最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

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第10話 ミツゴシ商会

学園の時計塔。ここは、カゲノー兄弟が「ごっこ遊び」の進捗を報告し合う、聖域のような場所だ。 夕日に染まる王都を見下ろしながら、シドは安物のメロンパンを齧り、ギルガメッシュは蔵から取り出した純銀の椅子に腰掛けていた。

 

「……ギル。もうすぐ『武神祭』が始まる。僕はこの大会、あの『ジミナ・セーネン』として出場するつもりだ」

「ジミナ・セーネン? フン、また下らぬ偽名を。貴様のその、わざと弱そうな面を作る執念には恐れ入るな」

 

ギルガメッシュは呆れたように肩をすくめた。 シドの計画はこうだ。パッとしない、病弱そうで今にも死にそうな男が、伝説の剣士たちを「なぜか勝っちゃった」という雰囲気でなぎ倒していく。そして、決勝まで進み最後は見事優勝する。これぞ、陰の実力者が最も輝く瞬間のひとつ。

 

「……で、君はどうするんだい、ギル? まさか、その『黄金の王』のまま出るわけじゃないよね?」 「当然だ。王が大会などという雑種どもの品評会に並ぶなど、万死に値する屈辱。……だが、(オレ)の『庭』で不遜にも最強を名乗る輩がいるのは我慢ならん。……(オレ)は、観客席の特等席から、この世界の『武』というやつを品定めしてやるつもりだ」

 

ギルガメッシュにとって、武神祭は戦う場ではなく、鑑賞する場だ。 「だがな、兄上。……もし(オレ)を退屈させるようなら、決勝戦の最中に『ヴィマーナ』で乱入し、会場ごと蔵の肥やしにしてやるからな」 「あはは、それは勘弁してよ。僕の見せ場がなくなっちゃうからね」

 

シドは笑いながら、学園の屋上から飛び降りた。 影の道を行く者と、黄金の玉座に座る者。二人の思惑は、武神祭という舞台をカオスへと導く予感に満ちていた。

 

数日後。王都で話題独占中の「ミツゴシ商会」の前には、地平線の彼方まで続くのではないかと思えるほどの大行列ができていた。 目的は、この商会が独自に開発したという魔法の菓子――「チョコレート」だ。

 

「……雑種、雑種、雑種。どいつもこいつも、王の前に立ちふさがるとは……」 ギルガメッシュは、一般の列に並んでいた。 本来、彼なら「道あけろ」の一言で正面突破するところだが、今日はシドから「忍耐強く並ぶことは精神力の修行にもつながるよ」と唆されていた。

 

(……だが、限度があるぞ、兄上。この(オレ)が、一粒の菓子のために太陽の下で何時間も待たされるとは!) ギルガメッシュの周囲だけ、あまりの威圧感に気温が3度ほど下がっている。前後を並ぶ客たちは、背後の「黄金のオーラ」を放つ美青年に怯え、生きた心地がしていなかった。

 

その時、商会の入り口から、洗練された黒いドレスに身を包んだ女性が現れた。 ミツゴシ商会の会長、ガンマである。 彼女は周囲を睥睨し、何かを探すように視線を走らせていたが、列の中ほどに、場違いな輝きを放つ「黄金の王」を見つけた瞬間、その顔が驚愕に染まった。

 

「(……ギ、ギルガメッシュ様!? なぜ、あのような場所におられるのですか!?)」

 

ガンマは慌てて駆け寄ろうとしたが、慣れないヒールに足を取られ、見事なまでに何もない場所で転倒した。

ズサァァァァ!

豪快に滑り込み、ギルガメッシュの足元にまで到達する。

 

「……フン。相変わらず、貴様のドジっ子ぶりは蔵の財の数々でも治せぬようだな、ガンマ」 ギルガメッシュは冷ややかに、しかしどこか親しげに、這いつくばるガンマを見下ろした。

 

「も、申し訳ございません! まさか、ギルガメッシュ様がこのような一般の列にお並びになっているとは……! すぐに、奥へご案内いたします!」

 

ガンマに案内され、ギルガメッシュは一般客が立ち入ることのできない、商会の最深部へと通された。 そこは、シドが提供した前世の知識「チョコレート」や「コーヒー」が、高級な調度品と共に並ぶ異空間だった。

 

「……ふむ。兄上の授けた知識を、これほど形にするとはな。雑種にしては上出来だ」 ギルガメッシュは、用意された最高級のソファに深く腰掛け、差し出されたチョコレートを一粒口に運んだ。

 

「お褒めに預かり光栄です、ギルガメッシュ様。……シャドウ様からお聞きしております。ギルガメッシュ様には、我が商会の全商品を無償で提供するようにと」

 

「当然だ。この世界の富はすべて(オレ)のもの。……だが、ガンマ。貴様らの働き、嫌いではない。……これを持っておけ」 ギルガメッシュは蔵の波紋から、一つの小さな「黄金の天秤」を取り出した。

 

「それは……?」 「神代の商人が用いたという価値を見極める天秤である『真実の天秤(リブラ・ベリタス)』、その原典にあたるものだ。

 

これがあれば、偽物の金貨や魔力偽装を見抜くことができよう。……(オレ)の庭で経済を回すなら、その程度の道具は持っておけ」

 

「……あ、ありがとうございます!」 ガンマは震える手でそれを受け取った。彼女にとって、シャドウは「神」であり、このギルガメッシュは「世界の主」に近い存在として崇拝の対象となっていた。

 

「……ところで、ガンマ。教団の動きはどうなっている?」 ギルガメッシュの瞳に、鋭い光が宿る。

 

「はい。……教団の幹部たちが、何らかの実験行っているという情報を掴んでいます。……ですが今大会に関しては教団は大きな動きは見せないと思われます」

 

「そうか……ならば此度は見逃してやろう。我が兄の晴れ舞台が終わるまでは(オレ)が手を出すことはない。ただし、我が兄の晴れ舞台に手を出すというのなら‥奴らは知らずに済んだ絶望を味わうことになるだろうよ」

 

ギルガメッシュは最後の一粒を飲み干すと、音もなく立ち上がった。 「チョコの味は悪くない。……だが、次は(オレ)の蔵にある神代の果実を用いたものを作ってみせろ。……期待しているぞ、ガンマ」

 

「は、はい! 全力を尽くします!」

 

黄金の輝きを残し、王は部屋を去った。 残されたガンマは、授かった天秤を抱きしめ、新たな商品開発への野心を燃やす。 王の気まぐれは、ミツゴシ商会という巨人をさらに成長させ、世界の均衡を黄金の色に塗り替えようとしていた。

 

学園に戻ったギルガメッシュは、自室のテラスで夜風に吹かれていた。 王都の喧騒、迫りくる大会の熱気。 そのすべてが、彼にとっては手の平の上の出来事に過ぎない。

 

「……さて。兄上は『モブ』として暴れ、は『王』として見届ける。……この祝祭、果たしてどれだけの命が黄金の露と消えるかな」

 

背後の空間が波打ち、数千、数万の宝具の柄が、主の命を待つかのように微かに震えた。

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