やはりボクが八幡をおちょくるのはまちがっていない   作:モンゴル産シーラカンス

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高校生編
4.運命的な再開


 薔薇色の青春とは思い出補正で飾り付けた虚飾である。

 薔薇色の青春には必ずと言ってもいいほど恋愛が紐付けられる。

 それこそ、恋愛をしなければ薔薇色の青春とはいえないと言う。

 しかし、薔薇には棘がある。

 どれだけ、良いものだと嘯いた者でも恋愛に関して誰にも話したくない黒歴史は必ず存在するだろう。

 しかし、奴らはその事に関しては口にしない。

 全ては恋愛に関して良かったものだけを口にするのだ。

 取捨選択によって歪められたものならそれは虚飾に他ならない。

 偽りで塗り潰された薔薇など薔薇色ではない。

 蛍光塗料で塗られた安っぽいショッキングピンクだ。

 その偽りの薔薇を育てることに価値などある訳がない。

 しかし、それでも恋愛を薔薇色だと言い張るのなら、奴らは成功体験だけを記憶し、失敗を全て忘れ去ることが青春だと言っている。

 しかし、人間は挫折や失敗をすることで成長をする生き物だ。

 その失敗を見なかったことにするのは間違っている。

 成長ができなかった人間こそ"青春は薔薇色"などと嘯くのだ。

 つまり、薔薇色の青春を送らない者こそが、誠実にして失敗を直視できる立派な人間と言えよう。

 

 結論、リア充爆発しろ

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、本当にこんなのを書いてるんだぁ……。コマちゃんからのメールで知ってたけど色々と(ひね)くれてるねー。薔薇とか爆発とか『貧弱の薔薇(ミニチュアローズ)』でも起動させたいのかい?」

 

 ペラペラとページを捲りながら、俺が部屋に隠していた秘蔵ノートを眺める。

 コイツ、【HUNTER×HUNTER】知ってるのかよ。

 ……いや、それより本人が居るところで何やってんだ窃盗犯。

 

「……なあ、俺が前に人生の哲学を書いたノートをどうして持ってんの?まさか、俺の部屋を漁ったのか?」

 

 不信感と共に胡乱げな視線を向けるが、それを受けて心外だと言わんばかりに顔の前でブンブンと手を横に振った。

 どうやら盗んだわけではないらしい。

 

「違う違う!コマちゃんから再開祝いに貰ったんだって!流石にそんな犯罪一歩手前の行為とかするわけナイナイ!()()ってまさか()()()()()から何も聞いてなかったかい?」

「いや、アイツ勝手に何してんの?俺、許可してないんだけど……」

 

 包帯にくるまれた足を吊られながら、ベッドの上に寝転んでいるところにやって来た美少女。

 多分、今まで人生で俺の事を『ハチ』と呼ぶのはコイツだけだろう。

 

「(本当に美少女に……というか、美女と呼ぶ方が相応しいのかもしれないが、随分外見が変わったな)」

 

 俺が175cmだからそれよりも低い彼女はおよそ170cmほど。

 小町が気にして女子の平均が157とか158cmとか言っていた筈だから、女子では珍しい高身長になる。

 中性的な容姿と口調も相まって男の格好をすれば男装の麗人に見えそうだが、明確に男には無いものがそこにはあった。

 

「それにしても、まさかお前が"女"だったとはな……」

 

 

 それは胸と言うには余りにも大きすぎた。

 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把*1すぎた。

 それは(まさ)に乳塊*2だった。

 

 

 圧倒的な戦闘力。

 比較的に大きいとされる女子高生は勿論、大人でも太刀打ちできるか分からないほどに超越していた。

 グラビアモデルでさえも霞むほどの大きな乳房は、思春期真っ盛りの男子高校生には劇物であり、同性ならば羨望か畏怖か嫉妬などを抱かせるだろう。

 

「(いや、もうあそこまで大きいとサイズを予想することもできない。『私の戦闘力は53万です』と言われた気分だ。これが戦闘力5の世界か……)」

 

 適当な指クンで吹き飛ばされそうだ。

 どうやら俺はヤムチャにもなれないらしい。

 さらにこの豊満な胸に加えて、しっかりと椅子に座っているにも拘わらず椅子に収まり切らない大きな臀部と、折れてしまいそうなほど華奢な腰周りは日本人離れというか、世界でも何人居るんだという話だろう。

 出るところは大きく出て引っ込むところは細く引っ込む。

 そんなメリハリの利いたグラマラスボディーを有する美女に、男子だと思っていた幼馴染みがなっていた俺の心情を答えよ。

 

「(……いや、どんなライトノベル?【はがない】とか【IS】とかのパターン?俺がラノベ系主人公なの?)」

 

 その2つの作品でも性別を偽っていたキャラは居たが、高身長のグラマラスボディーは見たことがない。

 普通はもっとお姉さんキャラとかだと思うんだけど……。

 その見た目で『ボク』呼びは背徳感を感じて、ちょっと八幡落ち着かないんですけど?

 

 

「それじゃあ、改めて久し振りだね。ハチ」

 

 

 俺とこの女は昔に会っている。

 小町が両親の帰りが遅いことに不満を抱き、家出をしたときのことだ。

 俺が駆け付ける前にとある人物が小町の相手をして、寂しくならないように面倒を見てくれていた──それが出会い。

 

 

「(それこそが、祐天寺(ゆうてんじ)優希(ゆうき)という俺達兄妹の幼馴染みだった()())」

 

 

 サッカーが大好きな帰国子女の男子で、小学4年生で出会い1年も経たずに家の都合で遠くに引っ越してしまい、それからは手紙やメールのやり取りだけ。

 その時の格好も短髪に男子の服装をしていたため、俺も小町も今の今まで男子だと思っていた。

 

「(現在、両親はイギリスで住んでいるらしく別れて暮らしている。イギリスの高校に進学する流れになりかけたが、日本の総武高校を選んだらしい)」

 

 俺からすると親元を離れてまで日本で一人暮らしするなんて考えられない。

 しかも、年頃の娘だ。

 どうして両親は認めたんだろうか。

 小町が外国で一人暮らしをするなんて話になれば俺は絶対に止めるし、両親も全力で止める筈だ。

 小町にはめちゃくちゃ甘いからな、あの2人。

 ま、俺の方がさらに甘やかしてるけど。

 

「(話によると、『日本食が食べられない海外暮らしなんて考えられない』とかなんとか。まあ、海外に移住したものの日本食が無くて苦しむ日本人とか多いらしいし、マックスコーヒーも『なりたけ』も無いんだ。俺でもそうするかもしれん)」

 

 俺が車に轢かれたことを知り、こうして病院まで駆け付けてきたらしい。

 そこで7年振りの再開となったが俺達兄妹からすれば青天の霹靂でしかなく、揃って病院だという事実も忘れ大声を上げて驚いたものだ。

 特に小町は優希が初恋だったらしく色々な意味で放心してしまい、兄として同情を禁じ得ない。

 

「(……何より今の今まで男子だと思っていた相手が、女として自分よりも遥かに成長したらショックはデカイだろうなぁ……)」

 

 妹が現実を受け止めることに苦心していた姿を見ていたからこそ、兄としては様々な感情を向けてしまうことは許して欲しい。

 あの小町がまるで感情が抜け落ちたように呆然とする様は違和感を通り越して恐怖まであった。

 

「(ショートヘアーと中性的な顔だからって、何で様になってるんだよ……その堂々とした振る舞いもあってチグハグ感は不思議と感じないのがスゲェわ。普通なら痛々しいキャラ付けみたいになるのが普通じゃねぇの?あの……なんて言ったか。ざ……ざ、材木?みたいな名前の奴と同じ感じで)」

 

 周りにどう思われようが自分を貫くという点では同じ2人だが、こうまで周囲の反応が違うと、人が許容できる範疇とできない異端児の例題としてこの2人は最適なのかもしれない。

 

「(男の俺でさえ『僕』って一人称変えたら、絶対に小町から『キモ……え?どうしちゃったのゴミぃちゃん……頭の検査もして貰う?普通にキモいよ?』って、ガチめに心配しながら言われるだろうに。これが顔面パワーか)」

 

 やっぱりあれだな。

 顔が全てっていうのは間違いないのかもしれん。

 なら、俺の目が原因でクラスメイトから距離を置かれたのも納得だな。

 ──いかん、雨が降ってきたな。

 

「まあ、出会ったときもそうだし手紙やメールのやり取りでもずっと『ボク』だったからね。昔は短髪の半袖短パンで遊び回っていたから気付けなくても仕方ないよ。本格的に胸だとかお尻が大きくなったときには既に引っ越してたから」

 

 そう、だからこそ、今の今まで勘違いをしていた。

 国を(また)ぐ以上は頻繁に連絡する事もそう簡単にできなくなり、俺達や優希はそれぞれの暮らしとコミュニティがあるため、1ヶ月の連絡が3ヶ月になり、半年になって1年に1回の頻度になるのも自然な事だった。

 だからこそ、気付けるタイミングは俺達にはきっとなかった。

 

「(……いや、違う。優希にそう勘違いさせられていたんだ)」

 

 俺達は気付けなくても勘違いをさせる側は当然気付いて当然なのだ。

 文面でまで『ボク』という一人称を使い続ける必要はないのだから。

 何よりそれこそ俺達兄妹が男だと勘違いをしていることに、今の口ぶりからして気付いていない筈がない。

 

 その事に関して、多少なりとも思うところがないと言えば嘘になる。

 

「……なんで今まで自分が女であることを言わなかったんだ?」

 

 少し責めるような言い方になってしまったのは、もしかすると祐天寺優希という少年の事を、人生で唯一できたただ1人の友人として心の拠り所にしてしまっていたからかもしれない。

 小町とは違い1年に1回年賀状を出す感じで、新年に連絡をするような奴が何を言ってるんだと思うが、それでもどこかで騙されたという思いを抱かずにはいられなかった。

 

「まあ、色々と事情はあるけどボクとしては女性らしい体つきになるのは、悪い……とまで言うつもりはないけど、余り良いことじゃなかったからね。嫉妬に嫌がらせ、男子からこ無遠慮な視線を向けられて女子として振る舞うことに疲れていたんだよ。それこそ、2人に出会った理由も学校の女子のコミュニティに馴染めなくて、新しい人の繋がりを求めた結果だしね」

 

 そんな俺の身勝手な苛立ちを優希はしっかりと受け止め、どこか懺悔をするかのようにそう言った。

 だからこそ、急速に思考が冷めていく。

 

 優希の身体は丸みを帯びた肉感的な身体に変わっている。

 おそらく、俺達と別れてから……いや、別れる前からその前兆は訪れていたのかもしれない。

 

「(最後に出会ったのは冬だった。屋内に入ろうとしなかったことも考えると、身体の変化を着込んだ服で誤魔化していたのかもしれないな)」

 

 精神を置き去りに肉体が大人の色香を纏っていく。

 当然、周囲の視線も変わっていくだろう。

 だからこそ、その事に恐怖だとか疎外感を抱くようになることは、別段おかしくないのかもしれない。

 俺も目の事で色々言われてきた口だ。

 容姿で不便をしたことがないとは言える立場じゃない。

 

「まあ、女の子達のおままごとや中身の無い話しに時間を使うくらいなら、思いっきりサッカーや追い駆けっこを外でしていた方が100倍楽しかったしね」

「……そういや、小学生のときはサッカーボールを持ってきて、俺を相手にドリブルで抜いたりしてたな。確か、エラシコとか言ってたか?」

「フフン、かのロナウジーニョが得意としていた技だよ。まあ、ハチも僕のエラシコに対応できるようになっていたけどね」

「いや、エラシコ単品だけに対応できても意味ないんじゃねぇの?」

 

 優希はサッカーが上手かった。

 それこそ、気分は畑にポツンと立つ案山子(かかし)で何度もドリブルで抜かれた覚えがある。

 だから、記憶に残るのは全くボールを取れなかったことと、長い時間を掛けてカットできるようになったことだけ……まあ、それも別の技で抜かれるようになったんだけどな。

 加えて、サッカーのディフェンスとしての力がある程度は上がったが、結局のところサッカーは集団スポーツのために、俺の身に付けたディフェンス力が発揮される機会はあれから1度もやってこない。

 

 だから、俺の中のイメージでは優希は運動ができる気遣いイケメンだった。

 なんだったら、世の理不尽さを嘆いたこともある。

 まあ、それも女子だったことで『あっ、女子に何度もサッカーで連敗していたんだ』という追い討ちを、今になって時間差で食らった。

 怪我人に対しての追い討ちは容赦が無さすぎませんかね?

 

「あと、女子の会話って中身が無くて退屈なんだよね。常に気を遣ってないといけないのに、そこまでしても陰口言われるんだから相手にしてられないっていうのが本音かな」

 

 ……いや、さらっとぶち込んできたけど、お前ってそんなに毒を吐く奴だっけ?

 

「(……まあ、俺との会話がそこまで中身のある会話だった気はしないがな。俺から話題を切り出すときってアニメか妹の話しかしてなかった気がするんだが……え?俺の話の中身薄すぎ?)」

 

 思い返してみてみれば、男子として見ていた俺や小町が何一つ違和感を持たなかったことを考えると、確かに女子間のいざこざやら不文律やらは肌に合わなかったのだろう。

 記憶ではサッカーをすることしか考えてなかった奴だった気がするし。

 

「ふーん、女子の会話ってそこまで中身ねぇの?」

「無いよ。基本的に女子の会話って共感で成り立ってるから、何か話題を言ったら『それね』とか『あるある』とかそんな相槌しか存在しないんだよ。要するに、イエスマンしか居ないってこと。そんな環境に置かれたら『自分の主義主張は肯定されて当たり前』って考えになるでしょ?SNSとかでヒステリーになってる女性は、大体その経験から抜け出せない人じゃないかな?」

 

 『勿論、ちゃんと否定ができる健全な関係性もあるけどね』と言って苦笑いをする。

 その言葉を聞いて感心してしまう。

 ……あのサッカー少年だった奴が、なんだかんだ女子のコミュニティを生きてきたんだな。

 

「(まあ、直接会うことも失くなって5年以上経っているんだから、変わっていて当然か)」

 

 外見も内面もあの頃から変わらないわけはない。

 それに対して思うところがあるのは、俺なんかよりもきっと彼女自身の方があった筈だ。

 

「まあ、そんなわけで女子として過ごすことに辟易としていてね。男子として振る舞うことが良い気分転換だったんだよ。どんなことをしたとしても『女の子らしさ』っていうのを強要されなくなるから」

 

 そして、それにと付け加える。

 

「『ボク』か『私』か……どっちが本物なのか分からなくなっていたんだ。『ボク』としては『私』は適応するためにしょうがなくやっていたんだけど、体もこんなボン・キュッ・ボンのダイナマイトボディーになっちゃってさ。視覚から得る情報としては『私』と言う方が正しいっていうのは分かるんだけど、昔みたいに自由気ままにサッカーをしてみたいって気持ちもあるんだよね」

 

 そのどこか寂しげな顔を見て反射的に口から言葉が(こぼ)れた。

 

「……今もすればいいんじゃねぇの?別にそう言うチームに入れば昔みたいにサッカーもできると思うが……」

「まあ、できなくもないけど、それでやる相手は女の子だろう?ハチとサッカーなんてしたら周りが勝手に邪推をして面倒なことなるのは明らかだ。相手を選ばなくちゃいけない時点でそれは自由じゃないよ」

「ま、まあ、それはそうかもな……」

 

 ……コイツ、なんて真っ直ぐな目で見てくるんだ。

 まるで、俺とじゃなきゃ意味ねぇみたいに言いやがって。

 いや、そんなつもりじゃないだろうけどね?

 そんな勘違いさせるような言動はやめてくれませんかね?

 

 だが、言われてみれば納得できることではあった。

 

 選択肢が剥ぎ取られ残ったものでしか選ぶことができない。

 それは確かに自由とは言えないだろう。

 俺は性別を隠されていたことに不信感を抱いていたが、彼女からすれば性別なんてものは自分を覆い隠す障害物でしかなかったのかもしれない。

 第一、性別なんかで対応を変えるとするならそれは欺瞞だ。

 相手の内面を無視して外側の情報だけで、『コイツはこういう奴だ』と決め付けるのは醜悪なレッテル貼りでしかない。

 

 そんな無理解からくる押し付けに辟易としていた奴が、それと同じことをするなんて自己矛盾もいいところだ。

 

「…………悪かったな」

「ん?何がかな?」

「いや、なんでもねぇよ」

 

 勝手に期待して勝手に理想を押し付けて勝手に理解した気になって、そして勝手に失望する。

 何度同じことを繰り返し何度己を戒めれば、この悪癖は治るのだろうか。

*1
スクールシャツの胸元の弛さ

*2
医学用語では悪性腫癌である




 上手い嘘のつきかたを知っておるか?時々、事実を交えて喋ることじゃ。byピクシス
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