やはりボクが八幡をおちょくるのはまちがっていない 作:モンゴル産シーラカンス
人生とは酸いも甘いも噛み分けなくてはならない。
「──青春とは嘘であり、悪である」
だからこそ、失敗した経験が無い人間は存在しない。
成功と失敗は程度の差こそあれ、どの人間でも体験するものなのだから。
「例を挙げよう。彼らは万引きや集団暴走という犯罪行為に手を染めては、それを『若気の至り』と呼ぶ」
だからこそ、失敗を見なかったことにする。
「彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗でさえも、青春のスパイスでしかないのだ」
虚偽と欺瞞で失敗を塗り潰し、直視することから目を背ける。
「仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春のど真ん中でなければおかしいではないか。しかし、彼らはそれを認めないだろう」
だが、俺はそんな奴らとは違う。
俺は失敗を見なかったことにはしない。
目の前で地獄の発表会をされたとしても。
「結論を言おう──リア充爆発しろ」
「ねえ、なんで俺が提出した作文を音読してんの?嫌がらせ?嫌がらせだよね?」
俺が書いた作文を目の前で音読されるこの事実を、なかったことにするつもりはない。
というか、『絶対に許さないリスト』の項目に加えてやる。
いつ反撃できるのか全く分からないけどな。
世話になっている回数が余りにも多すぎる。
「これが『高校生活を振り返って』というテーマの作文だとはね。ふふっ、これじゃあ本当に犯行声明そのものだ」
足を組み変えながら髪を掻き上げてそう評価をする。
相変わらず無駄に格好良いという印象を与えてくる奴だ。
「(これで女子制服だからチグハグな印象があるんだよな……いや、これもギャップなのか?まあ、その印象に反して肉感的なスタイルしてるから性癖が狂いそうになるんだよな)」
女顔ではなく中性的な顔だからこそ、キザな言動が様になる奴だ。
なるほど、これがイケメン女子ってヤツか。
宝塚に居ても違和感なさそうだな……出るとこが出て、引っ込むところは引っ込むスタイルため男装は向いてなさそうだけど。
「ああ、分かってると思うけど今日は泊まらせて貰うよ。元々そのつもりだったしコマっちゃんの勉強もなかなかに進んでるから」
「……小町の側に居なくていいのかよ」
「逆にボクがハチの部屋に行った方が集中力が増すんだよあの子」
「えぇ……なんなのアイツ。生態が意味不明すぎない?」
小町のやる気スイッチの場所が全く分からん。
「それはそれとして……小町はどんな感じだ?大丈夫そうか?」
「問題はないよ。生徒会長らしいし、1年前からボクが勉強を教えているんだ。推薦は取れると思うよ」
コイツは総武高で学年3位を取っている秀才である。
現国では俺が勝っているがそれ以外ではまるで相手にならない。
それに英語ではあの雪ノ下にも勝っているらしく、『総武高のトップ3』だとかなんとか戸部が言っていた。
そのフレーズが学校中に広まっているだろう事実よりも、アイツ自身がそれを勝手に言ってるだけの可能性があるため信用できないため、ソースとしては怪しいがな。
まあ、三浦に睨まれてまで言う必要は無いため、本当に噂となって言われている可能性もあるが。
そんな奴に家庭教師をして貰えるからか、小町の成績も着実に上がってきているらしい。
「……それと本当にいいのか?無償で家庭教師なんて。成績だってしっかりと上がってるんだ。ウチの親も給料出すって言ってるぞ」
「いいよ、ボクが勝手にやってる事だから。それに仕事にしちゃうと義務が生じてボクもコマっちゃんも息苦しくなるだけだよ。それこそ、たまに泊まりに行ったり来たりする今の関係性が一番さ」
本人がそうしたいと言うならそうするべきだが、あの小町の成績を40~50位ほど上げた立役者だ。
両親が無下にしたくないたいう考えになることも当然だった。
それと小町も優希が一緒だとどうにもやる気が上がるらしく、見た目によらず飴と鞭の使い方が上手いようである。
「(つーか、足が太すぎない程度にムッチリしているせいで、視線を向けられないんですけど?)」
無防備すぎるだろ……年頃の青少年には色々と刺激が強いんだが?
太腿という男にある部位にも拘わらず、こうまでエロを感じてしまうのは何故だろうか。
このままでは新しい扉が数珠繋ぎで次々に開いてしまうため、必死に顔を背けて目の前の新しい作文に取り掛かる。
煩悩退散!煩悩退散!ドーマンセーマン!
「(胸も尻も大きくて太腿もムッチリとか、男の情緒を破壊しに掛かってるだろ……八幡の八幡が反応したらどうするつもりだ)」
そもそも今日ウチに泊まるとはいえ、この時間帯に男の部屋に来ることは勿論、ベッドの上に座るとか警戒心とか存在しないの?
いや、まあ、
「そもそも、どうして
微笑みを浮かべて俺のベッド上に座る、幼馴染みのイケメン女子。
そう書くと隣の家に住む世話焼きの幼馴染みが、お互いの窓を越えてやって来たかのようなシチュエーションを想像してしまうが、別にコイツとはお隣さんでもないし世話焼きというタイプでもない。
スクールカースト上位勢から一目置かれた、王子様系高身長ダイナマイトボディーという属性山盛り女子だ。
幼馴染み系女子の系譜をガン無視すぎて、意外性という面で見ればこれ以上ないほどの個性である。
これが漫画やアニメなら個性が強すぎて、幼馴染み枠に入れるには味が濃すぎる。
「ハチの代わりに貰うって言ったらくれたよ」
「いや、ダメだろ。何してくれちゃってんの?あの人」
それは教師としていいの?普通にアウトじゃね……?
「ボクが『次はふざけた真似をさせないように監督しておくので、二束三文にもならないその廃棄物をください』と言ったら、引き攣った素敵な笑顔で喜んでくれたよ」
「おい、俺の信条を書いた作文を廃棄物呼ばわりはやめろ。傷付いちゃうだろうが……つーか、あの平塚先生を無茶苦茶な言い分で言い負かすとかお前なんなの?魔王様か何かなの?」
「ボクに魔王は似合わないんじゃないかな?どちらかというと騎士とかになりたいね」
自分で騎士とか言ったぞコイツ……そして、かなり似合いそうなところが憎らしい。
まあ、それはそうと爆乳の女騎士とか負けそうだけどな。
特に意味はないけど、なんかくっ殺とかなりそう。
「まあ、クラスでハチがボク以外の生徒と話さないから、ボクの言葉に一定以上の説得力があったってことじゃないかな。高校までボク以外の友達なんて1人も居なかったわけだから妥当だけどね」
「おい、言葉というのは刃物なんだ気を付けろ。そうじゃないと死ぬぞ、俺が」
「微塵切りとか?」
「殺意が高すぎるだろ。原型が全く残ってねぇじゃねぇか」
「なら、三枚下ろしが好みだったかな?まあ、魚が死んだ目をしているハチには合っているとは思うよ」
「だから、さらっと俺の容姿をディスるんじゃねぇよ。いいだろ、DHA豊富そうで」
事実は人を傷付ける。
しかも、言葉は防具じゃ防げないから常にダイレクトアタックだ。
なんだよそれチートじゃね?
運営は今すぐに禁止カードにするべきじゃないですかね……これが許される現実とかクソゲーだろ。
「『ハチの世話をするのは先生じゃなくて
なんか平塚先生の態度おかしくない?
三浦の言葉でも一切動じない平塚先生を圧倒するとか、何がどうしたらそんなことになるんだよ……。
「ちなみに、このレポートはボクの私物となります」
「なんで得意気な顔してんの?おかしくない?どう考えてもお前のところには行かないよね?」
黒歴史になりかねないものを手元に置かれるのはちょっとヤバい感じがする。
いや、別に?黒歴史にはならないだろうけどね?
俺の主義主張に穴は微塵も無い完璧のものだけど、物価と同じくいろんなものは後に価値が上がったり下がったりするものだから……。
「コマちゃんに聞いたけど全然良いってさ」
「なんで決定権が小町にあんの?所有権は俺にはないのかよ」
当時は全然そんなことを思ってなかったけど、数年後になって小町に握られた俺の弱みは数知れず。
まあ、それのせいで迷惑を掛けた回数も多いから強く出れないんですけどね?
……いや、小町と優希に世話と迷惑掛けすぎじゃね?
特に優希には小町の家庭教師もして貰っているため、比企谷家は全員が優希に頭が上がらなかったりする。
年頃の息子が居る自分の家に、同年代どころかクラスメイトの女子を泊めることが許可されているのも、信用の高さ故だった。
それどころか『ウチの馬鹿息子に手を出されたら私が代わりにシバいてあげるからね』とか、『アイツが無理やりして来たら、家から蹴り出して優希ちゃんを俺達家族の娘にするから安心してくれ』と言った、なんかもう色々と頭が痛くなるようなやり取りをしている始末だ。
「そういえば、なんていう部活に入ったんだっけ?」
「あん?ああ……奉仕部だ。ボランティア部みたいなもんらしいぞ」
聞き馴染みが無いだろうな。俺もないし。
ていうか、胸も腰も尻も足も性的に見えるってなんなの?
俺はどこを見ればいいの?
あっと、色即是空空即是色。
ふぅー、いけないいけない。
煩悩に呑まれるところだった。
そうだよ、作風を書いてればいいんだったな。
いつの間にか振り返って見ていたとか、これはもしや妖怪のせいなのでは?
「(それはそうと、色即是空って色欲是正に見えるよな。色欲を是正するって何をどうするんだろう。やっぱりアレかな、異常性癖をノーマルな性癖に是正するのだろうか。え?何それ超気になるんですけど、見たい!見たい!……ハッ!煩悩に呑み込まれていた!)」
煩悩にいつの間にかドップリ浸かっていた。
男子高校生の煩悩は108では足りないのかもしれない。
「ふーん……友達としてクラスで振る舞っても平塚先生に目を付けられる規定路線は変わらずか……」
「優希……?なんか言ったか?」
「いいや、なんでもないよ」
小さな声で何かを言った優希だが、小さすぎて聞こえなかった。
だが、無理に問い
独り言を無理やり聞き出すなんて流石にどうかしてるし、そこまで気になっているわけでもない。
それこそ、罵倒や皮肉は笑顔で直接言われなれてるのだから、俺に対してわざわざ隠す必要もないしな……いや、改めて考えると酷いなこれ。
「誰か同じ部活に所属している人は居るのかな?」
「雪ノ下だ。お前も知ってるだろ、雪ノ下雪乃。総武高の有名人だよ」
「
ぐぬっ……ま、まあ、部室で1人本を読んでいた姿は絵になっていたが、性格が終わっている奴だったからすぐに冷めたぞ。
「外見はともかく内面は酷いもんだぞアレ。面と向かって俺のことを罵倒してくるわ。自意識過剰のナルシストだったりで……いや、こう言うと、お前と大した違いはないのか?」
おっかしいなぁ……初対面で印象最悪だった奴と幼馴染みの対応に、大した違いがないとかマジ?
「奉仕部から距離を取ると今までのポジションを確保し続けることはできるけど、奉仕部の関係性からボクだけが省かれることになる。比企谷八幡にとって奉仕部は人生の中で唯一無二関係性……なら、ボクも奉仕部員になった方がこの先も…………」
カリカリカリカリとシャーペンを動かす。
いい加減しないと優希からのダル絡みか、いつの間にかベッドで寝落ちされる。
そんなことされたら、当分使えなくなっちゃうでしょうが。
思春期男子の想像力を舐めるなよ。
「よし、決めた!ボクも奉仕部に入ろう」
「は…………?」
その言葉に思わず振り返る。
「いや、あそこは隔離施設みたいなもんだぞ?俺なんか生活指導の平塚先生に罰として連れてかれただけだしよ」
「でも、部活としてある以上は入部しようとすれば誰でも入れるんだろう?なら、特に問題は無いんじゃないかな?」
「……まあ、そりゃそうだろうがな」
あんな変な女の前に、えーと、その……何?……と、友達を突き出すとかよくないんじゃないかって思うんだよ。
アイツ初対面でボロクソに言ってくる頭のおかしい奴だしな……例え、相手が女子でも容赦はしない奴だろうし。
俺のそんな煮え切らない態度を見てか、優希の方から声を掛けてきた。
「それとも、──雪ノ下さんと2人の方がいいのかな?」
「っ!?」
その声音に思わず、身体ごと振り返る。
ドロドロとした何かを感じた気がしたのだ。
しかし、その顔を見ればいつも通りの澄ました微笑みを浮かべていた。
「うん?なんだい?」
「……いや、なんでもねぇよ。別に雪ノ下と同じ部室に居てもお互い読書してるだけだ。特に関り合いになることなんてねぇよ」
「それは残念だね」
……勘違い、か?
いや、それこそ声音を変えた何かのお遊びの可能性もある。
そうだとすれば、ここで変に反応するのもそれはそれで悔しい。
できる限り普段通りに話した。
「(……だが、もしそうでないとするなら?──いや、どうでもいいか)」
そんな疑念が浮かびそうになるが無意味な話だと断じる。
コイツはそう言った話をしたがらないし、絶対に言わないだろう。
それにあの雪ノ下のことだ。
既に何かやらかしていてもおかしくない。
あの面倒な性格ならば優希が相手でも喧嘩を売り、その結果として険悪な関係になっていたとしても簡単に想像がつく。
「(そんな女子のいざこざに巻き込まれるような面倒事に首を突っ込むほど、俺は野次馬根性は旺盛じゃない。何も無いことを祈るばかりだ)」
俺は握っていたシャーペンを机に置き、頭を掻きながら口を開く。
はあ……、頼むからどうか怪獣大戦争は俺がいないところでやってくれませんかね?
「分かった。今度、平塚先生と雪ノ下に聞いてみる」
「うん、頼むね。ハチ」