・四月
春、それは新たな一年が始まるの節目の季節。
暦の上では新年を迎える元旦のほうが正しいのかも知れないが、学生からしたら春こそが一年の区切りだと思う。
何せこれまで慣れ親しんだクラスが無くなり、新たな教室、名前もしらないクラスメイトとの一年が始まるから。
よくつるんでいた友人達とはクラスがバラけ、少しばかりの寂しさはある。
しかし窓から見える景色に違和感を覚えるこの感覚、去年とは異なる出席番号と座席、それに伴う黒板の距離感、集会や廊下で見かけた程度の顔しか知らないクラスメイトや担任発表までの僅かな興奮はそれを紛らわせるには十分であった。
本来であればこの興奮と期待を胸に、勢いで友人を作ろうとしただろう。しかし今回ばかりは、あぁ遂に来てしまったかと嘆きたい気持ちの方が強かった。
別にクラスに友人が誰も居ないとか、周りが読書やスマホで遊んでいて話しかけづらいとかが原因ではない。
俺こと渡辺颯斗は今年高校三年生。進学校ということもあり、大半は既に受験の準備を始めていて、事実その時まで既に一年を切っている。
俺も予備校に入って受験を見据えているように、既に始める人は始めている。つまりはそういう訳だ。
とりあえず俺も周りに倣って単語帳を見ることにした。
買ったばかりのそれからは新品の香りがした。
ちなみに目の前の座席でスマホを触る奴は山田蓮といって、何故か気があい、友人第一号となるのだった。
・五月
「颯斗、今からなら何やればいい?」
学校に着くといつもスマホばかりの蓮が普段見ることのない真剣さで訊ねてきた。
しかしテスト当日、なんなら開始30分前に何を勉強すればいいのか聞かれたところで、苦笑いしかでない。
テスト直前のゴールデンウィークは何をしていたのか…
とりあえず、絶対に出るであろう教科書の本文読んで、単語と授業中に何度も読まされた文だけは覚えとけと伝えた。
普段は自習どころか授業中に爆睡しているくせに、開始ギリギリまで詰め込もうとする蓮を見ているとバカっぽくて、というか正真正銘のバカだから笑える。
「範囲まとめたノートもあるけど見るか?」
少し憐れたったために、手助けしようとしたら、拝まれるように感謝された。なら普段から勉強しろよと小言を言えば、イベントでゲームのランク上げが忙しかったらしい。
「今はいいのか?」
「さっきスタミナ消化してきた、問題ない」
予測や推定ではなく完了形な上に、当たり前のように勉強をしてない。
更にテスト当日も普通に遊ぶあんたの頭に問題があると思うが。
とりあえずノートを渡す時に頭を叩いといた。
ノートを渡してしまったので、俺は手持ち無沙汰に教科書を流し見しつつ、教室の風景を眺めた。
四月は黒や紺だった教室は、白に差し変わり済み。
今はもう夏の兆しがみられるゴールデンウィーク明け。毎度お馴染みの一学期の中間テストの季節だ。
とは言いつつも冷静に考えれば中学含めて今回で6回しか受けてないし、それも今年が最後となるのかもしれない。
そう考えると感慨深いものもを感じないこともないが、それを抜きにすれば普段と変わらない日常である。
違う点は、…いつもスマホの蓮は珍しく勉強に勤しみ、血眼になってぶつぶつ呟いてることくらいか。
端から見ると不気味な程に真面目だが、普段の授業態度から考えればやはり笑ってしまうような勤勉ぶり。
ギリギリで詰め込むなら普段から勉強しろとは思いはするものの、ゲームに命をかけてるらしいから…まあ、頑張れ。
しばらく現実逃避と教科書を眺めることを繰り返していると、前方の扉から熊のようながっしりした体格の担任が入ってきた。
「挨拶はいいから、そのまま勉強しといてね」
柔道をやっていたらしい担任は見た目は怖いが、しゃべると気さくで面白かったりする。
やることはやったので、俺は一人早くテストの準備をすることにした。
「あと五分で開始するぞ。蓮君、悪あがきは諦めて、早く席に着きなさい」
テスト監督の担任に個人指名された蓮は、それでも廊下に残って涙ぐましい努力をし続け、担任はそれを気にせず注意事項を述べていく。
「机の上に落書きはないね?あったら消しといて。あと中は空っぽか確認してね」
昔は机に手をいれてバタバタする奴がいたけど、いつのまにかそんなことやる奴はいなくなったよな。
当たり前だが、机に落書きなんてしないし、今日は教科書をいれていないから入ってるはずもない。
しかし念のために中を覗くと、何故かしまい忘れていたらしい三冊の教科書が存在した。
「教科書あったんで、しまってきます」
「いっといで」
机の間を歩きながら、表紙を見ると、それは俺のものではない教科書だった。
というか、日本史なんて選択してないし、残りの二冊も俺の教科書とは全く異なる見た目をしている。
俺は行き先を廊下から担任へと切り替えた。
「どうした?」
「これ、俺のじゃないです。知らない教科書なんで、預かってもらっていいですか」
「あー、夜間の子かな?預かっとくけど、あとで戻しといてね。それと蓮君、もう諦めなさい。手遅れだから」
補足になるが、この学校は全日制の他に定時制というものが存在する。
日中は全日制の、いわゆる普通の高校生が校舎を使い、完全下校時間の17時から定時制の使用時間となるのだ。
もちろん教師も全日制とは違うし、職員室も異なる為に、昼間のこの時間では誰も居ないそうな。
そんなわけで珍しいアクシデントから、三年初のテストが始まった。
教室や廊下…というか校内全体にに響く、チャイムの音。
先生の呼び掛けにより最後列から集められる回答用紙。
テストは終わったけど、まだ動けないこの時間に、俺と蓮はテスト後半の答え合わせを行う。
蓮はほとんど勉強してないくせに、数学はなぜかできるから、解答を確認し合うことができたりする。
なお数学以外はいい笑顔でなんもわからんとかのたまいやがった。
まあそんなわけで、こういうときにも話が弾む。
「颯斗君、ちょっと来てくれるかな」
そんな中、問題用紙に殴り書きした途中式で回答を合わせていると先生に突然名前を呼ばれた。
答案用紙に名前でも書き忘れたのかと思い、内心の動揺をかくしながら前に行くと、知らない教科書を渡された。ナニコレ?
…そうだ、これ朝預かってもらってたやつだったわ。
「取りに来てもらって悪いね。これ返すから、元の場所に戻しといて。じゃあ解散」
最後の言葉を全体へむけて話した先生は教室を去り、受け取った教科書をしげしげと眺めながら戻ると、いつの間にか取ってきた鞄を机へのせ、片手にスマホが標準装備である蓮に早速訊かれた。
「何言われた?あとそれは?」
「夜間の人の教科書らしい、俺の席に置いてあったんだから元にもどしとけってさ」
スマホを操作する蓮に見やすいよう、逆さまに並べる。
表紙や裏面を見ても、名前は書いていないから持ち主については何もわからない。
なんとなく英語の教科書を手にとってパラパラ捲ると比較的簡単な内容だったのでスラスラ読める。
読んだことのない話に、つい癖で読んでしまう。そんな本に向けていた意識は突然呼び戻された。
「見ろよ、これ凄ぇ」
「これは…上手いな」
日本史の教科書には落書きがされていた、ただし落書きというよりも作品といっても遜色ないレベルのものもあり、他のページにも至るところに無駄に芸術的な落書きがあった。
他にも人物画をデフォルメしていたり、元の絵に描き足されたり、全く関係ない絵やパラパラ漫画みたいなものも一部見受けられた。
こんな愉快な教科書を前にして誰が写真を撮らずにいられようか、いやいない(反語)
というわけで、写真を撮った。
まだまだ見てないページは沢山あるが、今日でテストは終わりだし、腹も減ってきたので、最寄りのコンビニへ寄ってからカラオケへいくこととなった。
それと悪戯心で取り出した付箋にメモを残した。
【忘れ物です】
そして、テストを終え休日が始まる解放感からか調子に乗って書き足した。
【追伸、絵上手ですね】
誰だか知らないし、相手もわからないであろう安心感に、勢いで余計なことをやった気もしたが、どうせ無関係だからと開き直る。
ついでに撮った写真も知人が書いたものとして、SNSへ載せておいた。
ちなみに載せたイラストはプチバズりすることとなるのだった。
休日明け、各授業恒例のテスト返し。
返された答案用紙と問題用紙をもとに解説が行われるなか、暇な俺は机の端にある落書きに気が付いた。
【すごくないよ】
先週はテストで落書きは無かったし、意味がわからず疑問が残る。
昼食のとき蓮と友人その2である高橋康平へこれの見覚えがあるか訊くも知らないとの返答。
するとスマホから目を上げた蓮がどうでもよさそうに呟いた。
「あの時の教科書の持ち主じゃね?なんか書き置きしてただろ?」
言われて思い出したが、確かにやっていた。というか会話が成立している。
その事にちょっと感動を覚えた俺は、何枚か写真をとりネットへ上げたことを謝っておき、一応idも書いておいた
その日の夜、何かしらの連絡が来るかもしれないと思っていたが、結局何もなかった。
まあそんなもんだよなと、切り替えて明日の準備をして眠りについた。
しかし翌日の机にあるものに唖然とした。
【自信になった、ありがとう
でも勝手にあげるのはおこです】
とデフォルメされた鬼のイラストと一緒に書いてあった。
なんだこれ
ちょっと楽しいかもしれない
六月
ホームルーム前の時間に、ゲームのことで頭を抱える相変わらずな蓮と駄弁りなが、教科書を机の中へぶちこんでいく。
しかしそこには先客がいた。
見たことのない表紙の教科書だ。
一月前に似たようなことがあったなぁと懐かしみながら物色してみると、芸術的な書き込みが多数あってかなり驚いた。
落書きに見覚えはないが既視感はある。恐らく同一人物。
というか、席替えの後に更に同じ席になるとか凄まじい幸運だ。
運命的なものを感じつつも、記念の写真だけ撮って、付箋へメッセージを書いた。
【連続で席が同じなんて奇遇ですね、あとやっぱり絵凄いです】
満足して蓮の方を向くと、おまえ大丈夫?みたいな風に見られた、というか言われた。
客観的に見たら知らない人の持ち物にコメント付きの付箋貼るのはキモいかもしれない。
もし次があるなら、少なくとも対面では見られないように帰る直前とか授業中の暇なときに書くことを決意した。
ちなみに翌日付箋と教科書はなくなり、代わりに机に文字が記されていた
【ほんとに奇遇ですね @rakugaki…】
一緒に書いてあるidを調べると、イラストをあげているアカウントが見つかった。
作成日は先月で、最初の頃は以前見かけたような教科書の落書きの写真がほとんどだったが、今ではあまり見かけないのでわからないが、たぶんアニメやゲームキャラのようなものがほとんどだ。
気になった俺は、コメントを書いた付箋を机に貼っておいた。
【いつから絵を描いてますか?】
すると想像通り翌日には付箋がなくなり、代わりに机にメッセージが書かれていた
【小学生の頃】
こうして俺は名前や顔も知らない相手と、不思議な文通を行うようになった。
なお数回繰り返すうちに面倒くさくなったので、俺も机へと直接書くようになった。
・七月
うんざりするような途中式を終えて、導いた回答をノートの端に少しだけ大きく書く。
確認した回答と同じだったことに満足し、椅子に座ったまま大きく伸びをした。
時計の長針はもうすぐ最下点に差し掛かり、完全下校時間まであと30分。
教室には俺と同じように勉強をする奴が数人と、集まって遊んでるグループだけだ。
もちろんそこに蓮はいたりする。
伸びをして次の問題をやろうかと思ったが、先程のホームルームを思いだし手が止まった。
進路希望をどうするか。
やりたいことなんて思い浮かばない。
とりあえず近辺の大学を目指そうかな程度だ。果たしてそんな適当な理由でいいのだろうか?
取り留めもないことをグルグルと考えるうちに、チャイムで我に返る
時間はいつの間にか17時の5分前となり、予備校へ向かう時間だった。
帰る準備もしてないし、いつからか日課となった書き置きもしていない。
【進路に悩んでる、あなたの将来にやりたいことは?】
教科書が傷まない程度に雑にしまうと、リュックを背負いながら教室を後にする
まだ明るい空と運動部の動きを見ながら歩いていると、廊下の角であやうく金髪と黒髪の二人の女とぶつかりかけた。
お互いに軽く謝ったあと、そのまま下駄箱を通って、校門から駅まではや歩きで目指した。
翌日昼休憩
どうやらこの人は好きなことである絵描きの専門にいきたいらしい。
好きなこと、やりたいことなどやはりすぐには思い浮かばない。
とりあえずいつもの2人に話を振ることにした。
「なあ進路どうする?俺はとりあえずで近場の国公立にした」
「暫定の目標で皆が目指してるとこにするつもり」
「俺も似たような感じ、というか蓮に国公立は高すぎじゃない?」
「うるせー泣くぞ、目指すだけならタダでいいじゃん。もしかしたら偶然受かるかもしれないじゃん」
蓮や康平にこれといった明確な目標はないらしい。
そういう俺自身も一次試験の得点次第なとこがあるから、結局は似たようなものか。
「ところでもうすぐ夏だけどさ、なんか予定ある?」
「俺は去年を最後にするつもりだったし、勉強しかするつもりない」
「俺はイベント走るよ」
「まあまあそう言わず聞いてくれよ、夏と言ったらやっぱ海いきたくね?俺は去年も行ったんだけど」
「一人で?」
「仲のよかったやつ四人とだよ、ナンパしようとしたけど緊張して無理だった」
「すげえ行動力だな。でももし行くなら俺達だけでいくのは味気なくね?」
「いやだからこそナンパして彼女作るんだろ!一夏の熱いアバンチュール、憧れない?」
「俺達受験だぞ、そんな余裕ないだろ」
「…そらそうか、ちなみにもしナンパするとしたらどんな人がいい?
俺は黒髪ロングでおっぱいでかくて笑顔が可愛い人がいい、知り合いにいない?いないよな…」
「そんな誰もが好きな女神みたいないい人がお前を好きになるわけないだろ」
「蓮さん急に戻ってきていきなり辛辣ぅ。いいじゃん夢くらい見ても、颯斗はどんなタイプがいい?」
「…一緒にいて落ち着く人、とか?」
「アバウト過ぎ、容姿は?」
そこでふと昨日の人を思い出した。
「金髪とか憧れね?」
「「わかる」」
「ところでさ俺のイベントについては聞かないの?」
「勉強しとけ、お前英語やばかったろ」
「卒業は問題ない」
「受験は?」
「まだその時じゃない」
「今やらないでいつやるんだよ」
「イベント忙しいし少なくとも来週以降だな」
こいつはもうダメかもしんない
【高校最後の夏休みなにしますか?】
聞きたいことがあってもすぐに知れない、こういうとこはは不便だな。
次の日
「颯斗アルバイトすんの?」
「唐突だな、金ねえの?」
「いやここに書いてあるじゃん」
【金を貯めるためのアルバイト】
「ああそれ?夜間の人と机で文通してんだよ」
「嘘だろ、まだやってたのか?
そうかそのために席替え拒否して動かないのか」
そう何を隠そう、俺は2回目の席替え…、というより2回目の文通からこの机の場所を死守するようになった。
席替えで文通が途絶えたら今度こそできないかもしれないし、だったらずっと同じ席にいればいいだろうという考えだ。
ちなみに夜間の方では席に指定はないし、人数も少ないので自由に座れるらしい。
「どんな人?というか性別は?」
「聞いたことねえや」
「まさかこれはお相手は可愛い子?」
「す、好きです!付き合ってください!」
「わ、私なんかでよければ!」(ゲーマーの裏声)
「そしてあわよくば一夏のランデブーを!」
蓮と康平のやりとりがあまりに雑すぎて皆でばか笑いした。
とりあえず今日は聞くことなにもないし、無茶振りをすることにした。
すまんね。
【なんか絵描いて!】
次の日
今日は雨だから、体育はグラウンドではなく体育館でたぶんバスケである。バスケはいい、テンションが上がる。
まあその前にやることがある。
「なあ、これ見ろよ」
近くに通りがかった蓮にあるものを見せた。
【輪郭を書いただけの女の子の絵】
「お前かいたの?」
「いや、昨日話した夜間の人、無茶振りに答えてくれた。なんの絵かわかる?」
「これ楓ちゃんのイラストじゃん、楓ちゃんっていうのは今ネットで話題のアニメのヒロインなんだけどさ、色んなイベントとコラボするくらい人気沸騰中なんだよ。にしてもシンプルだけど味がある良い絵じゃん。写真とりたいんだけどいい?」
想像以上の食いつきに思わず困惑する、という薄々感じてたけど、やっぱこいつオタクだったわ。
「いいけどさSNSとかにあげるのはやめてくれよ。前それを事後報告したら怒られた」
「そりゃ当たり前だろ、SNSやるならそこら辺のネットリテラシーは当たり前だぞ」
「反省してるって」
「それとたぶんこいつ書いたのは男だな」
「…なんでそうなる?」
「だってお題なしなのにわざわざ楓ちゃんを書いてるならもう楓ちゃんのファンだろ。で楓ちゃんのファンは9割男だ。つまり男確定」
確かに一理ある、というか考えれば考えるほどそうとしか思えない。
「あとな、こういう可愛い絵書いてるのは大抵男だ。ツボが分かるから描ける、簡単だろ?」
反論したい気持ちもあるが、納得はできる。
それにそういうことに詳しそうな蓮がそういうのだから、たぶんそうなのだろう。
時間に余裕はあったが、俺たちは体育館に向かうことにした。
ちなみにバスケだと思っていたが、まさかの一番だるい持久走であった。
今日は朝から最悪の日だ。
朝から余計に疲れたが、受験は当然待ってくれない。
いつものように教室に残って勉強をして、下校時間ギリギリで帰る。
もちろん日課は忘れない。
【今日は疲れた】
そして最寄り駅に着く直前で体操服を忘れていたことを思い出した。
明日体育があるわけではないから、明日でも別に問題はない。
でもやはり汗をかなりかいて汚いし、予備校も今日は休みであり比較的暇ではある。
普段なら放っておいただろうが、どうせならと取りに戻ることにした。
学校に戻った頃には下校時間の五時をとうにすぎ、定時制の時間が始まっていた。
夕日に照らされる廊下は誰もおらず、教室からのくぐもった音と野球部の練習する音が聞こえる。
廊下にあるロッカーにたどり着き体操服をゲットしたあと、教室を横目で盗み見た。
俺の席では黒髪の見覚えのある女が座り何か書いていた。
翌日の朝、机にはいつものように返事が書いてあった。
そしてなぜかその日は勉強がはかどらなかった。
【お疲れ様】【デフォルメされな何かのイラスト】
八月
夏休みの補習は今日で終わりだが、九月の中頃から始まる最後の学園祭の準備も徐々に本腰をいれねばなるまい。
そんなわけで今日も昨日に引き続き教室を仕切る板の作成だ。
人は疎らだし、普段あまり話さないゲーマーと仲のいいクラスメートに話しかけられた。
「渡辺って夏休み何やってた?」
「勉強しかしてない。家と学校と予備校の往復のみ」
そう答えると意外そうな目で見られた。
「なんかあった?」
「そりゃ、なんかこう、意外だなって」
「ようは雰囲気的に遊んでると思われてんだろ。彼女作ったりとか、遠出して遊んだりとか」
蓮の言葉に苦笑いするクラスメート。
「そんな余裕ねえ」
「余裕ないって言ってるけど、そもそもこいつ彼女いたことないなんだぜ」
余計なことを言うなとばかり少しにらむ。
「お前こそなにやってる?」
「そりゃもちろん寸暇を惜しんでやるべきことに取り組んでる」
「一応訪ねるけど、なに?」
「水着イベント周回」
全員が生暖かい視線を送るなか、その本人から何かしらの通知音が響いた
「悪い、時間きてたから帰るわ。あとは頼んだ」
いなくなった後に教えてもらったのだが、蓮は彼女持ちだったらしい。
ゲームで知り合った他校の女子生徒との噂。
蓮のゲーム友達にそれが普通なのかと聞いたところ、かなり珍しいらしい。
理系だから男女比は男多めで、少ない女は常に固まってるから接点は少ないからって、他校の女子と関係持てるとかすごすぎるだろ。
みんな苦笑いで同意している。
そこからは男子だけだからできるような馬鹿話をするのだった。
・九月
「昨日の模試どうたった?」
「それなりできたつもりもなかったけど、色々抜けがあって更に点数引かれてそうでヤバイ」
「とはいえ優等生の颯斗なんだから普通にできたんだろ。俺はほぼ白紙、マジでなんもわかんなかったよ」
朗らかに笑う友人に対して、俺は苦笑いでごまかすだけ。
わからないところが半分近くあったし、わかったと思ったところも解答を見ればミスや記述不足で、呆れや憤り、あとは無気力みたいなごちゃまぜで内心は荒れ狂ってる。
二人には全く関係ないから当たれないが、こういうときに気軽に打ち明けられる相手が俺にはいる。
しかし軽率にも普段と違ってイラつきをちょっとだげこぼれてしまった。
【大学受験するつもりのない人はうらやましい】
あれから一週間が経った。
一応メンタルは回復してきたが、別の問題が浮上してきてたりもする。
「ところで今日の面談なにすんの?」
「この前の模試の返却と進路についてきくんじゃね?」
「面談日いつだった?」
「俺は今日の昼に隣の教室でだってさ」
適当に駄弁りながら机を確認するもそこにはなにもない。
それどころか先週に書いた文章が消されて以降、何も音沙汰がなくなってしまった。
消したということはは読んでいるはずなのだが、一言も返信がないというのはあまりにおかしい。
心当たりが自分にあるだけにその踏ん切りも中々つかない。
そんな中昼休みに担任と面談することとなった。
「これ先週の模試の結果ね」
中身をみれば半分どころか三割もない、わかってはいたけどやっぱりショックだった。
「全然ダメだったんですけど、志望校下げたほうがいいんですか?」
「三年のこの時期にできる奴なんてほとんどいないから。それに点数は低くとも偏差値は十分足りてる、今後も勉強続ければなんの問題もないよ。もし不安になったら相談は受けるから、気を楽にして頑張っていこう」
おもわず弱音が出たが、先生の励ましにより志望校は下げないままとなった。
望みは高くでいい、下げるのは簡単だしいつでもできるけど、上げるのは難しいとのこと。
納得はできたので、とりあえず今までと同じように勉強することにした。
そしてそれから学園祭でどたばたした一週間が過ぎ、机にはやはり新たなメッセージはなく。
思い立って謝ろうとコメントするも翌日には消えているのに返信もない状態だった。
これは明らかにやってしまった、どうにもできない。
さっき現文で出てきた暖簾に腕押しとはまさにこのことなのだろうなとぼーっとしてると、席替えは勝手に終わりいつもと同じ席に勝手に決まっていた。
教卓の一番手前てあり、内職しにくい一番不人気な席である。
もしこのままならもうここに留まる意味もない。
謝ろうか、でもすでに謝っているし今更どうやって。そうして過ぎていく味気ない日々。
しかし悩んだところで何も変わらない。
一か八かで行動を起こしてみようと思う。
授業が始まる教室で、俺はプリントの裏にメッセージを書くことにした。
既に文通をやめて1ヶ月、同じ席にいるとは思えない。
そんな中読んでもらう方法はこれしか思い浮かばなかった。
プリントには素直な気持ちを書いた、受験勉強のこと、理想と現実の差に落ち込んでいること、努力が報われないこと、自分勝手なことを書いて後悔していること、そして何よりあなたとのやりとりを続けたいこと。
これを机の中に置いて、机には【机の中】
そして帰りがけに黒板に、いつもの場所でお話がしたいですとチョークで書いた。
冷静になると何をやっているのだろうか、頭おかしいかもしれない。
そしてその日の夕方、予備校の講義中にスマホに通知があった。
普段なら放っておくが、つい気になって白い鳥のアプリを開くと、昔あの人から教えてもらったお絵かきアカウントの人からメッセージが来ていた。
【あなたの座席は?】
普段座る席の場所を打とうとしてふと止まる。
俺はあの場所に居座り続けている、でもそれは本質ではなくて。
あの人とやりとりをすることができるからこそあの席に固執しているのだ。
【文通ができる席】
すぐに既読はついた、しかしいくら待ってもトークは増えない。
少し冷静になった頭で考えれば、この答え方は色々と意味がわからない、というかキモい。
空回りしたようで少し耳が熱くなるのを実感しながら、こんなことをしでかしてしまったのならと、勢いで続けてメッセージを送る。
【あの時はすみません、酷いことを書いた自覚はあります。
もし許してもらえるなら、もう一度あなたとの文通をやりたいです】
これまたすぐに既読がついた、しかし今度はすぐにトークがきた
【なんのことですか?】
え?
詳しく聞いてみれば、そのメッセージは見ていないどころか9月が始まってからはなにも見かけたことがないそうだ。
普段はこちらから話しかけてるわけでもないし、なくなったのならもう終わったのだろうなと思っていたらしい。
そうしてお互いに勘違いしてずるずるここまできてしまっていたようだ。
ならば俺の意思は既に決まっている。
【もしよろしければまた続けたいです】
メッセージの動きが止まる
永遠とは言わないが妙に長く感じる時間
【いいですよ】
予備校の講義中なのを忘れて立ち上がりそうになり、結構恥ずかしかった。
ちなみに消していたのはこの人の友人だったらしい。
友人のことをなにも考えていなさそうな自分勝手な内容でムカついたから消したとのこと。
弁明も何もできない。
その事を謝った翌日には見慣れない筆跡で【許す、2度はない】と書いてあった。
怖え
この時、一歩踏み出さなければ終わっていた。
今更ながら、この関係は今にも切れそうな綱渡りのように不安定で、心細く、しかし俺にとっては大切なものだと実感した出来事となった。
【卒業式の後残ってくれますか?】
3月1日、今日は卒業式だ。
昨日までは自由登校だから、高校に来ても半分も揃うことはなかった。
けれど今日は久々に全員揃う。
教室に入れば、最近見ることのなかったクラスメイトに懐かしさを覚えつつ、後ろの黒板のチョークアートに目を奪われた。
美術部とかが頑張ったのだろうか?
荷物を置いて机のメッセージを見るも【机の中】としか書いておらず中には紙が入っていた
よってきた2人を尻目に手紙を読んでいく。
「よっす。誰が描いたかはわかんないけどうちのクラスだけにあるらしいぞ、美術部じゃないらしいし担任の先生かね」
「あの先生にそんな絵心あるんかね?」
「あの人絵かかないでしょ、それに誰が描いたかは判明したよ」
「誰?…もしかしてあの文通相手?」
「そそ、粋だし器用だよな」
【ご卒業おめでとうございます
最初は戸惑いましたがとても楽しかったです
黒板のはささやかなお祝いです、私達が翌日に使い回すので消さずに残しておいてください
一年間ありがとうございました】
式も終えて、最後のホームルームも終わって、卒業アルバムに馬鹿なことを書きあって、笑いあって…、そうしてあとは帰るだけとなった。
教室を出る前に最後の文通も書き終えた。
これで高校でやることは全て終えた。
毎日のように来ていた教室、廊下から見える景色、そして校門から見える校舎。
これらが見納めになると思うと、式では泣くことはなかったけど、今更になって目頭が熱くなった。
高校を出たあと、俺達は遊びにいくことにした。
国公立の前期は終わり、結果次第ではまだ残っているが、今日は特別だ
俺と康平は自信があるが、蓮は…ダメかもしれないそうだ。
とにかく来月からはなかなか会えないのだから、今日は久々にとことん遊ぶ予定だ。
親友はまだ後期が残ってると思ったが、聞いたら来年頑張るらしい、潔すぎんだろ。
別れる間際、記念になにか買おうということで百貨店に寄り道した。
康平にはパスケース、浪人予備軍には単語カードとボールペン。
話し合いながら決めたから被ることはない。
「ところでプリザーブドフラワーなんておしゃれなもん買ってどうすんの」
「いつものお礼に渡そうかなって」
「誰に?」
「教えねえよ」
「ふーん…、じゃそろそろ帰るか、スタミナ漏れそうだし」
「お前はぶれねえなぁ、またいつか会おうぜ、じゃあな」
「案外早い再会になるかもしれないしな」
俺たちは最後は笑いながら帰宅した。
次の日、俺は一人で学校に行き、職員室へ向かった。
忘れ物があるので取りに来たと嘘の報告をして、定時制の卒業式が終わるまで担任と話をして時間潰す。
試験の出来や高校生活等について話したが、なんでも俺の他にも忘れ物をした人がいたらしい。それも複数人もだ。
自分は教室に行く口実として言っているわけたが、ロッカーの物は再三注意喚起されてたし、忘れ物するなんて迂闊にも程があると思う。
式も終わったようで、人がまばらになった頃、担任と別れて教室へ向かうと彼女はいた。
いつもの場所に座り外を眺めてる。
ゆっくり扉を開くとようやくこちらに気が付いてくれた。
教壇の段差の手前で止まり、深呼吸を一回する。
「はじめまして、一年間文通をしていたものです。
改めて、卒業おめてとうございます、それとチョークアート凄くて驚きました。
そのお礼というか、一年間のお礼も入ってるんだけどこれどうぞ」
昨日選んだプリザーブドフラワーを渡す。
それをおずおずと受け取ってくれた彼女。
「ありがとうございます、それとはじめまして。でも私がやりたくてやったわけだから…。それなのに貰ってもいいんですか?」
「お返しだから気にしないでくたさい。それにもう買ったやつだから受け取ってくれるとうれしいです」
「それなら、ありがとうございます」
プレゼントが移動し、それを期に止まる会話。
初対面の気まずさと緊張が相まって、事前に伝えたいことを考えておいたのに忘れてしまった。
こうなれば勢い任せしかない。
「好きです!付き合ってください!」
「…私達初対面ですよね?」
恐る恐るといった感じで彼女は言った。
「面と向かって会うのは初めてだけど、実は何度かすれ違ってます。あと覗き見たようで申し訳ないんだけど、ロッカーに忘れ物したときに初めて顔を知りました」
そして話すうちに思い出したことをぽつぽつと話す。
「最初は思い付きだった、まさか返事があるとは思ってなかったし。
でもそれを続けていくうちに、やりとり自体が段々と楽しくなって、君とやりとりするのが待ち遠しくなった。
だから付き合ってください。もしダメなら友達からでも構いません」
彼女の耳は真っ赤だ。俺も顔と耳が熱いから似たような状態かもしれない
「えっと…、そこまでいってくれるなら…、私なんかでよければ、その、よろしくおねがいします」
その言葉の意味を理解できた瞬間、廊下から突然入ってきた友人達がクラッカーを鳴らし、窓側からは女の悲鳴が聞こえた
颯斗やるな!おめでとう!なんで由紀がいるの!?心配だったもん!
どうやら友人達にはバレていたらしいし、彼女の友人も外に隠れてたようで混沌としている。
騒がしい教室の中、ふと彼女と目が合い2人で照れ笑いをする。
そして更にうるさくなる外野。
外では春の暖かい風がそよいでいた。
感想くれると泣いて喜びます
今後の参考にしたいので批評批判щ(゚д゚щ)カモーン