魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~   作:Sady

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大変お待たせしました18話です・・・・難産だった(。≖ˇェˇ≖。)
そしてお気に入り1000突破ありがとうございます。




18話 人間性

 

 

『ありがとうございました!』

 

 

この前のティアナの模擬戦からおよそ1週間経った。

今日も朝練だけでもと言われ、なのは達と共にフォワード達を鍛えていた。

 

今回の訓練で俺が頼まれたのはエリオとの1対1。フォワード達はチームでのコンビネーションを優先させて鍛えてる訳だが何もシングルでの個人技能を蔑ろにしている訳でもない。

だから訓練に顔を出せる機会が少なく、同じベルカで同じ槍系統の武器を持つ俺がいるので今回はチーム練習はやめてエリオをみっちり鍛えてあげてくれとのことだった。

エリオの方もこの前の模擬戦で打ち合って以降懐かれたようだし俺との訓練だと伝えられた時も嬉しそうだった。自分より強い人に惹かれるあたりエリオもやはり男の子のようだ。

それに加え同じ系統の武器を持つ俺の方がシグナムよりも具体的な強さの目標になったらしい。分からないことがあれば素直に聞いてくるしまだ幼い故か覚えも良く教え甲斐もある。

この1週間の間でも空いた時間を見つけては木で出来た模造品を使っての稽古を頼まれている。普段から周りに気を遣って、主張の少ないエリオがここまで積極的に頼み事をするようになってくれたのは嬉しいとフェイトが言っていたが、反面その頼み事をされるのが自分ではないことが少し寂しいようだ。やっぱり男同士の方が遠慮しないで済むのかなと首を捻ってたのは記憶に新しい。

 

 

「あーつかれたー!」

 

 

訓練が終了すると皆が一斉にへたり込むのは毎度お決まりの光景だ。

当初に比べ体力も増え慣れたりしないのかと見る人は思うかもしれないが、この六課の教導官は高町なのは。自身が半ばワーカーホリックであるのも原因かその訓練は徹底的だ。訓練スケジュールやメニューも予想された成長率と実際の成長率を比較し微調整も事細かに行われている。故に体力が増そうが慣れようが限界ギリギリを見極められた訓練が待っているのだ。当然、余力が残るようなものではない。

 

「そうね、早くシャワー浴びてすっきりしたいところね」

 

今日もいつも通りにトレーニングウェアが重くなる程汗を掻いてる上、埃やらで汚れているため、まだ休んでいたいだろうがそれでも早く汚れを落としたいとティアナが立ち上がり、他の面々も首を縦に振って同意している。

 

「ほら! エリオ君も一緒に行こっ」

「えっ!?」

 

スバルもティアナが立ったのに続き、キャロもエリオの腕を持って一緒に行こうと誘う。

この場合の一緒に行こうというのは文字通りの意味だけでなく、その後のお風呂も一緒に入ろう、という意味なのは明らかでその意味が正しく伝わったエリオは驚きの声を上げる。

 

「ぼ、僕はいいよ。あとで行くね」

「どうして?」

「どうしてって・・・」

 

キャロの誘いにエリオは顔を赤らめながら断るが、キャロはどうして?と更に追及する。以前の出張任務の時にも似たようなことがあったと聞いたし今更なんで、ということだろうか。子供の頃は女の子の方が早熟と聞くがこういった所を見るにキャロは一般論は当てはまらないみたいだ。寧ろエリオの方が早熟という言葉が当てはまりそうだ。・・・キャロが狙ってやっているなら話は別だが。

その追及にうまく応えることが出来ないエリオは他に助けを求めようと視線を巡らせている。

ティアナは先に行ってその視線に気付かず、スバルはその視線に気付くも送られる視線の意味には気付かず首を傾げている。2人を子供と思っているから別に一緒にお風呂に入ろうと何も疑問に思っていないんだろう。

続けて今後の打ち合わせをしている隊長達に目を向ける。

フェイトは説得する所か出来れば私も混ざりたい。と聞こえてくるような顔をしており、なのはは苦笑いするだけだった。

エリオはこの2人も望みナシと判断して次を探し、この場に残る最後の人物である俺に助けの視線を送る。一縷の望みを賭けたその視線は熱い。訓練中のまなざしより熱い。

 

仕方ないな、とエリオ達の元へ歩み寄る。

 

「わっ」

「悪いな、さっきエリオと一緒に入るって約束してたんだ」

「そうだったんですか。もう、エリオ君もそういうことなら言ってくれたらいいのに」

 

近づいてそのままエリオのお腹に腕を回して抱き上げて、キャロに向かって先約があるのだと告げる。勿論、嘘だ。

一応キャロは頬を膨らませつつも納得してくれたようなのでこれ以上厄介なことにならないようにエリオを担いだままだが訓練場を後にする。

 

「あ、ありがとうございます」

「気にするな。それにしてもお前も大変だな」

「はい。あと、そのぅ」

「ん?」

「そ、そろそろ降ろしてくれませんか?」

「あぁ、悪かったな」

 

子供ということで大して重くもなかったので降ろすのを忘れていた。

 

「いえ、大丈夫です。それに誰かに担がれるなんてこと今まであまりなかったのでなんだか新鮮でした」

「・・・そうか」

 

世間一般の年頃の男の子ならば誰かに担がれるなんてことは恥ずかしいことでしかないと思ったが、エリオは違うらしく少しだけ嬉しそうに言う。

 

エリオはおよそ10歳。それもオリジナルの歳であり、オリジナルが何歳で死んだのかは知らないが、ここにいるエリオはどれだけ造られた時期が早くとも7歳にも届かないだろう。フェイトに保護されたのが大体4年前。フェイトが助けだしたという何処ぞの研究施設にいた期間がどの位か分からないが、更にその前の親元にいた時間はかなり短い筈だ。恐らくほんの数カ月かそれ以下――尤も、オリジナルの記憶を持っているエリオはいつからが本当に自分で経験した記憶かなんて分からないだろうが。富豪であろうが普通の域を出ない家庭に情報を隠蔽する力などない。

この事から考えると生まれてから5~6年くらいか。

その数年の内で直接親と触れ合っていたのは僅か数ヶ月。2年前にフェイトが引き取ったとはいえ普段から忙しい執務官。エリオと同じように引き取ったキャロの方にも顔を出さないことを考えれば定期的に相手をすることは難しいと言わざるを得ない。

 

つまり、エリオは『普通』の家庭というものをほとんど知らない。自分と同じくらいの年の子供が経験していることであってもエリオは知らない。だから迷惑を掛けないように周りに気を遣ってしまうし何をするにしても探り探り遠慮しがちだ。

そういう意味ではいちいちそれぞれが面倒くさい事情を抱えてるフォワードの中でも家族の暖かみを一番知らないのはエリオだろう。次点では、キャロだろうか。

似たような境遇の子供は腐るほど見てきたとはいえ、不憫なものだ。かくいう俺の育ちもそこまで違う訳でもないが。

 

 

所で話は変わるが、六課の訓練施設にはトレーニング後に汗を流したり汚れを落とす為のシャワールームがある。勿論シャワールームは他の地上部隊の訓練施設にも設計されているが、グレードは六課の方が高い。

そして他の部隊と違う所は宿舎の方には大きめの浴場がある所だ。他の部隊は宿舎の方もシャワールームだったり各部屋にある小さい簡易バスルームだけだったりする。地上部隊は自宅からの勤務も多く、隊舎の徒歩圏内に銭湯があったりするので宿舎に浴場を造るなど経費が勿体ないという訳だ。

六課が経費の無駄遣いと揶揄されるのはこうした所のせいだろう。24時間勤務の部隊とは言え明らかに金を掛け過ぎだ、と言われている。部隊長のはやてからすれば経費の無駄と突っ込まれる材料になると分かってはいても削りきれなかったんだろう。自身が年頃の女性であるし、隊長陣や部隊を構成する多くが若い女性。それにはやての故郷である地球の日本ではお風呂と言えば湯船に浸かるようだし、それに比べてミッドでは普段はシャワーでゆったりしたい時や疲れた時に湯船に浸かる程度なので文化の違いもあるのかもしれないが。

 

ま、そういう訳で、現在風呂場にいる。俺は今回の教導ではエリオに合わせていたので特別汚れたり汗を流した訳じゃないのだが、その場逃れの嘘とは言え一緒に入るとキャロに言ってしまったので入ることになった。嘘だとバレた時エリオが碌な目に遭わないだろうしな。

だから別にシャワーの方でパッと入って終わりでも良かったが、折角の機会なので宿舎の方まで来て浴場に入ることにした。

 

 

「しかし、思ってたより広いな」

「そうですね。僕も初めて入った時はビックリしました」

「だろうな。エリオは、よくここで入るのか?」

「ヴァイスさんとかに誘われて何回かはあるんですけど・・・そんなにですね。やっぱり1人で入ると広くてなんか落ち着かなくて」

 

そうだろうな、ここは六課の男が余裕で一度で全員入れるだろうって程には広い。六課に男が少ないからってのもあるが。

これは俺でも1人で入ろうという気はあんまり起きない。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

早く湯船に浸かりたいからさっさと体を洗ってしまおう。

そう思っていたのが行動に表れたのか自分では気付かない内に流し場まで小走りしてしまっていたようだ。

アークさんにはしゃいでしまった所を見られたのかと思うと少し恥ずかしくなる。子供っぽいとか思われてないかな・・・?

しかし過ぎてしまったことは仕方ないと割り切って、備え付きの椅子に座りシャワーからお湯を出す。

 

 

 

 

 

あらかた体を洗い終わった所で、隣で体を洗っているアークさんを横目でちらりと見る。

体はベルカの騎士らしく鍛え上げられていて引き締まっているのが一瞥しただけでも分かる。自分の体と比べてみると差は歴然だ。羨ましい・・・でも身長も筋肉もまだまだこれから成長するはずだ。うん。

 

 

 

それにしても、実はこうやって家族のように並んでお風呂に入るのに少しだけ憧れてたからそれが今こうして叶ったのが嬉しい。フェイトさんは女性だから一緒に入るには恥ずかしいというのもあるけど、フェイトさんは何かと世話を焼いてくれて昔一緒に入った時も頭を洗って貰ったりしたからこうして横に並ぶってことはほとんどなかった。

ならヴァイスさん達と入った時はどうだったかと言うと、こう言ったらアレだけどヴァイスさん達は何かが違った。例えるなら兄弟というよりは近所のお兄さん。

 

アークさんは髪の色が似てるとかそういうのもあるけどそれだけじゃなくて、訓練の時とかも全部が全部を教えてくれる訳じゃないけど、聞いたならちゃんと教えてくれる。

フェイトさんのように色々してくれるのも勿論嬉しいけど、アークさんのように近すぎないけど遠くもないこの距離感も心地よくて好きだ。

もしお父さんやお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁ。

 

 

「どうした?」

 

どうやらそんなことを考えてたせいかアークさんの方を向きっぱなしだったようで僕の視線に気付いたアークさんがどうしたのかと聞いてきた。

 

「もしもお兄ちゃんがいたならこんな感じなんだろうなって思っちゃって・・・」

 

改めて口に出すと思ったより恥ずかしかったので最後の方は声がちょっと小さくなってしまった。あと流石に年齢を考えるとお父さんみたいだとは言えなかった。

 

「確かに見た目的には兄弟と思われてもおかしくないかもしれないな」

 

笑いながらアークさんは特に髪の色が似てるとな、と付け加えて僕の頭をクシャっと乱暴に撫でる。

 

見た目だけじゃない。普段の仕草や振る舞いから感じる絶対的な自信、そのせいか何故かあまり遠慮することなく頼み事が出来てしまう安心感も家族という存在を感じさせるんだと思う。

頭の中に浮かんだそれらも、撫でられたということと否定されなかったことが嬉しくて照れて俯いている間にアークさんはいつの間にか湯船の方に移動していた。

僕も体を洗い終わったので追いかけるように湯船の方に移動する。

 

 

「あ、その傷・・・」

「ん? あぁこれか」

 

さっきまで隣に座っていたが角度の関係上気付かなかったけど、湯船に浸かる際にアークさんの右肩から右腰にかけて縦一文字に鋭い刃物で斬られたような傷痕が見えて思わず声に出してしまった。近年は再生治療の発達もあり古傷や傷痕の治療も可能になりつつある。勿論最新技術ということでそれなりに治療費が掛かるから傷痕をなくすためだけに再生治療を受ける人はそんなに多くない。

でもアークさんはフェイトさんよりも階級も上の執務官。フェイトさんですら一体どれくらいお金を貰ってるのか想像もつかないのに、確実にそれ以上を貰ってる人が治療費が勿体ないというだけじゃこんな大きい傷を残さないと思う。だから、その傷痕には傷を負った当時の思い入れか何かがあるのかな、と思ったけどアークさんはなんてことないような反応だった。

ならカッコいいから残してるのかな? と馬鹿なことも一瞬頭によぎったがアークさんは明らかにそういうことを考えるタイプじゃなかったと頭からその考えを追いやる。

だから不思議に思ったのでいっそ聞いてみる事にする。

 

「その傷痕は消さないんですか? 今なら再生治療もありますし」

「これはな、消さないんじゃない。消えないんだよ」

「え?」

 

消えない?

そんな疑問の言葉が顔に表れてたのかアークさんは続きを教えてくれた。

 

「欠損した内臓や四肢の再生。確かに最近は特に技術の向上は大きく再生可能な範囲は増えたが、それでも再生が難しいものは未だ多くある。たとえば脳や眼球、心臓。繊細で複雑なこれらは治療の際にある程度のリスクもあり成功事例は増えてるものの安定した治療とは言えない」

「それは分かりましたけど、アークさんのは言ってしまえばただ皮膚に痕が残ってるだけですよね? なら――」

「再生治療で完治が難しいものは大きく分けて2通りある」

 

僕の質問は予想通りだったらしく、アークさんはすぐさま指をピッと2本立てる。

 

「1つは今言ったように構造上の技術的な問題。もう1つは、負傷した原因」

「どういうことですか・・・?」

「そのままの意味だ。どのようなもので、どうやって負傷したか、だ。これは俺のマッサークルのようなAMF系統の属性を持った武器で深い傷を負った時や超々高密度の魔力を用いた攻撃で受けた傷、これらが該当する。分かりやすく言えば、特別な武器やオーバーSランク級の魔導師の必殺技とかレアスキルで受けた傷は消えない可能性があるってことだな」

「そうなんですかぁ」

「ついでに言うなら俺のこれは後者、S級犯罪者との戦闘でやられたやつだな。というかAMFっていうのは本来使い勝手の悪い魔法だから前者は滅多にない。AMFコーティングされた質量兵器もあるにはあるがコストが掛かるせいでほとんど出回ってないしな」

「S級・・・」

 

S級と言えば次元世界で最も有名な犯罪者ローガン・ギャリック。それと僕らが追っているガジェットの製作者であるジェイル・スカリエッティの名前が頭に浮かぶ。スカリエッティは科学者だから個人の戦闘能力は高くないんだろうけど、犯罪者としての厄介さは身に染みて分かってる。ローガンの方は言わずもがなでとても個人で手に負える相手じゃない。

六課に来る前にいた訓練校ではS級犯罪者というのはこの六課のように部隊丸ごと当たって対応することが多いものだと言っていたので、アークさんのような単独で仕事をしてる人がそんな連中と戦った事があるという事実に驚いた。何せ犯罪者でS級認定されるということはただ強いってことだけじゃない。1つの世界を消滅出来る可能性がある危険人物と認定されているってことだと聞いたからだった。たとえオーバーSランクの魔導師であったとしても1対1で遭遇すれば応援を呼ぶか撤退も視野にいれる程だという。

 

「その時は、どうなったんですか?」

 

こんな大怪我を負ってるのだからあまり良い結果じゃなかったのかもしれないけど、それでも好奇心には勝てなくて聞かずにはいられなかった。

 

「残念だが、逮捕は出来ずに逃げられた。相手にも深手を負わせたんだが、俺の方もダメージが多くて追跡は無理で結果的に痛み分けに終わった。いや、逃げられた時点で俺の負けか」

 

アークさんはそう言って当時のことを思い出したのか珍しく悔しそうな顔をしてるが、相手にも深手を負わせたということは少なくとも対等に戦えたということだ。これはホントに凄いことだと思う。犯罪者としての性質は違うもののスカリエッティを1人で相手に出来るのと同じなんだから。

この前の模擬戦から訓練に付き合ってもらってて本気を出せばどれだけ強いのかと思ってたけどその実力は僕の考えていたよりも遥かに上みたいだ。

僕もいつかはアークさんくらい強くなって皆を守れるようになりたいな。

 

 

 

 

「ふぅー」

 

そういえばこうやってのんびりお風呂に浸かるのも久しぶりかもしれない。

六課が設立してすぐの頃はまだまだ慌ただしかったしなのはさんの訓練で疲れてお風呂なんて汗を流す為にさっさと入ってるだけだった。お風呂に長いこと浸かるにも体力使うしね。

ヴァイスさん達と一緒にお風呂に入った時はのんびりっていうか、わいわいって感じだった。

皆と一緒にわいわいしてるのもいいけど偶にはこうして静かな時間を楽しむのもいいな。

 

こんな時間を過ごしてるとこんな僕でもここにいて良いんだって思える。

フェイトさんは僕がこういうことを言ったら悲しい顔をするけれど、やっぱり僕の中である程度整理がついてるとはいえ自分がクローンだという事実は、周りが良い人ばっかりだからこそ余計に気にしてしまう。

 

ふと、アークさんは僕みたいな存在についてどう思っているのだろうと思った。

誰にも邪魔されないで2人っきりで話す機会なんてあまりなさそうだから思い切って聞いてみようかな。

 

 

「アークさんは、クローンや人造魔導師みたいに造られた存在ってどう思いますか?」

 

 

フェイトさんや他の人もそんなこと気にしないよって言ってくれるけど、それは明らかに僕を傷つけないように気を遣ってるのが分かってしまう。勿論それは本当にそう思って言ってるのも分かる。でもそれだけじゃない、他にも色んなことを感じている筈なのに、その中で僕を傷つけないものだけを選んで言葉にしてくれている。気を遣ってくれるのは嬉しいけど僕は本当の本音というものが知りたかった。

その点アークさんならば性格的にも、僕がそれを望んでいるということも汲み取って、たとえ僕が傷つくような答えであったとしても遠慮なく思った事を答えてくれると思った。

 

「なんだ? えらく急だな。だがまぁ、そうだな・・・俺からすればどうでもいいことだな」

 

どうでもいい、フェイトさんが僕に言ってくれたことのある『どうやって生まれたとか、そんなことはどうだっていい』という意味ではなく、本当にどうでも良さそうだと思ってるのが分かる返事だった。

 

「フェイトもお前と同じプロジェクトで作られたクローンだし、はやての守護騎士達だってプログラム体でそもそも人間ですらない。エリオが気付かないだけで、俺だってもしかしたら人造魔導師かもしれない。俺の専門分野も違法研究であるし今更で、その程度の話だな」

「でも・・・その分野を専門にしてるってことは何か思うことはないんですか?」

 

フェイトさんがああやって執務官として職務に殉じているのは自分みたいな子を増やしたくないという思いがある。あまり詳しく聞いた訳じゃないけど昔なのはさんに自分は1人じゃないと教えてもらって救われた。だから私もあの時の私みたいな子達を救ってあげたい。

根幹にあるのはそんな想いだって。

だから違法研究のような危険の多い分野を専門としてあたるような局員は何かしら理由があるもんだと僕は思ってた。

 

「多分、エリオが思ってるようなことは何もないな。ただ向いてただけさ、色々と都合がいいからやってるだけでフェイトのような確固たる理由がある訳じゃない。俺は聖人君子でも優しい人間でもないからな」

「そうですか・・・」

「その様子じゃ、エリオが期待してたような言葉はなかったみたいだな」

「い、いえ! そういう訳じゃないんですけど・・・」

 

そう、ある意味で言えばアークさんの答えは僕が望んだ答えだった。

まさに欲しかったなんの飾り気もない言葉。

どうでもいいなんて聞き方によれば突き放してるようにも聞こえるけど、クローンだとか人造魔導師だとか試験管ベイビーということにまるで無関心っていうこと。

アークさんは始めから知っていたが、もし知らなかった状態で僕の身の上を明かしたとしても話が終わった後に「それで?」だからどうしたんだ、とそっけない態度で同情することもなく聞いてきそうな程だ。

そういう人間もいるってことを知っただけでも聞いた価値はあったと思う。

 

 

「今が幸せなんだろ? だったら前見て生きろ。自分が思ったように、自由にな」

 

 

さっきの質問から僕が悩んでいると思ったのかアークさんは最後にまた僕の頭を乱暴に撫でてから、先に上がるぞ、と言い残して出ていった。

 

頭の中でさっきの言葉を反芻しつつ、やっぱりアークさんは大人だなって思った。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

今日も六課での仕事が終わり自宅へと帰ってくる。

鍵を開けて玄関を入るとサウナのような、と言えば大袈裟だがぬるーい空気が俺を待ち構えていた。

夜とはいえまだ8月、ミッドは比較的四季の差が少ないほうだが暑いことは暑い。

だからだいたい冷房をつけているのだが、何故か今日はそれが機能していない。

ここはマンションの中でも上の方に位置する。だから当然暑い。

家にはクイントがいる筈だから付けていないということはないんだが、もしかしたら機械が壊れたのか? もしそうなら取り換えなければいけないし面倒なことだ。

 

リビングの方に行くと、短パンにスポーツブラのようなちっこいシャツというラフな格好をしたクイントがソファでだらけていた。

そういえば最近はこういう緩いキャラが一部では流行っているし、こいつをデフォルメ化してみたら良い線行きそうだな、なんてことを思いながら声を掛ける。

 

 

「おい」

「あー・・・おかえりなさい」

「なんで冷房をつけてないんだ?」

「天気予報でね、今日の気温がこの夏でピークらしくて、予報士の人が外出しない引き籠もりの人も熱中症になるから今日だけは冷房ガンガン効かせても大丈夫な正当な理由になるよ、やったね! って言ってたのよ」

「なんだその予報士クビにしろよ」

「で、これは私への挑戦と受け取ったので、冷房を付けたら負けだと思いました」

「そうか」

 

壊れた訳でもないのなら、俺は遠慮なく冷房の電源をオンにする。

というか仕方ないとはいえ引き籠もりなの実は気にしてたんだなお前。

 

「あ゛ー!」

「うるさい。我慢大会なら自分の部屋でしろここでするな」

 

これは後から聞いたのだが、例の予報士は意外と人気な人らしい。

可愛い女の子が毒舌であるギャップがいいとかなんとか。

 

 

 

リビングは冷房を入れたので自分の部屋に引っ込むと思っていたクイントだが、どうやら我慢大会は諦めたらしい。邪魔が入ったからやる気がなくなったそうだ。宿題しようと思ったら親から宿題するよう催促された時の気分だと。子供か。

しかしながらソファでだらけているのは変わらずで、恥ずかし気もなく腹を晒すようにのぞけって背もたれに寄りかかっていて品のない姿だ。慎みを持てといってもこういう所は矯正が効かなかった。

 

 

「お前、少し太ったか?」

「う゛っ」

 

丸見えの腹を見てふと思ったことを言うとクイントはうめき声をあげる。

この反応を見るに当たりのようだ。

するとクイントはガバっと上体を起こしてこちらに向き直る。物申したいことがあるようだ。

 

 

「だってご飯も食材は品質の良いものばっかりでおいしいからつい沢山作っちゃうし・・・それにあなたが時折持って帰ってくるあの菓子折りが悪いのよ! 今話題の高級メーカーの1日限定10箱のチョコとか何!? 食べるわよそりゃ!」

「なんとか取り入りたい財界や企業の奴らがくれるのさ、つまらないものですが食後やワインのつまみにでもってな。少しでも好印象を与えたいんだろう」

 

言い訳のように呟いていたクイントだが途中から開き直って俺を槍玉に挙げる。

食材に関して言うなら、ここのマンションは2階と3階にレストランも経営しており当然食材を仕入れている。そしてマンションの住民ならば料金さえ払えばついでに購入して部屋まで届けてくれるサービスもあり、それを利用している訳だ。勿論、レストランで出される料理の食材と同じものなので当然品質は高い。まぁこのサービスを利用する住人は少ないが。自宅で料理を作るような人物はあまりいないし、ここの住人は無条件で3階のVIPエリアが利用可能だからだ。一応接待の場として利用するのも可能である。

菓子折りの方はというと、以前から地域特産のワインや時計などのアクセサリーといった様々な贈り物があったのだがその中にクイントがいつか食べるのが夢だと言っていた会員制のブランドのものがあり、それを受け取る際に今までと違う反応を見せたのが原因かそれ以降はそういう贈り物が増えたというだけの話。

 

ま、変に袖の下を握らせてきたり露骨に金目のものや置物にしかならない骨董品のようなロストロギアよりは余程まともで実際に印象が良いのは確かだが。

 

「というか太ったとかいうならそもそもそんなお土産とか持って帰ってこないでよ。気の利かない男はモテないわよ」

「事実だし、別に食べろとは言ってない。要らないなら捨てろ。それよりもトレーニングさぼってないだろうな」

「ちゃんとやってるわよ。事実だからってデリカシーのないことばっかり言う男はモテないわよ」

「ならいい。さっきからモテないモテないうるさいぞお前は俺の母親か」

「お姉ちゃんって呼んでいいのよ?」

「・・・もういい」

 

クイント程神経が図太い人間には何を言っても堪えないということを再認識すると口論することを諦めた。俺が疲れるだけだ。

 

 

「ところでさー、さんざんモテないとか言っといてなんだけど、アークは結婚とかしないの? そろそろいい歳なんじゃないの?」

「はぁ? 急になんだ」

「結婚の適齢期って大体23~4くらいじゃない? 政治とか色んな思惑が絡んでるのは分かるけど企業とかベルカ貴族の令嬢を誑かしてる弟君見てるとちゃんと結婚出来るかお姉さん心配しちゃうなーって」

「誰が弟君だ」

「それにさ、優秀な遺伝子を残せとか評議会のじじぃが言ってそうじゃん」

「そうだな・・・実際にそういう話がない訳じゃない」

 

 

子孫を残すというのは遺伝型レアスキルを持つ者にとってはもはや半ば義務でもある。遺伝ということはレアスキル覚醒者の血を引く者が多い程、必然覚醒者が現れる確率も上がる。

俺以前にこのレアスキルが発現したものは100年以上も昔。少なくとも管理局が設立がするよりも前の旧暦時代だ。無限書庫にある古代ベルカの伝記で確認出来る最古の覚醒者はベルカ諸王時代まで遡る。それとこれはレアスキルの覚醒と共に僅かな記憶を継承している俺にしか分からないことだが、覚醒者はベルカ諸王時代から現代の間で俺を含めて4人。それほどまでに稀少なのだ。この能力があるというだけで将来特務部隊の幹部になると最高評議会に入隊時に確約されていた程だ。

だからこそ最もご先祖様の血が濃いとも言える俺の相手には新暦以前から続く名門の家系かベルカの正統な血筋を引く人間を宛がおうとしている。

ミッド式の適性もあるため、ミッドの魔導師の血を混ぜるかベルカの血をより濃くするかで悩んでるのが分かる。

 

「今は殆ど断ってるが見合いが申し込まれてたりもするしな。一応最高評議会の方も政略結婚だが後の夫婦生活のことも考えて、絞り込んだ候補の中でなら相性の良い相手を自由に選んでも良いと言ってる」

「へー、なんか意外」

「今はあんなナリをしてるが元は人間だ。一般的な感性も常識も一応それなりには持っている」

 

管理局で最高評議会の存在を知る人間はそれなりにいるが、人を駒に見立て平和に害を為す存在と目を付けられれば排除されると恐れられタブーになっている。

血も涙も慈悲もないと畏怖されている彼らだが、その実人並みの義理も情も持ち合わせている人間ということを知るのは本当に極僅か。俺の他には生身の時から部下として共に生きてきたランディ、心眼を持ち誰よりも心の機微に聡いコウヨウ、あとは黎明期という地獄を生き延び平和を齎すことの難しさを知っている3提督くらいだろうか。ジェイルは・・・あいつはどうだろうな。狂人だが、人の心が全く分からない訳でもない。寧ろそういう科学でも解明出来ないからこそ人の心に一定の興味を持っているので本当に微妙だ。

 

必要なことだと理解しているから平和のために一切の躊躇も容赦もなく人を切り捨てることに心を痛めることもない。既に彼らの精神性はそういう領域には無い。次元世界の統一という空前絶後の偉業を成し遂げたその精神は常人が及びもつかない程に強靭だ。たとえ愛を誓った人間と次元世界の平和を天秤に掛けられても迷う事なく後者を選び取れる程に正義に腐心してきている。誰よりも無辜の民と平和を愛している反面、その平和のために個人の命を犠牲にしている矛盾。多くの指導者はその矛盾に気が付きつつも気付かない振りをするか、葛藤し悩み心を削るか開き直るかのいずれかだ。しかし、英雄と呼ばれるまでになった彼らは矛盾していると理解して向き合い、飲み干してしまう程強かった。

 

「アークって、無理矢理選択肢を奪われて仕方なく従ってる訳じゃなかったのねぇ」

「あぁ、尊敬もしているし俺は自分で選んで部下として生きてるのさ」

「私には絶対無理ね」

「そうでなければ、最高評議会なんてとっくに死んでるさ」

 

もし、最高評議会に不満や反抗心を抱いていたならば俺が今の地位にいることはなかっただろう。その在り方を肯定していると向こうも分かっているからこそ特務部隊の隊長を任せられているだけでなく、最高評議会の持つ全ての権限を自由に行使をすることをも許されている。

 

伝説の3提督が最高評議会のことを厄介だと思いつつ今まで本格的に排除に乗り出てない理由もここら辺にあるのではないかと俺は思っている。俺程積極的に肯定することは出来なくともその在り方を理解し、平和を齎している先人として間違いなく尊敬しているのだろう。今となっては正義に盲信して狂気を振り撒いているからと言って最高評議会を排除するには、3提督はもう歳を取り過ぎてしまった。

 

 

「ま、結婚云々についてはそんなとこだ」

「そういう相手が全然いないなら家のギンガとかどう? って思ってたんだけどなー」

「お前それ本気で言ってるのか?」

「ん? スバルの方が良かった?」

「スバルとかお前より年開いてるんだぞありえん」

「あ、私はダメよ。ゲンヤさん一筋だから」

「そういう意味じゃない。で?」

「親である私がこんなこと言っちゃいけないのかもしれないけどさ、あの娘達は普通の人間と少しだけ違うじゃない? だけどそのほんの少しを受け入れられない人がいるのも知ってる。アークならその点理解もあるし、安心して任せられる。って思ったのよ」

 

 

さっきまで1人で我慢大会をしていたのが嘘のようにまともなことを言っているクイントを見ると、親になるということは人を成長させるんだな、と思わされる。

 

 

「それにお金持ちだし」

「台無しだよ」

 

 

 





スバルよりクイントさんの方が主人公と歳が近い。ナカジマ家で一番近いのはギンガ。
つまりうちのクイントさんは32歳です。
15(-9)<17(-7)<24(±0)<32(+8)です。
クイントさんが20歳の時にスバルとギンガを保護した計算です。

後半は割とスラスラ書けたんですけど前半のエリオの所が難産でした。いっそのこと削って書くの止めようかと思ったけど頑張って書きあげてみました。
クイントさんが出るとちょっとギャグテイストになって書きやすい。一番書きやすい。

最高評議会ってアニメじゃすげーしょぼかったけどホントはめちゃくちゃ凄いのではないだろうかと思うんですよね。次元世界統一って一体どうしたら出来るんだ((((;゚Д゚))))

次回は主人公がどう評価されてるかっていう他人視点になると思います。
そしてその次がストーリー進むけど多分これまた他人視点だと思います。
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