魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~   作:Sady

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書いてる内に予定していた文字数を超えてきたので分割して投稿することにしました。
誤字確認とかも一応しているのですがまだ残ってるかもしれませんがあんまり待たせるのもアレなんで投稿しちゃいます(´ω`)


19話 虐殺王

その日は調査は休みにして取り敢えず今まで得た情報を纏める作業をすることになっていた。

私の方はスカリエッティやガジェット関連の情報を纏めていて、アークは例の魔法生物の凶暴化とラグナロクに関しての情報とそれぞれ自分のメインの案件を扱っていた。スカリエッティは研究者らしく自己顕示欲があるせいか手掛かりは意外と多いので順調に調査は進んでいると言ってもいいだろう。

一方アークが手掛けている案件はどれも難航してると言わざるを得ない。スカリエッティと違って――というか普通の犯罪者は皆そうだが、自分達の足取りを追わせない為に情報の隠蔽が行われている。それもかなりのレベルで徹底されており、少しでも関わりのある者から情報が漏れないように口封じも行われている程だ。勿論、文字通りの意味ではなく物言わぬ屍にする、という意味だ。

私との調査だけで得た成果だけでは精々捜査範囲を絞ったり次の発生地点を予測する程度、しかしアークはどうやらアジトやラボの割り出しも行ってるみたいだから別口で情報を集めているんだろう。おそらくそれがアーク以外にも依頼を受けていると言ってた人物からのモノだろう。最近犯罪組織が次々に壊滅しているという噂も耳にするし、もしかしたらそっちの方もその人が関わっているのかもしれない。

 

「アーク、そっちはどう?」

「そうだな、魔法生物の方は運用目的はともかく大体は掴めてきたな。もう少しデータがあれば言う事なしなんだが、ないものねだりだな」

「そっか」

「お前の方はどうなんだ?」

「順調だよ。ほら、手掛かりだけは無駄にあるから」

 

苦笑いしながらそう言うとアークも思い当たる点があるのか納得したような表情をしている。やっぱりスカリエッティのあの愉快犯的な所は有名なのかな。それとも違法研究を専門にしてるアークもスカリエッティを追っていたことがあるのだろうか。

 

「ねぇ、アークもスカリエッティのこと詳しいみたいだけど調査してたことでもあるの?」

「あぁ・・・あいつの性格は人並み以上に知ってるだろうな・・・」

「知ってるかもしれないけど私は個人的にもスカリエッティを追ってるから参考にしたいんだけど、アークはどんな案件でスカリエッティに関わったかって聞いても良い?」

「そうだな、だいぶ前の話なんだが――」

 

単調な作業の片手間に、懐かしい思い出を語る様に話し出したアークの声を遮る形で彼の端末に緊急通信が入った。

 

「っ悪い」

 

少し焦ったように断りの一言を入れて通信を開く。

アークの話すスカリエッティの話に興味があったけど流石に緊急通信となればそちらを優先するしかないよね、と諦める。

 

『おいアーク! お前今どこだ!?』

 

空中に投影されたウィンドウには赤い目隠しが特徴的な男の人が映っていた。

 

「六課の隊舎にいる」

『今すぐ出撃出来るか!?』

「あぁ」

『そりゃ良かった! 時間が惜しいから取り敢えず今から送るポイントに向かってくれ! あいつらの内誰かが探索網に引っ掛かった!』

「成程な・・・今すぐ行く」

 

 

それから慌ただしく準備をして六課の隊舎を出る。

指示されたポイントに向う道中にアークは説明を受けていた。

2度手間になるからと私も一緒に聞いていたんだけど、話を纏めると。

通信相手が出していた熟練の捜査員2人の生命反応が消えた。

両者とも救難信号を出す間もなくやられているので相手は相当の手練。

捜査していた世界に違法研究所の存在を確認し、調査しようとしてた所を殺害された。

一連の流れを見てラグナロクの構成員もしくはそれに関係する人物だと推測。

通信相手は現在管理外世界にいるらしく、今から駆け付けても間に合わない可能性が高いのでアークに頼んだ、と。

そして向かう先は第13管理世界、マルクヴィネア。

大体こんな所らしい。

 

「ベルカ管轄で自然が多いとはいえ管理世界、しかも10番台にまだそんなとこがあったとはな」

 

確かに、違法研究所というのは管理局の捜査の手が届きにくい管理外世界や無人世界にあることが多い。管理世界にそういう存在を許すというのは管理局員としては恥ずべきことなのかもしれないが、ミッドだけならともかく広大な次元世界全てを統治しようとするスタイルのせいで慢性的な人材不足の管理局では仕方ないと思ってしまうのは私だけかな。

 

 

 

 

アークの端末に送られてきたポイントに到着したがここは空港でもないし転送ポートがありそうな場所ではない。ただ倉庫群が広がる廃棄倉庫区画。どういうことかアークに尋ねようとしたところでアークはいくつかある内の倉庫の中に入っていった。続いて中に入ると、コンテナに腰掛けている存在に気付く。年齢は私と同じくらいで灰色の髪の男の子がいた。

 

「待ってましたよ先輩」

「いつも悪いな」

「ま、そういう能力ですからね。我ながら便利なもんだと思ってますよ」

 

彼はアークの姿を見た瞬間嬉しそうにコンテナから弾けたように飛び立って近くにやってきた。

アークのことを先輩と呼ぶ事から部下かなと思ったがアークは特定の部署に所属している訳じゃないから特定の部下はいないと思ってたけどどうなんだろう。態度や口調からは相当尊敬してることが伺われるけど。

 

「で先輩、そっちの人が」

「フェイト・T・ハラオウン執務官です」

「ふーん、こいつが」

 

彼の関心が私に移ったのか視線を寄越されたので軽く自己紹介する。

しかし彼はちょっとだけ好奇の反応を見せて私を上から下に見定めるように観察するだけだ。

むぅ、私は名前を名乗ったのに名乗り返さないのか。

 

「時間がないんだ。そろそろ頼む」

「分かりました。では近くに」

 

私の方から名前を尋ねようと口を開こうとした時アークが本題を切り出しタイミングを逸してしまった。どっちが優先されるべきかは明白なのでアークと同じように彼の近くに寄る。

 

「いきますよ」

 

掛け声と同時に肩に手が置かれる。

次の瞬間、軽く船酔いした時のような気持ちの悪さを感じたかと思ったら周りの景色が変わっていた。

 

「え・・・?」

 

さっきまで倉庫の中にいたのにいつのまにか視界一杯緑豊かな森の中。

うそ、まさか・・・瞬間移動? それも次元間跳躍が可能な程の・・・

 

「っはぁー、着きましたよ」

「流石に人2人を次元跳躍させるのは疲れたみたいだな。悪いがアレの始末も頼んだ」

「はい、分かりました。コウヨウさんにも言われてますしね」

 

アレの始末ってなんだろうって思ったが、すぐに例の捜査員のことだと思い当たる。死体というのは喋る事こそはないが、多くの情報を持っている。死体そのものは勿論、所持してるデバイスや端末、プロテクトを掛けてると言っても絶対ではない。武装隊ではなく捜査員ならばなおさら抱えている情報も多い。一般的にはあまり知られてないが情報漏洩を防ぐ為や逆に情報を取得する為の死体処理専門の部署だってある程だ。

そういう仕事を任せるってことはこの男の子はアークに信用されているのと同時に、ある程度管理局の暗い部分にも触れてるんだってことが分かる。

 

 

「っと、そういえば言いたい事があったんだった」

 

彼は早速アークに任された仕事をするためにこの場を離れようとしていたが、ふと何かを思い出したのか私の目の前まで近づいてきて――

 

「管理局最速はあんたじゃない、俺だ」

 

と、私に指差しながらそう言った。

いきなりの最速宣言に呆けていて返事を返す間もなく彼は姿を消してしまった。

 

「あっ、行っちゃった・・・」

 

私は別に最速とかそんなの自称したことはないんだけど・・・

 

「すまんな。あいつは管理局で一番速いのはフェイト・T・ハラオウンじゃないかっていう局員の噂を聞いてから勝手にライバル視してたんだ」

「そうなんだ。けど、流石にスピード勝負でも瞬間移動には勝てない、かな」

「速さのベクトルが違うとは言ってるんだがな」

 

アークの話を聞いて彼から妙に敵意を感じていた理由を悟る。

スタートとゴールを決めてよーいどん、で勝負しても向こうは文字通り一瞬でゴールしてしまうのでそういうタイムアタック的な速さ比べはどう足掻いても勝てない。確かにスピードでは誰にも負けない自信があるけど瞬間移動はずるい。反則だ。

でも、高速機動戦の勝負ならどうなんだろう。それじゃスピードだけでなく魔力量や戦闘能力部分の要素も出てくるけど、次元間跳躍が可能なんだから魔力も相当量あるだろう。瞬間移動というレアスキルで魔力消費量が幾分か少なかったとしても次元間を行き来するというのはそれなりのエネルギーを使う筈だ。戦闘能力の方もアークが仕事を任せる程信用してるってことはただ単に移動能力としてだけじゃなくそれをスキルとして活かして戦えるんだと思う。それにあれだけ自信を持って最速を宣言したのだから高速機動戦でも私に勝つ自信があるんだろう。

 

 

「アークは私と彼、どっちが勝つと思う? 最速勝負」

「あいつじゃあ、まだフェイトには勝てないだろうな」

「フフッ。まだ、ね」

 

 

ちょっとした好奇心で聞いてみただけなのだが、アークはあまり考えることもなく私が勝つと言い放った。

しかしそれは今は無理でも将来的には勝つ、という意味も孕んだ返事だった。

直接言わずに言外にそう匂わせる発言と彼のアークに対する態度から察するに、アークが手解きしてあげてるのかな。

 

 

 

 

「それじゃ、先を急ぐぞ」

「うん分かった」

 

 

森の中を駆け抜ける事数分。少し開けた場所に白い建物があるのを発見した。

森の中とはいえこんな目立つ建物が何故今まで発見出来なかったのだろうと思っていたが、それなりに高度なステルスが施されていた形跡があった。そう――形跡、だ。現在は解除され機能していない。

入口であろう場所に横たわっている門番を見ると解除された原因は明らかだ。つまり、侵入者により力技で解除されている。

 

「時間はあまり経ってないな」

 

門番だったモノを足で小突きながらそう言うアーク。死体を足蹴にするのはどうかと言おうと思ったが蹴った感触、筋肉の硬直具合や出血具合を確かめてるのだと分かるとその言葉を飲み込む。褒められた行為ではないが、それも時と場合による。

 

 

「口封じの最中って訳だな。突入するぞ」

 

 

言うが早いかアークは研究所へと突入する。

虱潰しに進むのではなく迷いを見せずに進む。ちらほら研究員と思われる死体も見掛けるがそれも無視していく。

研究所というか建物の構造にはある程度パターンがある。研究所ならば実験するために頑丈に作られている。頑丈に作る為には最適な柱の位置、実験場の位置がいくつかある。同様に魔力炉や換気口、水道や空調設備なども定石というか大体こういう風に作るっていう位置関係が存在する。アークがなんの迷いもないのは建物の立地や通路やダクトの構造から重要な部屋の位置に当たりをつけているんだと思う。こういうのは専門の知識以外に場数を踏んでいるが故の経験が成せる技だろう。

 

「ふむ・・・」

 

どこにも扉は見当たらないがアークは立ち止り少し壁や天井を見回してから、何かを確かめるように壁を叩いている。

その様子を見れば流石に何を探しているかはすぐに分かった。お決まりの隠し部屋、という奴だ。

侵入者はここにいる研究員の口封じをしてから建物を破壊する目的なんだろうが、私達の優先順位は研究データの方が上だ。侵入者が研究員を殺し切る前に私達はここの機材や資料からデータを収集しなければならない。

 

私もアークと同じように壁を叩きながら隠し部屋を探してみる。そもそも隠し部屋が存在するかどうかも分からないが、大体は研究データを纏めたセキュリティの高い部屋というのはどこでも設計されている。それは幾重にも用意されたプログラムであったり、獰猛な魔法生物が門番であったり、建物内の転送ポートを特定の手順で跳んでいけば辿り着く仕様だったり様々である。

 

 

「この辺だな」

 

 

その声がしてから数瞬、何かが崩れるような――まるでハンマーで壁をぶち抜いたような音が聞こえた。振り向いて見ればアークが前蹴り、俗に言うヤクザキックをかましていた。

 

 

「なっ、誰だ!?」

 

 

壁を壊して現れたアークを見て驚きの声を上げたのは、まさに研究員然とした白衣を着た男だ。この男も急いでこの部屋に移動したのか息が乱れている。どうやら研究データの転送作業をしているみたいだ。

 

 

「ぐっ・・・あいつらも研究が終わりを見せ成果を提供した途端切り捨てに掛かってくる上に更に管理局だと!? もう少しで完成だというのに・・・!」

「終わりだ」

「くそおぉぉおおおぉおおおおッ!」

 

 

自身の命運が尽きたことを悟った男は叫びながら最期の悪足掻きと言わんばかりにWARNING!の文字が記載されているボタン――自爆スイッチと思われるもの目掛けて腕を振り下ろした。

だが、その腕は叩きつけられることなく宙を舞った。

 

「じゃあな」

「この――」

 

アークは研究員の腕を斬り飛ばし、その返す刃で首を斬り飛ばした。

 

――非殺傷設定じゃない!?

 

 

「ちょっとアーク!?」

 

 

管理局は犯罪者に対しても基本的に非殺傷設定を用いて生け捕りにし更生を促している。生け捕りが困難な高位の魔術師相手に限っては殺傷設定に切り替える事もあるが、それでも多くの局員は非殺傷設定を解除することはほとんどない。更生の余地がなさそうな犯罪者であってもひとまずは身柄を押さえてから裁判を行う。

違法研究を行っている犯罪者のほとんどは更生することはないが、よほどのことがない限り拘置所で懲役が科される。今回のケースで言えば一旦気絶でもさせ後で回収して裁判に掛けるのが妥当な所だ。確かに自爆という危険行為に及んでいたがアークの実力なら無力化は容易い筈だ。

 

「何も殺す必要は・・・」

 

勿論、局員の命の方が優先されるので少なからず命の危機が発生した時点で犯罪者を死に至らしても正当性は局員にあり過失致死を取られる事はない。つまりアークの行為には何一つ問題はない。しかし、だからといって殺さずに済む命を敢えて摘むことはない。

 

 

「俺達の優先すべき目的は研究データ。その障害に成り得る要素は全て排除すべきだ。確かに殺さずにバインドでも掛けて転がしておくのも出来る。だが、身動きを封じても意識を取り戻したら何をするか分からない以上捨て置けない。監視を付けることも出来ない。だったら――」

 

殺すしかないだろう。

と、アークの声にならない言葉が聞こえてきた気がした。

 

「そんなことよりも先にここのデータを吸い出すぞ。転送は終わってるがまだ消去はされてないみたいだ。紙媒体のモノは軽く目を通す程度で諦めるしかないな」

 

 

その言葉に従って私は専用のコードを取り出し機材へ接続する。すぐにハッキングが開始され端末へのダウンロードが始まる。あとはデータの移動が完了するまで待機するだけ、データの解析自体は帰ってからだ。

 

アークの方はと言うと紙媒体の資料に目を通していた。

ついさっき研究員を殺したばかりだというのに何の変化も見られないのはそれなりにそういう経験を積んでいることが伺われる。やはり執務官という役職柄、特に違法研究を専門にしている以上管理局の暗い部分に深く関わっているんだろう。ベルカ式の騎士だから教会からも何かしら声を掛けられてるだろうし、財界への伝手もあり実績に基づいた階級もあるので派閥争いや上層部との接触も多いと予想出来る。

 

 

 

私は、甘いんだろうか。

なのはが私を救ってくれたように、私も昔の私と同じような子達に手を差し伸べて助けたい。私と同じような存在が生まれるようなことがない世界にしたい。

だけど未だにプロジェクトFはどこかで継続しているし、中には管理局主導で行われている人造魔導師計画すら存在してる。ただガムシャラに走り回った所で焼け石に水、何かが変わる訳ではない。それこそもっと深い所から変えていかなければならないのかもしれない。

 

 

「ここで行われていたのは魔獣の狂化及び魔獣合成実験か、当たりを引いたな」

 

 

手元の資料を見てここでの研究の概要は掴めたようだ。詳細については今引き抜いているデータの解析待ち、この調査から帰還してからになるだろう。

 

「ラグナロク、というより奴らの誰かの傘下の組織を使い捨てにして研究してたみたいだな。で、そろそろ必要なデータも揃ってきたから用済みって訳か」

 

 

先程の研究員が言っていたあいつら、というのがラグナロクのことなのだろう。

あの言動を見るに傘下という程友好的な関係ではなさそうだったがそこは犯罪者、仕方なく組織やグループに所属するしかなかったんだろう。本人に戦闘力も財力もなければ管理局の手から逃れられる筈もないし研究とて満足に行えない。

 

 

「これで残るはここの侵入者の捕縛のみだな。俺はそいつの所に先行するから、フェイトはデータの引き抜きが完了してから来てくれ」

 

 

そう言い残してアークはぶち抜いてきた穴から出ていった。

あと数分で作業が完了するとはいえただ待っておくのは効率的ではない。紙媒体の資料は持ち帰れないと言ってたけど映像に残す事は出来るし時間が許す限り撮影しておこう。重要度の高低は分からないからてきとうに手当たり次第だ。

 

 

 

 

 

 

 

データの引き抜きも終わって敵性魔導師がいると思われる場所に先行したアークに追いつく。

そこにはアークと先程の部屋にいた研究員と同じように白衣を着た人間の死体。

たださっきと違うのは人間の死体だけでなく実験体と思われる魔獣の死体もあった。おそらくは侵入者の迎撃の為に駆り出したんだろう。

そして、築き上げられた死体の中心で圧倒的な存在感を放ち剣型のデバイスを持った男こそが侵入者――その風格からしてラグナロクの関係者所ではなくまさにそのメンバーそのものなのだろう。私となのはを死神とか魔王とか物騒な渾名で呼ぶ人達がいるが、今ここにいる男こそがそう呼ばれるに相応しいと思えるような惨状。

 

アークの赤髪とまるで対照的な蒼い髪。見たところ歳の頃も20代前半から半ばあたり。パッと観察していてもアークと似ている訳じゃないのに何故だか向き合ってる2人が似てると思ってしまった。

 

いつ戦いだしでもおかしくない一触即発の雰囲気を放っているけど、まだ交戦した気配はない。

 

 

「んん? どこかで見た顔と思えばリリィではないか!」

 

 

睨みつけるようにアークの顔を観察していた男が顎に手をあてどこか得心がいったように刺々しい雰囲気を僅かに和らげ、まるで旧友にあった時のように喜色に染まった声をあげた。どうやらあの蒼い髪の青年はアークと顔見知りみたいだ。

だがアークから放たれる険悪な雰囲気は和らぐことはなく、とても友好からくる知り合いではないと見える。

 

「久しいな。今生で会うのは2度目であったか?」

「俺は2度と会いたくないくらいだったよ。ま、それが無理なのは分かってたが」

「会いたくなかったとは相変わらずつれん奴よな。前は碌に会話も出来ずに終わった上、時代を越えての再開というのに」

 

どうやら彼はアークの中では会いたくない人間だったようだ。

いやそれよりも、時代を越えて? 今生では・・・?

それではまるで2人ともが昔の人間みたいな言い方だ。何かの比喩的な表現なのだろうか。

 

 

「今は――いや今もというべきか、敵同士とは言え久々に顔を合わしたのだ。色々と語らい合いたい所ではあるがまず、先に余の用事を済ますとしよう。時間差で現れたということはおそらく研究データの方は手遅れではあるが、他は処分せねばな」

 

そう言って手にしていたデバイスを構え魔力を込め始める。何をし出すのかと私も警戒してバルディッシュを構えたけど、込められていく魔力は留まる所を知らず彼の瑠璃色の魔力光は輝きを増していく。その様子はなのはが砲撃を撃とうとチャージする時に似ている。そう、魔力が集束されていく時のように。

これは・・・ここが屋内と言う事を考えればまずいのではないのだろうか・・・

 

「伏せろ!」

 

危険を感じ取っていたせいか、アークの指示に半ば反射的にその場に体を沈めることが出来た。

 

「むん!」

 

回避行動が完了した直後、瑠璃色の波――あの男が放った魔力刃が私の上を通過していく。

後ろを振り返ってみれば壁が真一文字に切り裂かれており、全ての壁を貫通していったのか僅かに外の景色が見える。待って・・・あの男は壁の疵痕を見るに魔力刃を飛ばすのにデバイスを真横に振り抜いてる。ということはつまり、少なくとも180度近い範囲だ。あれだけ魔力が込められてたんだから当然後ろだけでなく・・・

嫌な予感がしつつ左右にチラリと視線をやると、後ろと同じように外まで貫通してる。

細かくは分からないが今いる部屋と位置関係を考えると、この建物の7割以上の壁が切り裂かれている・・・研究所という建物がいくら頑丈に作られており切り口が綺麗とはいえ、建物である以上それだけの割合で壁や柱が断たれれば・・・

 

「ハァッ!」

 

そんなことを考えてる内に次の衝撃がやってきた。

研究所全体が軽い地震が起きたかのように揺れる。今の揺れと足元の地面の亀裂を見るに震脚を繰り出したんだろう。

 

「クソ! フェイト離脱するぞ! 崩壊する!」

「分かった!」

 

あの斬撃だけでも建物にとっては致命的だったのに止めの震脚のせいであと10秒も持たなそうだ。

私とアークは天井に向かってそれぞれ射撃魔法と魔力刃を放って脱出する。

 

 

「いきなり無茶苦茶する奴だ・・・」

「ホントにね・・・」

 

 

崩壊していく研究所を見ながら2人して嘆息する。アークもさっき壁を蹴り抜いていたけど流石にこれは溜め息を吐くしかない。いくら証拠隠滅するために手っ取り早いとはいえまだ自分も屋内にいるのに施設を壊すとは。未だ土煙が収まるどころか増してるのを見ると徹底的に破壊を行っているようだ。

 

 

 

「知り合いみたいだったけど誰だったの?」

「大体予想出来てると思うがあいつは、お目当てのラグナロクの一員。虐殺王ディアベルガ・ウォルフザーク」

「あの男が・・・」

 

虐殺王ウォルフザーク、犯罪者でありながら王と呼ばれてる唯一の人物。この前にアークから見せてもらった資料の中には実際に古代ベルカの王族の血が流れているっていう記述があった。そのせいで聖王教会も扱いに困り手を焼いていると。

 

 

 

「そして、暴君でもある」

「・・・? 暴君の子孫ってこと?」

「違う。本人だ」

「本・・・にん?」

 

その言葉がどういう意味なのかすぐには分からなくて半ば無意識に問い返していた。

暴君は既に死んでいる。ベルカの諸王時代はおよそ300年も前の話だし間違いない筈だ。龍種でもあるまいし人間はそこまで長生き出来ない。だけど、先程のウォルフザークの発言が引っ掛かる。

 

「そうだ。ベルカの王達の血族の中には記憶や経験が意図せず子孫に引き継がれることはままある。だが、あいつはそれだけじゃなく、人格そのものも受け継ぐように調整した」

 

体こそ別人だけどそれでも直系の子孫のもの、記憶や経験を受け継ぎその上人格も上書きされていると言うのなら・・・これは確かに本人というしかない。

でもそれってつまり――

 

「自分の子孫の体を乗っ取ってるってことだよね?」

「簡単に言えばそういうことになるな」

 

 

アークの肯定と同時に浮かんだ可能性と私の個人的な感情や、倫理的にどうとかそういう話は置いといてもこの事実が上層部で握り潰されていることに納得がいった。現代人である私達は古代ベルカに生きた王を偉人と崇めているし、諸王時代の混乱期を終わらせた聖王などはその偉業から宗教の中枢として奉られて神格化までされている。聖王程ではないが、雷帝の子孫などは直系でなくとも王の血が流れているからと、現代においても貴族として扱われている。

そんな伝説の中に同じく生きた王の1人である暴君。その名の通り彼は戦乱の時を持ってしてでも苛烈と言わざるを得ない程の暴虐の限りを尽くしたとの記録がある。その生涯は聖王のゆりかごによって戦乱の時代と共に幕を閉じたとされており、戦乱を終わらせた聖王の偉大さを引き立たせる為に後から加えられた創作の王ではないか、という説まである。

実在を疑われる程に悪辣な王が実在して、あまつさえこの現代になお生きて犯罪者となり世を乱していることが公表されれば、次元世界全体の規模で恐慌が起きるのは想像に難くない。当たり前だ。聖王を平和の象徴とするならば、暴君は戦乱の象徴。

伝説の王になんて勝てる訳がない。誰もがそう思う。思ってしまう。

 

 

「来るぞ」

 

アークの声を聞き研究所、今や研究所跡というべき場所に目を向ければ完膚なきまでに破壊されつくされ瓦礫の山となっていた。あれではもう研究員の死体も魔獣のサンプルも原型を留めていないだろうし機械類とて無事なものは何一つとしてないだろう。救いと言えばデータだけは一応手に入れられたことだ。

 

 

 

 

その瓦礫の山から虐殺王――いや、暴君が姿を現した。

 

 

 

 




今回はフェイトさん視点、次回も引き続きフェイトさん視点です。
フェイト視点は知ってる情報量的には読者視点とも言い換えれると思ってます。

ついに名前だけじゃなくでちゃんとオリ敵登場しました。
口調的には男版ディアーチェって所ですかね(´ω`)ツンデレでもなんでもないですけど
味方陣営より敵陣営の方がキャラがしっかり立ってる気がする(。≖ˇェˇ≖。)
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