・設定の独自解釈アリ、公式と違ったらごめん!
・スピキとスピッキーが仲良くなるまでのお話
「教主さま?少しよろしいでしょうか」
ネルの困惑を含んだ声に、エルフィンの絵日記を確認していた教主は顔を上げた。
「どうしたの?」
「ただの見間違えに過ぎないと思うのですが……。
一部の妖精が、世界樹が移動していたという意味不明な戯言を話しているのを聞いたのです」
突飛な発言だった。
教主は目を丸くして、妖精用に作られた家の低い位置にある窓を覗き込む。
エーリアス世界を司る世界樹は今日も青々と屹立していた。
言うまでもなく、動いている様子は微塵もない。
「寝ぼけてたんじゃない?
お祈り……というかお昼寝のせいで」
「教主さま!その様な言い方はやめてください!
あなたは世界樹教団の教主なのですよ!」
もちもちのほっぺたを膨らませて部屋を出ていく司祭長に一人笑った後、教主は絵日記の確認に目を戻す。
エルフィンはすぐにページを飛ばしたり、文章なしで絵日記をつけたりするから細やかに目を通す必要がある。
「スピキ!」
突然、高い声が聞こえた。
教主は絵日記から目を離さずに声を主を考える。
まるでかぼちゃの赤ちゃんのように幼い声。
いつも聞いているものとは雰囲気が少し異なるが、この声の持ち主は一人しかいないだろう。
「スピッキーか。
もう少しで絵日記を確認し終わるから、ちょっと待っててね」
「チョアヨ!」
トコトコと歩く音の後に、スピッキーと思わしき人物は朗らかに歌い始める。
「チョアヨ〜チョアヨ〜ムルゴワレッジチョアヨ〜」
不思議な歌だった。
雑巾がけが好き、という内容を歌うスキッピーと思わしき人物に、クレープの真似事だろうかと首を傾げる教主。
嵐の前のように静かな時間。
「ちょっと待った〜!
それはスピッキーの偽物です!
スピッキーはこんなに小さくありません!」
「ウァァァァ!?」
そして、すぐにその嵐の元はやって来た。
スピッキーの声が2つ同時に聴こえた事に驚いた教主が振り返ると、そこには四つん這いの小さなスピッキーといつも通りのスピッキーが居る。
教主は目を疑った。
「す、スピッキーが2人!?」
「この子はスピッキーじゃありません!
スピキです!」
「スピキデルジバゼヨ!」
今日もエーリアスに愉快な事件がやって来たようだった。
スピキ、それはスピッキーそっくりの四足歩行の何かである。
モナティウムの独裁者かつ優れた科学者のエレナが言うには、超科学的な原理で動くぬいぐるみらしい。
ぬいぐるみと言っても、普通に食事はするので生きているようにしか見えない。
目は常にうるうるとしていて、ほっぺたはエーリアスの住民に違わずもちもちの可愛いらしい存在であった。
人懐っこく、それでいて純粋。
お腹をすかせてかぼちゃに八つ当たりするエルフィンと喧嘩したり、反アニマル缶戦線の略奪を止めようとしてほっぺたを引っ張られたりしたが、最終的には彼らとも友人になれた。
スピキはすぐにエーリアスの住民達に受け入れられたのである。
しかし、細かいことを気にしないわけにはいかない教主は、定期的にスピッキーから聞き取りを行なっていた。
今日も教主に呼び出されたスピッキーは、シナモンキャンディーとお茶で休息を取りつつ教主の問いに答える。
「それじゃあ、スピキはスピッキーが世界樹の真似事をしたときに生まれたんだね?」
「スピッキーは賢いですから、世界樹の真似をすればどんないたずらでもできるって気付いたんです!
でも、人以外を真似するのは初めてですし、真似しているうちに気分が悪くなってきちゃって……」
「気がついたらそばにスピキがいたというわけだね。
能力の反動か何かなんだろうか」
アイデンティティ泥棒のモノマネ幽霊を真似するぬいぐるみとは、ずいぶん皮肉な存在である。
「教主さま、失礼しますね」
スピキについての聞き取りも終わり、ネルはどの程度の物真似をしたら怒るのかという議論を交わしていた二人は、ノックの音に振り返った。
「良かった、まだスピッキーもいますね」
「ほらスピキ、プレゼントをあげて!」
扉を空けたのはエルフィンとネルである。
そして、その後ろには何かを頭に乗せたスピキが続く。
「スピッキ!」
「ふん、なんですか私のまねっこさん」
「ホバギ!」
スピッキーにスピキが差し出したのは、木彫りのかぼちゃであった。
「スピキが自分で作ったんだから!」
エルフィンが自分の事のように胸を張る。
かぼちゃの木彫りを差し出すスピキの潤んだ目も、どこか期待と自信を湛えているように見えた。
目を丸くしたスピッキーはかぼちゃの木彫りに手を伸ばす。
「っ……!」
しかし、彼女の手は弾かれたように引き返してしまう。
それは、何か熱いものに触れてしまったような戸惑いだった。
「す、スピッキーは騙されませんよ!」
「ヌンデ!?」
スピッキーは逃げるように壁をすり抜けた。
茫然としているスピキの後ろで、ネルと教主は溜息をつく。
「やっぱり、他人を真似る幽霊として、自分の真似をする存在は許せないのかな」
「とはいえ、スピッキーもスピキを本心から嫌っているわけではなさそうですけど……」
ネルと教主は根の深い問題に頭を悩ませる。
その目前では、泣いてしまったスピキをエルフィンが慰めているのであった。
スピキの毎日は冒険でいっぱいだった。
普段はエルフィンランドの城内に住んでいるスピキは、女王であるエルフィンとよく遊ぶ。
「スピキ!一緒にケーキを食べに行くわよ!」
「チョアヨ!」
スピキはエルフィンと一緒に地下の貯蔵庫でケーキを食べる。
そこに突然ネルが駆け込んで来た。
「女王さま!またケーキを盗み食いしたんですか!」
「エ!?」
許可を取っているのものだと思っていたスピキがエルフィンを振り返ると、彼女は口笛吹いて目をそらす。
「女王さま!」
「あいたたた!ほっぺたを引っ張らないでよ〜!」
「スピキもちゃんと止めてください!」
「ウワアアアア!スピキモリチャバダンギジマセヨ!
ネルヌンイロッケポンニョクチョギンヨッカリアニランマリエヨ~~!!」
理不尽にスピキはわあわあと泣く。
また別の日には、スピキは教主からお願いされたアルバイトで獣人たちの村に行く。
「スピキ!来ていたんだね!」
「バタ!チョワヨ!」
スピキが偶然会ったバターの肩に乗ってディアナの家に向かうと、ディアナは穏やかな表情で二人を待っていた。
「バターと一緒にきたんだねぇ。
スピキ、頼んでいたものは持ってきてくれたかい?」
「スピキ!」
スピキがディアナに差し出した紙を覗き込んだバターは首を傾げた。
「何かのレシピですか?」
「あぁ、今度エピカさんが村に寄るんだよ。
だから彼女の好物のキャラメルポップコーンの作り方を取り寄せたのさ」
「お祝いですね!バターお祝い大好き!」
「スピキも参加するかい?」
「チョワヨ!」
スピキは皆でエピカをお祝いする場面を思い浮かべて嬉しい気持ちになった。
なんて楽しい日々だろう!
これからもこんな日々が続けばいいな、と思ったスピキの脳裏に、ふとスピッキーの姿が思い出された。
スピキの楽しい気持ちの裏にはいつも未だ仲良くなれていない彼女がいて、スピキの胸をざわつかせる。
「スピキ?どうかしたの?」
バターが心配そうにスピキを覗き込む。
「バゼヨ!」
ぶんぶんと首を振って、スピキは外へと飛び出す。
憂鬱を振り払うには運動が一番だ。
バターと一緒にフリスビーで心ゆくまで遊んだ後、スピキは獣人の村を去りエルフの城へと向かっていた。
スピキのために開けてある窓から城に入り、エルフィンの居る執務室に向かったスピキは聞こえてきた話し声に足をとめる。
「ヴィヴィが近くを通ってから、スピッキーのかぼちゃも調子が悪いらしいよ……」
「スピッキーには悪いですが、これで大人しくしてくれるならありがたいですね」
「ネルってホント腹黒いよね……」
「教主さま?何か言いましたか?」
友であるホバギよりも先に浮かんだのは、スピッキーの泣き顔だった。
気がつけば、スピキは城を飛び出していた。