やはりボクが八幡をおちょくるのはまちがっていない   作:モンゴル産シーラカンス

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3.ミ ツ ケ タ

 その名前を聞いた途端に全てが繋がった。

 

 『陰湿なイジメが起こる生々しい世界観』

 『生まれた年代が2000年よりも前であり1990年よりも後ということは、原作主人公が高校生だと仮定して考えると、おそらく1巻の初版は2010年頃』

 『小さい頃に妹が家出したことがある兄』

 『アホ毛妹キャラ』

 

「そして、名前が──比企谷(ひきがや)小町(こまち)

 

 なら、もう該当するキャラは1人しか存在しない。

 遠くの方から小町の名前を呼びながらやって来る男の子の声がする。

 目の前の女の子、比企谷小町が顔を上げた。

 

「おにぃちゃん!」

 

 家出を自分からしたのにも拘わらず聞き馴染みのある兄の声がすると、ドーム型の遊具の中から飛び出して行く。

 

『色々言いたいことはあるけど……帰ろうぜ。兄ちゃんが料理作ってやるから』

『うん……ごめんなさい。ありがと……』

 

 子供なんてまぁそんなものだろう。

 それに助かった。

 もし今の顔を見られてしまえば不信感を抱いてしまうだろうから。

 

「女慣れしてないけど簡単に靡かない……そんな童貞主人公……くひひっ、きひひひひひっ」

 

 今までのストレスばかり感じていた毎日が報われたようだった。

 【やはり俺の青春ラブコメは間違っている】通称【俺ガイル】。

 前世で大好きだった作品の1つだ。

 そしてTS転生をして相手をする主人公として、これ以上面白い相手はそうはいない。

 センスが最高過ぎる。

 

 

「神よ……感謝します。…………きひっ」

 ニチャア……。

 

 

 ここまで願望に沿った主人公が居る世界に転生させてくれるなんて、最高の仕事としか言いようがなかった。

 不満なんてあるわけがない。

 ここまで丁寧に全ての願いを叶えてくれるなんて、感謝の思いが溢れて止まらない。

 これが感涙というものか……。

 

『あっ、そうだ、おにぃちゃん。おにぃちゃんがやって来る前にそこのドームの中で小町とお話をしてくれた男の子がいるんだよ』

『そうなのか…………変なことされなかったか?』

『もう!なにを言ってるのっ!変なことを言わないでよ!』

 

 泣いていたことを忘れたかのように、比企谷小町が怒る声が聞こえる。

 ふぅー、しっかりとしないと。

 流石にこの時期の比企谷八幡が、妖怪の(さとり)並みに人の考えを読めるとは思えない。

 あれは人間不信の果てに身に付けたもの。

 小学生中学年程度ならまだそこまで極めきってはいないだろう。

 

 だが、出会い頭にニチャニチャしてる奴を見れば、例え人の嘘を見抜く目を持っていなくてもヤバい奴だというのは一目瞭然。

 ここまで贔屓をして貰って、自分の間抜けさで台無しにするわけにはいかない。

 ゴシゴシと服で涙を拭い全力で今まで積み上げた王子様フェイスを作る。

 この8年もの間、成りきるために費やしたこの第二の人生の成果を見せる時がやってきた。

 気合いを入れて立ち上がり、自分からドームの外に出る。

 

「──君がその子のお兄さんでいいのかな?」

「あっ、えーと……アンタが小町の面倒をみてくれたんだよな……ありがとな」

「いや、気にしないでくれ。大した事じゃないさ。お兄さんが迎えに来てくれて良かったね」

「うん!ありがとうおにぃちゃん!」

「……小町、お前のお兄ちゃんは俺だけだぞ」

「うわ……おにぃちゃん。それはキモいよ」

 

 まだ純粋な2人を騙す程度には上手くできていたらしい。

 まあ、大魔王と作中で言われていた雪ノ下陽乃(はるの)の仮面すら容易く見抜くいたのが彼だ。

 しかし、今の完成度ではとても陽乃が被っていた仮面の完成度には届かない。

 だが、そもそも雪ノ下陽乃を超える必要なんてどこにもない。

 あれは嘘臭いからバレただけ。

 都合が良すぎる展開に彼が怪しんだ事がバレた原因だ。

 つまり、彼が(いぶか)しんだ『男が考える都合の良い展開』を逆算をして、発生するだろう違和感を全て炙り出し、1つ1つ無くしていけば彼の嘘感知センサーを突破することができるということ。

 

「(勿論、容易いことじゃないけどそのための時間はあるし、幼馴染みのアドバンテージでごり押すのも手の1つ。名探偵に心理戦を仕掛けているような無謀に近い戦いだ)」

 

 それでも、僕は……いや、()()は完璧に騙してみせる。

 彼は勿論、全ての人間を。

 

「ボクの名前は祐天寺優希。君の名前を聞いてもいいかな?」

「え?俺か?」

「うん、そう」

 

 いきなり名前を聞かれて戸惑っている八幡。

 ここでさようならと思っていたらしい。

 逃がすわけがないよねぇ?

 笑顔で待ち続けていると折れて名乗る。

 

「…………比企谷八幡だ」

「よろしくね。ボクはしばらくの間は学校終わりにここで過ごす事になりそうなんだ。だいたい午後5時から午後6時半くらいかな?時間ができたら遊びに来てよ」

「まあ、気が向いたら……」

「うん、ありがとう!」

 

 適当に流すための社交辞令だったんだろうけだ、心からの感謝の言葉に八幡は鼻白んだ。

 こういうストレートな対応が一番効いちゃうんだよねぇ?

 うんうん、知ってる知ってる。

 

 去っていく2人を見ながらこれからの事に胸を踊らせながら考える。

 

「(雪ノ下陽乃のようにバレても、それはそれで構わないなんていう甘い仮面は被らない。八方美人なんて粗が必ず生まれる仮面なんて被らず、『比企谷八幡』特効の仮面を作る)」

 

 これで雪ノ下と同じ様に『有象無象は認識すらしない』なんて態度を取れば、それはただの二番煎じでしかない。

 

 人間関係で失敗しないように仮面を1つだけじゃなく、さらに2枚目を他に形成すればいい。

 

「(それだけじゃなく、平行して女も磨かないといけない……やれやれ、やることが多すぎるよ)」

 

 しかも、八幡が進学する総武高校は千葉でも有数の進学校。

 前世の蓄積があるとはいえ、また勉強も頑張る必要があるだろう。

 ──だけど、だからこそ燃えるというものだ。

 

 

「神様がボクの理想通りに進めてくれるなら、1年程度で2人とは別れることになる。ここから5年で仕上げなくちゃね」

 

 

 比企谷兄妹との関係性の構築と、勉強に女磨きと王子様ムーブのための仮面作り。

 ここまで誰かのために自己研鑽を行う女の子なんてボクくらいじゃないだろうか。

 なら、原作ヒロイン達を出し抜いたとしても文句はないよね?

 

 

「真っ当に恋するヒロインじゃあ、性癖に生きるTSヒロインに勝てないことを教えてあげるよ……あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

 

 

 そして1年と半年後に千葉から九州に引っ越し、高校で彼らと再開をするのだった。

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