魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~   作:Sady

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なんか凄い間空いてすいません(´ω`)




21話 封王

 

 

「ひとまずフェイトは下がっててくれ。まずは俺が様子を見る。よく見ておけ」

 

 

 

片手で私を制すようにしながらアークはそう言った。

戦術的にみればそれは妥当な判断だ。暴君との交戦歴があると思われるアークならばそうそう不意をつかれることもなさそうだし、その様子を見て情報を得ていれば私も有利に戦闘に参戦出来る。

心情的には、私だけ仲間外れとか信頼されてないのだろうかと思う反面、どうやら根深い因縁がある2人の間を邪魔してもいいのか、という気持ちがある。

 

 

 

 

「さて、では始めようではないか」

「随分と余裕そうだな。そんな二流のデバイスで俺に勝てると思ってるのか?」

「ハハ、確かにこのようなオモチャでは多少心許ないが、かつてのものとはいえ余の武具を使う貴様のいう言葉ではないな。何より、余は王であるぞ? 余裕を持つのも強者としての振る舞いよ」

「王、ね」

 

 

アークは二流のデバイスと言ったが私の見た手ではバルディッシュやなのはのレイジングハート、クロノのデュランダルに比べれば劣るもののウォルフザークのデバイスは局のエース級が持つそれと遜色はないように見える。とはいえそれもアークのマッサークル、はやての夜天の書といったロストロギア級と比較してしまえば二流という評価にも頷ける。

 

そしてその会話が途切れたと同時に戦闘が開始する。

まずはお互いのデバイスを全力で斬りつける。一目見て分かる程に洗練された、淀みのなく密度の高い魔力が付与されたデバイスによる一撃は並みの魔導師――どころか今の私なら容易く斬り伏せる程の威力があることが分かる。勿論その一振りだけで終わる筈もなく、続けて剣戟の音が鳴り響く。

かなりの威力を秘めている筈の攻撃を2人はまるで示し合わせているかのように受け、流し、切り返す。時折体術による攻撃も含まれるそれは、ある種演武のような流麗さを感じる程の技量だ。

 

 

「すごい・・・」

 

強い。S級犯罪者であるウォルフザークは勿論、それと対等に打ち合えているアークもだ。

これまでの捜査で幾度かアークの戦闘は見ていたが、全力というのを私は未だに目にしていない。ただその幾度かの戦闘を通じて分かったことがある。今でもそうだがアークは何故か片手を――右手を開けたがる癖がある。癖と言ってもほんの小さな違和感程度だけど。勿論防御や攻撃の瞬間は両手でデバイスを持っているがなるべく片手は開けるような振る舞いが見て取れた。体術も織り交ぜる故のスタイルとも取れるがそれは違うだろうと私の経験と直感が言っている。これは推測だがあの右手は砲撃か、イレイザーか集束系、あるいはレアスキルか何か他の切り札、奥の手が関係しているのだと思う。

気になるのは、その癖がアークだけでなくウォルフザークにも同じく見て取れることだ。こちらはデバイスの差か隠す気があまりないのかアーク以上に分かりやすい。これも推測になるが、おそらくアークと同系統の切り札を持っているんだと思う。今までの2人の会話や関係性からすると間違いない。

 

それより問題は、リミッターの掛かった私じゃこの戦闘に立ち入れないということだ・・・っ。私はミッド式の魔導師の割に接近戦は得意だけど、それに特化したベルカの騎士と比べると一歩劣る。ましてや王が相手となればなおさらだ。

 

 

「準備運動はこのくらいでよかろう! 貴様はどうやら出し渋っているようだが余は遠慮なくいかせてもらう! ゆくぞ!」

 

この僅かな間で数十合程度打ち合っていたが、ウォルフザークが先手を切った。デバイスを握っていない、空いていた左手を強く握り締め魔力を瞬く間に集束させる。先程あの研究所の時も感じたが、速い。私の感覚で判断するならばその集束スピードは僅かだがなのはよりも上だ。集束規模が違うから判断に迷うが少なくとも互角以上の速さだ。いくらベルカの王とはいえ、ミッド式の砲撃特化の魔導師、ましてやSクラス以上の集束技術を誇るなのはより速いのはいくらなんでもおかしい。とすればあれは技術だけではないナニカがあるのだろう。

 

 

「ハッ!」

 

元より高密度だった魔力を更に集束し纏っているあの左手は相当の魔力硬度があるようでアークの攻撃を刃面から真っ向から撃ち払った。それによって出来た隙を逃すことなくデバイスによる一撃がアークの無防備になった首元へと・・・って!

 

「――ッアーク!」

 

間に合うか分からないがアークを守る為に割り込もうと脚に力を込めようとした時、そんな余裕がある筈もないのにこちらへ視線を向け制された、ような気がして一瞬踏みとどまってしまった。

一瞬の躊躇は致命的だった。直撃すれば戦闘不能は確実、おそらく非殺傷設定は解除されてるし命の危険さえある。

 

ウォルフザークの振るった刃がアークの首元を捉えた。

だが、金属同士が擦れあったような鈍い音が私の耳に届く。

どうにかして防御出来たのかと思ったが、デバイスでは受けてないし体勢は首元に衝撃を受けたように崩れている。そして、アークは元よりウォルフザークもこの結果が当然というように動揺の様子も見られない。

 

 

「フハハ! この硬さ! やはりこの程度でイージスは破れぬか! あの鎧を模して造られただけはある!」

 

愉快気に笑いながらも動きを止めることなくそのまま右手でアークの顔を掴み、切りつけた衝撃で流れた体を後頭部から地面に叩き付ける。叩きつけられた衝撃でクレーターという程ではないが地面が凹み、間髪を入れずに叩きつけた顔目掛けデバイスを突き下ろす。

 

理由は分からないがあの斬撃を受けても平気だったようにあれだけ激しく頭部に衝撃を受けても脳震蕩などはみられずアークは機敏な動きで即座に跳び退きその追撃をかわす。

 

 

「些か、鈍ったのではないか?」

「・・・血を流したのは、久しぶりだ」

 

先程の追撃を避け切れていなかったのかアークの頬に一筋の傷が出来ていた。

あの一撃はアークのイージスという守りを突破していたようだ。

 

 

「油断したつもりもないが、実力が拮抗した奴と戦う機会はそうそうなかったな。イージスもある。知らず、気が緩んでたかもしれんな」

「であろうな。余や貴様程の使い手など探したとて容易く見つかるものではない。強過ぎるのも考えものよなぁ? 分かるぞリリィ、己が力を全力で揮えぬ蟠りは。元より貴様はレアスキルの性質上全力を揮う機会が少ないのだ。最後に持てる総てを出し戦ったのはいつだ? 老害共の走狗となり暗部を仕切る合間に腕が衰えぬよう維持するのすら事であろう?」

 

その話を聞いていて私も共感出来る所があった。それは腕が衰えないように維持する、という点だ。執務官はある意味総合職でもある。管理局最難関の資格とも呼ばれるのは伊達ではなく、仕事量は多くその仕事の種類も多岐に渡る。最近は捜査が主であったし調査書や報告書などによるデスクワークの時間の割合も多い。アークはその上、上層部の意向での出向だ。元より管理局の闇、少なくとも私以上に深い所を知るアークの仕事量は六課設立で慌ただしい時期であるのも災いし膨大なものだろう。

 

それに、やはりアークは持っていたんだ。レアスキル。告げ口みたいだけどはやてに報告することが1つ増えたかな。一応監視役という名目もあるし。

 

 

なんて考えている間にも2人の剣戟は続いていた。激しさは徐々に増してきてそろそろ様子見という段階を越えてきているのだが、この状態から私が参戦することは無理そうだ。

どこかで一旦区切りがついてくれればいいんだけど。

 

 

 

 

 

「――――アイシス・クライス・ディアスリル」

 

と思っていればアークの口から漏れ出るような大きさの、耳をすまして集中していれば辛うじて聞きとれる程度の声がする。この韻を踏むような特徴のある詠唱、いやそもそも詠唱を必要とする魔法など現代においては数える程しかない。

 

「揺らがざる地神よ。いま祈りのもと埋め潰せ。ユリフォク・ジオンク・オクロック」

 

ウォルフザークもアークが発動しようとしてる魔法が何か気付き攻撃に激しさが増すが、アークはその剣を払い退け大きく距離を取る。

 

「震えるは世界、響くは天地。アイシス・クライス・ディアスリル!」

 

続く詠唱を聞いて確信する。これは私も使うサンダーフォールと同じ祈祷型の儀式魔法。それも地形操作系統の大魔法。

 

 

『クエイククラッシュ!』

 

詠唱の完了と共にアークがデバイスを地面に刺し――世界が揺れた。

そう錯覚する程の揺れが襲った直後、アークからウォルフザークに向かって地が割れる。その地割れのせいで隆起した両脇の地面がさながら津波のようにウォルフザークを押し潰すかの如く飲み込み閉じ込めた。

 

 

「これで少しは時間が稼げる。一旦下がるぞ」

「分かった。それにしてもアーク儀式魔法使えたんだ」

「当たり前だ。お前は嘱託の方でも受けてたから免除されたかもしれんが執務官試験の項目にも選択式だがある」

 

ベルカ式の人間でも試験に儀式魔法があるのかな、と思ったけどそういえばさっきの魔法は展開された魔法陣がミッド式だった。アークはミッド式の結界魔導師としての適性も高いとはやてが言っていたし、ミッド式の魔法も一通り使えるみたいだ。デバイスはベルカのものなのでユーノみたいにデバイス無しでの魔法行使だろう。やはり個人で活動する執務官としてバランス良く遠距離の攻撃方法もきちんと所持していた。

それにしてもあの魔法はAAAランクで本来は対象を地中深くで圧殺する代物で対人で使うような魔法ではない。なのに時間稼ぎ程度にしかならないとは、暴君は伝承通り規格外な存在のようだ。

 

 

 

「で、どうだ。いけるか?」

「悔しいけど、リミッターがついたままの私じゃちょっと苦しいかも・・・」

 

私が最も力になれるポジションはガードウィングである前中衛や遊撃だけど魔力、スピードといった基礎スペックが低下している今の私がそこに入り込んでも邪魔になる。

となると次は後衛からのフォローだけど、私はなのは程緻密なコントロールは出来ないからハイレベルな接近戦を繰り広げてる味方に当てず敵だけを狙うのは難しい。

強力な魔法を待機状態で展開して機を計るのが1番現実的な選択だけどそれじゃ2対1のメリットがあまり活かせない。単純な1対1でアークが王である暴君に勝てるかは分からないからなおさらだ。

 

 

「なら、リミッターがなければ行けるということだな?」

「うん、それならアークに合わせて動けるんだけどリミッター解除を今から申請しても・・・」

「そうか」

 

 

現状を上に報告すれば解除権は下りるだろうがどれだけ早くとも数分は掛かる。けどその数分でどう状況が動くかは分からない。相手はスカリエッティと同じS級の広域指名手配犯なんだから。

S級犯罪者に遭遇し緊急事態ということで無理矢理解除して事後報告っていう手段も出来るかもしれないけど、それは六課の皆に迷惑を掛けることになる。管理局内の情勢も知る私は、六課が非常に微妙なバランスで成り立ってる部隊なのを知ってる。

 

ここで私が無理矢理リミッターを解除してしまえば、六課はリミッターで高ランク魔導師を集めておいて非常時とはいえいざとなれば勝手にリミッターを解除してしまうというレッテルを貼られる。多くの人間は特例として認めるべき正当な対応と言ってくれるだろうが、悪意を持った解釈をする人間はいる。はやてと敵対する派閥はここぞとばかりに付け込んで六課解散をせまるだろう。

だけど、このままだと私はこの戦闘で役に立てない。それはつまりウォルフザークの相手をアークだけに押し付けると同義だ。2人の会話を聞いてアークが何か重大なことを隠してそうなことに対しても疑いの眼が残るのは勿論ある。けれど、そんな不確かなもので責任を放り投げるような真似はしたくないし、何より仲間を見捨てるなんて私には出来ない。そんなジレンマに歯痒い思いが胸に残る。

 

 

「なら・・・やはり俺のリミッター解除権を使うしかないか」

「――え?」

「俺は六課出向に伴って隊長陣の無制限解除権を1つ貰っている。それを使うぞ」

 

 

無制限解除権・・・!

それを得る事がどれだけのことなのか私は知っている。

六課設立において1番の難所がリミッターの解除権だ。高ランクの魔導師が複数名いる以上当然なのだが、1年間という試用期間の中ではやてが得られた解除権はそれぞれ完全解除が2回出来るかどうかといったところ。解除権は申請すれば補填することも可能だが地上本部の査定は厳しい上トップであるレジアス中将が海嫌いであり補填は難しいと言わざるを得ない。

だからもし解除権を使用する時は完全解除でなく1ランク2ランクと小刻みに、且つ時間制限付きで使用する筈。

それなのに全解除時間制限なしの解除権をこうも容易く得られるのは妙だ。上層部から与えられてるものとはいえ使用するタイミングなどの裁量は完全にアーク個人任せ。しかもアークの出向が決まったのはアグスタの件以降。それ以前にある程度準備をしていたとしても早過ぎる。その解除権の駆け引きではやてが交渉に交渉を重ねて各部署を相手に走り回っていたのは今でも覚えている。

 

はやてはアークの後ろ盾はレジアス中将ではないかと言っていたけど・・・これはもっと根深い話になりそうだ。まだ私は詳しく教えてもらってはいないものの六課設立には確実に裏がある。身内とはいえクロノを始めとした提督達や聖王教会。かの3提督ですら後押ししてると聞いている。六課は陸であるミッド地上に設立されたが海と陸双方の権力がある意味うまいこと支え合っているかのような本当に危うい均衡の上で成り立っている。

レジアス中将が実質陸のトップと言われているが、レジアス中将だけでは海と均衡するのは足りないんじゃないかとずっと思ってた。

私達の後ろ盾にはクロノ達や聖王教会だけでなく非公式にだが伝説とまで言われる3提督までいる。それに対し陸の権力者はレジアス中将。他にも上手い事財界や政界にも手を回して六課設立に関わっている人はいたが、本当に大きな権力を持つ者はレジアス中将だけだった。

確かにレジアス中将ならばクロノ達や教会と対等以上に渡り合えるかもしれないが伝説の3提督が加わるといくらホームだとはいえそうはいかない。このパワーバランスならもっと六課は有利な状態で設立出来たはずだと今なら思える。伝説と呼ばれる3提督の権威は伊達ではない。はやては地上部隊に所属して長い。それ故にレジアス中将の権力の大きさを身に染みているだろう。身近に経験しているからこそ、このパワーバランスの違和感に気付けていないのかもしれない。

 

そこで思い出すのが、さっきのアークに対しウォルフザークが言っていた『老害共の走狗』という言葉。もしこの老害というのがレジアス中将でなく、それよりも更に権力を持った存在を指すのだとするならば。

思い当たることが1つだけある。

まことしやかに囁かれ続けている管理局という組織を設立した管理局の最高意思決定機関――最高評議会。

 

「――ト。フェイト」

 

リミッター解除の操作が終わらせただろうアークに名前を呼ばれて意識が思考の海から引き揚げられる。危ない危ない、小休憩状態とはいえ今は戦闘中だった。

 

「今からリミッターを外すぞ」

「うん、いいよ」

 

 

直後、リミッターによって抑え込まれていた魔力が漲り解放感に包まれるのと同時に意識を完全に切り替える。

アークにウォルフザークとの会話で出てきた疑問を投げかけるのも、はやてに本当の六課設立の目的を聞きだすのも、全てはこの戦いが終わってからだ。

 

 

「基本的に戦闘は俺が前面に出る。フェイトが隙があればどんどん斬り込んでくれ。リミッターを外した今、俺たちの中でお前が一番速い。一撃離脱を繰り返せば暴君であっても手が出せん筈だ。唯一カウンターが怖いがそれは俺が阻む、全力で行け」

「分かった」

「あと、絶対に掴まるな。あいつは触れたものから魔力やあらゆるものを奪い取るレアスキルを持っている」

 

アークから提案された方法が一番いいと私も思う。そして出来れば、という程度だが更に一言二言交わし戦術を練り上げる。

しかし、あの集束スピードの秘密はやっぱりレアスキルだったのか。集束というのはつまり周囲の魔力をかき集めるということ、触れているというにはアレだが空気中の魔力を奪い取っていたのだろう。

あれ? でもアークはさっきウォルフザークに地面に叩きつけられる際掴まれていたような・・・?

 

少し疑問も新たに湧いてしまったが、段取りもついた所で先程の戦闘地点、暴君が埋まっているであろう場所に戻ったのだが、暴君は既に脱出しており体についた埃を払っているところだった。

 

「このようなことも出来たとはな、多芸になったではないかリリィ。侮っていた訳ではないが、余も知らぬ間に多少鈍っておったのかもしれんな。おかげで土塗れになってしまったわ」

「ふん。次は、血塗れになるんだよ」

「それは愉快、であるな」

 

 

様子見は終わり、これからは3者全てが参戦する第2ラウンド開始だ。

 

 

「行くぞメイス」

『Yes,Boss』

 

前面に出るアークが先にウォルフザークへと向かう。

どうでもいいことだが、アークはどうやらデバイスをミッドの言語に調整しているようだ。愛称もスペルをミッド読みしてるっぽいし。

 

 

「私達も行くよ、バルディッシュ!」

『Yes,Sir!』

 

 

 

戦いを再開して数分、私達の戦術は上手い具合に機能していた。私達は無傷の状態であるのに対しウォルフザークは細かい傷ばかりだが着実にダメージを受けている。むしろ、オーバーSランク相当の魔導師を2人同時に相手取っているのにこの程度のダメージで済んでいることは賞賛すべき技量だ。

 

 

「小娘かと思っていたが、中々やるではないか。先程まではリミッターでもついたおったか。とすれば、些か分が悪くはあるな」

 

追い詰められているのはウォルフザークなのは間違いない。だがそれでも毅然とした余裕とも取れる態度のままだ。

 

「存外、あやつら以外にも使える駒を持っているではないか。しかし分からんな。貴様の従える部下は一級品だ。であるのに何故自由を好む貴様があの屑どもの狗のままなのだ?」

 

管理局のデータベースではアークに特定の部下はいないことになっているが、実際はウォルフザークのこの口振りでは間違いのない事実のようだ。ウォルフザークは暴君という名前らしからずお喋りなせいか、今日はアークについて様々な情報が出てきている。加えてその中には余りに私達が得ていた情報と違うものがあり過ぎる。アークは一体何者なんだろうか・・・?

というか、私は別にアークの部下って訳じゃないんだけど・・・。

 

 

「自由を好む、ね。覚えているか? 昔、もしリリィが王になったならばどう名乗るか。そう語り合った日もあったな」

「おう覚えておるとも、だが終ぞ貴様はその名を名乗る事はなかったがな。いや、そもリリィは王に比する力こそあったものの王の器ではなかった。残念ではあるがな」

「そうだ。自由を好んだリリィは確かにそうだった。だが俺は違う。俺は――」

 

 

――俺が、王になる。

 

 

その宣言にウォルフザークは暫し驚きに目を見開いていた。絶対に聞くことがないだろうと思っていた言葉を聞いたような、そんな驚きだ。

 

「フッ・・・ハハハッ、王となる覚悟を得たか! 成程! そういうことならば全てが繋がる! ハッ、フハハハハッ! 認めよう、確かに貴様はリリィとは違うようだ! アーク!」

 

ウォルフザークがアークのことをリリィ、ではなく初めて名前で呼んだ。それが意味する事は私には分からないが、ただ1つ。私は今、歴史的瞬間に立ち会っているようだ。

 

「暴君たる余が太鼓判を押してやる! 紛れもなく貴様は王だ! 『封王』アーク・リリィ・シーリング!!」

 

 

アークが王・・・?

アーク・リリィ・シーリング? シーリングとはどういうことだろう。話の展開に頭が追い付かない。けれどそんな事は構わずに事態は進んでいく。

 

 

「王か! これ程滾ることはない! 余も改めて名乗らせて貰うとしよう!」

 

そう言ってウォルフザークは懐から何かを取り出した。

 

「『暴君』ディアベルガ・ディラント・ウォルフザーク! 参る!」

 

取り出した赤い宝石のようなものを握り締めながら名乗りを上げるウォルフザーク。

赤い・・・・宝石?

 

「レリック!?」

 

レリックを握り締めそのレアスキルを発動させるウォルフザーク。レリックは未だにその用途、目的は不明だが、膨大なエネルギーを秘めている。あらゆるものを奪うレアスキル。それはレリックに秘めた超高エネルギーも例外ではないようでウォルフザークに吸収されていく・・・・。

 

 

「あの女に渡されたこれを使うのは癇に障るがそれも最早どうでもいいことだ! 楽しもうぞ! アーク!」

 

その言葉と共に全てのエネルギーを取り込み用済みとなったレリックを握り潰しアークに斬りかかる。

 

「ぐっ・・・」

 

レリックでブーストされた力はアークを遥かに上回ったようで受け止めたアークは苦しげな声を上げている。

とはいえここで容易に助けに行く訳にはいかない。

私は、私に出来る事を――

 

先程までとは打って変わり防戦一方になっているアークだが私は辛抱強く斬りこめるタイミングを待つ。

 

そして漸くそのタイミングはきた。隙と呼ぶには余りにも小さい、先程までならカウンターのリスクを考えて斬り込むことはなかった僅かな間。ここからは針の穴に糸を通すような正確さで挑まなければならない。

 

「――フルドライブ!」

 

全力で魔力を放出しその結果変換資質である電気がバチバチと音を立てて迸る。バルディッシュも細身の片刃の長剣形態であるライオットブレードへと切り替わる。

 

「ハァァァアッ!」

 

一閃。アークのウォルフザークの間を縫うように雷光の如き速さで駆け抜け斬る。

 

「ぬっ!」

 

しかし自身を遥かに上回る筈のスピードにすら対応され、刃は弾かれてしまった。

だがそれも想定内ではあった。弾かれたことを確認すると私はそのままバリアジャケットを一部パージしインパルスフォームから切り替えて空へと駆け昇る。

 

弾かれダメージこそ与えられなかったが私の一撃はウォルフザークの隙を生み防戦一方だった戦いを押し戻す。

アークはその隙を追撃に使わずにウォルフザークのデバイスを掴み取り出来るだけ地面へ深く突き刺す。膂力で劣るにも関わらず握られたままのデバイスを突き刺せたのは刃面を恐れず掴み取れる胆力と体術にも秀でたアークだからこそだろう。

が、ウォルフザークも武器を少し封じられたとはいえそのような大きい挙動を何もせず見逃す筈もなく、溢れる魔力を余すことなく集束し、その魔力を乗せた蹴りをアークにお見舞いする。

 

 

――稲妻とは、天から地へと降り注ぐ。

雷系統の技を多く扱う私が最もその速さを出せる時、それは稲妻と同じく重力に従い空から標的へと一閃を見舞うその時だ。

 

「ライトニング、イグニッションッ!」

 

 

疾風迅雷、その言葉を体現するかのように私は一筋の稲妻と化す。

その最速の一撃ですら反応し引き抜いたデバイスで受けとめようとするが、最早それも無意味。

ウォルフザークの構えたデバイスごとその身を切り裂いた。

 

 

ウォルフザークのデバイスは、限界を迎えていた。デバイス容量を上回る本人の技量での負担、ロストロギア級であるアークのマッサークルとの打ち合い。レリックでのブーストによる負担、一撃離脱によるピンポイントでの同じ箇所へ集中ダメージ。

いくらモデルとしては最新とはいえ所詮は量産型デバイス。アークが最初に言ったようにこのレベルの戦いにおいては二流でしかなかったという訳だ。この勝負を分けたのはそこだろう。

 

 

「ぐっ・・・この、小娘ガアアァァァッ!」

 

その魔力量から魔力ダメージによるノックアウトは困難であるため非殺傷設定を解除しての一撃、しかも変換資質による雷撃も付加された一撃を受けてすぐさま攻撃に転じることなど常人には不可能のはずだけど、そこは暴君、ベルカ古代に名を馳せた王は伊達ではない。壊れたデバイスは放棄してその手に魔力を集束し私へと拳が振り下ろされる。

 

全霊を込めた一撃の後であり僅かな間とはいえフルドライブであった代償による倦怠感のせいで回避は難しい。防御も同じくだ。素手とはいえ真・ソニックフォーム状態の私の防御など紙のごとく打ち破られるだろう。だけど、私はその一撃に対しなんの脅威も感じていなかった。

 

 

何故なら、その拳が私に届くその前に、アークの放った斬撃がウォルフザークの腕を斬り飛ばしたからだ。

 

 

「ぐぅっ・・・」

「終わりだな、暴君ディラント」

 

 

ウォルフザークは切断された左肘から少し上を右手で抑えながら距離を取る。

私の一撃は雷撃も付与され傷口は焼き切られているので大した出血ではないが、左腕はそうではない。これから私達2人を相手に戦うのはもう無理だ。

たとえ完全に止血出来たとしても片腕を失った以上先程のような戦闘は不可能だ。

つまり、私達の勝ちだ。

 

 

「気が逸ってしまったか・・・っ」

「俺なら本当の意味でお前を殺せる。ここで終わりだ!」

「・・・仕方あるまいな」

 

アークが駆け出しウォルフザークが何かを諦めたように呟くと、辺り一帯に巨大な重圧が圧しかかる。プレッシャーなどといった比喩ではない。文字通り地面へ体が押さえつけられる。

 

「何っ!?」

「この場では、取っておくつもりだったのだがな」

「これは・・・重力魔法・・・!」

 

重力発生系・・・ベルカは勿論ミッド式ですら理論こそ完成しているものの未だに技術体系としては根付いていない高等魔法。いくら暴君であってもここまで強力なものは使える訳がない・・・っ。

 

「この発動スピード・・・レアスキルか!」

「流石に答えを見つけるのが速いな。そうだとも、これこそがディアベルガ・D・ウォルフザークとしての本来のレアスキル。この体のな!」

「そうか・・・そういうことか」

 

 

つまりウォルフザークは、暴君としてのレアスキルと奪ったともいえる子孫のディアベルガが持っていたレアスキル、この2つを持っていることになる。

 

「余はここで引かせてもらおう。そもそも貴様とここで出会ったこと自体想定外である故な。左腕は新たな王の誕生の門出としてくれてやる。この決着は来たるべき時につけさせてもらおう」

 

そう言って笑い声とともにウォルフザークは去っていき、しばらくして身に掛っていた重圧も消え失せた。

まさかリミッターを完全解除して2人掛かりでも左腕こそ奪ったものの全力を引き出せなかった上に逃げられてしまった。

スカリエッティと同じくされる広域指定のS級犯罪者、ラグナロクには最低でもあと4人はいる。思想家ホーリー、収集家ウィルヘルム、大量殺戮者ローガン、そして詳細不明のリーダー・・・。他の全員がウォルフザーク並みの戦闘能力を持ってるとは流石に想像出来ないが、同じレベルで厄介なのは間違いない。

改めて敵の組織の出鱈目さを認識した。世界をいくつも消滅させたと言ってもどこか他人事のように思えていたのかもしれない。

 

 

とはいえ、今回得られたモノは大きい。

違法研究所から抜きだした研究データ。

虐殺王ウォルフザークの戦線離脱、及び左腕と遺伝子情報。

レリックの破片。

そして、アークのことと管理局の闇――

 

 

 




この話で暴君邂逅編?とフェイトさん視点はおしまいです。
暴君は主人公の都合など考えないで喋るのでフェイトさんに断片的ながら情報漏れまくりです(´ω`)で、フェイトさん色々疑問が生まれてきたよ。っていうフェイトさん視点でした。

主人公が放った儀式魔法ですが詠唱は大体サンダーフォールと似たようなもんです。名前もシンプルな方がいいかなーって感じでつけてますしね。
儀式魔法は公式でも資料が少ないので独自設定になります。始動キーに関しては人によって違うっぽいんですがもうこれは魔法によって固定ってことにしてます。じゃないとなのはが儀式魔法使ったらリリカル・マジカル、で始まりますしね。どうせもう儀式魔法なんてほとんど出ません。

フェイトさんの技に関してもオリジナルですね。
ライトニング・イグニッション
フルドライブ時ライオットブレード状態で相手より上空にいる場合のみ発動可。
攻撃後は隙だらけになります。
名前は疾風迅雷の英訳イメージです。




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