魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~ 作:Sady
機動六課設立においてこれから起きるであろう影響を考慮し管理局の今後の方針の議論に入った最高評議会から目をはなし手に持っている六課の資料を机の上に半ば投げるように置く。
機動六課に俺を入れる事も考えておく、か。おもしろい。
これまでお遊び程度で部隊に加わる事はあったが正式な形で加わるのは久方ぶりだ。つまり、それだけ意味のある重要な任務ということになる。
最近は大きな事件はなかったし、暇だった所だ。
『シーリングよ』
いつの間にか議論が終わっていた最高評議会の議長がその合成音声を響かせる。
まぁ取り敢えずは様子見程度だろうな。
『お主は明日ジェイル・スカリエッティの所へ行け。レリックウェポンの調子を見にな』
『アレが完成すれば低ランクの魔導師であろうと適性さえあれば大きな戦力となるからの』
「分かりました」
返事と敬礼をしてそのまま背を向けこの地下、管理局の最も罪深き場所とも言えるこの部屋から立ち去る。
まさか、ホントに言葉通り様子見とは――まぁ機動六課を、ではないが
と言っても、あれはジェイルにあまり勝手な真似をするなと釘を打ちに行けという事だろう。1から10まで言われなくともその位の行間は読み取れるし今更レリックウェポンの成果など見に行かなくとも既にあるだけの実験データは届いているのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日、俺はミッドチルダ東部の森林地域に足を運んでいた。
最高評議会から指定されたポイントに行くとそこに薄い紫色の髪の女性が一人。
その女性は俺の姿を確認するなり丁寧なお辞儀をする。
「お久しぶりです。リリィ様」
「久しぶりだなウーノ、リリィは止めてアークと呼べ。と、言っても無駄か」
「えぇ、ドクターから貴方の事はそう呼ぶように、と仰せつかっておりますので」
俺をリリィと呼ぶのはジェイルとその娘だけ。俺はこの女性と間違えられる名で呼ばれるのは好きではないのだが、それを分かっていて尚俺をリリィと呼ぶジェイルは良い根性をしている。あいつは科学者らしく頑固で人の話を聞かない所があるので文句を言おうが殴ろうが呼び名を改める事はないだろう。
「では、アジトへ参りましょうか」
そう言ってウーノはどこからか拳大の機械を取り出しそのスイッチを押す。
その瞬間足元に魔法陣が出現し、数瞬後には先程と違った景色が目に入る。
「転移装置か」
「はい。使い捨てですが転移による魔力残滓が発生せず、よほど魔力感知が高い魔導師でなければ追跡が困難な物です」
どうやらアジト内に直接転移したようで、ウーノは使い捨てである以上最早ガラクタとなった機械をしまい先導して歩きだす。
中継を挟まずに転移してくるとは、随分自分の発明した物に自信があるようだ。まぁ、どうせ暇潰しとでも言って片手間で作ったんだろうが。犯罪者の手に渡れば厄介になるであろう物を片手間で作るとは呆れた技術力とも言える。
と、そんな事を考えてるうちにジェイルのいる場所へと着いたようだ。
「どうぞお入りください」
中に入るとなにやら小さな部品をゴチャゴチャと弄くりまわしている男と、それを呆れた目で見ているその男の娘がいた。
男の隣にいた女性――トーレが俺が入ってきた事を告げると手を止め顔を上げた。
「やぁ!待っていたよリリィ君!」
「お久しぶりです、リリィ様」
「あぁ、久しぶりだなトーレ。で、待っていた時間で出来た成果がそれかジェイル」
「ん?これかね?これは君だよ、下の娘たちがいつも私が言っているリリィ君がどんな人か見てみたいと言われて作った人形だ。正確にはデフォルメ化して録音した君の声をランダムで発す――」
「すまん手が滑った」
つい手が滑って人形を叩き壊してしまった。
偶然起きた不幸な事故だ。俺は悪くない。
「あぁっ!なんてことを!・・・・・まぁいい数はまだまだある。で、最近調子はどうだね?」
「悪くはないな、というかそれは俺の台詞なんだが」
「つれないね、我々は同じクライアントの元で共に働く仲間だというのに」
「同じ穴の狢、とも言う。そして今日はそのクライアントからあまり勝手をするな、と釘を刺しておくように言われて来たんだがな。いくら俺達は替えが利かないとはいえ、あんまり調子に乗るなよ」
「はは、では忠告通り少し自重しようかな。と、言いたい所なんだが、丁度5月13日に輸送されるレリックを頂こうと思っていた所だよ」
あと、今年はアグスタで行われるオークションにもお邪魔するよ。と付け加える。
アグスタにも手ぇ出すのかよ。俺が表の顔で参加する数少ないイベントだというのに。
まぁ、要人警護であって品物は俺の管轄外だからいいけど。
「所で、タイプゼロのオリジナルの彼女は元気かね? 評議会の連中にも黙って隠してるんだろう? ノーヴェのオリジナルでもあるから少し気に掛っていてね」
「クイントの事か? 元気だぞ、過分な程にな。主に食事面で」
口封じで死なす位ならば、と数年に渡り匿っているんだが、いかんせん元気過ぎる。少しばかり行動を制限してるせいか文句も言うし我儘も言って時々助けた事を後悔することがある。笑顔で俺の分のご飯もメガ盛りにしてるのは嫌がらせにしか見えない。彼女は善意からやっているのだろうが・・・
それからもクイントの破天荒な行動を挙げていったり、まだ会った事のないナンバーズの話をトーレから聞いたり、ジェイルがここ数年管理局のある執務官にストーキング受けて撒くのが骨だとかを話している内に時間は過ぎていった。
「さて、そろそろ俺は帰るか」
「おや? もうそんな時間かね。いやはや信頼出来る同志との時間はあっという間だな」
「信頼する同志、ね」
「違ったかな? 帰りはトーレに送らせよう」
「ふん、じゃあまたな」
部屋を出る時に手をヒラヒラ振って別れを告げる。
部屋を出て特に会話もなくトーレと歩いているとふと腰辺りに軽く何かがぶつかった。
「うぷ、すまないボーッとしてい・・・」
横の通路から出てきたであろう奴をみると、片方しかない目を見開いて呆然と俺を見ていた。
「妹のチンクだ」
「あぁ、確か騎士ゼストをやったという」
トーレの短くも的確な言葉を貰い誰かを把握する。
「初めましてだな、俺はアーク・リリィ・シーリングという」
「あ、チンクです」
俺が差し出した右手をおずおずとした様子で名乗りながら握るチンク。
基本的にアジト内でナンバーズ以外の人間と会う事はないのでいきなりの事に少し混乱しているようだった。
「もうここまでくれば一人で出れる。見送り御苦労さんトーレ」
「はい、リリィ様もお元気で」
あ、ウーノにまだまだあるという俺の人形を処分するように言っておくの忘れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アーク・リリィ・シーリング・・・という事は彼がドクターの言っていた“リリィ君”ですか?」
「あぁ、これからは顔を合わせる事もあるだろう。しっかり覚えておくといい」
私は先程ぶつかってしまった人物を思い出す。
トーレ姉さまより僅かに高い位の背に男性にしては少し長い――血の色のような紅い髪、そんな暗い赤とは対照的に燃える炎のような鮮やかな緋色の眼
ドクター曰く最高評議会のwild card――鬼札と呼ばれ対ロストロギアに関しては絶大なレアスキルを持つ魔導師・・・か
彼と握手を交わした右手を見ながら私はこれから先の未来に思いを馳せた。