STARWARS 銀河を駆ける者達   作:バケツ頭 小説もどき家

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プロローグ 砂の星で

 ブラスターの銃声が店内に轟いてからしばらくして、一人の若者がカンティーナに足を踏み入れた。使い込まれた対ブラスターの装甲服、ライフルが収められたホルスター。その出で立ちから彼もほかの大多数の客同様賞金稼ぎかならず者であることは明らかだったが、彼の誠実そうな顔立ちと瞳は、ここに集う荒くれ者たちのそれとは明らかに異なっていた。

 

 テーブルに突っ伏したローディアン。

 客から証言を聞き取っている二人のストームトルーパー。

 静かに演奏を続けるバンド。

 

 若者はゆっくりと周囲を見回し、やがてカウンター席へと歩み寄った。

 

「やぁ、何か飲み物を貰えるかな?」

 

 バーテンダーは頷くと、グラスに赤色の液体を注ぎ、若者の前に置いた。

 

「どうも」

 

 若者は軽く微笑んでから飲み物に口をつけ、店内に視線を走らせる。

 

「何やら大きい騒ぎがあったみたいだけど、一体何があったんだ?」

 

若者の問いに、バーテンダーはグラスを拭く手を止めなかった。

 

「……さあな」

 

 ぶっきらぼうな返事だった。バーテンダーは何も知らないか、それ以上話す気がないらしい。

 

「そうか」若者は話題を切り替える。「この辺で品揃えの良い店か腕の良い修理業者は知らないか? 僕の船のハイパードライブが故障して替わりを探しているんだ」

 

「俺が案内係に見えるか?」

 

「……いや、見えないな」若者は無愛想なバーテンダーの前にクレジットを置いた。「店内の客に聞いてみるよ──ありがとう」

 

 若者はカウンターを離れると、ゆっくりと店内を歩き始めた。

 

「失礼。ハイパードライブを売っているところを知らないか?」

 

 屈強な異星人は一瞥をくれると、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

「この辺で腕のいい整備士を探していてね。僕の宇宙船が──」

 

「知らねぇよ」

 

「忙しいんだ、失せな」

 

 冷たい反応ばかりだった。

 

「まいったな」

 

 ――つん。

 かすかな感触が、ブーツ越しに伝わった。

 若者は眉をひそめ、足元を見る。

 そこには、小さな指が伸びていた。

 

 茶色のフード。

 光る黄色い目。

 

 ジャワ族だ。その物体は若者と目が合うと、甲高い声を響かせ、両手を挙げた。

 さらにその背後から、もう一人がひょっこり顔を出し、若者に手を振る。

 

 二人は訳の分からない言葉を話しながら、何やら必死に身振り手振り若者に伝えている。

 

 二人の小柄な異星人は、せわしなく腕を振り、指を宙に走らせ、時折天井を指差しては、胸の前で何かを回す仕草を繰り返した。

 

 若者はしばらく黙ってそれを眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……僕の宇宙船に乗せっていってほしい?」

 

 二人の黄色い目が、ぱっと輝いた。二人は勢いよく何度も頷き、少し背が高いジャワが手のひらに乗せたクレジットの束を若者に見せる。

 

 若者は苦笑する。

 

「参ったな。普段なら旅行客でも何でも大歓迎なんだけど、今はタイミングが悪いんだ」

 

 顔を見合わせるジャワ達。

 

「実はハイパードライブが故障してこの星から出られなくてね。困ってるんだ。他を当たったほうがいいと思うよ」

 

 がっくり項垂れるジャワ。よく分からない言語で慰め合ってる二人を見ていると、自然と言葉が出てしまう。

 

「ハイパードライブを入れ替るか修理するまで待てるんなら乗せてやってもいいよ」

 

 その言葉にジャワ達は大はしゃぎした。

 

「でも、その前に詳しく話を聞きたい。通訳を通して話したいから近くのテーブルで話そう」

 

 頷き、若者についていくジャワ。

 

 三人は近くのテーブルについた。

 

 若者はホログラム投影機をテーブルの上に乗せ、発信ボタンを押す。

 

『──オイルがないくらいで騒ぐな!』

 

 まず写ったのは椅子に座った一人の男性のホログラム。髭を短く整え、パイロットスーツに身を包んだ男性は若者達とは別の方向に向けて怒鳴っている。

 

『オイルがないくらいはないでしょう?!』

 

 次に聞こえてきたのは高い機械音声。姿は見えないが、男の視線的に椅子の後ろにいるのだろう。

 

「……クルーの二人だ。普段は仲が良いんだよ」目をパチクリさせるジャワ達に若者は気まずく微笑む。「ガルダさん?」

 

『もう三日もオイル風呂に浸かっていないんだ! クタクタでいつバラバラになっても可笑しくない!』

 

『そりゃ、願ったりだね! お前なんかライロスで共和国に捕まった時にバラバラにされてりゃ──』

 

 若者は咳払いをひとつして、ホログラムに向かって声をかけた。

 

「ガルダさん、ちょっといいかな」

 

『……あ?』

 

 男はようやくこちらに気づいたようで、視線を正面に戻す。

 

『オンになってたのか……ったく自動的に繋がるのやめてほしいよな』ガルダはぶつくさ言いながら耳にコムリンクを挿す。『ネイト、どうした? ハイパードライブは見つかったか?』

 

「いえ、それはまだ……実は僕たちの船に乗りたいという客と出会ってね。彼等と話をしてるところなんだ」

 

 ガルダはジャワ達に視線を向ける。

 

『……そのジャンク屋達が客だなんて言うんじゃないよな?』

 

「御名答」

 

『冗談じゃないぜ……そいつらは廃品を漁るハイエナだぜ? 船に入れたら荒らされて彼等の仲間にパーツを売られるのがオチだ』

 

 ジャワ達は抗議の声を挙げ、テーブルを叩く。

 

「詳しく話を聞くために通訳がいるんだ。トーカーを呼んでくれないか?」

 

『本気か? さっき電源をオフにしたところだぞ? もう一度やかましいのを起こせってか?』

 

「ええ」

 

 ガルダは舌打ちした。そして後ろに向かって叫ぶ。

 

『おい、ブリキ! トーカーを起こして連れてきてくれ!』

 

『やなこった! このバケツ頭のなりそこない! あーあ、彼女は立派なパイロットだってのに! アンタときたら!』

 

『あの野郎……』ガルダは口を噛み締めると、怒りを笑みで隠しながらネイト達を見る。『ちょっと待っててくれ、また掛け直す……』

 

「あーはい……」

 

『悪いな──スクラップにしてやる!』

 

 通信はそこで途絶えた。

 

「えーと」ネイトは苦笑すると、二人のジャワを交互に見た。「何か飲むかい?」

 

 

 

 ジャワ達がブルーミルクを飲み干した頃、再びホログラム投影機が起動した。

 

『おはよう御座います!! ボス!』

 

 ホログラムとして投影されたのはヒューマン型のドロイドだった。手を振る彼の姿とその機械音声から、彼の陽気さが伝わってくる。

 

『私に何か御用だとか?! おしゃべりの相手でしょうか!!』

 

「あー、違う。実はな──」

 

『わーたしも! 話したくてウズウズしておりました!!』狂気のドロイドは口に手を当てて、僅かに声を落とす『この船には話せる相手がいないもんですからね……!』

 

「だろうね」ネイトは咳払いする。「実はな、トーカー。呼んだのは通訳を頼みたいからなんだ。この二人のジャワ族の言語を訳せるかい?」

 

『おまかせください!! 私に掛かれば訛りのきついアウターリムのベーシックだろうと、ただの唸り声のような言語だろうと何でも翻訳してご覧にいれますよ! ジャワ族なんてお手の物! マン・マルー!!』

  

「マン・マルー!」

 

 トーカーの言葉に続いてジャワ達が叫んだ。

 翻訳は確かなようだ。

 

「よし、それじゃさっそく翻訳してもらおう。僕の言葉は理解できるようだから、君はジャワ達の言葉を通訳して僕に教えてくれ」

 

『おまかせを!』

 

「じゃ、まずは自己紹介からだ。僕の名前はネイト」ネイトはジャワ達を見て笑みを浮かべる。「銀河中を駆け巡る賞金稼ぎさ。君達の名前は?」

 

 長身のジャワが喋り出す。背が低いジャワは相方に手で示されると、ガッツポーズのような仕草をした。

 

『“僕はべウィット、こっちは妹のケリド”』

 

「兄妹だったのか」ネイトは意外そうに目を瞬かせ、それから少しだけ声を和らげた。「兄妹で銀河を旅しようなんて随分仲が良いんだな」

 

 べウィットが肩をすくめて何かを呟き、ケリドがクスクス笑う。

 

『“そんなんじゃねぇやい”』と、トーカーがべウィットの言葉を翻訳する。

 

「どこに行きたいんだ?」

 

 べウィットは一拍置き、慎重に言葉を選ぶように話した。その後にケリドが短く補足するように喋る。

 

『“目的地は分からない。ただこの星を出たいんだ。……僕たちは前から外の世界に興味があった。この星で人生を終えたくなかったんだ。だけど、誰も僕達を乗せたがらなくて、どうしようかと思ってたんだ”』

 

『“そしたらあなたが現れた。最初に見た時から分かってたの。あなたなら私達の夢を叶えてくれるって”』

 

「そうか。だけど、さっきも言った通り、出発までには時間がかかるぞ? ハイパードライブが調達できない限り出発できないからな」

 

『“構わないさ”』

 

『“だけど、こんな物騒な所で待ってるわけにもいかないわ。近頃じゃ同族が帝国の襲撃を受けて全滅したって言うし……あなたの船にお邪魔させて頂くって無理なお願いかしら?”』

 

「……別に構わないけど、君達は平気なのか? さっきの喧騒ぶりを見ただろう?」

 

 ネイトの問いに、ジャワ達は一瞬だけ顔を見合わせた。

 先に口を開いたのはケリドだった。

 

『“平気よ”』

 

「なら決まりだ」ネイトはジャワ達と握手を交わす。「宜しく」

 

 

 

 

 

 ドックの入り口は薄暗く、油と焦げた金属の匂いが鼻を刺した。

 天井の照明はところどころ明滅し、放置されたコンテナが入り口を半分隠している。

 

「僕の船はこの奥だ。先に行っててくれ」

 

 ネイトがそう言うと、べウィットとケリドは揃って頷き、フードを揺らしながら小走りにドックの中へ消えていった。

 

 小さな足音が遠ざかり、やがて機械音に紛れて聞こえなくなる。

 

「旅行業にでも転職したのか? ネイト」

 

 暗がりから、数人の男たちが姿を現した。

 どれも武装した賞金稼ぎだ。擦り切れた装甲、傷だらけのブーツ。視線は獲物を見るそれだった。

 

 そして、その先頭に立つ男。

 長身。黒と灰色の混じったコート。

 腰には改造ブラスター、背中には使い込まれたスナイパーライフル。

 鋭い目つきと、薄く歪んだ笑み。

 

「……レイザック」

 ネイトは静かに言った。

 

 レイザックと呼ばれた男は肩をすくめる。

 

「久しぶりだな、友よ。会うのは俺を帝国の監獄送りにした時以来だな。あの時は女が一緒だったが、振られちまったのか?」

 

 ネイトは何も答えなかった。

 

 レイザックはゆっくりと歩み寄り、靴底で床の油膜を踏みしめた。

 背後の男たちが、自然と左右に散開する。長年組んでいるのが分かる、無駄のない動きだった。

 

「お前の考えている事は分かる。“何故、終身刑になったはずのお前がこんなところに?”ハハッ、ネイト。そう思ってんだろう?」

 

 レイザックは肩を揺らして笑った。

 

「簡単な話さ。役人ってのはクレジットを出せばコロッと靡く。彼等の尽力のお陰で俺様は自由の身って訳だ。なに、安心しろ。今日はお前に復讐しに来た訳じゃねぇ。忠告しに来たんだ」

 

 レイザックは笑みを消し、声の調子を一段落とした。

 

「新しい雇い主からの伝言だ――ネイト、お前は目障りだそうだ」

 

 ネイトの視線が、微かに細くなる。

 

「犯罪者だけを狙い、賞金首を当局に引き渡す。汚れ仕事は引き受けず、それを邪魔してきた。正義の執行者気取りのネイトさんよ。お前さんみたいなのがこの星にいたんじゃ、ボスの気も休まらねぇってもんだ。そうだろ?」

 

 ネイトは静かに息を吐いた。

 

「それで?」

 

「“消えろ”だ」レイザックはあっさりと言った。「この宙域からも、外縁部からも、直ぐに出ていきやがれ」

 

「従わなかったら?」

 

「その場合は……手荒い歓迎がお前を待ってる。その時には死体すら残さねぇ。あの女とまだ一緒なら、そいつは奴隷にしてやる」レイザックは真っ直ぐネイトを見る。「ホントは直ぐに消しても良かったんだが、昔のよしみ……いや、俺を一度は狩った好敵手への敬意かな。一度だけチャンスをやるって訳だ」

 

「……敬意、ね」

 

 ネイトは小さく笑ったが、その声に温度はなかった。

 

「君の口からその言葉を聞くとは思わなかったよ、レイザック」

 

 レイザックは微笑し、ネイトに背中を向ける。

 

「3日だ。3日後に姿を見たらその時は撃ち殺してやる」

 

 レイザックたちは、言うべきことだけを言い残すと、油と影の中へ溶けるように去っていった。

 

 

 

 

 

 船は古びていたが、手入れは行き届いていた。

 

 YT-1300、ガタは来ているが、外縁部を渡り歩くには十分すぎる一隻だ。

 

 ネイトが船に乗り込むと、金属床の上でべウィットとケリドが跳ねていた。

「ウート! ウート!」

 

 べウィットとケリドが、船内を興奮した様子で見回している。

 

「勝手に触らないで。壊れ物ばっかりだから」

 

 ネイトがそう言うと、二人は慌てて手を引っ込め、揃って頷いた。

 

「壊したらクレジットをふんだくってやる」

 

 ガルダがそう言って現れた。

 灰色のパイロットスーツに身を包んだブロンドの男はネイトを見ると笑みを浮かべた。

 

「随分と時間がかかったな。何かあったのか?」

 

「……ちょっと、昔の知り合いに会ってね」

 

 ネイトはそうだけ答え、視線を逸らした。

 ガルダは一瞬だけ訝しげな顔をしたが、それ以上は踏み込まなかった。

 

「で、この小さいのが噂の乗客か?」

 

「正確にはしばらくは“入居者”ですね!!」トーカーが横から割り込む。「ハイパードライブが修理されるまでの間、ここに住むわけですから!──私としては大歓迎であります!! 話し相手が増えるのは精神衛生上、極めて重要ですからね!!」

 

「お前の精神衛生はどうでもいい」

 

 ガルダはそう吐き捨てると、べウィットとケリドを見下ろした。

 ジャワ達は同時に背筋を伸ばし、フードの奥から黄色い目を瞬かせる。

 

「いいかチビ。言っとくが、この船ではルールがある。勝手に触るな、勝手に持ち出すな、勝手に改造するな。分かったな?」

 

 ケリドとべウィットは頷いた。

 

「よし」

 

「ところでガルダさん。クリーナーはどこに?」と、ネイト。

 

「ここにいますよ」

 

 くたびれた機械音。b1バトルドロイドが乗客区画から姿を現した。彼の胸部には処理済みという文字が青く刻まれている。

 

「誰かさんにスタンを食らわされて延びてたんです」

 

「へへ」ガルダはニヤリと笑った。「スクラップにしなかっただけ感謝しな」

 

「もう! まったく!」

 

 

 べウィットとケリドは、壁際に並んでちょこんと座っていた。ルールを守ろうとしているのか、手は膝の上で揃えられている。フードの奥の黄色い目が興味深そうにクルー達を見つめていた。

 

「『本当にこの人達で良かったの? ……何だか嫌な予感がしてきたわ』」

 

「『……大丈夫さ』」

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