魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~ 作:Sady
今日はフォワード陣が休みで隊長達が宿舎に待機しているということもあり俺も六課への出向も休みになった。
休み、と言ってもそれは六課への出向なだけであり特務の仕事自体が休みな訳ではない。
地上中央本部での予算会議も先日あったばかりだ。事が大きいだけあり最高評議会もこの件に関しては目を通すのだが、最終チェックだけで文字通り目を通すだけだ。細かな調整などは俺達がやる。
他にも色々な案件があり寧ろ休みだった日などこれまででも本当に数えられる程しかない。最高評議会補佐の肩書きは伊達ではない。仕事量的にな。ブラックもブラックだ。だが、ここ数年に限った話で言えば肉体労働ではないデスクワーク系の比率が多く要領よくこなせば疲労はそこまで溜まることはない。尤も、超絶的な力を持つ高ランクのロストロギアをこの身に宿している以上一定の健康は維持されるので不調になることはめったにない。
そんな訳で今日は自宅でのんびりテレビでも見ながら片手間に書類を片付けていこうと思う。在宅勤務というやつだ。
「あーそういえばもうこんな時期なのねー」
自宅、といえば勿論居候であるクイントもいる。
そんなクイントはいつも通り短パンとシャツといったラフな格好でやってきて俺が座っていたソファの隣に腰をおろす。丁度テレビにはDSAAの都市本戦の中継が流れていた。
「懐かしいわねぇ。メガーヌと決勝で戦ったのは良い思い出ね」
今戦えば絶対に私が勝つけどね! とグッと拳を握りしめているがこいつはメガーヌの今の状態を忘れているのだろうか。そりゃあ勝つだろう。まぁ適合するレリックがあれば回復するのは解っているので深刻な問題ではない。いや、適合するレリックがあれば、と俺が言うのは余りに意地が悪いな。何せ、ナンバーⅪのレリックは俺が保持しているのだから。
「アークも昔一回出てたって話だったわよね確か。何位だったっけー?」
クイントがニヤニヤした顔で俺の肩に肘を乗せながら聞いてくる。
「・・・本戦8位だ。知ってるだろ」
そう、この話題はDSAA関連のものを見聞きする度に発生している。
「へぇ本戦8位? ほー?」
決勝まで勝ち進んだというクイントは当然最低でも準優勝。俺よりも好成績だ。
その優越感に浸りたい為かこの話題になると毎回毎回このようになめくさった態度になる。
「お前なぁ、いい加減飽きないのか?」
「へへっ、飽きないわね。あと3年は大丈夫よ!」
胸を張って宣言するクイントに内心溜息をついてしまう。
俺としては記念に1度出場してみただけなのだが、よもや数年の時を経てこのような因果で舞い戻ってくるとは。
それに、言い訳をさせてもらうとだ。俺が出場した当時は黄金世代と言われた程に粒揃いでハイレベルであったし、俺に勝った奴は激戦区であるミッドチルダの頂点になった上に世界大会も制した。
公の大会で幾分制限があったとは言えDSAAという競技を突き詰めた彼らとの試合は良い経験だった。1つの分野を極めた特化型の魔導師のようなものだ。
戦闘経験だけではなく人脈作りとしても役に立ったしな。上位入賞選手には管理局に入局した奴もいればプロの選手になったのも、民間の警備会社を作った奴もいる。
その縁もあり管理局の人員では手が回らない時などに契約を結び戦力を提供してもらうこともある。決戦の時にも自軍の戦力として数えている。
本戦ともなれば管理局所属の人員がスカウトのために観戦に行くこともあるし、局員が出場することもありDSAAはお祭り感覚でありながらも意外と重要なイベントだったりする。
程なくしてDASSの中継も終わりチャンネルを切り替える。
すると丁度政治経済のニュースが流れており、レジアスが演説しているところであった。
「あ、レジアス中将」
クイントはゼスト隊であっただけあり、ゼストの友人であるレジアスとも面識がある。
「レジアスか、あいつは優秀だな」
「ふーん」
レジアスは魔導師でこそないが古くから武闘派でありその政策はアインヘリアル然り攻撃的なものが多い。質量兵器すらも限定的であるが積極的に使用しようと画策している。
故に質量兵器アレルギーが強い若い世代の魔導師からは嫌煙されることが多い。海との折衝もある。
だがそれでもレジアスの支持者は多い。特に民間からの支持は特にだ。
局内でも、最高評議会からの評価もそれなりに高い。勿論、俺も高く評価している。
本当に、よくやっている。犯罪発生率や検挙率など数字を見れば明らかだ。
ただ、ゼスト隊壊滅以降己の正義を見失っている様子が見られる。親友を見捨てたと思ってしまったのか時折取り憑かれたかのように働く様が見られるとは監視役のコウヨウの言である。
親友を犠牲にしてしまった罪悪感か、平和に拘りすぎている。平和を愛する、とは微妙にズレている。
ジェイルと裏取引しているらしいが余計な面倒が起きなければいいのだが・・・
レジアスは評議会にも上手いこと隠しているつもりらしいがダダ漏れである。何せ取引相手であるジェイルがなんてことないように俺に教えてくれたからだ。口止めはされてない、と。まぁ管理局のJOKERと広域指名手配犯に間に繋がりがあるなどとは余人には想像も出来ないか。
噂をすれば影というのか、ジェイルから突然映像通信が来たのはクイントと雑談を交えながら業務をこなし、一通り仕上がった頃だった。
『やぁリリィ君』
通信を繋げるとそこにはいつもよりも狂気的な顔付きのジェイルが映された。
口元を歪め見る人によっては嫌悪を抱かせる笑みだ。
だが、待ちに待った玩具が手に入りそうな子供が浮かべるような純粋さも孕んでいる。
すぐに君の耳に入る話だろうが、と前置きしてから楽しげに話し出す。
『ついに来たみたいだよ。お待ちかねの鍵――この戦いにおける最重要登場人物がね』
鍵――それは10年前に蒔かれた種。
ゆりかごを動かす最重要要素。
そして暴君と同じく世界に大きな影響を与える者。
即ち、聖王オリヴィエのクローン。
『こちらはガジェットとナンバーズを既に動員している。どちらが先に見つけられるか競争といこうじゃないか』
前哨戦だ。と愉快気に言いたいことだけを言うと通信は切られた。
「・・・これまた身勝手な奴よねぇ」
「誰かにこの興奮を伝えたかったんだろうな、性格的に」
クイントはジェイルの通信に呆れているが、基本的にあいつは構ってちゃんだ。有利不利よりも愉快不愉快を優先する。立場上誰にも言うことができない。それこそ敵である六課くらいだ。今はまだ時期ではないからかせめて俺に言いたかったんだろう。
「というか、競争とか言ってあいつもう捜索出してるじゃない。ズルくない?」
「まぁ、こっちも局のどこかの部署が何かしら情報仕入れてるだろし、そんなもんだろ」
そもそも、今回の件に関してジェイルは完全に負け戦だ。勝率で言えば20%を割っている。そういうシナリオ。予めある程度そうなることを予想されていた。だがあいつはそういう時にこそ楽しもうとする。
最高評議会へはおおまかな報告しかしていないが、おおよそ一連の流れは決まっている。
まさしく茶番でゲーム。前哨戦というよりも肩慣らし。
ジェイルからのゲーム宣誓がなされてからすぐ、キャロからの全体通信を受信した。
内容はレリックのケースと意識不明の少女の発見、合わせて他部署からの生体ポッド残骸の報告。間違いない、当たりを引いたようだ。
「あら、良かったじゃんアーク。これで勝ち決定ね」
「まぁ報告から察するに後はレリックを奪取されずに守りきるか、って所だな」
マテリアルはどちらの陣営が引き入れても計画に支障はないが出来れば手元に置きたかったので俺も上がってくる報告に軽く目を通したら出張るつもりだったのだが、キャロ達が思ったよりも早く保護してくれたので急ぐ必要はなくなった。
レリックに関しては六課からすれば初見であるナンバーズが動員されてる以上今回は別に守りきれなくても問題はない。俺が介入するよりはフォワード達に戦闘経験を積ませるためもあるし放っておいた方がいいだろう。
ガジェットの方はと言えば、なのはとフェイトが現在交戦中か。
だが、ロングアーチの動きとはやての通信履歴から察するにはやてが変わりに抑えにはいるようだな。
そしてこの規模の幻術、ナンバーズ側にはクアットロがいるのは間違いない。
クアットロとのコンビを組む比率の多いディエチもおそらくいるだろう。
マテリアルも保護出来ているし俺は休みということもあり気を利かせてくれてるのか出撃要請は出ていない。と言ってもこの全軍通信を聞いて尚自宅で待機しているというのも非協力的に見え印象が良くない。
よし、クアットロをボコりにいくか。あいつが一番計画を狂わせる可能性が高いし我が子に甘いジェイルの代わりに少しばかり躾てやろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
同時刻、地上本部最上階展望室。
そこにいるのはレジアス・ゲイズ並び部下であり娘でもあるオーリス・ゲイズ。
リアルタイムで管理局の上層部に配信されている八神ハヤテの戦闘映像を見ている。
レジアスは実質的に陸のトップである中将という地位に就いているにも関わらず機動六課に関して持っている情報は驚く程に少ない。
これには陸と海の不仲が関係している。
六課は謂わば海の切札。設立まで念入りに仕込みを行い設立以降も細心の注意を払ってきた。その働きの甲斐もあり地上勤務の古株であるナカジマ三佐を筆頭に上層部に対し不信を抱いている人間を取り込みつつ情報が伝わらないように操作することに成功していた。
「――犯した罪が消えるものか!」
オーリスの開示する六課の情報を見て、憤慨しながら机に力一杯拳を叩きつける。
オーリスも問題発言だと諌めるもレジアスが犯罪者嫌いであることも、その理由を知る身として実父の内情を悟り心を痛める。
「その通りだ。間違いねーな」
「何者だッ!」
警備は万全であり第三者がいるはずもない部屋においてレジアスと違い年若い男の声が響き渡る。今しがた問題発言をしたレジアスにとって失脚に繋がる拙い情報を聞かれ過剰に反応し声を荒げる。
「誰もいないと思って気を抜いちゃいけねーなぁ。俺らが支援してるとはいえお前さんには敵が多いんだ」
「貴様は―――ッ!」
レジアスは声の主を確認すると同時に息を飲む。
最高評議会直轄である次元管理特務部隊の幹部、戦闘及び諜報部隊統括責任者――コウヨウ・コガラシ。通称『心眼』
神出鬼没であり管理局の闇を暗躍し数々の有力者を失脚、粛清をこなしてきた恐るべき手練。
盲目であるにも関わらず健常者以上に辺りを見通し心の裡すらも見抜かれているかのように感じさせる。魔導師ランク不明、魔力量不明、しかし戦闘能力は並み居るエース級ストライカー級の魔導師を蹴散らし、次元管理局全体に於いても十指に入ると噂される。
地上本部の最高水準のセキュリティを潜り抜ける技量、他の追随を許さない戦闘能力。
最高評議会が存在こそ匂わせつつも姿を現さないため、実質管理局の闇を仕切るJOKER――アーク・リリィ・シーリング以上に権力者からは恐れられている存在。
「・・・一体何の用だ」
「ちょっと忠告をしにな、個人的に」
度々レジアスの前に姿を現し助言を繰り返す。その甲斐もありレジアスは陸のトップと呼ばれる地位に就いているのだが、評議会に忠誠を誓っているのではなく己の正義を行動原理としているレジアスとしては友好的な態度で接してくる目の前の男をあまり好きにはなれなかった。
今回は個人的に、という言葉通りに評議会の狗としてではなく純粋に忠告しに来たのだろう。意外であるかもしれないがこの男は嘘をつかない。今まで10を越える助言を与えられてきたが、その情報に虚言は一切なかった。もし仮にこの男に嘘を吐かれ騙される時は、これまで無数に散っていった権力者達のように切り捨てられる時だろう、とレジアスはあたりをつけていた。
「友を殺した大嫌いな犯罪者と手を組んでまで平和を齎そうっていう心とそれに悩む人間らしさ、俺は気に入ってるんだ」
「・・・貴様に気に入られた所でなんになるというのだ」
レジアスの心に深い傷をつけた事件を思い起こし自らの心中を射た言葉に眉を顰め嫌味を飛ばす。本来、評議会から支援されている立場のレジアスはコウヨウと友好的な関係を築いていくのがベストだ。しかし、レジアスの正義は傀儡であることを良しとせず、助言に頼らずとも大丈夫だと見栄を張るのが精一杯だった。
そんな嫌味を気にすることもなく、人間味溢れるレジアスの内心すらも見透かしたかのようにコウヨウは機嫌を悪くする所か笑みを浮かべた。
2人の会話を聞いていたオーリスは、コウヨウの言葉通りのことを同じく胸に秘めていた。
元から現在の地位に就くためにレジアスは権力争いを制する為に多少の後ろ暗いことは勿論してきた。だがしかし、法を犯す決定的な手段を取ったこともなかった。
そんな父が犯罪者との裏取引に手を出すまでに至った葛藤がどれだけ深かったかは想像に易い。まだ自分が管理局に勤める以前も、毎夜遅くまで働き家に帰ることも少なく、悪夢に魘され眠りが浅いことも知っていた。死なせてしまった友の為にせめてもの餞に地上の平和を捧げようと身も心も削っていた。
そして管理局に入局し、娘の身を案ずる父の反対を押し切ってまで秘書になり同じ道を進むことを決めた。誰よりも近くで見てきたオーリスはレジアスを部下として、娘として支えて生きると誓っていた。
「だからさ――評議会に弓引くような真似はしないでくれよ」
そう言い残しコウヨウは展望室の扉から音もなく出ていった。
最後の言葉にどのような意味が込められていたかを知る人間は、ここにはいなかった。