゃないと思うよ」
「なるほどな。となると・・・今回の模擬戦の鍵はエリオとティアナという訳か」
スバルは典型的なフロントアタッカータイプで高火力・重装甲を誇るが、相手の攻撃の対処はプロテクションなど魔法での防御が多く、それを斬り裂いてくるアークとの相性は良くない。
格闘スキルもアークに劣っているのは先日の模擬戦で判明しており足を止めての戦闘では負けが見えている。今回は一撃離脱を繰り返す撹乱が中心になるだろう。
キャロはいつも通りにブーストによる支援とバインドでの拘束がメインになる。あとは拳銃の射線に入らない位置取りを意識する程度か。
4人の中で唯一デバイスで打ち合うことの出来るエリオは今回の模擬戦においてはおそらくアークを正面から相手しての足止めを担当することになる。どれだけ時間を稼げるか、どれだけ自分に注意を向けさせれるかで取れる作戦の幅の広さが決まるだろう。
ティアナには作戦の立案、前衛指揮、中~遠距離からの援護射撃に加えフィニッシュを誰に任せるかの臨機応変な判断が求められる。特に今回のような地力で劣る格上との戦いでは戦況次第で作戦の切り替えもこなす柔軟性も必要だ。
「訓練用の模擬弾を使うとはいえ、当たったらいてーんだろうなぁ」
「うむ、特に装甲の薄いライトニングの2人は相当痛いだろうな」
「そんな2人とも他人事みたいに!」
「お前は心配しすぎだ」
銃弾の飛び交うベルカの戦乱の時代で戦場を駆けた2人は拳銃に対してさほど忌避感などなく、撃たれてトラウマになったりしないか心配するフェイトと違いそんな軽い感想しか出てこなかった。
なのはも今まで学んだ事を生かせば大丈夫でしょ、と口に出してこそないもののあまり気にした様子はない。
この落差はフェイトが生来心配性な気質なのもあるが、この4人の中で質量兵器が禁忌とされたミッドの常識を学んで育ったのはフェイトのみであるのも関係しているのかもしれない。
「そんなことより、そろそろ始まるみたいだよ」
「そんなことって、もうっ」
なのはのその言葉でフェイト達は会話を止め、これから始まる模擬戦へ意識を向ける。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あんたがどれだけアークさんと打ち合えるかでどんな作戦を取るかが決まるわ。頼んだわよエリオ」
「はいっ!」
模擬戦前の作戦タイムということで私達は4人で相談しながら作戦を決めていく。
作戦というにはあまりに確実性を欠いて不安要素が多い内容だけど勝つためには仕方ない。
今の自分が、ランスターの弾丸が、兄さんの目指してた執務官相手にどこまで通用するか知るにも良い機会だ。
「質量兵器の残弾数もしっかり数えとくのよ。各自役割を忘れずに動いて、あとは状況を見ながら私が指示するわ」
「頑張ろうねティア!」
念を押して確認を取る。一緒に特訓していたスバルはその成果をみせてやろうと意気込んでいる。勿論私だってスバルに負けないくらい気合を入れている。
「それじゃあ行くわよ!」
『おーっ!』
開始の合図が聞こえた瞬間に前衛である2人はエリオが先行する形で距離を詰めていく。
キャロは予定通りエリオ、スバルの順にスピード・打撃強化の支援魔法を発動させる。以前の模擬戦で聞いたように魔法を斬り裂く特性を持つ攻撃をしてくるなら防御強化は意味が薄い。と言っても元よりブースト全般は弱点補強よりは特性強化において高い性能を発揮するから当然の選択なのだが。
アークさんは私達に合わせてくれてるのか、そういうスタイルなのか合図が鳴っても動かずに迎撃態勢を取っている。利き手の左手にロストロギア級デバイスのハルバートが握られ右手には質量兵器たる拳銃が握られている。因みに左利きというのは現在把握出来ている数少ない情報だ。
前衛2人だけでなく少しでも注意を全員に向ける為に、牽制程度に魔力弾を放つ。キャロもいつでもバインドを発動出来るように待機状態でいる。僅かでも自分から注意が逸れたら発動するように言ってある。
これでアークさんは相対するエリオは勿論一撃離脱を繰り返すスバル、虎視眈眈とバインドを狙うキャロに司令塔である私の4人の動向を見逃さずに注意を向けなくてはならないため1人に集中して各個撃破を狙う事は難しくなったはずだ。
これはなのはさんみたいに遠距離から後衛を攻撃する手段がなく、質量兵器一択しかないからこそ出来る対策だ。
逆に本来は守られる立場の後衛にまでリスクを分散する形になったので誰か1人でも質量兵器にひるんだり大きなミスを犯せば、それはそのまま決着を意味する。1か0かの博打みたいなものだが勝つためにはこの形しか思い浮かばなかった。
牽制目的とはいえそれなりに魔力をこめた魔力弾は軽く振るわれたデバイスに1つ残らず斬り裂かれた。そしてそれから1秒もしない内にストラーダを構えたエリオが突撃する。
軽くとはいえ武器を振るった直後への一撃に、回避するかいなすかのどちらかを選択するのだろうと思っていたが、予想は外れ右手に持っている拳銃のグリップでストラーダの側面を叩きつけ弾いてみせた。
おそらくはグリップの方にも魔力を付与しているのだろうが、あんな正確に攻撃を捌けるものなのか。普段から銃型デバイスを使っている私でも出来そうにないしミスした時のリスクを考えると試そうとも思わない。
デバイスを弾かれて無防備を晒したエリオに向かってアークさんは間髪いれず発砲する。
銃口を向けられた時点で撃たれることを悟ったエリオは半ば転げるようにその場を跳び退いた。
エリオの敏捷性を持ってすれば軽いステップだけで避けれた筈だが、過剰とも言える回避は、質量兵器という禁忌への恐怖がそうさせたのだろう。
ただ避けることしか考えていない避け方で体勢を崩した隙を見逃す筈もなく、キャロのバインドを警戒してのことか一瞬だけこちらに視線を向けてから、アークさんは追撃しようとする。
「させないっ!」
エリオの初撃を回避すると想定して時間差で攻撃する予定だったスバルは、エリオの少し後方にいた。だがエリオの攻撃をカウンター気味に真っ向から対処したのを見た瞬間に加速していた。
そのままスピードを乗せたノックバック効果の高い一撃を放つ。特に工夫もなかった一撃は容易く防がれるが、その衝撃でアークさんを体ごと数m弾き飛ばしエリオのフォローという目的は達せられ――弾き飛ばした?
「っ!」
頭に走った一瞬の違和感に従って私は咄嗟にすぐ傍にいたキャロを撃つ。出来る限り威力を落とした魔力弾はキャロをその場から1、2歩分程ずらさせた。とほぼ同時にキャロの真横を銃弾が飛んで行った。
もしあとほんの少しでも行動が遅れていたら直撃していただろう。
「あ、ありがとうございます」
「気にしなくていいわよ」
直撃していたら、と考えてしまったのか僅かに恐怖が顔に張り付いているキャロから礼を言われる。
「よく防いだ。もう少し気を緩めていたらアウトだったな」
アークさんはスバルに殴り飛ばされたとは思えないくらいに軽やかに着地して、よくやったと皮肉なのか言葉通り褒められているのか分からない言葉を投げかける。
軽やかな着地、私が感じた違和感のまさに正体はそこだった。
そもそも殴り飛ばされてなどいなかったのだ。
スバルの攻撃に合わせて自分から後ろに跳んでいただけだ。
その様子を見てフォローに成功した、と気が緩んだ私達を仕留めにきた。
それにしても、この前とは意味合いが違うとはいえまた味方を撃ったことに――撃たされたことに気分が悪くなる。
そうなった直接の原因であるキャロを責めることは出来ない。何故なら自分もまた一瞬でもスバルがアークさんを殴り飛ばしたのをみて気を緩めてしまったのだから。
拳銃の弾は初速がかなり速く油断した所を狙われれば回避は難しいと皆に注意していた私がこの様だ。こんな情けない自分に腹が立つ。
「今みたいに少し気を抜いた所を撃たれる。それが原因で負傷する局員は後を絶たない」
――ッ兄さん・・・!
まるで非難しているかのような、呆れるようなアークさんの一言でカッと頭に血が昇りそうになるが息を大きく吸って気を鎮める。
兄さんもまた、犯罪者の凶弾で命を落とした1人だ。
それも、丁度今、アークさんが手にしているものと同じ型の拳銃で。
密輸品の押収などで拳銃自体はみたことがあるとはいえ、こうして拳銃を持つ人間と戦うことが怖くはある。
でもそれ以上に、兄さんもやっぱり怖かったのだろうか。死ぬまで戦い抜いた時に何を感じていたのか。そうやって兄さんのことを考えていると恐れよりも勝ちたいという欲求が強まる。
――仇を討つということはもう出来ないけど
――兄さんが目指していた執務官が
――兄さんを殺した敵と同じモノを持っている。
それを他でもない私が、ランスターの弾丸で、撃ち抜いて勝つ。
それが私が強くなったっていう証明になるはずだ。
「さぁ! 気を引き締めていくわよ!」
実際に発砲されたエリオやキャロの恐怖を忘れさせるように声を張り上げて鼓舞する。
仕切り直しだ。
模擬戦が始まって既に10数分、あれから動きが少し固かったが質量兵器と向き合うことにも徐々に慣れてきたようで今はほぼ普段通りに動けている。質量兵器を使用する相手に普段通り戦うという教導目的は果たせていると言えるだろう。
現在質量兵器の残りの弾は4発、今までに8発の銃弾を撃ったことになる。
一撃入れるにはこのまま拳銃の弾が切れるまで粘れば、とも思ったがムダ弾を撃ったりするようには思えないし、時間制限もある中全ての弾を撃たせ切れるかも分からない。
何より、たとえそうやって勝てたとしてもそんな逃げみたいな勝ち方はいやだ。
「決めに行くしかないわね」
今までは指示を口頭でしていたが、勝負に出ると決めたことを出来る限り悟られないようにこの作戦は全て念話で行う。最初の作戦会議で既にある程度作戦パターンを考えていたからそれぞれに2つ3つ指示しただけで事足りる。
「頼んだわよ、クロスミラージュ」
『Yes,Sir』
無茶なことだと分かっていても付き合ってくれる相棒に感謝しつつ作戦の最初の一手である魔力弾を形成する。
「シュゥゥート!」
完成した魔力弾を撃ち終わるとすぐさま次の行動に移る。
「エリオッ!」
私の掛け声に返事はなかったが打ち合わせしていたパターン通りにエリオはそこから大きく跳び退きアークさん目掛けてストラーダ尖端から電撃を放出して範囲攻撃を仕掛ける。
勿論これはスタン効果や直接のダメージ期待している訳じゃない。
さっき私が撃った弾はバレッドF、熱反応に対して自動誘導、炸裂破壊する高威力弾。
その弾がエリオの放った電撃に反応して炸裂する。衝撃で辺りは砂塵が舞い上がって視界は大きく制限された筈。
「錬鉄召喚!」
その瞬間に舞い上がった砂塵の中にキャロが召喚した鋼の鎖が伸びる。
こちらも相手がはっきりと視認出来ないが、最初から分かっていたので既に座標は設定してある。
回避しようにも視界が制限された中、自動的に捕縛する無機物自動操作が付与された鋼鉄の鎖をどうにかするのは難しいはず。
それでも確実に捕らえられるという保証はなかったが、キャロから向けられた視線が成功したことを物語っている。
これでこの一撃をチャージする時間は稼げる筈だ。
ただチャージが完了してもロックする時間はあまりない。時間を掛ければバインドが解かれてしまうからだ。だから僅かな時間で標準を合わせられるようにその分接近して放つ。
危険だが確実にヒットさせるにはそうするしかない。
もう1歩踏み込めばアークさんの間合いという所にまで接近し、標準が合ったとほぼ同時にアークさんを拘束していた鋼の鎖が砕かれる。
アンチェイン・ナックル・・・っ!
バインド系を打撃で撃ち砕く近接格闘技能。簡単に解かれないように時間を掛けて魔力を込めていたはずの鋼鉄の鎖ですらこんな短時間で撃ち砕くなんて・・・!
アークさんはレーザーポイントを辿り、スバルでもエリオでもなく私がこんなに近くにいるのを見て驚いているみたいだけど既にチャージも完了してる。
喰らえ――
「ファントム、ブレイザァアアァァアァァ!」
右手に持った拳銃は邪魔だと判断したのか上空に放り投げ両手でデバイスを構えたアークさんに私の最大の攻撃力を誇る砲撃魔法が放たれる。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
――逸らされた・・・っ!
爆煙を見ながら感じた手応えに歯噛みする。
魔法を斬り裂くと言ってもこの距離での砲撃は流石に防げないだろうと予測していた。そしておそらくその通りだった――完全な砲撃であったならば。
本来砲撃魔法は反動が強く足場をしっかりと固定し、じっくり狙いを定めて撃つモノだ。それを範囲を狭めてチャージ時間を短縮したり、放つ直前まで移動などしていれば100%の威力が出る筈がなかった。
分かっていた。分かっていたが、それでも分の悪い賭けではなかったし私が一撃を入れる可能性があるのはこの方法だけだった。
今の魔法に全霊を込めていたせいで現状の把握が追い付いていない。
軽く辺りを見回すが、誰も見当たらない。スバルはエリオのフォローの為に奔走していたしダメージもそこそこに負っていた。それに8発の銃弾の内半分はスバル目掛けて発砲されている。その囮とも言える撹乱行動には神経も疲弊しただろうし今頃へばっているんだろう。
だが他の2人はまだ余力があるはず。もう少し注意して探してみる。
「えっ」
目に入ったのは倒れているキャロと捕縛されているエリオ。
エリオが捕縛されているのはまだ分かる。
視界が封じられてキャロに拘束されるまでの僅かな間にバインドを設置したんだろう。
視界が不自由であっても直前まで相対していたエリオが跳び退いて着地する地点を予測するくらいはやってのけるだろう。
「気を抜くなと、何回も言ったつもりだったんだがな。余程俺を拘束するのに集中してたのか、バインドが解かれた時には集中が切れてたな」
何が起きたか分からなかったが放棄したと思ってた拳銃を握ってるのを見たのと、今言った言葉でおおよそのことは分かった。
砲撃を逸らしたあとに放り投げた拳銃をキャッチして私が息を整えている間にやったんだろう。
「でも、発砲した音なんて・・・」
「簡単な消音魔法くらいノータイムで発動出来る」
確かに、それくらいなら私にも出来る。
「チーム戦で司令塔が自らここまで接近してフィニッシュを叩き込むなんて無茶、下策も良い所だ」
確かに無茶だったのは分かってる。自覚もしてるしチームの皆にも了解を貰ってる。
下策と言われる程悪い手じゃなかったはずだ。
「でも! 私が倒すにはそれ以外方法が!」
「そうだな。俺もそう思うし、同じ状況ならそうしたかもしれん」
「ならっ――」
私は間違ってなんかない!
そう続けて言おうと思ったらそれを遮るように
「ただ・・・お前が直接俺を倒す、という条件ならな」
「・・・っ」
「ハイリスクなだけあって成功すればなるほど、文句なしの勝利だ。どれだけお前が勝ちたかったかが分かる作戦だよ」
そう、勝ちたかった。ランスターの弾丸は全てを撃ち抜くって、証明したかった。
ただそれだけを想って今まで頑張ってきたんだから。
「だが、今のはどうしてもお前が決めないといけない状況だったか? 自分の手で倒すことに固執せず、いつもの訓練のようにエリオかスバルをフィニッシュに回しても成功率は大して変わらなかったはず――」
「それでも! ランスターの弾丸はっ、死んでいった兄さんのためにも私はっ! どんな敵でもどんなものでも貫けるって証明したかった!」
アークさんの言葉を遮って、砲撃魔法の反動による痺れや疲労感も無視して半ば自棄になりつつ叫びながらクロスミラージュを構えてがむしゃらに撃ちまくる。
「うああああぁあああぁぁ!!」
なんの工夫もなくただ撃ってるだけの弾丸は簡単に全て叩き落とされる。
それがランスターの弾丸は大したことないって、そう言われてるみたいだった。
「ティーダ・ランスター、約6年前に犯罪者である魔導師と交戦の末に手傷を負わせるも敵を逃し、自らは殉職」
アークさんが魔力弾を捌きながら話しだした内容が、兄さんのことだったために思わず手が一瞬止まってしまう。
弾幕が途切れた隙をつかれ右肩を撃たれる。
「・・・っつう」
積み重なったダメージとその衝撃で右手のデバイスを取り落としてしまう。
「局内では、特に上層部では非難の声が飛び交ったが、当時の記録によると市街地での戦闘であったにも関わらず民間人の死傷者は0。身を挺にしてまで庇ったんだろう。誰にでも出来ることじゃない、お前の兄は尊敬に値する人物だよ」
続いて左肩を撃たれもう片方のデバイスもその手から零れ落ちる。
だけどもう痛みは感じなかった。
「敵を撃ち抜くことは出来なかった。だがティーダ・ランスターの弾丸は、守るべき市民を見事に守りきった」
『少しでも多くの人を守りたいんだ』
昔、訓練に励む兄さんが口癖のように言っていた言葉をふと思い出す。
「それに比べてお前はどうだ? ティアナ・ランスターの弾丸には、何が出来た? 仲間を危険に晒すのがお前の弾丸か? お前は兄の死から何も学んでいない」
既に立ってるだけで精一杯でボロボロの私に止めを刺そうと銃口を向けているアークさんを見る。
――私、間違ってたのかな・・・?
遠のく意識の中、いつの間にか流していた涙で滲む視界で私が最後に見たのは桜色の奔流だった。
戦闘シーン2回目です。
難しい(´ω`)
戦闘シーンは主人公以外の視点の方がなんか書きやすい気もしますね。
ものすごい長ったらしい戦闘描写ですが、最初のやり取りはリアルなら10秒も立たない内の応酬です。アニメで再現しても僅か2,3分くらいでしょうなぁ・・・
ティーダさんに関しての設定は本作オリジナルのものとなります。公式に情報全然ありませんしね。
分かる人にはもう分かってると思いますけど技やら設定やらを微妙にvividとか4作目から持ってきてたりします。ほんわかしてる割にベルカ諸王時代の話とか多いですし。今後もちょくちょく4期設定が出ると思います。
なのはさんに撃とうとして撃てず、その後もStS本編ではついぞ放たれることはなかったティアナの砲撃「ファントムブレ(ry」
なんとなく撃たせてみたかった。
逆に本作ではなかったクロスシフトC
この話に出た作戦に名前をつけるならチームコンビネーション・ファントムシフトってところでしょうか。
前衛2人が撹乱、キャロが捕縛した所をティアナの砲撃でドカン。勿論遠距離から。
最後に乱入してきたの誰だろうなー(棒読み