魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~   作:Sady

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17話 才能、努力、苦悩

 

「今開けるから少し待ってくれ」

 

 

 

コウヨウとの通信はまだ繋がっているのでノックの音や今の俺返事は聞こえており、それで丁度今話題に上がっていた少女の来訪が伝わる。

これ以上ないタイミングだと大笑いしているのに腹が立つが相手にするのは無駄なので通信を切りティアナを迎えようと席を立つ。

 

 

 

 

「1人か?」

「はい、これは私の問題なので」

 

 

扉を開けるとティアナ1人だったので他に誰かいないかを聞いてみる。

なんとなくスバルも一緒にいるかもしれないと思ったが1人で来たようだ。

 

 

「そうか。まぁ立ってする話でもなさそうだし中に入るといい」

「お邪魔します・・・」

「何もない部屋だが話をするには丁度いいだろう。そこの椅子に座ってくれ」

 

生憎来客など想定していないので椅子はデスクについてる一脚しかない。

ホントに何もない・・・と呟くティアナをその椅子に座らせココアでも用意してやる。

初めはコーヒーでもと思ったが砂糖も何もなく飲めるかも分からないし、休息する時の妨げになるかもしれないのでやめておいた。

そして俺はベッドの方に腰を掛け話を聞く態勢に入る。

 

「先に聞いておくが体の調子はどうだ?」

「あ、大丈夫です。半日程眠って結構良くなったみたいです」

 

痛めつけた本人なので一応体の調子を聞いておく。遠慮してるのか気を遣ってるのか大丈夫と答えるティアナだが、節々が痛むのか時々身動ぎしている。まぁこの程度なら大丈夫だろう。

 

「で、こんな時間にどうしたんだ?」

「アークさんにも迷惑掛けてしまったから謝りに来たくて・・・それに、これからどうしたらいいか分からなくって話も聞いてもらえたら、と・・・」

「それならまずは高町教導官の方に行った方がいいんじゃないか? 謝るのも、相談にいくのも」

「私もそう思ってオフィスの方に行ったんですけど、なのはさんは訓練所にいるから明日の朝一で話に行って今日は宿舎の方にいるアークさんの方に行ったらどうだってフェイトさんが言っていたので・・・」

 

 

成程な。フェイトにそんなつもりはないんだろうが面倒事を押しつけられた気分だ。

 

まず最初に謝りに来たという言葉を実行するためかティアナは手に持っていたカップをデスクに置いて姿勢を正してから

 

「色々と迷惑を掛けてすみませんでした」

 

と、頭を下げた。

それは良いのだが、俺はどう対応したらいいのだろう。気にするな、とでも言えばいいのか。それともこれからは気をつけろと言えばいいのか。

 

ティアナは頭を上げて返事もせず黙ったままの俺を見ているが、口を開かないのは怒ってるからではないというのはどうやら雰囲気で伝わったらしい。それだけでなく俺がどう返事を返せばいいのか迷ってることも感じ取っている。

俺のその様子を見たからか、先程言っていた相談事とやらの話を持ちかけてこようとしてるみたいだが、どう言葉にしたら良いのか迷っているようでモゴモゴとまごついている。

 

 

「・・・私は、間違ってたんでしょうか・・・」

 

 

頭の中で整理出来たのか少し経ってから小さな声でポツリと悩みを吐きだした。

 

「兄さんの無念を晴らそうとランスターの弾丸はどんな敵でも撃ち抜けるってことを証明したかっただけなのに。相棒であるスバル、エリオやキャロみたいな年下の子供にまで嫉妬して、馬鹿みたいに焦った挙句ヘマやらかして皆に心配かけて・・・兄さんが何を望んでいたかなんて考えずに結局全部私のただの独りよがりだったんじゃないかって・・・」

 

正直、俺はティアナのことなどおおよその性格や六課にある局員データに目を通した程度でしか知らない。そんな俺に今までの努力がどうだの言われた所で共感することもなくどうしようもない。であるならば俺が言えることなど、先達の局員として人生観を語ることくらいだろうか。

 

 

「俺にはお前が間違っているのかも分からないし、これが正解だという答えも分からない。仮に正解があったとしても人によって違うだろうし与えられた答えに意味はない。が、それを踏まえてなお俺が言えることがあるとすれば・・・今のお前みたいに道を見失った時、自分にとって何が一番大切なことはなにか、それを思い出してみる事だ。そうすれば自ずと道は見えてくる」

 

 

 

――初めて銃を手に取った時、何を思ったか。

 

兄を殺したような犯罪者を許せない?

執務官になるという兄の夢を継ぐためか?

兄が無能だと言われる屈辱に耐えられなかった?

 

 

――今の自分にとって大切なものはなにか。

 

ランスターの弾丸はどんな敵でも撃ち抜けるということを証明すること?

執務官になること?

今まで自分を支えてくれた仲間?

 

 

それらが何かは俺には分からない。

だけど本当に大事なモノ、絶対に譲れないモノをしっかり自覚している人間は芯がぶれないし、それ故に強い。

 

もしティアナが仲間も必要としない程の自らの強さを望むならば、今日の模擬戦での選択は間違ってないと俺は思う。信じる者は自分だけ、全てを自らの手だけで、というのであれば変わる必要もない。その結果無茶をして体を壊すかもしれないしまた味方を撃つかもしれない、だがそれら全てを踏み越えられたならティアナの望む強さが得られる筈だ。

逆に、仲間と共に強くなることを選ぶならティアナは変わらなければならない。他人を、仲間を信じて自分以外の誰かの手に結果を委ねる覚悟もしなければならない。少なくとも今日の模擬戦のように1人で突っ走るということなど論外だ。

 

どちらを選んでも長所短所はある。

しかしその中で教導官であるなのはは後者の仲間と共に強くなる道を選んで欲しいと願っているしそうなるように教導している。

 

 

「まぁそう簡単には答えは出ないだろう。一晩じっくり考えて明日高町教導官と話し合ってみるんだな。あとは、そうだな・・・お前は才能って言葉に敏感なようだが、それについて1つ話をしてやろうか。参考になるかは、知らんがな」

 

難しい顔をしているティアナだが、別に今すぐに答えを出せという訳でもない。

 

そして、今から話すことはティアナの悩みには直接関係ない事だ。

ティアナに実際才能があるかどうかは置いておき、本人は自分に才能がないと思っている。だからその逆、才能があると自覚している人間に関しても知っといて欲しい。

才能がある人間の苦悩も知らずに、自分には出来ないことを才能がないから、とまるで才能があれば出来た筈だと、見苦しい言い訳に使わないで欲しいという俺の我儘からくるものだ。

コンプレックスは弱い人間だけが抱えるものではない。なのに自分だけ悲劇のヒロインを気取られるのは癇に障る。ティアナ程度が悲劇のヒロインというのならば、自分を生み出した母親に全てを否定されたフェイトや千年にも及ぶ絶望を抱えたはやてやリインフォースはどうなるというのだ。

 

 

「まず最初に言っておくと、俺には才能があった。お前の言う所の天才って部類に入るだろう。だから、お前の苦悩を本当の意味で分かってやる事は出来ない。そしてお前もまた俺の、才ある人達の苦悩を理解することもないだろう」

 

それでも、理解は出来なくとも知っていてもらいたい。

 

欲しいと願っても手に入らず、いらないと思っても捨てられない。

才能はあればある程良いなんてものでもない。本人がどう思ってるかなんてことは知らないが高町なのはとて、魔法という才能があったために人生は大きく変わり常に危険が付き纏う仕事に就く事になった。就かざるを得なかった。

彼女の場合本人が望んでそうなったが、もし本人が望んでなくとも何かしらの形で管理局に関わることは避けられなかっただろう。

管理外世界の人間など都合の良い駒としか考えていないのが現在の管理局の上層部なのだから。

 

望まぬ生き方を強いられる人達の苦痛を考えたことがある人間が一体どれだけいるのだろうか。

才能があるということのデメリットを考えたことのある人間が一体どれだけいるのだろうか。

 

 

「不思議なことにな、お前達が失敗して努力を否定されるように、俺達は成功するほど努力を否定されるんだ。なんでか分かるか? それが当たり前だと思われてるからだ。完璧にこなせばこなす程、才能があるから出来たと言われ天才だと努力はなかったことにされる」

「そんなこと・・・っ」

「ないと言い切れるか? 絶対に?」

「それは・・・」

 

普通の人間に点数を付けようとする時を加点方式だとするならば、俺達は減点方式。

最初から満点を取る事を当たり前に期待されている。

普通の人間が100点満点の内90点を取れたなら、それは喜ばれるだろう。周りの人間も褒め称えるかもしれない。

俺達が90点を取ったなら、それを喜ばれることはないだろう。何故残りの10点が取れなかったのだと失望されることさえあるかもしれない。

確かに天才と呼ばれる人種は、同じだけやって周りの人以上の結果は出せるかもしれない。

仮に偉業と呼ばれる成果を遂げたとして、その背景には才能がなければ達成出来なかったという事実があるのかもしれない。それでも、それは努力をしてないとイコールで結ばれる訳ではない。

だけどその努力が評価されることはなく、天才とばかり褒め称えられる。

天才と呼ばれて喜ぶのは凡人だけだと、凡人には分からない。

 

「私にも才能があれば、とか言ってる時点でそう思ってるんだよ。あいつは才能があるから成功してるんだってそいつの努力を見てないのさ。多くの人間が心の底ではそう思ってる」

 

 

周りの期待に答えなければ、これくらい出来て当然だ。

そう言われ続けその期待を裏切らないように努力する。そして期待に応えるように結果を出す。そしてまた期待される。今度はより大きな期待を。

次もまた、次もまた、その繰り返し。

もはや期待に応える達成感などそこになく、あるのはいつか失敗してしまうのではという焦燥感だけ。

 

いくら天才と呼ばれる程の能力を持っていてもそれ以外は何1つ周りの人と変わらない人間だ。能力と比例するような強靭な精神力を持つ人間などごくごく僅か。

多くの人間はその才能に押し潰されてしまう。

 

「才能っていうのは、重いぞ。お前もスバルと長い事一緒にいて少しは分かるだろう。人とは違うということの苦しみが。他にもキャロの過去なんてその典型的な例だ。才能が欲しいと嫉妬するならば、その人生丸ごと全てを嫉妬してみせろ」

 

 

戦闘機人という兵器として作られた存在である悩みと葛藤を。

ある日突然自分という存在そのものが揺らぐ恐怖を。

たまたま生まれ持ったスキルを恐れられ故郷を追放された人生を。

 

 

 

言いたいことを言い終わり改めてティアナの様子を伺うと、俯いてここに来た時より落ち込んでいるように見える。最近の自らの行いを振り返り罪悪感と共に嫌悪感に陥っているのかもしれない。

最後の方は説教の如く責めるように言ってしまったので堪えたようだ。

相談に来た人間に対してする話ではなかったと今更思うが、これも精神的にも成長する試練だと思って乗り越えてもらうしかない。

改めて俺は優しく諭すということに向いてないと自覚する。

 

 

 

俺としてはこれ以上ティアナに言うことはなく、ティアナも今話した内容を受け止めるに精一杯で口を開く様子はない。

結果、先程ティアナのココアを作る時に同じく自分用に用意していたコーヒーを口にする音が響くだけのある種気まずい雰囲気が出来上がった。

 

 

そんな静寂を切り裂いたのは緊急事態を知らせるアラートだった。

 

 

「っ!この話は終わりだ俺は管制室へ向かう。お前も自分の持ち場へ行け!」

「は、はいっ!」

 

 

すぐさま意識を仕事モードに切り替え、何事かと驚いているティアナを置いて先に部屋を出て管制室を早歩きで目指す。

こんな遅い時間にアラートが鳴ったせいで隊舎内がバタバタと慌ただしい。

 

 

管制室に辿り着くと部隊長であるはやて、なのはとフェイトも既にいた。

映像を見るに東部海上にガジェットⅡ型12機が旋回飛行を続けているそうだ。

 

「アーク執務官はこれをどう思いますか?」

 

俺が到着する直前まで3人で話し合ってたみたいだが、良いタイミングで来たとばかりにこの状況をどうみるか聞かれる。

 

「見た所今までのより動きが速いようだし調整したガジェットの実戦データを取りに来たか動作テストと言った所でしょうか」

 

内心100%これだろうと思う。ジェイルにとってあのタイプ以外のガジェットなどホントにオモチャ程度にしか認識していない。こんな夜遅い時間なのもただの嫌がらせのつもりかもしれない。

 

 

「まぁこの程度なら隊長陣が2、3人出向いて壊せばいいかと。敵増援もおそらくないでしょうし」

「うん、まぁそれで決まりやな。アーク執務官はフォワード陣と一緒に待機でお願いします。もしも敵増援があった場合に限り出撃してもらいます。こんなんでリミッター解除する訳にもいかんしな」

 

 

 

作戦が決まった以上部隊長であるはやて以外はここにいる必要はなくなのは達は出撃のため、俺は待機のために管制室を後にする。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

リミッター、か・・・

 

なのはちゃん達が退出してグリフィス君達に指示し終わって待機してる時にふと思考を巡らす。

 

リミッターはこの機動六課において大きな意味を持つ。隊長陣全員にリミッターが掛かっている部隊など他に地上部隊はおろか次元航空隊にもない。どのタイミングで持ち札を切るかで今後の戦略が大きく変わってくる。簡単に使う訳にもいかず、かと言って出し惜しめばそれが原因で最悪の未来が待っているかもしれない。

 

今私が注視しているのは私達が持つ解除権でなくアークさんが持つリミッターの解除権。

この前は自分の持つリミッターも強制こそ出来ないが必要に迫られれば使用すると言っていた。けれど実際はどうだろう。

あの時はいきなりで少し動揺してしもうたけど時間を置いて考えてみたら分かった。あのリミッター解除権は六課の為にじゃなく完全に自分の為に使うつもりやと。だから上層部も解除時間無制限なんていう権限のOKを出したんやろう。

六課の隊長陣は全員が一級品の戦力を持ってる。その解除権を持ってるっちゅうことはその戦力が必要になるかもしれんってことや。

 

アークさんの出向が決定した時点で私に出来る事はなにもなく、上層部の思惑を読み取るよりも目の前のAAAランクの魔導師を部隊の為にどう有効に扱うかを考えていくしかなかった。

多分読まれてたんやろう。リミッターがなく常に安定した戦力として見込めるアークさんをなるべく六課に長い時間いるように交渉することを。外部の人間を警戒して隊長陣の誰か――今回は捜査協力という形やからフェイトちゃん――と行動を共にしてもらうってことも。

だからその側にいる隊長陣の力を十全に使う為に解除権を持ってきた。

ランクの高い魔導師を利用しようとするのはこっちだけじゃないってことや。

 

本人の言葉を信じるならその解除権は恐らく捜査中に使用する可能性が高いって言うてた。

自身がロストロギア保有者のAAAランクでありながら更にオーバーSランクの魔導師を必要とする程のナニか。

それ程の戦力なんてそれこそスカリエッティのようなS級広域指名手配犯かそれに類する相手でもないと必要ない・・・。

アークさんが個人的に何を捜査してるかは詳しくは聞いてない。フェイトちゃんに聞こうと思ってもやっぱり機密事項が多くほとんど話せないと言っていた。

出向の表向きの理由は魔法生物の凶暴化の原因追及と聞いてるけどホントは一体どんな目的や?

 

考えられる可能性が最も高いのはカリムの預言に関係すること。その預言には陸士部隊と管理局システムの崩壊を指してると思われる未来も読まれてた。アークさんの六課出向はレジアス中将が指示してるっぽいし、それを防ぐために動いてるのも間違いない。

でも・・・これは半ば勘やけどアークさんの思惑とレジアス中将の思惑はなんか違う気がする。

レジアス中将は陸のトップや、自分さえ生きていれば管理局のシステムが崩壊しようと陸だけならばなんとか出来ると思ってるし実際その通りでもある。海嫌いな中将は極論としては陸さえ良ければそれでいいと思ってるから陸士部隊の壊滅の方が防ぎたいやろう。

逆にアークさんは次元世界を駆けまわる執務官。今日のティアナへの接し方から見て管理局員であるということに対して厳しい面もあるし陸士部隊の壊滅より管理局のシステムの崩壊を防ぐ方が優先度が高そうや。

 

もしかすると陸士部隊の壊滅と管理局システムの崩壊させる原因はそれぞれ違う・・・?

私よりも中枢に近い位置にいるアークさんは私以上に管理局の深い所までを知っている。

覚悟してたけどこの件は私が思っている以上に根が深いのかもしれない・・・

 

 

「はやてちゃーん、難しい顔してどうしたですか?」

「ん、なんもないよリィン」

 

思考に完全に没頭していた私の頭はリィンの声で現実へと引き戻される。

今は目の前の問題を片づけるためになんでもないと返してモニターへ視線を戻す。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

管制室を出て現在はヘリポートにいる。

既にフォワード陣隊長陣と勢揃いであとはフォワード達に指示を出したらいつでも出撃出来るという所か。

 

 

「今回は空戦だから出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の3人」

「皆はロビーで待機だね。それとアークも」

「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ」

『はいっ!』

 

ヴィータの言葉にティアナ以外の3人が元気よく返事を返す。

ティアナはというと身体的な疲れと先程話してた時の気持ちの切り替えが出来てないからか僅かに俯いて元気がなかった。

 

「あぁ、それとね。ティアナは出動待機から外れとこうか」

「っ!」

 

なのはとしては元気のないティアナを見て昼間の模擬戦のダメージがやはり抜けておらず本調子じゃないことを想ってのことだったが、言われた当の本人はそう受け止められなかった。

 

「その方がいいな。そうしとけ」

「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし」

 

ヴィータもなのはを援護するように賛成する。

 

「弱い奴は、多少体調を崩しただけで危なっかしくて使えないってことですか・・・?私は、大丈夫です、いけます!」

「そうじゃないよ。ティアナだけじゃなくて他の誰かが同じような状態なら同じことを言うよ。それだけ危険なことなんだよ?」

「だけど! 同じように倒れたキャロは良くて私はダメなんですか!? 少し調子が悪いくらいで外されたら強くなるものも強くならないじゃないですか! それだったら少しくらい無理をしたって――」

「やめろ」

 

黙って聞いていたが、このままなのはとティアナの2人が言い合っても良い方向にはいかないと判断して割り込む形で制止する。

普段のティアナならば、キャロが倒れたのは一時的な軽い脳震蕩であり自分が倒れたのとは訳が違うと理解し納得していただろう。だが、積み重なった疲労に自分を見失って精神的に不安定な今、なのはの言葉は自分は他の3人達とは違うという意味にしか取れなかった。

 

「無理だ。今日はもう戦闘可能な状態じゃない。俺がそういう風にやったんだ」

「っ! そうだとしても!」

 

 

ダメだな。これは口で言っても聞きそうにない。

そう思って実力行使に出ようとしたまさにその時、今まで事の行く末を黙って見守っていたシグナムがティアナの肩を掴み寄せ殴り飛ばした。

 

「シグナムっ」

「シグナムさん・・・」

 

おいおい・・・確かに変われとは言ったがブン殴れとも言ってないぞ俺は・・・

これがシグナムなりの愛の鞭か、歩み寄り方なのか・・・?

 

「もう決定したことだ。いちいち駄々をこねるな黙って命令に従え」

 

冷たい眼つきでティアナを見下しながらそう言って、ヴァイスに準備は整っているか声を掛けてなのは達を出動させた。

なのははそういう意味で言ったんじゃない、と誤解を解くために声を掛けようとしていたがこれ以上出動前に時間と取る訳にもいかず、後ろ髪を引かれる思いでヘリに乗り込んだ。

 

 

 

「目障りだ。いつまでも座り込んでないでさっさと言われた通りに行動しろ」

 

 

シグナムはなんのフォローもせず容赦なく冷たい言葉をティアナに浴びせる。

そんなシグナムの姿を傍目にみて不器用な奴だと思う。俺以上に人を諭すという事が向いていなさそうだ。

だがそれでも、昼間に俺が言ったことを聞きいれ不器用ながらも実行している姿勢には好感が持てる。

 

 

 

自分の相棒がきつく言われることに我慢出来なかったのかスバルがシグナムに食ってかかったが、そのすぐ後にシャーリーが出てきてフォワードの皆になのはがホントに伝えたかったことを教えてあげると言ってロビーへ場所を移すことになった。

 

 

 

ロビーに集まったのは先程いた俺とフォワードの4人にシグナムとシャーリーに加えシャマルとリインフォース。

4人掛けのソファが2つの8人席で俺が溢れ席がなかったのだが、他所から1つだけ持ってきた。席が埋まった瞬間のフォワード達のどうしたらいいか分からずにいた不安げな顔と後から加わったシャマルの申し訳なさそうな顔が忘れられない。一見すると無表情だったリインフォースの口元が少しニヤけていたのも決して忘れないだろう。

 

 

そうやって皆が腰を下ろすのを確認したシャーリーは端末を操作し、スクリーンに映像を出す。

映し出されたものは10年前のPT事件。

そして9歳の女の子の壮絶な戦いの記録にフォワード陣は唖然としている。

 

 

映像内で時は流れ、PT事件から闇の書事件のものへと移り変わる。

そこに映し出されるのはなのはにフェイト、守護騎士達、そして――

 

「アークさんにアインスさん!?」

 

リインフォースはともかくここで俺が登場したのが意外なのかエリオを筆頭に驚きの声をあげる。

 

これまでの映像と違い画質が極端に落ちた俺とリインフォースの戦いのシーン。

画質が悪いのも理由がありこの時の映像記録は一番近くにいたなのはのレイジングハートに残っていた記録なので正式な資料としては扱われていない映像である。アースラから観測出来なかったのは闇の書の影響で磁場が一時的に乱れていたという理由になっているが、その事実は俺の記録が出来る限り残らないようにギル・グレアム一派が細工した結果だ。

 

そんな中良くこれが俺だと判断出来たと関心する。

 

「アークさんもこの、闇の書事件に関わってたんですか?」

「あぁ、といっても最後のほんの少しだけな。それもすぐ撃墜されたしな、ほら」

 

スバルの質問に手短に応えスクリーンの方をを顎で示す。

視線を向けると丁度その撃墜のシーンだった。映像の中の俺は全身が血塗れでバリアジャケットはボロボロ、挙句にデバイスは刃に無数の亀裂が入り、リインフォースの止めの一撃で真ん中辺りから真っ二つに砕き分かれた。

 

「あぁっ!」

 

その悲惨さに悲鳴をあげキャロなどは手で顔を覆っている。

リインフォースの方も黒歴史と言わんばかりに目を逸らしていた。

 

 

更に映像は流れついに今回の話の核心、なのはが撃墜した時に切り替わる。

雪降る世界の中、白い地面を赤に染め上げる程に血を流す姿。

病院で包帯に身を包み沢山のケーブルで繋がれる姿。

 

 

エースオブエースとまで呼ばれているなのはのあまりな姿にショックを受けているフォワード達。

次いでシグナムに言われた言葉にティアナは目を見開く。無茶で危険な行為、それによって有り得るであろうリスク。1つ間違えれば仲間が映像のなのはのようになっていた可能性。ただ危ないと注意されていても本当の意味で理解出来ていなかったと痛感させられる。

 

 

その様子をみて考える時間も必要だろうとシャーリーやシグナム達と視線を交わし揃って席を立つ。

 

 

「ひとまずはこれで解決、だな」

「あぁ、あとはなのはとティアナ次第だな」

「しかし、まさかティアナを殴り飛ばすとはな」

「あ、あれは・・・ああいう時はあれが一番手っ取り早いんだ」

 

ティアナ達を遠巻きに見ながらシグナムにさっきのことを言及すると、自分でも少しはやりすぎたと思っているのかバツが悪そうにそっぽを向きながらそう答えた。

 

「ま、否定はせんがな」

 

スバルやちびっこ達がいるしティアナはもう大丈夫そうだったので、やれやれとジェスチャーをしながらロビーを後にする。

 

 

 

 

待機命令も解除されなのは達も帰還したと連絡を受ける。

帰還後なのははすぐにティアナの元、湾岸部の堤防へ向かう。

 

何故俺がそんなことが分かるのかというと、ヘリポートから湾岸部、辺り一面を見渡せる隊舎の屋上にいるからだ。

2人が隣り合って座っているのも少し離れた場所でスバル達が出歯亀しているのも良く見える。

 

ここからは会話の内容は分からなかったが、微かに聞こえる泣き声となのはの胸に抱きついている姿を見て、漸く一連の事態は終息を向かえたのだと理解し、溜め息を吐く。

 

 

「こんな所から覗き見とは、趣味が悪いな」

「ここまで手を焼いてやったんだ。結末をこの目でみたいというのは当然だろ?」

 

溜め息を吐いている俺に後ろから声を掛けられる。

振り向けば予想通りそこにはリインフォースがいた。

 

「結局、この件でお前はほとんど何もしなかったな」

「うっ」

 

意地悪くそう言ったら本人もそのことを自覚していたらしく胸を抑えていた。今まではシグナムも傍観者で仲間だったのがつい先程シグナムも見て見ぬフリを止めて不器用ながらも問題に向きあったことを聞いて、自分だけが傍観者だったとダメージを受けたのだろう。

基本的にリインフォースは励まされる側の人間で何かと諦め癖があったり、誰かの相談に乗ったり誰かを諭した経験がないのも傍観者であった原因の1つなんだろう。

 

どうにかしなければと自覚しつつも、他人とどう接したらいいか未だに分かり兼ねてる姿は子供みたいだ、とつい笑いそうになる。

 

「じゃ俺はもう休むとする。じゃあな」

 

すれ違い様に精々がんばれよ、と気持ちを込めてリインフォースの肩をポンと叩いて屋上を出て自室へと戻る。

口には出さずとも馬鹿にされたのは分かったのか文句を言っているが、それを聞こえない振りして歩き続ける。取り敢えず今日はゆっくり眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝の訓練だけでもとフェイトにお願いされて俺は今フェイトと同じ訓練用の服を着てフォワード達と一緒に海上訓練施設に向かっている。

 

「技術が優れてて華麗で優秀に戦える魔導師をエースって呼ぶでしょ? その他にも優秀な魔導師を現す呼び名があるって、知ってる?」

 

フェイトの質問にエリオ達は顔を向き合わせて互いに知ってるか確認するが誰も心当たりはないようだ。

答えを知ってるであろう俺には黙っててね、とアイコンタクトが送られる。

 

「その人がいればどんな困難な状況も打破出来る。どんな厳しい状況でも、突破出来る。そういう信頼を持って呼ばれる名前、ストライカー」

 

そのストライカーに皆はなれる。だからうんと厳しく、うんと丁寧に育て上げる。

なのははそう言ってたよ。とフェイトは優しい笑顔でそう言った。

 

 

「他にはどんな呼び名があるんですか?」

「そうだね・・・あっ、こんな面白いのもあるよ」

「どんなのなんですか?」

 

エース、ストライカー、こういった二つ名に憧れるのはやっぱり男の子のエリオであり、他に呼び名はあるのかとフェイトに訪ねた。

ん~、と唇に指を当てて考えるフェイトだが少しして、ピコン!と電球が幻視出来そうなくらいの反応を見せる。

 

「誰が言い出したかは分からないんだけど、管理局には公にはなっていない幻の部隊があってその部隊の隊長、『JOKER』っていう魔導師がいるっていう噂があるんだ」

「へー!」

「一種の都市伝説みたいなものなんだけどね、そのJOKERに負けはなく、その姿を見せた時点で決着は着いている。まさに管理局の鬼札、ってね」

 

エリオが目をキラキラさせて話を聞いている。

フェイトはあくまで噂話だからね、と念押ししているがあまり効果はなくエリオは信じ切ってしまったみたいだ。

 

 

「アークはどう? JOKERはホントにいると思う?」

 

その存在を信じてしまったエリオを見て苦笑いしながらフェイトは今度は俺に尋ねてくる。

アークならホントかどうか知ってそうだね、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、どうなんだろうな」

 

 

 

 




約1ヵ月振りの更新です(´ω`)5000字くらいは割と1週間くらいで書けたりしたんですがそこからが長かったです。
分割しようかなーとかも思ったんですがティアナ編は今回で終わらしたかったので区切り良くするために1話で行きました。原作から微妙に離れたりそのままだったりの展開は結構続くと思います。

何気にツヴァイは今回で初登場です。ホントに一言だけですが。
ツヴァイよりやっぱりアインスの方をバンバン出していきたいという願望がそのまま登場頻度に影響してしまってます。

前半のティアナとの会話でやたら「才能」という単語が出てきますが、これはこの小説のテーマの1つが「ありすぎた才能」だったりするからです。話の中でここらへん上手く伝えられてるか不安です。
ネタバレという程でもないですがそういうテーマな訳でオリジナルのキャラの中で才能なかったけど努力しまくって強くなったんだ!的なキャラはほぼいません。


次回は閑話というかストーリーに大きく関わらないのだと思います。
そろそろクイントさん出せよ、って思ってる人が結構いると思いますのでその為の話とも言えます。


11月で初投稿から1年だから何か書きたいと思いつつネタが思い浮かばないっていう・・・
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