STARWARS 銀河を駆ける者達 作:バケツ頭 小説もどき家
ネイトたちの船YT-1300貨物船の船内はガヤガヤしていた。
フュージョンカッター片手に作業するガルダとそれを邪魔するかのように話し続けるトーカー。べウィットとケリドはコンテナの上に腰掛け、二人の会話を聞いている。
「最後に機械の修理をしたのはいつです?」
「何か文句でもあるのか?」
「いえ、文句なんて滅相もない。最高の腕前です」トーカーはべウィットとケリドを見た。「これが分解ならね」
キョトンとするべウィットとケリド。ガルダはフュージョンカッターを止め、ゆっくりと振り返った。
「口を閉じてろよ、ブリキ野郎。分解されたくなければな」
「おお、こわい! あなた様の言動はまさしく海賊のようです」
「そりゃどうも」ガルダは作業に戻る。
「まったく。奥様はあんなにもお優しい方なのに……」
青白い光。ガルダは黙ってトーカーにフュージョンカッターを向けた。
「分かりました。黙ります」トーカーは首を横に振ってみせた。「やれやれ、同じ星の生まれ、帝国アカデミー出身者なのにこうも違うとは」
そのとき、船内と操縦室を隔てる扉が開いた。
入ってきたのはネイトだった。
「これから町に出ますが、何か必要なものあります?」
「出歩いて大丈夫か? レイザックに目をつけられてるんだろう?」
「そうはいってもハイパードライブの調達をしないと」と、ネイトは肩をすくめる。「ガルダさんが奇跡を起こせれば別ですけど」
「あー、私の計算ではその確率は限りなく低いと思われます」
「黙れ」ガルダはトーカーを一瞥すると、再び機械に向き直った。「オレが見たところ問題は数カ所くらいだ。あと少し修理すれば奇跡を起こせる。問題は、その奇跡を起こすのに部品が足らないっていうことなんだが」
「その部品さえ揃えれば修理できます?」
「ああ、多分な。安全は保証できんが超空間に飛ぶことはできる……重力の渦でバラバラにならなきゃなの話だが」
「レイザックの一味にズタズタにされなきゃ、それに賭けるしかないですね。必要な部品は何です?」
ガルダはデータパットをネイトに差し出した。
「ここに必要な部品をまとめてある。どれも安くはないだろうが、ハイパードライブよりは手に入り易いはずだ」
「分かりました。揃えてきます」
「あのー、できたらオイルを買ってきて頂けるとありがたいです。パーツがもうガタガ──」
「こいつの話は無視しろ」ガルダがトーカーを遮った。「食べるもんが欲しいな。流石に今のメニューにも飽きてきた」
「買ってきます。この星にまともな食糧があればですけど」
「頼んだ」
「オイルもお願いしますよー!」
ネイトは返事の代わりに手を振り、その場を立ち去った。
◇
看板の照明は半分が切れ、店先の壁にはブラスターの弾痕がいくつも残っている。店内は薄暗く、酒とスパイスの匂いが混じり合っていた。客の大半は地元の荒くれ者や運び屋で、カウンターの奥では給仕ドロイドが無愛想にグラスを磨いている。
レイザックは壁際の席に腰を下ろし、ホログラムを眺めていた。
「ネイト……」
通りを歩くネイト。無機質なアーマーとヘルメット姿の彼に、レイザックは過去の苦い記憶を思い出していた。
ブラスターが顔のそばを横切り、レイザックは反射的に身を屈めた。頭上を赤い光弾が通り過ぎ、背後の金属製コンテナに命中する。火花が散り、焼け焦げた金属片が床に降り注いだ。
「そこで止まれ!」
背後から聞こえた声にレイザックは舌打ちし、立ち止まる。
「ゆっくり武器を捨てて両手を上げろ」
力なくピストルを捨てる。そして言われた通り、両手をゆっくりと持ち上げた。
「こっちを向け」
レイザックはゆっくりと振り返った。
彼の目の前に立っていたのは、黒い装甲服とヘルメットに身を包んだ男と女。男の方はマンダロリアンのアーマーを模した装備に、女の方は帝国軍の偵察隊員が着用している軽アーマーに酷似した装甲服を着込んでいる。どちらもヘルメットのせいで素顔がわからない。ブラスターピストルにライフル、二人が構えるブラスターはレイザックの胸元を正確に捉えていた。
「間違いない。レイザック・ザビラフよ」ライフルを構えながら女が言った。「やっとこのロクデナシを捕まえられる」
彼女の声は呟きよりも小さかったが、レイザックの耳に装着された集音器はその言葉をはっきりと拾っていた。
「ロクデナシってのは失礼じゃないか? お嬢さん。俺もお前さん達もブラスターが商売道具。やってることに大した違いはないと思うがね」
「あなたは殺人や欲望のためにブラスターを握る犯罪者、私達は違う。一緒にしないで」
女は冷たく言い放った。ライフルの銃口は微動だにせず、レイザックの胸元を捉えている。
隣の男が一歩前に出た。
「おしゃべりは終わりだ。膝をつけ」
レイザックは両手を上げたまま、ゆっくりと膝を折った。腰のホルスターに収まったブラスター。高鳴る心臓。額を流れる汗。彼の指先は微かに震えていた。
恐怖からではない。彼は大人しく捕まるつもりはサラサラなかった。
「そうだ。そのまま動くな」
男はブラスターをホルスターに納め、近づいてくる。
「ファマ、トーカーに迎えを頼んでくれ」
「分かったわ」
完全に警戒を解いて近づく男。ライフルの構えを解き、ヘルメットに手を当てて通信している女。完全に油断している。不用心にもこのレイザックの前で。
お前達の命運もこれまでだ。
一瞬で片がつく。
右手が腰のホルスターへ伸びる。
──終わりだ!
レイザックはブラスターを抜き放った。
だが、引き金を引くよりも早く、男の右手が動いていた。
赤い光が一閃する。
「――がっ!」
レイザックの手からブラスターが弾き飛ばされたかと思ったら、脇腹に焼けつくような痛みと衝撃が駆け抜けた。
「ぐ……ああっ!」
レイザックは地面へ崩れ落ちる。背中が硬い床に叩きつけられ、肺から空気が押し出された。
脂汗が額から滝のように流れ落ちる。呼吸をしようとするたび、脇腹に激痛が走った。
「くそ……なん、で……」
声が震える。視界がぼやけ、目の前に立つ二人の姿が揺れていた。
「バカね。ネイトに早撃ちを挑むなんて」
バイザーを上げる女とヘルメットを脱ぐ男。レイザックを見下ろす緑色と青い瞳。レイザックは屈辱と痛みに顔を歪めながら、二人の素顔を目に焼き付けた。
「監視を続けろ。何かあれば報告を」
了解を告げるピープ音。ホログラムが消える。
「ネイト……ファマ……」
レイザックはスパイスを嗅いだ。高揚感が僅かに気分を高めるが、すぐにそれは消え、屈辱感と苛立たしさが戻ってくる。この気持ちを消すものは何もない。
何も。
◇
ネイトが中古部品店から出てきたとき、空はすでに薄暗くなり始めていた。
店の扉が閉まると、背後で古びた機械仕掛けの錠がかかる音がした。彼は片手に抱えた金属製のケースを確かめる。少々値は張ったが、ハイパードライブの修理に必要な部品は手に入った。後はこれを持っていけば修理必要なドライブ制御ユニットだった。ガルダが無事にドライブを直せるとは限らないし、部品のせいで不具合が出ないとも分からない。修理が終わったところで安心できるとは限らなかった。
どちらにしてももうハイパードライブを新調するようなクレジットは残ってない。
ネイトは食糧を買う為に市場に入った。簡易テントを張った露店が通りの両側に並び、商人たちは大声で商品を売り込んでいる。食料品の店には保存食や乾燥肉、加工された穀物製品が積まれていた。
「おい、あんた。味見していくかい?」
虫の湧いた肉。ネイトが遠慮する前に店主は肉を切り落とし、火で炙った。
脂が焼ける音とともに、鼻を刺すような臭いが立ち上る。肉の表面は黒く焦げ、断面からは濁った脂が滲み出ていた。店主は串に刺したそれを、まるで高級料理でも勧めるかのようにネイトへ差し出した。
「美味いだろ?」
味は悪くない。調理前の姿を思い出さなければ。
ネイトは渋々首を縦に振る。
「だろ? 支払いはノヴァにする? ウーピー?」
「あー、いや」ネイトは断ろうとしたが、店主の表情を見て諦めた。「……帝国クレジットは使える?」
「使えるよ」店主は肩をすくめる。「本当は他の通貨がいいけどね。一塊20クレジットだよ。調理すらなら32クレジット」
明らかに高い出費だ。この星では、帝国クレジットよりも地域通貨や物々交換のほうが重宝される。アウターリムでは珍しいことではなかったが、手持ちの通貨が限られている身としては厄介だった。
ネイトは自分の押しの弱さを呪った。それでも、買ってしまったものは仕方がない。帝国クレジットで支払いを済ませ、調理された肉を袋にまとめると、市場の奥へと進んだ。
グレードの低いオイルを購入した時にはネイトの所持金はほぼ0になっていた。船にはまだ蓄えがあるが、この調子では近い内に破産する。
ネイトは荷物を抱え、貨物船に戻った。
そんな彼の姿をポットドロイドの視覚センサーははっきりと捉えていた。