俺の人生は、実に「それっぽく」終わった。 深夜の公園で「不可視の刃」を振るう修行(という名の鉄パイプ素振り)をしていた際、突如として現れた「世界の抑止力(という名の職務質問)」から逃走。その最中、運悪く足を滑らせて頭を打った。
……いや、表向きはこうしておこう。 「真理に到達しようとした魂が、肉体という器を焼き切った」。よし、完璧だ。
気づけば、目の前には真っ白な空間と、困惑した顔の「神様」がいた。
「えー、君の死因は……まぁ、不慮の事故だね。一応、君の魂には面白い適性があるから、異世界へ転生させてあげることができるけど、何か希望はあるかい?」
俺はあえて不敵に笑い、神を見据えた。 「条件は、二つある。一つ、肉体は『人類最古の英雄王』のものを。そしてもう一つ、彼の持つ『
』を完全に再現しろ」 「ギルガメッシュかい? 傲慢すぎて苦労するよ」 「構わん。ただし――」
俺はここで、最も重要な「設定」を突きつけた。
「その宝具庫には、過去・現在・未来、あらゆる時代のあらゆる宝具・財宝が最初から詰まっている状態で渡せ。王の蔵に欠けがあるなど、万死に値する屈辱だからな」
神様は少し考え込んだが、やがて呆れたように指を鳴らした。 「いいよ。その代わり、この世界のバランスを壊しすぎないように、君自身の魔力出力で扱える範囲に調整はさせてもらうよ。もっとも、中身は最初から『全入り』だ」
その瞬間、俺の脳内に「黄金の蔵の鍵」が焼き付けられた。 宇宙の真理、失われた神代の武具、未来の英知……それらすべてが俺の手の中にある。
「……フハハ、全知全能とはこのことか!」
俺の意識は、黄金の輝きと共に異世界へと沈んでいった。
「言い忘れてたけど成長すればそれにあわせて使える財宝も増えていくからね〜」
次に目覚めた時、俺は天蓋付きの豪華なベッド……ではなく、そこそこ立派な、しかし「地方貴族」といった趣の部屋にいた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ、カゲノー男爵!」
……待て、今なんと言った? カゲノー? どっかで聞いたことがある名前だ。確か、俺が好きだった物語の……。
俺を抱き上げたのは、いかにも「善良な脇役」といった顔の男。そして、その傍らには、すでに数歳になったであろう黒髪の少年が立っていた。 少年は、虚無を見つめるような目で俺を見下ろしている。
(……こいつ、シド・カゲノーか!?)
ということは、俺は「陰の実力者」を目指す狂気の中学生、シドの弟として転生したわけか。 面白い。最高の設定じゃないか。
兄が「陰」なら、俺は「表」を支配する「王」として君臨しよう。 いや、普段は「出来の悪い弟」を演じつつ、裏では黄金の雨を降らせる。 「陰の実力者」vs「黄金の王」。この共演、演出次第では神話級の物語になるぞ。
シドの瞳に、ライバルを見つけた時のような怪しい光が宿る。 俺はあえて、赤ん坊のぷにぷにの手を上げ、空中に一振りの「剣」の影を、ほんの一瞬だけ、ちらつかせて見せた。
シドの顔が驚愕に染まる。 「(なっ……! 投影によるイメージの具現化だと!? なんて格好いい演出だ! 負けてられない、僕ももっと『陰』っぽい魔力操作を考えないと!)」
シドはブツブツと呟きながら、狂ったように素振りを始めた。 よし。この兄は、俺の「王様ムーブ」を引き立てる最高のモブ(自称)になってくれそうだ。
それから数年。俺は「カゲノー家の出来の悪い次男」を演じつつ、裏では王としての権能を謳歌していた。
魔力操作? そんなものは必要ない。 蔵にある最高級の魔力触媒を使えば、呼吸をするだけで周囲の魔力が俺に従う。 剣術の修行? 蔵から適当な「原典の剣」を一本取り出せば、その辺の魔剣士など一刀両断だ。
ある夜、俺は屋敷の屋上で、夜風に吹かれながら黄金の波紋を展開した。 中から取り出したのは、神代の酒。
「雑種どもが、教団だのシャドウガーデンだのと騒がしいようだが……」
俺は黄金の杯を傾け、夜の街を見下ろす。 「この世界のすべては俺の庭。泥棒猫の一匹たりとも、王の許しなく動くことは許さん」
その背後、影の中から黒いスーツを纏った少年――シドが、羨望の眼差しで俺を見ていたことには気づかなかった。
「(……弟のあのアドリブ、『雑種』ってセリフ、最高にクールだ。僕も今度シャドウとして使わせてもらおう)」
こうして、勘違いの連鎖と、圧倒的な「王」の物語が幕を開けた。