魔法少女リリカルなのは~鬼札と呼ばれた魔導師~   作:Sady

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日常パート、と思いきや後半はシリアスです。
急にシリアスな感じに切り替わって違和感とかないかな((((;゚Д゚))))とかガクブルです。





5話 強くなりたい

新暦75年6月

 

 

「もう6月か」

「そして今月も穀潰しでいる訳ね」

 

 

例のスイッチ役以外に、仕事がこない。それだけ他の部下が優秀だということなんだろうが、暇を持て余す程仕事がないってどういうことなんだ一体。最高評議会も多少の事は俺の裁量に任せるスタンスであるし、俺が個人で調べている事も一応あるのだが、一向に進展の気配がない。

 

 

「最近、ダミーの筈の執務官としている時間の方が長い気がするんだよな・・・おかげでまた昇進しそうなんだけど」

「良い事じゃない」

「良い訳あるか、もし六課に入るなら執務官としてだぞ。これ以上階級上がったら部隊長と同じ階級になるじゃねーか」

「あーなるほど」

「それに多分、俺の表裏の給料合わせたら管理局にいる20代の人間の誰より金貰ってる気がする。昇進したら給料上がるしこれ以上増えたら逆に困る」

「うちの旦那がそれ聞いたら殴りかかりそうね」

 

 

実際、裏の給料だけで将官クラスと比べても上から数えた方が速い程だ。

このマンションに住んでるのだって管理局では5人程度しかいない。大体はどこぞの企業の社長とか重鎮ばかりだ。

この前も金を消費するべく高級車を買ったが、正直同年代であのクラスの車持ってる奴はほぼいないと思う。

 

クイントのその体のどこに入ってるのかという量の食事も3つ星レストランで使われるような高級食材だ。最初にそれを教えた時はむせ返っていたが今では心置きなくガッツリいってる。

服も1流ブランドのモノばかりで、金は気にするなと言ったのと、行動を制限してるせいもあってかクイントは通販にはまった時期もある。

今ではそれも治まったがそれでも時々宅配が来る所をみると完全に治ってはない。こいつの金銭感覚を壊したのは間違いなく俺である。

いつになるか分からないがクイントを家庭に返す時を考えるとこいつの旦那には申し訳ないが、頑張って貰うしかない。

 

 

 

「6月と言えば毎年恒例のアグスタの警備もあったな」

 

 

俺の息抜き兼暇潰しイベントとして警備に参加している。ホテル側も魔導師でしかも執務官が会場警備に参加してくれる事実自体が、牽制になり願ってもない事らしく、ほぼ無償で毎年参加する俺はオーナーからとても感謝されている。

 

数年前にはかの有名な考古学者兼無限書庫司書長であるユーノ・スクライアも来ていて、出品される貴重な代物を見てとても関心を示したようでそれからは毎年足を運び、今年はゲストとして招かれるそうだ。

 

 

それに会場警備と言っても問題が起こる事などそうそうなく、以前に事件が起きたのはオークションの司会になりすまして偽物と本物をすり替えて持ちかえろうとした2、3人の小物のグループだけだ。計画性もあまりなくすぐに露見して捕まったが。

 

オークションを隠れ蓑にして地下で密輸が行われる事もあるが、取引場所がホテル・アグスタというだけで、主催側は一切関わりがなく密輸が行われてる事自体知らない。

俺も折角息抜きで行ってるのに余計な面倒は増やしたくないので見逃している。俺の活動分野は違法研究が大半を占めているし、密輸に関しては地上部隊の仕事だ。俺は知らん。

まぁ今年はジェイルがその密輸品やら何やらに手をだしてくるらしいけど。

 

 

「私も一回だけ一緒に行ったけどあれは凄かったわねー」

 

 

あそこは基本的に管理局に関わりが薄く、来賓データを調べてみたところクイントが行っても問題なさそうだったので連れて行った事がある。

高級ホテルで行われるオークションだけあって来る人の大体が上級階層の人間だ。

オーナーに贔屓されている俺が一緒だったこともあって待遇も良くVIP扱いだったのも気を良くした原因の一つだろう。

普通に管理局員としていたらまずあんな扱いは受けないからな。女性はいつになってもお姫様を夢見てるのだろう。クイントの場合お姫様の前に『お転婆』がつくが。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

日も沈み、夕食も食べ終わった俺は今優雅にワインを傾けている。

このマンションから見える夜景は素晴らしい。ここに住む人の幾人かはこの夜景を見る為に維持費やらなんやらの莫大な金を払っているという位だ。地上本部でもクナガラン全域を見渡せるが、ここから見える景色と比べると一線を画すと俺は思う。

そして、この夜景を見ながら酒を嗜むと言うのが最近のマイブームだ。

 

まぁ、他人から見たら成金にみえるかもしれないが・・・

 

 

「あーまたお酒飲んでるー!」

 

 

二人しか住んでないこの家で、俺が酒を飲んでいるのをクイントに見つからない訳がなく俺を指差して大声を出した後、私も飲むー!と、ドタドタとグラスとおつまみを取りに行った。

今日は、静かに飲みたかったのに・・・優雅なんてなかった。

 

 

「ホントここの夜景って綺麗よねー」

「100万ドルの夜景ってやつだな」

「実際そのくらいお金出さないと見れないのが現実的で嫌ね」

 

 

蛇足だが100万ドルの夜景の100万ドルは電気代の事である。ここの場合はマンションに住む為に掛る金額とも言えるが。

そんな事を考えながら、隣のソファに座りこんだクイントの持ってきたグラスに一杯注いでやる。

 

 

「ん、ありがと」

「こういう時にさりげなく気を遣えるのが、出来る男って奴だからな」

「はいかんぱーい」

 

 

俺とグラスを合わせるとクイントはそのままグラスを傾け一気に酒を呷る。

乾杯も何も俺はもう既に飲み始めてたんだけどな。

 

 

「あーおいしー!」

「これはそんな飲み方をする代物じゃないぞ、いくらすると思ってるんだ・・・っ」

「今更お金の事気にするような収入じゃないでしょー」

 

 

まぁ、そうなんだがそんな安物のビールでも飲むのと同じようにされるのは、俺の拘りとして許したくなかった。

それにしても、こいつの金銭感覚の崩壊がますます心配になってきた。

けれどそんな事も、おいしそうに飲む姿を見て、俺も考える事を止め再びグラスを傾けることにした。うん、うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景色を楽しみボトルも数本空けてそろそろいい時間になりお開きにしようと考えてたら、左肩に少し重みを感じそちらを見ると、クイントの頭が乗っていた。

結構な量を飲んでいたので寝てしまったのかと思い、面倒だがここで放っておくことも出来ないので運ぼうとしたら

 

 

 

 

「ねぇ、なんで私を助けたの?」

 

 

と、いつもの元気な声ではなく、細々とした声が聞こえてきた。

 

 

「時々ね、あのまま死んだ方が良かったんじゃないかって思うの。そうすれば、ゲンヤさんもギンガ達も私を探そうとせずに平穏に生きてるんじゃないか、って」

 

 

クイントは――公式ではもう行方不明、実質死亡扱いになっている。

でも実際は生きていて、死体はない。だからそのせいで希望を与えてしまった。

『死体がないなら、まだ囚われたまま生きてるかもしれない』――そんな希望を。

隊長であるゼスト、隊長補佐のメガーヌ、そしてクイント。ゼスト隊でこの3人だけ、死体がなかった。デバイスも中の映像データだけ削除して現場に置いてきたのも、希望の一つになったのかもしれない。

 

少なくとも、それを不自然に思ったゲンヤ・ナカジマはクイントが生きてると仮定して未だ密かに捜査を続けている。黒い噂の絶えないレジアス中将や最高評議会、関われば命の危険さえも伴う危ない橋だとしても8年前からずっと探し続けている。

 

 

「ここは致せり尽くせりでご飯もおいしいし欲しい物も言ったら買ってくれるし贅沢も出来るけど、私のせいで家族が死んじゃうかもしれないって思うと、凄く、怖い」

 

 

8年間、今ままでこぼす事のなかったクイントの弱音を、俺は今初めて聞いている。

不安に感じない筈がなかった。怖くない筈がなかった。それでも、クイントは俺にそれを感じさせることはなかった。

 

 

「私は生きてるよって伝えられないのが辛い、大丈夫だから探さないでって言えないのが悔しい。全部家族の為で私の為って分かってるけど、分かってるけど、助けて貰って感謝もしてるし恩も感じてるけど、家族に会わせてくれないあなたが――少しだけ嫌い」

 

 

酒に酔ってつい言ってしまった。というには内容があまりに本気過ぎる。

戦闘機人だって普通の人間で、生きてても良いんだよと娘に教えて育ててきたのに今になってゲンヤ、ギンガに続きスバルまでが事件に関わる事になって、ずっと――今までずっと我慢してきたのも限界がきたんだろう。

 

 

 

「こんな事思っちゃいけないって分かってる。助けて貰っといてずっと面倒みてもらって嫌いだなんて最低だって分かってる。でも!分かってても私はっ、そんな簡単に割り切れないよ・・・っ」

 

 

長年管理局の闇に生きてきて、誰に恨み言を言われようが罵られようが何一つ感じなかったけど、それが今は――クイントの言葉がこんなにも重く感じる。

 

 

 

「ホントに会えない訳じゃない。ダメって言われてるけど拘束されてる訳じゃないしコッソリ会いに行く事も実際は出来る。でも、そのせいで危険にさらしちゃうのが怖くて仕方なくて、会えないのをあなたのせいだって言い訳して嫌っちゃう弱い自分が嫌い。だからもっと、強くなりたい・・・あの時も、もっと強かったら隊長達を守れたのに。今だって、家族の元に帰っても誰が何をしてきても全部撥ね退けるくらいに強かったら、皆を守れるのにっ・・・ねぇアーク、私、もっと強くなりたい・・・強くなりたいよぉ・・・」

 

 

『強くなりたい』

結局の所、クイントの願いはこの一言に尽きた。

そして、言いたい事も全て吐き出したのかクイントはもう眠りに入っていた。

 

 

 

 

 

俺は――最高評議会の在り方を肯定している。

だから正義を盲信してる訳じゃないが、こうして最高評議会の為に働いているんだ。

世界の平和の為には個人の小さな犠牲はやむを得ない。99人を救うために1人を殺す。

全てを救うなんてそんな大衆向けの物語のようにハッピーエンドで終われるほど世界は甘くない。

だから組織として、それは当たり前で――正解だ。

 

クイントは殺されるその1人で、戦力が欲しかったという打算もあったがそれでも救えるなら救ってやろうと、ちょっとした気紛れだった。

それが今、クイントの本音は間違いなく俺の心を揺さぶって――少しだけ、これからの事を改めて考えてみることにした。

 

 

 

「世の中、儘ならんなぁ」

 

 

 

そう言って外をみてみると、あんなに綺麗だった夜景はもう真っ暗になっていた。

 




今まで能天気という描写しかなかったクイントさんの本音を書いてみたパートです。
家族にも会えずに長年いるのに悲しくない訳ないだろ、って事で思い付いた内容ですね。
後々の主人公の行動に影響してくるかもしれないという点では思いつきの割には結構重要な部分となります。


実はここだけの話、もしこれがR-18作品だとしたらこの後はベッドの上で「今だけは、その不安を忘れさせてやる」って感じでクイントさんを慰めるという展開になったりします。弱みに付け込んで人妻に手を出しちゃうとはなんて外道!って思うけど、話の展開としてはリアルで良いんだよね。大人な感じするし。
まぁ書かないけど。

ちゃんとあとがき書いたのって初めてな気がする(´ω`)
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