やはりボクが八幡をおちょくるのはまちがっていない 作:モンゴル産シーラカンス
2.必然的な出会い
太陽が落ち始めた夕方。
カーッカーッと鳴く、鴉の鳴き声が響く時間帯になり、通勤から帰ってくる車が視界の隅を走っていく。
また明日になると学校があるというのは憂鬱だ。
小学校の帰り道に立ち寄った公園のブランコに座り、澄み渡る茜色の空を見ながら呟いた。
「TS転生って思ったより大変すぎる……」
ギコギコと漕ぎながら死んだ目で呟く。
どうやら、僕は欲望を優先し過ぎて想像力が足りなすぎたらしい。
もしかしたら、チート転生の方が楽だったかもしれないとすら思い始めている。
「……女子のコミュニティって思ってた100倍面倒臭いんだね」
完璧な容姿で生まれた2度目の人生は割かし楽勝だと思っていた。
超能力染みたチートを持っていなくても、完璧なビジュアルと人生2週目の経験を持つ人間なら、無双できるんじゃないかってね。
端的に言おう──見通しが甘過ぎた。
女として生きた経験が無いから見事にやらかすわ、やらかすわ。
男子との距離感ミスったり、女子の会話に付いていけなかったりして普通に孤立した。
思ってた10倍子供は考え無しで、無邪気に悪意を振り撒くモンスターだ。
まあ、どれだけ名前を聞いてもモブとしか思えない普通の名前に容姿とくれば、こっちも有象無象としか認識できないんだけど。
「美少女だから嫉妬からの嫌がらせは当たり前で、男子からの下らない弄りや好意を向けられる煩わしい毎日……無いわー」
陰湿し過ぎて拳で殴りたくなる。
もうそろそろいいかな?いいよね?
衝撃のファーストブリッドを捩じ込んでやろうかな?
「有象無象の男子とか心底どうでもいい。どんな作品かは知らないけど原作キャラでもないモブの相手とかしてられないって」
もしかしたら、その態度が透けていたのかもしれない。
どちらにしろ、ボッチ街道まっしぐらだ。
「はあ……どこに居るのかなぁ、主人公君」
転生をしたのは2026年から約20~30年ほど前の、2000年代辺りの日本。
僕の願い通りのため何も間違ってはいない。
だが、不安もある。
僕としてはずっとラノベ系の男主人公をイメージしていたけど、学園ラブコメはラノベだけじゃない──少女漫画ということはないだろうか?
もしそうなら、クソ面倒くせぇのである。
現時点でこれだけ女子コミュニティのいざこざでストレスが溜まるというのに、中学や高校でこれの5割増しくらいの濃度で襲い掛かってくる、痴情の縺れなんてやってられない。
下手をすると刺されそうな気がする。
その嫌な推測を肯定するかのように、この世界に居る人間がやたらと陰湿な行為を行うことが、その説に対して生々しい説得力を持たせていた。
偏見だけど少女漫画の男キャラって個性無くない?
真面目系イケメンか俺様系イケメンか女慣れをしてるイケメンのほとんど3択じゃん。
そこら辺はもうテンプレキャラだから、おちょくる前からどんな反応するのか読めるんだよなぁ……。
「女慣れしてないけど簡単に靡かない……そんな童貞主人公が最高なんだけど……まあ、流石にそこまでは汲み取ってはくれないよね」
そこまで言わなかったことを後悔する。
男キャラ次第ではとてもつまらない展開になりかねないからだ。
「これで一番面倒臭いのは『女に飽きてますイケメンキャラ』ね。『おもしれー女』じゃないと落とせない奴は攻略怠いし、おちょくっても意味なさそうだから地獄だなぁ。そうなったら、周辺に居る主人公じゃないお固いキャラを誘惑していくしかないかぁ」
【会長はメイド様】の碓氷とかね。
アイツ相手に下手なキャラ付けだと一気に興味失くしそうだし、そもそも反応とか絶対に面白くない。
「何より……早い娘はかなり早く第二次性徴が来ることを考えると、少年ムーブもそろそろ賞味期限が間近なんだよね」
これが貧乳キャラならば中学までは大丈夫だろうけど、僕が願ったのは同人誌並みのドスケベボディー。
そろそろ女として身体が成長しだす年頃だ。
美少年ムーブをかますのもそろそろ難しくなってきた頃合いだろう。
「変な名前の奴も変な髪型、変な髪色の奴も居なかったし、放課後は適当に周辺を自転車で乗り回して探して続けているのに見付からない……どこに居るんだよぉ」
実はかなり心にきていた。
調子乗っていたのに転生してから全然物事が上手く進まなくて、願望の主人公をおちょくるムーブもできていない。
やりたいことが全くできていないというのは、とんでもないストレスだ。
自転車の籠に入れてきたサッカーボールで遊ぶのも飽きてきた。
「あーあ、もう泣きたくなってきた……」
「ぐすっ……ひぐっ……」
「そうそう、そんな感じでボクも…………んん?」
少し向こうにあるドーム型の遊具から泣き声が響く。
「妖怪……なんてことないよね?いや、でも数ある学園ラブコメものなら妖怪要素があってもおかしくないか……」
【地獄先生ぬ~べ~】や【見える子ちゃん】タイプということもある。
そう言った学園ラブコメに +α 要素を一摘まみという可能性もなくはないのだ。
……しかし、どうやらそうではないようだった。
「おや、先客が居たみたいだね」
「わひぁっ!?」
そこに居たのは泣いている小さな女の子。
どこか猫味のある美少女だ。
だが、ただの美少女ではない。
そう、アホ毛だ。
もうこの時点で確信した。
この子は原作キャラだと。
「(この世界でようやくアホ毛があるキャラに出会えた!髪色は普通で大した個性はないけど、アホ毛すらないつまらない髪型の奴しか居なかったから新鮮に感じるなぁ。まあ、それに可愛いから原作キャラと見ていい筈)」
おそらくは主人公の幼馴染み系ヒロインか何かなのだろう。
髪色は普通だがあの見事なアホ毛で一般人はありえない。
……まあ、赤とか青とかじゃないからサブキャラの可能性も高いけど。
「へぇ……ご両親の帰りが遅かったり家に帰ってこない日があるか。それは寂しいよね」
「う"ん……ぐずっ」
両親は共働きで家で一緒に居る時間が極端に少ないらしい。
実質、
……つかぬことをお聞きするけど、君ってもしかして義理の妹か何かだったりする?
実は、そのお兄さんとフラグが立っていて、この先の展開だと義妹系ヒロインになっちゃったりしない?
「(……いや、この程度の過去話だと普通にサブヒロインパターンもあり得る……うーん、どっちだこれ?)」
原作関係者であることは間違いないが、その立ち位置が分からないロリっ娘。
そして僕の人生設計を壊してしまうお邪魔虫なのかどうか、実に怪しい。
「(もしここで、僕が下手に介入することでこの世界の原作が始まる前に結ばれちゃったりすると、付け入る隙が完全に消滅する可能性があるんだよね……うーん、浮気とか寝取りをする趣味は無いんだよなぁ)」
それじゃあ、おちょくってくる女から人の彼氏を誘惑してくる屑女にジョブチェンジだ。
それはなんか違う。
俺は手玉に取りたいのであって、誑かしたいわけじゃないッッ!!
「うーん、【俺妹】みたいな仲が悪い兄妹だけど実は……みたいなヤツなら、このまま解消しない方が都合が良いのかな……」
「ぐす……なにか言った……?」
「ううん、何でもないよ」
とはいえ、苦節8年でようやく見付けた手掛かりだ。
逃す手はない。
今、手に入れた情報は『原作キャラだろうアホ毛』と、『家出少女』、『妹キャラ(義妹の可能性あり)』。
その理由も聞いたし、そろそろ名前を聞いてもいいだろう。
「ああ、そうだ。名前を聞いてなかったよ。僕の名前は
果たしてこの娘は敵なのか味方なのか。
推定80%敵・19%中立・1%味方となるだろう女の子に向かって、この内心をバレないようにしながら優しく尋ねる。
そしてたった今、始めて自分が本当に女の子をしていると自覚した。
これが肉体だけではなく精神も女の子になるということなのかもしれない。
てっきり、『う、嘘だ……女の子じゃない同じ男が相手なのにこんな感情が沸き上がるなんて……』みたいな感じを想像してたのに、思っていたよりもトキメキとか一切関係なかった。
明らかに独占欲というか支配欲だった。
そう考えると、少しだけ学校の女の子と仲良くなれる気が…………いや、やっぱり徹底抗戦しかないか。
敵の足は可能な限り全力で引っ張って、一度だって優位な状況にはしちゃいけないんだから。
座れる椅子は1つだけ。
なら、周囲の人間は全て潰して潰して潰さないとだねっ♡
「(もし主人公君が本当にこの娘の兄だとするなら、できる限り二人の兄妹仲に大きな
安易な陰口だとか悪口だと、僕に吹き込まれたことが時間と共に簡単にバレちゃうから、2人が自発的にそれを見付けて険悪な関係に持ち込むようにしないと「こ、まち"……こまちです」……んえ?
「ひきがや、こまち……です」